契約書と覚書の違いについて弁護士が解説

契約書と覚書の違い

契約書とは

契約書とは、当事者の一方と相手方との間で契約が成立したことに加え、合意した内容を契約後に証明するための文書をいいます。

契約当事者には、会社や事業主に限られません。

個人なども広く含まれます。

そのため、個人間の約束だから契約には当たらないというわけではありません。

また、契約書の表題には、様々な表題が使用されます。合意内容に対応させる形で〇〇契約書(売買契約書や請負契約書など)と記載したり、その文書を作成する経緯や目的に応じて、合意書、覚書、念書といった表題を使用することもあります。あくまでも、これらは表題にすぎず、合意内容の理解を助けるためのものに過ぎません。

表題が契約書ではないからといって、合意内容の拘束力が変わるわけではありません。

覚書とは

覚書は、忘れないように書き留めたメモや備忘録と一般的に定義されることもありますが、法律上定義された文書ではありません。

法律実務において用いられる覚書は、当事者双方で合意した内容を証明する文書であることに変わりはなく、契約書と同様、合意内容を事後的に証明することを助ける文書といえます。

ただ、覚書が作成される場面が契約書の作成とは異なります。

たとえば、契約書を作成した後に事情の変更があったために、その変更事項に関する合意をする場合や契約締結する前に双方で確認した事項を書面化する場合です。つまり、覚書は、契約書の内容を事前または事後に補完する役割を果たすことが多い書面です。

契約書と覚書の相違点

覚書という表題からすると、契約書よりも効力が弱いような印象を受けるかもしれません。

しかし、契約書も覚書も法律上の効果を生じさせる文書であることに変わりはありません。

つまり、覚書や契約書といった文書の表題は、合意内容を推認させるためのタイトルにすぎず、契約内容や効力を定めるのはあくまでも文書の本文です。

そのため、文書の表題が契約書なのか、覚書なのかによって、法的効力の有無やその軽重は左右されません。

覚書は、契約書と同様に当事者を拘束し得るものですから、覚書という表題に惑わされて安易に作成することは避けなければなりません。金融機関や利害関係者に見せるだけだからと言われて、中身を精査せずにサインをしてしまうと、後日これに足を掬われることがありますから注意が必要です。

ただ、契約書と覚書はその役割を異にしています。契約上の基本的な内容部分については、契約書という表題の文書内に盛り込み、これをベースとしながら、重要ではない事項や事後的な変更事項がある場合に、覚書を作成することで契約書の内容を補充します。

文書を作成する理由

口頭でも成立する

契約書も覚書も表題にすぎず、合意の効力に差異はありませんが、そもそも、なぜこのような文書を作らないといけないのでしょうか?

契約には、車を10万円で買うといった売買契約やマンション1室を家賃5万円で借りるといった不動産賃貸借契約など色々な種類がありますが、いずれの契約も、口頭によっても成立します。文書がなくても契約は成立します。

紛争の予防

しかし、契約成立時点において、文書がなければ合意内容を確認することができず、合意内容が不明瞭となり、契約後に合意内容の齟齬が生じる可能性があります。

逆に、契約書などの文書があれば、契約時に契約内容の確認作業を行うことで合意内容の齟齬を無くし、将来の紛争を予防します。

有利な主張の裏付け

また、契約後に何らかの事情で当事者間で対立が生じ、裁判手続に発展してしまった場合、不利な状況に陥るリスクがあります。

裁判における事実認定は、基本的には契約書や覚書といった客観的資料を基に行います。

そのため、このような客観的資料が不足する場合、自社にとって有利な主張を裏付けることができない事態が生じる可能性があります。

覚書が作成される理由

相手方と合意をする際に文書を作成しておかなければいけない理由は、以上の説明のとおりです。

では、合意書の中でも、覚書を作成する理由はどのような点にあるのでしょうか。

契約締結後に作成する場合

取引の中には、自動車の売買契約のように一回きりの取引もあれば、ある程度の期間継続して行われる取引も存在します。例えば、自動車製造業の企業がネジ製造会社から、部品となるネジを仕入れる取引は、一回きりではなく、継続して取引がなされることが想定されます。

また、自動車や家具の売買契約のような取引であっても、取引後の車検、整備、その他アフターフォロー等により、売主と買主の関係性が一定期間続くことは多いです。

そして、取引期間中、部品代の高騰、取引内容の変更、税制の改正など、取引条件を変更しなければならない状況が生じることはよくあります。

基本契約書を作成したものの、規定漏れ、誤記あるいは不明瞭な部分が見つかるようなこともあります。

このような場合、変更が必要となる箇所以外の規定に何の問題がないにもかかわらず、売買契約書や基本契約書などの契約書全体を、一から作成し直すことは適切ではありません。

