整理解雇とは?整理解雇の4要件と注意点、解雇無効のリスクを弁護士が解説

企業の経営不振により、倒産を避けるために経費をカットすることはよくあります。

経費の節減の一環として、従業員を解雇することがあります。

しかし、解雇処分は、企業が一方的に従業員として地位を奪う非常に重大な処分です。特に整理解雇は、労働者側に問題行為があるかに関わらず行われるものですから、通常の解雇処分よりも厳格に判断されます。安易に、業績悪化を理由に整理解雇とすると、解雇処分が無効となるリスクがあります。解雇処分が無効となれば、使用者側には数々の負担が生じる可能性があります。解雇処分をする前に、弁護士に相談するなどして、解雇処分を下すだけの条件を満たしているかを精査しましょう。

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整理解雇とは何か?

整理解雇とは、売上の低下、業績不振、事業縮小等の理由から、余剰労働者の雇用契約を一方的に終了させる解雇のことをいいます。

整理解雇は、使用者の経営不振を理由にする処分で、労働者の問題行為を問わない点で、普通解雇や懲戒解雇とは大きく異なります。

TIPS!リストラと整理解雇

リストラとはリストラクチャリングの略です。リストラを整理解雇の意味で使われることが一般的かと思います。しかし、厳密にはリストラには事業の構造を再構築するために行われる施策全般を指しており整理解雇な限定するものではありません。

普通解雇とは

能力不足、勤務態度不良、協調性欠如などの債務不履行を理由に雇用契約を終了させる処分です。

普通解雇は、使用者側の業績不振を理由とするものではなく、労働者側の問題を理由に解雇とする処分です。

懲戒解雇とは

懲戒解雇とは、無断欠勤、横領や窃盗、セクハラ・パワハラ等の重大な企業秩序違反を理由に雇用契約を終了させる制裁罰です。懲戒解雇は懲戒処分の中で最も重たい処分となります。

懲戒解雇は、労働者側の法令違反や就業規則違反を理由とした制裁罰であり、企業の業績低迷を要件としていません。

 

諭旨解雇とは

諭旨解雇とは、懲戒解雇とするだけの懲戒理由があるケースで、使用者が労働者に対して退職するように諭し、これに従えば自主退職として扱うものの、期間内に自主退職しなければ懲戒解雇するものをいいます。

諭旨解雇も懲戒解雇と同様に労働者の非違行為を原因としている点で整理解雇と異なります。

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整理解雇のための4要素

整理解雇をするためには、次で紹介する4つの要素を満たしていることが必要となります。

整理解雇の4要素

  • 人員削減をする必要があること
  • 解雇回避するための努力を尽くしたこと
  • 解雇対象者を合理的に選定していること
  • 労働組合や労働者との協議を行なっていること

これらの4要素を全て満たさなければ、整理解雇が無効になるわけではありません。それぞれの要素が相互に絡み合って相関的に判断します。つまり、人員削減の必要性がかなり高い場合には、解雇回避のために求められる努力の程度は若干弱まります。他方で、人員削減の必要性はあるものの、高度の緊急性までない場合には、解雇回避の努力は強く求められます。

また、整理解雇に伴う労働者側の不利益を緩和するために、使用者側が労働者に対して、解雇に見合うだけの手立て、例えば退職金の増額や解決金の支払等をしている場合には、整理解雇が有効になる事情になります。

人員整理を行う業務上の必要性とは

整理解雇をするためには、人員を削減する業務上の必要が求められます。特に事業運営に支障が生じていないのであれば、人員削減の必要性はありませんから、整理解雇は認められません。

ただ、整理解雇を直ちにしなければ会社の継続が危ぶまれる程に経営状況がかなり悪化していなければならないわけではありません。むしろ、厳格に解しすぎると、会社の再建の機会を逸してしまいます。

そこで、企業の運営上やむを得ない合理的な必要性があれば、人員整理をする必要性は認められると解されます。例えば、取引量の減少、原材料費の高騰、売掛金の回収不能、債務状況の悪化等が考えられます。

業務上の必要性の注意点

整理解雇をする一方で、これと相反するような行動をしている場合には、業務上の必要性が否定されることがあります。

例えば、整理解雇により人員削減をする一方で、新規採用をしていたり、昇給をしているような場合には、人員削減の必要性が否定される可能性があります。

また、業務上の必要な限りで人員整理をするべきであって、これを超える人数の人員整理は業務上の必要性が否定されます。

泉州学園事件・大阪高裁平成23年7月15日

11名の退職により、人件費の削減となり、財務状況が相当程度改善されると予測されるため、整理解雇の必要性は認め難いこと、整理解雇が人の入れ替えを意図したものと解され、必要性は肯定し難いと判断しました。

