業務命令違反は懲戒処分の対象になりますが、いきなり解雇すると不当解雇となるリスクがあります。有効な懲戒には「正当な理由の不存在・就業規則の根拠・処分の相当性・適正な手続」が必要です。
労働者は労働契約に基づき、会社の指揮に従って誠実に働く義務(誠実労働義務)を負うため、正当な理由のない業務命令違反は懲戒の対象になります。もっとも、一度の違反で直ちに解雇するのは重すぎて無効になりがちです。残業拒否の扱い、段階的な対応手順、裁判例、放置のリスクを、企業経営者の視点で弁護士が解説します。
業務命令に従わない社員をすぐに解雇できますか?
できません。業務命令違反を理由とする解雇には、客観的合理性と社会通念上の相当性が必要です。段階を踏まずにいきなり解雇をすると、不当解雇となる可能性が非常に高くなります。
どのような手順で対応すればよいですか?
口頭注意 → 戒告・譴責等の軽い懲戒処分 → 業務日報や定期面談による改善指導 → 退職勧奨 → 最終手段として解雇、という段階を踏むことが重要です。各段階を記録に残します。
拒否しても正当な理由になる業務命令はありますか?
あります。法令に違反する命令、パワハラ等に該当する命令、過酷な肉体的・精神的負担を課す命令、上限規制に反する残業命令、残業代未払い下での残業命令などは、拒否する正当な理由があると考えられます。
- 労働契約法15条(懲戒権の濫用)/16条(解雇権濫用法理)/労働基準法36条(36協定・上限規制)/20条(解雇予告)
- 大阪地判平成10年3月25日/浦和地判平成10年10月2日/東京地裁立川支部平成30年3月28日判決/東京地判平成2年12月21日
業務命令違反は懲戒処分の対象となる
会社は社員に対して業務命令権を有しています。労働者は、労働契約に基づき、業務内容やその方法、就業場所等に関して会社の指揮に従って誠実に仕事をする義務(誠実労働義務)を負っています。
そのため、会社の業務命令に違反する行為は誠実労働義務に違反するものといえ、業務命令違反は懲戒処分の対象となります。しかし、業務命令違反を理由とする懲戒処分が常に許されるわけではありません。
業務命令違反を理由に懲戒するときの4つの注意点
勇み足で懲戒処分を行うと、思いもよらない不利益が会社に生じます。業務命令違反を理由に懲戒処分を行うためには、次の条件を満たすことが必要です。
- ①業務命令の拒否に正当な理由がないこと業務上の必要性があり、目的が不当でなく、社員の不利益が大き過ぎない命令であること。法令に違反する命令は無効で、拒否する正当な理由があります。
- ②就業規則上の規定があること就業規則や雇用契約書に、懲戒事由と懲戒処分の内容が規定されていることが必要です。どの行為にどの処分かをあらかじめ明確にしておきます。
- ③懲戒処分が重すぎないこと命令の内容、違反により生じる会社の不利益、処分歴の有無、反省の有無等を総合考慮して決めます。一度の拒否で直ちに解雇は重すぎます。
- ④適正な手続を踏んでいること社員に言い分を述べる機会(弁明の機会)を与え、就業規則で賞罰委員会の設置を規定している場合はこれを設置します。
残業・休日出勤の拒否
日常業務の拒否に次いで多いのが残業や休日出勤の拒否です。残業命令・休日出勤命令には、日常業務とは異なる条件が付されています。
残業・休日出勤を指示するための根拠
会社が残業・休日出勤を業務命令として指示するには、就業規則や雇用契約書に「残業や休日出勤を命じることがある」と記載されていることが必要です。さらに、36協定を締結して労働基準監督署に届け出ることを要します。
残業命令が上限規制に反しないこと
時間外労働にも上限があり、上限規制に反する残業命令は無効になると解されます。
| 区分 | 上限 |
|---|---|
| 原則 | 月45時間かつ年360時間 |