そこで、取引条件の変更を記載した覚書を作成することが必要となります。

契約締結前に作成する場合

契約手続は、前段階を踏まずにいきなり契約書にサインをするわけではなく、契約をする前の交渉段階で、契約内容に関する協議を行うことが通常です。

特に継続的な取引に関する基本契約であれば、双方で協議しなければならない事項は多岐にわたります。

その交渉段階で、契約内容の重要事項を当事者双方で確認し合意できることがあります。

ただ、その他の細かい契約条件を調整しないといけないような場合、契約書を作成することはできません。

そこで、重要事項を確認し事後的に撤回されないようにするために契約締結前に覚書を作成することがあります。

覚書作成のポイント

覚書は、以下のような構成で作成されることが多いです。

①表題

②前文

③本文

④後文

⑤契約の日付

⑥署名または記名押印

⑦印紙

契約書一般の作成方法はこちらのコラムを参照ください。

①表題

覚書の表題は、単に『覚書』と記載することもあれば、原契約との関連性を明確にするため、『〇〇契約に係る覚書』とすることもあります。あくまでも表題はタイトルにすぎず、これがなかったとしても覚書の効力それ自体を左右させるものではありません。

②前文

本文に入る前の導入部分の文章です。前文では、当事者の氏名を記載した上で、本文の概要を数行で記載することがあります。

〇〇商事株式会社及び□□株式会社は、令和4年〇月〇日付基本契約書第3条を以下のとおり変更する覚書を作成する。

③本文

覚書の中で最も重要な内容となります。

原契約の特定

まずは、契約締結後に覚書を作成する場合には、基礎となる原契約の特定をしっかりと行います。この原契約の特定が曖昧になってしまうと、何に対する覚書かはっきりしないため、かえって対立を招くことになります。

内容の明確性

将来、紛争に発展した場合に、契約書や覚書の内容を基礎に主張立証活動を行いますが、契約書や覚書の解釈や評価は、当事者ではなく第三者である裁判官が行います。合意内容が不明確な場合、将来のトラブルを招くだけでなく、裁判示にこちらの有利な解釈がなされないリスクもあります。

そのため、は曖昧な表現は控え、一見して明らかな内容にするようにします。また、覚書といえども、これによって何らかの法律上の効果を生じさせることを目的とする場合には、法律上の効果を導くための要件となる事実をしっかりと記載しておくことが重要となります。

期間を明記する

契約成立後に取引条件を変更させるような場合、いつから変更させるのかを明確にしておくことが必要です。また、一定期間に限って取引条件を変更させるのであれば、その終期も明確にしておきます。例えば、新型コロナウィルスのような緊急事態により、一定期間に限って店舗家賃を減額させる場合には、いつからいつまで賃料を減額させるのかを明記させます。

【記載例】

引渡期日を変更する場合

第〇条(引渡期日の変更)

 売主及び買主は、令和〇年〇月〇日付中古自動車売買契約にかかる売買対象物の引渡期日を以下のとおり変更する。

 変更前 令和〇年〇月〇〇日

 変更後 令和◇年◇月◇◇日

第〇条(原契約の維持)

 売主及び買主は、覚書に記載していない事項については、令和〇年〇月〇日付中古自動車売買契約に定めるところによるものとし、その効力が維持されることを確認する。

賃料を変更する場合

第〇条(引渡期日の変更)

 賃貸人及び賃借人は、令和〇年〇月〇日付賃貸借契約(以下『原契約』という。)にかかる賃料を、令和〇年〇月から同年〇月まで、以下のとおり変更し、令和〇年〇月以降に係る賃料は、原契約記載の賃料額のとおりとさる。

 変更前 月額〇〇円

 変更後 月額〇〇円

第〇条(原契約の維持)

 賃貸人及び賃借人は、覚書に記載していない事項については、原契約に定めるところによるものとし、その効力が維持されることを確認する。

目的物に品質不良があった場合

第〇条(品質不良の確認)

 売主及び買主は、令和〇年〇月〇日付売買契約(以下「原契約」という。)にかかる売買対象物に○○(*品質不良の具体的な内容を記載する)の品質不良があることを相互に確認する。

第〇条(修補)

 売主は、買主から、令和〇年〇月〇日、原契約の売買対象物をその品質不良の修補を行うために受領し、これを修補する。修補費用は売主の負担とする。

第〇条(返還期限)

