バイトにも残業代は支払うのか?アルバイドの残業制度を弁護士が解説します

アルバイトは、「非正規だから」、「時間給だから」等の理由で残業代や休日手当を支払う必要がないと考えている人がいます。

しかし、アルバイトも労働者である以上、法律で定められた労働時間を超えて仕事をすれば残業代は発生します。休日に出勤すれば休日手当を払わなければなりません。

残業代の支払いを怠れば、残業代の支払いに加えて、付加金の支払いを命じられるリスクもあります。また、6ヶ月以下の懲役又は30万円以下の罰金(労働基準法119条)を科されるおそれもあります。

そのため、アルバイトだからといって労務管理を杜撰に行うべきではありません。

アルバイトも含めて従業員の労務管理を適切に行うことが重要です。

本記事では、アルバイトの残業代の問題を弁護士が解説します。

残業とは何か?

残業とは、使用者(勤務先)との間で合意した労働時間(所定労働時間)を超えて働いた場合の時間外労働のことをいいます。

たとえば、所定労働時間を一日6時間としていた場合に、実際には7時間働いたとしたら、1時間分残業したこととなります。

この1時間については基本時給分の給与が支払われることになります。

法定労働時間とは

所定労働時間と似たものとして、法定労働時間というものがあります。

法定労働時間は、労働基準法で労働時間の上限として定められた時間のことで、1日8時間、週40時間が上限となっています。

所定労働時間はこの法定労働時間以内としなければならず、たとえば所定労働時間を9時間とすることは原則としてできません。

法定労働時間を超えて労働をさせる場合には、労使間で36協定を結び労働基準監督署に届け出る必要があります。

これによって法定労働時間を超えて残業をした場合には、後で述べる時間外割増賃金を支払う必要があります。

残業代(時間外割増賃金)の計算方法

法定労働時間を超えて残業をした場合、その時間については基本時給に加えて、時間外割増賃金を支払う必要があります。

時間外割増賃金については、基本時給に一定の割増率をかけて計算します。

 1分単位や15分単位、30分単位での計算

残業をどれくらいしたかを集計するときは、1分単位で数えるのが原則です。理論的には、1分残業をしたら、時給を1分に換算した残業代が支払われる必要があるのです。

そのため、1日単位の労働時間の端数を切り捨てたり、四捨五入することは認められていません。

1ヶ月単位の端数処理は認められる

ただし、月単位で集計した残業時間を15分や30分単位で切り捨て、切り上げなどの端数処理をすることは認められています。

つまり、1日単位で残業時間をカウントするときは1分単位で集計していき、その月の合計がたとえば5時間20分であったとき、端数の20分を切り捨ててその月の残業時間を5時間としたり、その月の合計が5時間50分であったときは、端数の50分を切り上げてその月の残業時間を6時間としたりする処理をすることができます。

実際の残業時間:5時間20分 → 5時間(20分切り捨て)

実際の残業時間:5時間50分 → 6時間(50分切り上げ)

残業代の種類

時間外労働

時間外労働(月60時間を超えた場合の超えた部分)

休日労働

時間外労働が深夜に及んだとき

休日労働が深夜に及んだとき

25%以上

50%以上

35%以上

50%以上

60%以上

※労働時間が1か月60時間を超えた場合に支払われる残業代の割増率については、

令和5年4月1日より、中小企業に適用される。

割増賃金(割増率)

時間外割増賃金は、基本時給に対して、0.25以上を乗じた額としなければなりません。

つまり、基本時給が1200円だった場合、時間外割増賃金は300円となり、残業時間に対して支払われる給料は基本時給とあわせて1500円となります。

ただ、1ヶ月の残業時間が60時間を超える場合には、割増率は50%になります。令和5年4月1日より、中小企業も対象とされています。

法内残業

法定労働時間である8時間を超えない場合には、割増賃金は発生しません。

しかし、予め1日の労働時間が決められており、その所定労働時間を超える場合には、1時間あたりの時給は発生します。例えば、日給8000円(1日あたり5時間)と定められているところ、7時間働けば、法定労働時間は超えないものの、2時間の法内残業代(3200円)が発生します。

ただ、日給計算ではなく時給計算している場合には、法内残業の未払いが問題となることはあまりないでしょう。

深夜手当、休日手当

時間外割増賃金のほかに、深夜割増賃金、休日労働割増賃金があります。

深夜割増賃金というのは、午後10時~午前5時の深夜帯に労働した場合に支払わなければならないもので、基本時給に対して0.25以上を乗じた額となります。

また、休日労働割増賃金というのは、週1日または4週に4日指定される法定休日に労働をした場合に支払わなければならないもので、基本時給に対して0.35以上を乗じた額となります。

