制服の着替えが労働時間となる4つのケース|企業側のリスクと取るべき対応を解説

「制服の着替え時間は労働時間に含まれるのだろうか」

「制服の着替え時間は、作業をしているわけではないから、労働時間には入らないよね」

と気になっていませんか。

結論から申し上げますと、従業員が会社の指揮命令下にある等、特定の条件下では、その時間は労働時間と判断されることになります。労働時間だと判断された場合、使用者は従業員に賃金や残業代の支給を求められることになります。

今回は、制服の着替え時間が労働時間になる条件や、該当しないケース、判例について解説します。

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制服の着替えは労働時間に含まれる

制服の着替えは、労働時間に含まれます。ただし、特定の条件下にある場合に含まれると考えましょう。基本的には、それが仕事をするために必要かどうかと、使用者の指揮命令下にあるかという観点で判断することになります。例えば、製造業を営む会社の製造現場で働く従業員が仕事をするために作業着に着替えなくてはならない、また、その場所(更衣室等)を会社が指定しているといったケースです。タイムカードを切っていなくとも、一定の条件下では業務扱いとなり労働時間に含まれる可能性があると考えましょう。

厚労省のガイドライン

厚生労働省のガイドラインによれば、制服への着替え時間が労働時間に含まれるケースが明確にされています。具体的には、使用者の指示に基づき、就業を命じられた業務に必要な準備行為や業務終了後の関連作業を事業場内で行う場合、この時間は労働時間に含まれる可能性が高まります。労働者が特定の作業着の着用を義務付けられ、それに従って着替える行為が業務の一環である場合、その時間は労働時間と見なされます。

労働時間とはどのような時間か?

厚生労働省の定義によれば、労働時間は使用者の指揮命令下に置かれている時間とされています。

具体的には、使用者の明示または黙示の指示に基づき、労働者が業務に従事する時間が労働時間に該当します。この定義に基づいて、労働時間の適正な管理や労働環境の健全な維持が求められます。

また、制服への着替え時間が労働時間に含まれるかどうかも、この定義に基づいて判断されます。

業務に必要な準備行為として使用者の指示がある場合、その時間が労働時間に含まれる可能性があります。例えば、特定の作業着を着用することが業務の一環であり、使用者からの指示がある場合は、その着替え時間が労働時間に含まれることがあります。このように労働時間には一律の基準があるわけではなく、就労の実態で判断されるのです。自社がどのケースに当てはまっているのかをしっかりと見定める必要性があります。会社ごとに取るべき対応が異なります。

制服の着替え時間が労働時間に当たる4つのケース

制服の着替え時間が労働時間に当たるケースには、これから解説する4つがあります。

会社の明示的な指示がある

制服の着替えが明示的な指示によって行われている場合、労働時間に含まれると判断される可能性が高くなります。

なぜなら、使用者の指揮命令下であると見なされるからです。例えば、作業場に入るにあたっては、この更衣室で制服を着用してから入ることといった明確な指示がある場合です。使用者からの具体的な指示や命令に基づいて行われる場合、それは使用者の指揮命令下で行われていると見なされます。

会社の黙示的な命令がある

制服の着替えは、黙示的な命令によって行われる場合、労働時間に含まれる可能性があります。

なぜなら、従わないと労働者が何らかの不利益を被ることがあり、それは暗黙の命令と解釈されるからです。

使用者は口頭で明示的な指示を出すのではなく、業界標準や職場の慣習、または暗黙の了解に基づいて労働者に特定の行動を期待することがあります。例えば、特定の職種や業界では、安全や衛生上の理由から特定の作業服を着用することです。特に制服を着用しない場合、就業規則によって罰則があるなど、労働者が明らかに不利益を被るようなケースでは、会社の黙示的な命令が存在したと判断されやすくなるのです。会社内で行われている何気ない慣習も、黙示的な命令と見なされる可能性があります。

会社が場所を拘束している

会社が制服を着替える場所を拘束している場合、労働時間に該当すると判断される可能性があります。会社が場所を指定することは、労働者に対する明確な指揮命令であると見なされることがあるからです。「この更衣室で制服を着用してから仕事をしなさい」と会社が社員に命令しています。これにより、着替えは会社の管理下で行われていると解釈されます。

着替えが業務上必要とされる

制服の着替えが業務上必要とされる場合、労働時間に該当する可能性が高くなります。

なぜなら、仕事上必要な行為だからです。着替えが仕事をするための準備だと見なされます。例えば、制服の着替えが仕事を遂行するために必要不可欠である場合、その行為は業務の一環と見なされます。

労働者が業務に従事するために必要な準備行為として考えられ、その時間は労働時間に含まれる可能性が高まります。メーカーにおいて製造現場で仕事をする従業員が、安全上の観点や作業効率から作業着を着るケースや、建設現場の作業員が作業服を着る必要性があるといった場合です。

着替え時間が労働時間に該当しないケース

着替え時間が労働時間に該当するかどうかには様々なケースがあります。ここでは、3つのケースについて解説します。

従業員側の都合で着替えている

従業員が自身の都合で着替えをする場合は、労働時間には含まれません。

なぜなら、それは会社の指揮命令に従っているわけではなく、業務にも必要ではないからです。例えば、本社勤務の事務職の従業員がスーツで勤務することができる状況であっても、作業しやすさのために作業服やカジュアルな服装に着替える場合があります。

これは従業員自身の都合に基づく行動であり、着替えにかかる時間は労働時間には含まれません。

ただし、事務職であっても、会社指定の制服があり、着替えるように就業規則等で定めている場合、指揮命令下にあると判断され労働時間に含まれる可能性があります。重要なことは一律の基準で見ることではなく、実態としてどうなっているかで判断することです。