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解雇回避努力

整理解雇が有効であるかを判断する上で重要な事情となるのが、解雇回避努力です。

整理解雇が有効となるためには、解雇をする前に解雇を避けるために様々な措置を講じなければなりません。役員報酬を下げなかったり、高額なテナント料を支払い続けながら、整理解雇をすると、解雇権の濫用と判断されます。

解雇回避努力は、次のような事情が考慮されます。

解雇回避努力の事情

  1. 経費削減(広告費・交通費・交際費)
  2. 時間外労働や休日労働の削減・禁止
  3. 役員報酬のカット
  4. 賞与カット・昇給の停止
  5. 転勤や出向等の配置転換による対応
  6. 余剰人員を休職させる
  7. パート社員や契約社員の契約解消
  8. 希望退職者の募集
  9. 退職金を上乗せした退職勧奨
  10. 不採算部門の閉鎖
  11. 不動産等の現金化

これらの解雇回避努力を全て尽くさなければならないわけではなくあくまでも例示になります。人員整理の必要性の程度や企業の規模によって、整理解雇に先行して行うべき対策は異なります。

希望退職の募集

整理解雇に先行して希望退職を募集します。

希望退職の募集をする場合、いくらかの上積金を付加した退職金を支給するなどの追加条件を提示して、自発的な退職を促します。

ただ、希望退職の募集は、特定の労働者に対して促すものではありません。そのため、使用者が想定していない有能な労働者が退職してしまうリスクがあります。

退職勧奨

退職勧奨は、特定の従業員に対して、退職するように積極的に働きかける行為です。

先ほどの希望退職者の募集は、不特定の労働者に対して呼びかけるものですので退職勧奨とは異なります。

退職勧奨においても、退職金の上乗せや転職支援、労働の免除と賃金の支給といったパッケージを提案して自主退職を促していきます。

退職強要とならないように注意する

ただ、行きすぎた退職勧奨は退職強要とされ、損害賠償を求められたり、退職が無効と判断される可能性もあるため注意しなければなりません。

  • 長時間、大人数による面談
  • 執拗に退職勧奨を繰り返す(4か月に13回など)
  • 業務命令で退職勧奨の説明を聞くよう強要する
  • 近親者を通じて退職勧奨をするように説得する

従業員の自発的な意思で退職してもらえるよう、同席する上司は1人か2人として、張り詰めた空気ではなく和やかな雰囲気を作るように心がけます。また、面談時間も長くなりすぎないように30分を目安にしましょう。

スマート顧問

解雇対象者の合理的な選定

整理解雇の対象となる従業員の選定方法が合理的であることが求められます。

解雇対象者が合理的に選定されたと言えるためには、次のプロセスで判断されます。

①人選基準が定められていること
②人選基準の内容が合理的であること
③人選基準を公平に適用したこと

人選基準の内容

人選基準は、次の様々な事項をもとに作成していきます。

人選基準の考慮事項

• 労働者の年齢

• 家族構成(未成熟の子の有無や介護を要する家族の有無)

• 勤続年数

• 雇用形態(契約社員か正社員か)

• これまでの勤務成績

• 担当する業務内容や配属地域

人選基準のポイント

人選基準を適用する際のポイントは、次の要素を重視します。

1. 密着度

2. 貢献度

3. 被害度

これらの要素が高い、大きい場合には、整理解雇の対象とすることに慎重になるべきでしょう。

密着度

密着度については、パートタイマーや有期労働者よりも、正社員(無期労働者)の方が、企業との密着度は高いと考えることができます。そのため、パートタイマーや契約社員を先に整理解雇の対象とし、正社員のうちでも、内定者の内定取消を先行させます。

貢献度

勤務態度が悪い、勤務成績が悪い、企業秩序を乱す、懲戒処分歴がある等の問題行為を行う労働者を先に整理解雇の対象とします。ただ、人事考課の基準が主観的・恣意的なものにならないように注意するべきです。

被害度

他の収入がある、共働きであるなど、整理解雇による被害が大きくないと言える場合には、整理解雇の対象となります。ただ、夫のいる女性労働者、〇〇歳以上の女性といった女性特有の基準を設けることは、男女雇用機会均等法における差別的な取り扱いとなるため、注意が必要です。

労働者との協議を行う

整理解雇をいきなり行うのではなく、労働者の納得を得られるよう、労働者や労働組合と協議を行うことが必要です。

整理解雇が必要となる会社の状況を伝えなければなりません。その上で、人選の基準と対象となった理由を説明します。

客観的な経営不振を示す資料を提示することなく、抽象的な説明しかしていない場合、労働者との協議を尽くしたとはいえず、整理解雇は無効となります。

整理解雇が無効となる場合のリスク

無計画に従業員を整理解雇とすると、解雇は無効となり、使用者側には数々の不利益を招きます。

バックペイ(給与の支払い)

