業務命令違反の社員を解雇できるか?業務命令違反の処分について解説

問題社員  業務命令の拒否業務命令違反と懲戒処分

日常業務の指示を拒否したり、残業や休日出勤を拒否する社員を放置することは、会社の業務遂行に支障を生じさせ、会社の企業秩序を乱します。他の社員の負担も大きくし、社員の離職も招きます。

業務命令に違反する社員に対しては適切に対なければなりません。

業務命令違反の社員に対する懲戒処分のポイント
業務命令違反の社員を解雇できるのか

業務命令違反は懲戒処分の対象となる

会社は社員に対して業務命令権を有しています。

労働者は、労働契約に基づき、誠実労働義務を負っています。誠実労働義務とは、業務内容やその方法、就業場所等に関して、会社の指揮に従って誠実に仕事をする義務です。

そのため、会社の業務命令に違反する行為は、労働者の誠実炉同義務に違反するものといえます。そのため、業務命令違反は、懲戒処分の対象となります。

しかし、業務命令違反を理由とする懲戒処分が常に許されるわけではありません。

【参考】労働契約法6条

労働契約は、労働者が使用者に使用されて労働し、使用者がこれに対して賃金を支払 うことについて、労働者及び使用者が合意することによって成立する。

業務命令違反を理由とする懲戒処分の注意点

業務命令を拒否する社員に対して、会社は適切に対応しなければなりません。

しかし、勇み足で懲戒処分を行うと、思いもよらない不利益が会社に生じます。

業務命令違反を理由に懲戒処分を行うためには、以下の条件を満たすことが必要です。

懲戒処分の注意点

  • 業務命令の拒否に正当な理由がないこと
  • 懲戒事由と処分内容が就業規則で規定
  • 懲戒処分が重すぎない
  • 適正な手続き
  • パワハラに該当しないように

業務命令の拒否に正当な理由がないこと

業務命令が不当な内容であれば、その業務命令は権利濫用したものとなり無効な命令となります。そのため、社員がその業務命令を拒否することに正当な理由があります。

業務命令が正当なものといえるためには、業務上の必要性があり、目的が不当ではないこと、業務命令による社員の不利益が大き過ぎないことが必要です。

また、法令に違反する業務命令も無効ですから、これを拒否する正当な理由はあるといえます。

正当な理由がある場合とは

  • 業務命令が法令に違反している
  • 業務命令がパワハラ等のハラスメントに該当する
  • 業務命令が過酷の肉体的精神的な負担を課すもの(長時間立たせる)
  • 上限規制に反する残業命令
  • 残業代が未払いである状況での残業命令

就業規則上の規定

懲戒処分を行うためには、就業規則や雇用契約書等に、懲戒事由と懲戒処分の内容が規定されていることが必要です。

懲戒処分は、問題行為を行う社員に対して制裁を課すことで、企業秩序を維持させるものです。

懲戒処分を受けた従業員は、諸々の不利益が生じますから、どのような行為を行えば、どのような懲戒処分を受けるのかがあらかじめ明確にされておくことが必要です。

懲戒処分とすることが重すぎないか

業務命令違反が懲戒事由に当てはまるとしても、選択した懲戒処分が重すぎてはいけません。

懲戒処分の選択は、業務命令の内容、業務命令違反により生じる会社の不利益、処分歴の有無、反省の有無等を総合的に考慮して処分内容を決定します。

例えば、日常業務の指揮命令を一度拒否したことをもって直ちに解雇処分とすることは重すぎるといえます。

適正な手続を踏んでいるか(弁明の機会等)

懲戒処分は社員に対する制裁である以上、処分を行うにあたって適正な手続を踏む必要があります。

例えば、社員に対して言い分を述べる機会を与えたり、就業規則で賞罰委員会の設置を規定している場合には、賞罰委員会を設置する必要があります。

パワハラにならないように

上司の指示に従わない社員に対する注意が、かえってパワハラになることがあります。

例えば、長時間にわたる指導、大人数による叱責は、パワハラに該当する可能性があります。

顧問契約
スマート顧問

残業や休日出勤の拒否

日常業務の拒否や無視に次いで多いのが残業や休日出勤の拒否です。

残業命令や休日出勤命令には、日常業務の業務命令とは異なる条件が付されています。

残業や休日出勤を指示するための根拠

会社が社員に対して、残業や休日出勤を業務命令として指示するためには、就業規則や雇用契約書に、『残業や休日出勤を命じることがある。』と記載されていることが必要です。