着替えることを必要としない制服

着替え時間が労働時間に含まれるかどうかについて、着替えを要しない制服は労働時間に該当しない可能性があります。制服が着替える必要のない場合、つまり労働者が通常の私服で業務を遂行できる場合、その着替えは通常、労働時間には含まれないと考えられます。例えば私服勤務の会社では、そもそも作業服が指定されておらず、場所の指定もありません。

通勤時に制服の着用が認められている

通勤時に制服の着用が認められている場合、その着替えの時間は労働時間には該当しません。

なぜなら、通勤中は指揮命令下ではないためです。通勤経路などは合理的な経路を活用することを求められる一方で、労働者がある程度自由に決めることができます。また、自宅で着替えてから会社に出発するので、場所の拘束も受けていません。

着替えの時間を労働時間と認めた裁判例を紹介

着替えの時間を労働時間と認めた裁判例は、以下の通りです。

  • 三菱重工業長崎造船所事件
  • ビル代行(宿直勤務)事件(東京高等裁判所平成17年7月20日判決)
  • アートコーポレーション事件(横浜地方裁判所令和2年6月25日)

それぞれの事例について解説します。

三菱重工業長崎造船所事件

造船所の従業員について、更衣所等において作業服・保護具等の着脱を義務付けられていた点をとらえて、会社の指揮命令下に置かれていたと判断されました。

着替え時間だけでなく、更衣所から準備体操場への移動、資材の受け出し、散水に要した時間についても労働時間とされています。着替え以外についても、業務のための準備行為が労働時間にあたるかは、会社の指揮命令下に置かれていたかによって判断されます。

ビル代行(宿直勤務)事件(東京高等裁判所平成17年7月20日判決)

ビル管理会社の警備員について、始業時間前の制服への着替えと朝礼への出席を義務付けられていたとして、更衣時間5分と朝礼時間10分が労働時間であるとされました。

なお、宿直時の仮眠時間については、実作業への従事の必要が生じることが皆無に等しいなどの理由から労働時間とは認められませんでした。作業をしていない仮眠時間については、判例上「労働からの解放が保障されていない場合」には労働時間と判断されますが、結論は事案によって異なります。

アートコーポレーション事件(横浜地方裁判所令和2年6月25日)

引っ越し作業員について、制服の着用が義務付けられており、朝礼の前に着替えを済ませることになっていたとして、会社の指揮命令下に置かれていたと判断されました。

社会通念上相当な範囲で、着替えに要する時間が労働時間にあたると認められています。

着替えを労働時間とせずに放置した時の企業のリスク

着替え時間を労働時間として扱わずに放置していると、使用者側にはさまざまな問題が生じます。

未払いの賃金の請求を受ける

着替え時間にあたる賃金の請求を受けることになります。

着替えが労働時間であるということは、たとえ短時間であっても賃金の対象となります。そのため、使用者側は着替えに必要となる給与相当額を支払う義務を負います。

着替えを労働時間に組み込むことで、労働時間が8時間を超える場合には、残業代を支払う義務も生じます。残業代は、通常の賃金に加えて割増賃金も支払う必要があり、支払いを怠っていると遅延損害金(年3%)も発生します。

着替え時間を放置していると、残業代も含めた賃金の支払いを求められることになります。労働審判や労働訴訟といった紛争に発展することも十分に想定されます。

罰則を受けるリスク

着替え時間に対する賃金を払わずにいると、刑事罰を受けるリスクもあります。

賃金の未払いは労働基準法違反です。給料の未払いについては、30万円以下の罰金刑に処されることになります。

残業代に関しては、罰則が6か月以下の懲役または30万円以下の罰金となります。

刑事罰を受けるか否かは、ケースバイケースですが、労働基準法違反となる賃金の不払いは刑事罰のリスクがあるため適切な対応が必要です。

社員のモチベーションが下がる

社員の愛社心が低下しモチベーションが悪くなります。

労働に対して賃金をもらうことは至極当然のことですから、見合った賃金をもらえないとなると、社員のモチベーションの根幹が崩れてしまいます。

適正な賃金をもらえない環境下で労働を強いられると、日に日に勤務先に対する不満は蓄積していくものです。

社員のモチベーションが低下してしまい、業務効率が悪くなったり、離職することもあります。

会社の評判が悪くなる

会社の評判が悪化し、新規取引が困難になったり、新しい人材の雇用が難しくなるおそれがあります。

労働時間の管理を杜撰にした結果、離職した社員が掲示板やSNSを通じて使用者の悪評を拡散することがあります。離職していなくても愛社心の低い在籍社員が悪評を広めることはあります。

評判が悪くなることで、新規取引を躊躇する企業も出てくるかもしれません。また、評判の悪い企業への転職を回避する人材も出てくるでしょう。

着替え時間に対する使用者の対応

 着替え時間が労働時間にあたる場合、使用者は、制服を廃止する、労働時間として計上するかのいずれかの対応をする必要があります。

制服の着用が必要であったとしても、全社員ではなく、着用を必要とする部署や社員に限定したりするなどの対応も検討するべきでしょう。

労働時間に関する問題は弁護士に相談を

着替え時間だけが問題になるケースは珍しいです。着替えだけでなく、待機時間、仮眠時間、業務の準備行為、業務終了後の片付けなどの時間も労働時間として計上されずに放置されていることが多いです。そもそも、残業代が払われずにサービス残業が常態化しているケースもしばしばです。

一度、着替え時間も含め、労働時間として処理するべき時間がないかを弁護士と一緒に相談してみることをおすすめします。

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