整理解雇が不当解雇となれば、解雇をした日から解決する時までの給与を支払う必要が生じます。

整理解雇が無効であれば、労働者との雇用契約は終了せずに存続していることになります。

そのため、従業員が復職できる状況を作るか、あるいは、合意により退職するまで、使用者は賃金を支払う義務を負い続けます。

仮に労働審判となれば3か月から6か月、訴訟になれば1年以上の解決期間を必要とします。

そうすると、解決までの期間に相当する賃金額を負担する必要があり、使用者には大きな経済的な負担が生じます。

解決金

整理解雇が無効となれば雇用契約が残っていることになります。

そうすると、解雇対象となった労働者は職場に復帰するのとになります。

しかし、労働者と使用者の信頼関係はかなり壊れていることがほとんどです。一度解雇をした労働者を職場復帰させることは、その他の労働者に対しても心理的な負担を招き、職場環境を混乱させます。

そこで、雇用契約を合意により解約させるため、使用者が労働者に対して解決金を支払うこともあります。この解決金は、訴訟手続において支払う場合が多い印象です。

風評被害

不当解雇をすることで、労働者が転職掲示板やSNSを通じて使用者の悪評を広めることがあります。悪評の拡散により企業の社会的な評判が悪くなるリスクがあります。

これにより、新規の人材採用が困難になったり、取引先との取引関係が悪化する事態も招きます。

従業員の離職

不当解雇により、会社の評判が低下すると、在籍する社員のモチベーションを低下させます。また、人員の不足も生じさせ、社員の負担が増加します。

これらにより、有能な人材の離職を引き起こし、さらなる人材不足を招きます。

整理解雇が争われる場合の手続

整理解雇が不当解雇となる場合、労働者から整理解雇が無効であるとの主張がされます。整理解雇の争い方には、交渉、労働審判、訴訟手続、あっせん手続があります。

交渉

労働者やその代理人弁護士から解雇無効を主張する書面が送付されることで、解雇の効力に関する交渉が始まります。

整理解雇では、整理解雇の必要があったのか、解雇回避の措置を講じたのかを説明して、整理解雇が有効であることの主張をすることになります。

交渉を通じて労使間で合意に至れば合意書を作成して終結させます。合意に至らない場合、特にパックペイ等の金銭的な条件が調整できない場合には、交渉手続は断念せざるを得ません。

労働審判の申立て

交渉を断念させた場合、労働者により労働審判の申立てが行われることがあります。

労働審判とは、裁判官と労働審判委員2人で構成される審判委員会が労使間の争いを早期の解決を実現させる裁判所のプロセスです。労働審判では、3回の期日で解決を目指すため、後述する訴訟手続と比べると圧倒的な早さで終結できます。

ただ、スピード重視のために、慎重な審理を予定されていません。使用者だけでなく労働者側もある程度の歩み寄りが求められることが多いです。

話し合いによる解決ができない場合には、裁判所から審判が言い渡されます。審判の言い渡しを受けた日の翌日から2週間以内に異議申立てをしなければ、審判は確定します。審判が確定すれば強制執行も可能となります。

異議申立てをすれば、訴訟手続に移行します。

訴訟手続

労働審判で調停が成立しない場合には訴訟手続に移行することがあります。はじめから訴訟提起をしてくることもあります。

訴訟手続では、原告と被告の双方が主張と反論を繰り返し行うことで審理を深めていきます。審理が十分に行われることから、審理手続は比較的長期に及びます。1年を超えることは一般的です。

双方からの主張と反論が尽くされれば、裁判所から和解の勧告が行われます。和解協議を経て、合意に至れば終結となります。

しかし、和解協議が奏功しなければ、証人尋問(当事者尋問)を行い判決手続に移ります。

あっせん手続

労働者が労働局や都道府県の労働委員会によるあっせんの申請をするケースもあります。

あっせん手続とは、のあっせん委員が労働者と使用者の間を仲裁して労使間の紛争を解決させるプロセスです。

あっせん手続は、1か月前後で解決を目指す手続ですので、迅速な手続といえます。

しかし、使用者側はあっせん手続を拒否することもできますので、解決率はそれ程高くありません。最近では、あっせん手続の申立件数は減少傾向にあります。

整理解雇の問題は弁護士に相談を

事業が低迷すれば、安易に整理解雇できると勘違いしている企業が非常に多いです。しかし、多くの相談事例では、役員報酬をカットしない、並走して新人社員の採用を行うなど、整理解雇に求められる要素を精査せずに、普通解雇や懲戒解雇の代用として整理解雇が行われているのが実情です。

昨今では、労働者の権利意識は非常に高くなっており、スマホ一台で容易に情報収集をします。

整理解雇後に弁護士から通知が送られてくることもしばしばです。

整理解雇を行う前にまずは弁護士に相談するなどして慎重に対応することが求められます。