ドライバーの待機時間は労働時間か?手待ち時間が労働時間にあたる場合や対応方法を弁護士が解説します

労働時間とは何か?

手待ち時間が労働時間にあたるかを考えるにあたっては、労働時間とは何かを整理しておくことが必要です。

労働基準法32条の労働時間とは、労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間をいいます。

この労働時間にあたるかは、使用者の指揮命令を受けていたかを客観的な状況から判断します。

雇用契約書、就業規則、労働協約で、『労働時間ではない』と規定されていたとしても、使用者による指揮命令の実態があれば、労働時間となります。

労働時間に当たる場合には、その時間は賃金を支払う必要があります。

 

待機時間と手待ち時間の違いは?

手待ち時間とは、顧客からの電話や来訪があった場合には、すぐに対応できるよう待機している時間を意味します。

そのため、手待ち時間と待機時間は同じ意味といえます。

待機時間と休憩時間の違い

手待時間は、実際に仕事をしていない場合でも、いつでも仕事をしなければならない状況をいいます。

他方で、休憩時間は、使用者の指揮命令から解放されており、労働者の自由が認められている時間です。休憩時間は労働時間にあたりませんので、賃金は発生しません。

手待ち時間も休憩時間も、作業をしていない点で共通しています。しかし、手待時間は労働から解放されていないのに対して、休憩時間は労働から解放されており自由な時間である点で決定的な違いがあります。

TIPS!休憩時間

使用者は労働者に対して以下の休憩時間を与えなければなりません。

1日の労働時間が6時間を超える場合 45分以上

8時間を超える場合 1時間以上

手待時間(待機時間)が労働時間となる具体例

手待時間が問題となるケースを紹介します。いずれも、労働からの解放が保障されているかがポイントとなります。

タクシー運転手の客待ち待機をしている時間

タクシー会社の運転手が客待ちのために待機している時間です。

タクシーの客待ちについても、乗客が現れればいつでも乗車し乗客の指定する場所まで運行しなければなりません。そのため、客待ち時間は手待時間として労働時間にあたります。

他方で、回送表示をするなど、乗客が乗車できない状況で、業務に従事していなければ休憩時間とされる可能性があります。

中央タクシー事件(大分地方裁判所平成23.11.30)

タクシー会社が、指定場所以外での30分を超える客待待機については、労働時間から除外していた事案です。

30分を超える客待時間であっても、労働の提供ができる状態にあり、使用者の指揮監督下に置かれている時間であるから、労働時間に当たると判断しています。

電話番や客待ちの時間

休憩時間として与えられていたものの、電話が鳴ったり客が来訪すれば、これに対応しなければならない場合です。電話や来客の対応も業務の一環ですから、これに対応しなければならないのであれば、労働からの解放は保障されていません。そのため、手待時間として労働時間にあたります。

すし処「杉」事件(大阪地方裁判所昭和56.3.24)

「午後10時頃から午後12時頃までの間に客がいないときなどを見計らって適宜休憩していた事案について、客が途切れた時などに適宜休憩してもよいというものにすぎず、現に客が来店した際には即時その業務に従事しなければならなかったことからすると、労働からの解放はなく全体が労働時間であると判断されました。

貨物の積込係が貨物の積込、積卸のために待機している時間

運送業では、荷先や配送先の搬入台数の制限や配送時間の関係で、現場付近で待機することがよくあります。

使用者などから指示があればすぐに荷卸しや荷積みなどの作業に従事する必要がある場合には、その待機も手待時間として労働時間になります。他方で、配送先や使用者からの指示があっても、この指示を断る自由がある場合には、労働時間には当たりません。

行政通達の内容

例えば荷物取扱の事業場において、荷物の積込係が、貨物自動車の到着を待機して身体を休めている場合とか、運転手が2名乗り込んで交代で運転にあたる場合において運転しない者が助手席で休息し、又は仮眠しているときであってもそれは「労動」であり、その状態にある時間(これを一般に「手待ち時間」という。)は労働時間である。(昭和33年10月11日基収第6286号)

大虎運輸事件(大阪地方裁判所平成18.6.15)