| 特別条項 | 年720時間を上限/2〜6か月のいずれも平均月80時間以内(法定休日労働含む)/単月100時間未満(法定休日労働含む)/原則を上回る特例は年6回まで |
業務命令違反を理由に解雇できるか
懲戒解雇や普通解雇は、労働者としての立場を奪う重い処分です。そのため、解雇処分が有効となるには、客観的合理性と社会通念上の相当性が必要です(労働契約法16条)。段階を踏まずにいきなり解雇をすると、不当解雇となる可能性が非常に高くなります。
裁判例:東京地裁立川支部 平成30年3月28日判決
録音禁止命令への違反を繰り返したことを理由とする普通解雇について、会社が改善指導を尽くしても改善の見込みがなかったことから、解雇権の濫用にあたらず有効と判断された事例です。逆に言えば、改善に向けた指導の積み重ねがあって初めて解雇が認められます。
業務命令違反をする社員への対応 ── 6つのステップ
業務命令に従わないことをもって直ちに解雇するのは重すぎて不当解雇となります。次の順を追って対応し、各段階を記録に残します。
- 口頭による注意を行うなぜ注意するのかを説明する。単なる叱責では改善は期待できない。大きな不利益が生じた場合や責任ある立場の社員は、最初から懲戒処分を検討する。
- 段階を踏んで懲戒処分を行うまず戒告・譴責(始末書)など軽い処分から。改善されなければ減給・出勤停止へ。いずれも口頭でなく書面で通知し、処分内容・理由を明確にする。
- 業務日報の作成を指示する過大な業務負荷やコミュニケーション不足が原因のことも。上司の評価・コメントを書き込み、双方向のコミュニケーションツールとして活用する。
- 定期的な面談を行う懲戒解雇ありきの対応では不当解雇と判断されやすい。面談を通じて信頼関係の構築に努め、会社が改善に向き合ってきた事実を残す。
- 退職勧奨を行う解雇は最終手段。まず退職を促し、退職条件を提示して解雇を回避する。退職する場合は必ず退職合意書を作成する。
- 解雇を行う応じない場合は普通解雇または懲戒解雇。30日前の解雇予告(即時解雇なら30日分以上の平均賃金=解雇予告手当)が必要。処分内容・解雇理由を記載した通知書を交付する。
業務命令違反の社員を放置するデメリット
指示に従わない社員の分を他の社員や上司が負担し、本来の仕事が停滞。会社全体の効率が下がる。
負荷が偏り、対応しない会社への不満から士気が低下。優秀な社員の離職やSNSでの悪評拡散を招く。
命令拒否で取引条件を守れず、納期・交渉の遅延などから取引先の信用を失うおそれ。
業務命令違反をした社員への損害賠償
業務命令違反に関する裁判例の比較
| 裁判例 | 事案の概要 | 結論 |
|---|---|---|
| 大阪地判 平成10年3月25日 | 教育訓練を目的とした時間外労働命令の拒否を理由に戒告・訓告処分 | 拒否に正当性がなく、戒告処分は有効 |
| 浦和地判 平成10年10月2日 | 残業命令拒否等を理由とする懲戒解雇 | 先行する懲戒処分がなく、懲戒解雇は無効 |
| 東京地裁立川支部 平成30年3月28日 | 録音禁止命令への違反を繰り返したことを理由とする普通解雇 | 改善の見込みがなく、解雇権の濫用にあたらず有効 |
| 東京地判 平成2年12月21日 | 出勤簿の捺印拒否や指示命令違反を理由とする戒告処分 | 戒告処分は有効 |
よくある質問(FAQ)
業務命令違反・問題社員への対応は弁護士にご相談ください
業務命令違反への対応は、懲戒の可否・処分の相当性・段階的な指導と記録づくり・解雇の見極めまで、一つ誤れば無効やトラブルにつながります。就業規則の整備から実際の処分・解雇の進め方まで、企業経営者の立場で弁護士がサポートします。大阪・なんば/心斎橋の難波みなみ法律事務所へ。
※本記事は一般的な解説であり、個別の事案では懲戒・解雇の有効性は具体的な事情により異なります。実際の業務命令違反・問題社員への対応は、監修弁護士(難波みなみ法律事務所 代表弁護士 南 宜孝/大阪弁護士会)にご相談ください。