これらの割増賃金は、条件を満たす限り、すべて重複して適用されます。

つまり、法定労働時間を超えて深夜帯に残業をした場合は、時間外割増賃金と深夜割増賃金の両方が適用され、基本時給に対して0.5を乗じた額の割増賃金となります。

つまり、基本時給が1200円だった場合は、合計で1800円となります。

同じように休日労働割増賃金も重複するので、休日に時間外労働かつ深夜労働をした場合には、基本時給に対して0.85を乗じた額となります。

アルバイトの残業にも上限はある

残業時間には上限があり、アルバイトも当然その対象となります。

残業時間は、1ヶ月45時間、年間360時間を上限とされています。

アルバイトが残業時間の上限を超えて仕事をするケースはそこまでありませんが、業種によってはアルバイトの残業が常態化している職場もあります。

特別条項がある場合

36協定に特別条項を設ける場合には、例外的に先ほどの上限規制を超えて残業させることができます。ただ、その場合でも以下の条件を超えることはできません。

時間外・休日労働の合計が1か月100時間未満

時間外労働について1年720時間以内

時間外労働が1か月45時間を超えられるのが年6か月まで

時間外・休日労働の合計が1か月100時間未満、複数月平均80時間以内

未払残業代を払わないリスク

使用者がアルバイトに残業代を払わない場合にはさまざまなリスクが生じます。

残業代それ自体を支払う経済的な負担に加えて、付加金の支払い、是正勧告や氏名公表のリスク、刑罰のリスク、風評被害のリスクが考えられます。

残業代の支払い

残業代を支払わなければ、労働審判や訴訟手続などを通じて残業の支払いをせざるを得なくなります。残業代は、かつては2年間の消滅時効により消滅しましたが、民法改正に伴い5年の消滅時効となりました。ただし、当面の間は3年の消滅時効となりましたが、かつてよりも時効は伸長されています。

時効の延長により使用者に命じられる残業代は増大したといえます。

遅延損害金の負担

残業代には遅延損害金が付されます。残業代の支給日から3%の遅延損害金が生じます。民法改正前(令和2年3月以前)は5%でした。

さらに、従業員が退職した場合には、退職日以降、14.6%の遅延損害金が発生します(賃金の支払の確保等に関する法律6条1項)。

付加金の支払い

付加金とは、裁判所の判断により支払いを命じることのできる制裁金で、その金額は未払いとなっている残業代と同じ金額です。

つまり、使用者には、未払残業代の2倍の金額(未払残業代+付加金)を支払う必要が生じるのです。

是正勧告を受ける

労働者が労働基準監督署に対して、未払残業代の相談をすることで、労働基準監督署が使用者を調査することがあります。

調査の結果、残業代未払が明らかになれば、是正勧告を行う場合があります。

是正勧告を受けた事業所は指定された日までに、法違反を改善し、是正報告書を提出する義務を負います。

労働基準法違反を是正しない場合には、送検という司法処分を受け、犯罪行為として捜査に着手することになります。

企業名の公表

是正勧告を受けておきながら、何らの改善もなく放置していると企業名が公表される可能性があります。ただし、全てのケースで公表されるものではなく、以下の条件を満たすことが必要となります。

1年以内に2箇所以上の事業場で是正勧告を受けたこと

1か月80時間を超える時間外・休日労働が発覚したこと

刑事罰

是正勧告を受けておきながら、何らの対応もせずに放置するなど、残業代の未払いが悪質であると判断されると、刑事訴追されるリスクがあります。残業代の不払いに対する法定刑は、6か月以下の懲役又は30万円以下の罰金とされています。

従業員の離職

残業代の問題を放置していると、労基署の調査、是正勧告を受けたり、企業名の公表や刑事訴追のリスクもあります。たとえ、刑事罰にまで至っていないとしても、SNSや掲示板等を通じて企業の悪評が拡散される場合があり、企業の社会的な評価が低下します。これにより、新たな人材の確保が難しくなりますし、在籍社員の忠誠度を低下させ離職を招きます。

アルバイトの未払残業代の対策

アルバイトの未払残業代の問題を未然に防止するには、残業をさせない、残業をすれば残業代を法律に沿って支払うことです。

しかし、アルバイトに残業をさせないことが思った以上に難しかったりします。

残業の許可制を周知させる

残業の許可制を採用します。

残業の許可制を就業規則や社内規定でしっかりと明記するとともに、これを従業員に周知させ、厳格に運用するようにします。

ただし、残業を禁止したとしても、残業せざるを得ない程に過大な業務量を与えていると、残業の許可制は有名無実化してしまいます。

後述するように業務量の適正な管理を並行して行うべきです。

業務量の適切な管理

アルバイトの業務量を適切に管理します。残業せざるを得ないような業務量を与えないようにしなければなりません。

残業を許可制にしたとしても、業務量を所定労働時間の範囲内で処理できるように調整しなければ、黙示的に残業を許可したものと判断されてしまいます。

残業しないように注意指導する

業務量を適切に調整しているにもかかわらず、必要なく残業している場合には、直ちに退社するように、口頭または書面で注意指導します。残業していることを認識しておきながら、これを放置していると残業を黙認していると判断されてしまいます。

残業の禁止を徹底する

残業禁止の注意指導をしてもなお、残業が改善されない場合には、残業禁止命令の業務命令を出すことも検討します。

残業禁止命令に反して残業したとしても、労働時間とは認めない運用を採用し、これを労働者に周知させます。

それでもなお、改善しなければ業務命令違反を理由に懲戒処分を行うことも検討します。

正社員や管理職に引き継ぐ

業務量を適切に管理し、残業の禁止を徹底させていても、予想しない注文や人員の異動により残業せざるを得なくなることもあります。その場合には、上長や管理職に引き継ぐことも周知し徹底させます。

 アルバイトの残業代問題は弁護士への依頼

スマホ1台で、簡単に残業に関する情報を得ることのできる時代です。アルバイトであっても、残業代の支払いを求めてくることは容易に想定できます。その上、複数人のアルバイトが在籍している場合には、残業代の情報が社内で拡散される可能性があります。そのため、複数人のアルバイトや正社員から残業代請求を受けるリスクがあります。

このような事態を避けるため、事前の対策が肝心です。

初回相談30分を無料で実施しています。

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