使用者から突然の指示が来ても、これに応じるか応じないかは、労働者の状況に基づき、自ら応諾するかしないかを判断することが許されていたことが認められる。

そのため、労働者は,配送先である目的地に到着し、荷下ろしの作業を終え、次の仕事の指示を待つ間、拘束されているとはいえない。

よって、いわゆる手待ち時間とはいえず,労働時間には該当しないと判断しました。

住込み管理人や警備員の不活動時間

住み込み管理人の場合、常に業務に従事しているわけではなく、実労働していない時間や仮眠時間が多いため、これらが労働時間にあたるのかが問題となることがあります。

不活動時間であっても、電話対応などの呼び出しに対応する必要があれば、労働からの解放はないため、労働時間に当たります。

ただ、仮眠時間も含め、実労働していない不活動時間について、緊急事態への対応がほとんどなく、その時間を自由に過ごすことが認められている場合、労働時間には当たらないとされる可能性もあります。

監視断続的業務の適用除外

監視業務や断続的業務については、行政官庁の許可を受けることを条件に、労働基準法上の「労働時間」「休憩時間」「休日」に関する規定が適用除外されます(労基法41条3号)。つまり、通常の賃金は支払う必要はありますが、割増賃金を支払う必要がなくなります。

断続的労働とは、休憩は少ないが手待時間が多い業務をいいます。監視労働とは、一定部署で監視することを業務とする労働をいいます。

監視・断続的業務の一例は次のとおりです。

  • 守衛
  • 小中学校の用務員
  • 会社役員等の専属ドライバー
  • 団地管理人
  • 隔日勤務のビル警備員

手待ち時間以外の労働時間

手待ち時間以外にも、労働時間にあたるのかが問題となるケースがあります。

作業の準備や作業後の整理

仕事をするために必要となる準備や仕事を終えた後の片付けや整理についても、労働時間に該当します。

朝礼への参加

朝礼への参加について、その参加が使用者によって義務付けられている場合には、たとえ始業時間前であっても、労働時間にあたります。

作業服や制服の着替え

仕事をするにあたって、私服ではなく作業服や制服の着用が義務付けられている場合、制服や作業服の着替えをする時間は労働時間にあたります。

企業側の取るべき対応

手待時間が労働時間となる場合や休憩時間を確保するために企業に求められる対応を解説します。

残業代を支払う

手待時間となれば、その時間も労働時間となり、休憩時間として処理することはできません。そのため、賃金を支払う必要があります。また、また、手待時間を労働時間として計算すること関係で、時間外労働が発生する場合には、割増賃金を支払う必要もあります。

休憩時間を適切に確保する

休憩時間を手の空いた時に取るといった曖昧な形で取らせるのではなく、何時から何時まで、○分間と明確に休憩時間を与えるようにします。また、休憩時間でも客の来訪や電話対応が必要な状況にある場合には、時間をずらして休憩時間を取らせたり、電話番の交代制を採用するなどして、休憩時間に業務対応をしないようにするべきです。

社員に周知徹底させる

上司や使用者による明確な指示がなくても、責任感から業務対応をしている場合もあります。

そこで、すべての社員に向けて、休憩時間中での業務対応を控え、上司から業務指示があっても、休憩時間の終了後に対応すれば足りることを周知する文書を配布します。休憩時間を確保するために、朝礼などを通じて定期的に通知や啓発をするようにします。上長に対しても、休憩時間中の業務指示を控えるように指示し徹底させましょう。

手待ち時間の問題は弁護士に相談を

休憩時間中に、人手不足や業務過多などを理由に業務対応をさせてしまっている企業も多いかと思います。

残業代の時効は法改正により2年から3年になりました。いずれは、3年な時効期間は5年に伸長されます。そのため、企業側が負担するべき残業代は、以前よりも大きくなります。

また、残業代は1人の社員だけでなく複数人で請求されることもしばしばあります。そうすると、企業側の経済的な負担はかなり大きくなることも見込まれ、企業の存続自体も危ぶまれることすらあります。

事前の対策が非常に重要です。

早い時期に弁護士に相談しましょう。