 売主は、令和〇年〇月〇日までに、前条の規定に基づき原契約の売買対象物の修補を終え、買主に対してこれを返還しなければならない。

④後文

作成した覚書の通数やその保有状況を記載します。

本覚書の作成にあたり、本書2通を作成し、甲乙各記名押印のうえ、各1通を保有する。

⑤日付

通常は覚書の作成日を記載します。

覚書の日付を過去に遡らせることもありますが、覚書の信用力に影響を与えかねませんので、日付のバックデートは控えます。

⑥署名または記名押印

署名とは自身の氏名を自筆で書くことです。

代筆により署名する場合には、本人に代わって署名をする署名代理権が付与されていることが分かる委任状を準備し、これを提出するようにします。

記名とは、自筆のほか、ゴム印や印刷により、自身の氏名を表記することですり

押印は自身の印鑑を捺印することです。

ここで注意が必要なのは、原契約の当事者となっている者が、覚書においても、その当事者として署名捺印していることです。

原契約の当事者ではない第三者が、何ら代表権限がないにも関わらず、覚書の署名捺印をしたとしても、原契約の当事者に対してその覚書の効力を及ぼすことはできません。

覚書の法的性質が問題になった裁判例

①東京地裁平25年4月18日

【事案の概要】

コンサルタント会社であるXがY会社のグループ会社にコンサルティング業務を行ったと主張して、XとYとの間で作成された覚書に基づく成功報酬の支払等を求めた事案、

Y会社は作成された覚書は当事者間において何らかの法的効力を生じさせる趣旨の書面ではないとして争いました。

【裁判所の判断】

覚書の作成にあたり、Y会社らの取締役会に諮られた形跡がなく、本件覚書が肩書なしの個人名での署名がされ押印もされないままに作成されていることにも照らすと、本件覚書は、双方の役員間で今後進める予定の協議内容の方向性を確認したというべきものであって、会社組織としての最終的な合意事項を定めたものと認めることはできない。

本件覚書の記載内容はいまだ一般的抽象的かつ宣言的なものにとどまっており、特定の相手方に対して具体的かつ特定した法的義務を負担させる内容となっていない。

履行されるべきコンサルティング業務の内容が契約内容として定まっていない本件覚書作成の時点において、本件覚書によって、契約が締結され、報酬支払合意が成立したと認めることはできない。

 

②東京地判平成6年2月23日

【事案の概要】

Xらは、本件土地をYに対し、売却する交渉をして覚書を締結した。

覚書には、Xらが遺産分割により本件土地を取得すればYに売渡すこと、坪当たり55万5000円の単価を定め、その他の条件はXらとYが協議の上定めるとした。

ところが、Yは銀行融資の関係で契約の実行の延期を求めた。

XらとYは、坪当たりの単価の額を確認し、契約締結期限を約4か月後の平成3年3月末を目途とした。Yは、その後、解約を表明し、Xらは、Yに対し債務不履行に基づく損害賠償請求をした。

【判決内容】

本件覚書においては、売買の対象は本件土地であり、その代金は坪当たり55万5000円であることが合意されているから、これによって売買契約が成立したといえる。

売買の対象と代金以外のその他事項は後日さらに協議して合意することが予定されているが、Xら及びYがこれらの事項をも売買契約の要素とする意思であったことを認めるに足りる証拠はない。

不動産の売買契約については通常契約書が作成されるが、常に契約書作成の時点で契約が成立するというものではない。

本件においても、契約書の作成が予定されていたものと推認されるが、Xら及びYが契約書の作成によって初めて契約を成立させるという意思を有していたことを足りる証拠はない。

以上を理由にXらのYに対する請求の一部を認容しました。

③甲府地裁平成18年9月12日

【事案の概要】

XとYは、Xが貸店舗を建築してYに賃 貸し、Yがそこでショッピングセンターを運営するとの覚書(以下「本件覚書」という。) を作成した。

本件覚書には、賃料改定について、「賃料は、賃貸開始の日より3ヵ年 を経過した時点で、その改定を行う。改定後 の月額賃料は、改定前の月額賃料に7.5%相 当額を加えた額とする。」と定められていた。

その後、XとYは、本件覚書をふまえ基本協定書を取り交わし、その後、本件建物の完成に伴い、賃貸借契約を締結した。

本件契約では、賃料改定について本件基本協定書の内容をそのまま採用した。

Xは、Yに対して、覚書に従って、平成8年11月以降の月額賃料は従前の賃料に7.5%を加算した賃料であるとして未払賃料の支払いを求めた。

【判決の要旨】

確かに、本件覚書を取り交わした時点では、XとYの間において、本件建物に関する賃貸借契約につき賃料自動増額特約を付することが予定されていたと認めることができる。

しかしながら、本件基本協定書では、本件覚書で定められていた本件賃料自動増額条項の文言が削除されていること、本件基本協定書及び本件契約に係る賃料増額の規定について、不動産業に携わる会社であれば明確かつ具体的に規定すべきところ抽象的な文言に留まっており不自然であること等を理由に、 本件契約において賃料自動増額特約があったことにつき、他にこれを認めるに足りる 証拠がないと判断しました。

印紙の貼付け

覚書といっても、契約書と同様に取引当事者の権利義務関係に関する法律文書である場合があります。

そのため、覚書の基礎となった原契約が印紙税額の一覧表に該当する契約であり、その契約の重要な事項を覚書の作成により変更する場合には、印紙税の課税対象となります。つまり、このような場合には収入印紙の貼用が必要となります。

 

最後に

覚書は、契約書と比べてソフトなイメージがありますが、契約書と同様な法律上の効果を生じさせ、当事者を拘束させます。そのため、覚書の作成にあたっては、契約書の作成と同様に適切なリーガルチェックが必要です。

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