さらには、36協定を締結して、これを労働基準監督署に届出することを要します。

残業命令が上限規制に反しない

時間外労働にも上限があります。

上限規制に反する残業命令は無効になると解されます。

  • 原則「月45時間かつ年360時間」とする。
  • 年間720時間を上限とする
  • 2~6ヶ月のいずれも平均月80時間以内(法定休日労働を含む)
  • 単月100時間未満(法定休日労働含む)
  • 原則を上回る特例の適用は年6回を上限とする

▶厚生労働省の上限規制の解説はこちら

大阪地方裁判所平成10年3月25日

教育訓練を目的とした時間外労働命令を拒否したことを理由に戒告又は訓告の処分をした事案。

拒否した理由に正当性がないこと、教育訓練が高度の必要性を有していたこと、大多数の対象者が訓練を受講したこと事情を考慮して戒告の懲戒処分は有効であると判示しています。

浦和地方裁判所平成10年10月2日

残業命令拒否等を理由に懲戒解雇した事案。

譴責または減給処分といったより軽度の懲戒処分によって是正が可能であると思われるところ、本件懲戒解雇に至るまで、社員に対して、先行する懲戒処分が全くなかったことなどの状況を踏まえれば懲戒解雇を無効と判示しています。

業務命令違反を理由に解雇できるか

懲戒解雇や普通解雇は、労働者としての立場を奪う重い処分です。そのため、解雇処分が有効となるためには、①客観的に解雇処分とする合理的な理由があり(客観的合理性)、②解雇処分とすることが社会通念上相当であること(相当性)を満たす必要があります。

しかし、日常業務に係る業務命令や残業命令を拒否する行為に及んだとしても、解雇処分とするには十分な理由とはいえません。会社側が、社員の業務命令違反を理由に、段階を踏まずに解雇処分とすれば不当解雇となる可能性は非常に高いでしょう。後述するとおり、業務命令違反があっても、段階を踏んで計画的な対応が肝となります。

業務命令違反を理由に解雇された裁判例(東京地方裁判所立川支部平成30年3月28日判決)

事案

上司からの録音禁止の命令を受けていたのに、これを無視して録音を繰り返したこと等を理由に、普通解雇された事案です。

判断

労働契約上の指揮命令権及び施設管理権に基づき、上司らから録音禁止の正当な命令が繰り返されたのに、これに従うことなく、懲戒手続が取られるまでに至ったにもかかわらず、懲戒手続においても自らの主張に固執し、譴責の懲戒処分を受けても何ら反省の意思を示さないばかりか、処分対象となった行為を以後も行う旨明言したものであって、会社の正当な指示を受け入れない姿勢が顕著で、将来の改善も見込めなかったといわざるを得ない。よって、本件普通解雇は、解雇権を濫用したものとはいえないから、有効というべきである。

業務命令違反をする社員の対応

業務命令に従わないことをもって直ちに解雇処分とすることはあまりにも重すぎるため、不当解雇となります。 

業務命令の違反する社員への対応は順を追って進めていくことが重要です。

業務命令違反の社員の対応
口頭の注意
段階を踏んだ懲戒処分
業務日報
定期的な面談
退職勧奨
解雇処分

口頭による注意を行う

まずは、口頭による注意を行います。なぜ口頭による注意指導を行うのかを説明するようにします。単に叱責するだけでは改善を期待できません。

ただ、業務命令違反により会社に大きな不利益が生じたり、社員が責任ある立場にある場合には、最初から懲戒処分を行います。

また、社員が業務指示に単に違反するだけでなく、会社の組織批判を行ったり、批判文書を発信し続けるなどの反抗をした場合には、初回の処分であっても重い処分を行うことを検討します。

段階を踏んで懲戒処分を行う

業務命令違反を繰り返す社員に対しては、懲戒処分をもって対処します。

まずは、比較的軽い処分である戒告や譴責の懲戒処分を行います。

戒告は、問題行為を行った社員に対して戒める懲戒処分です。

譴責とは、始末書を提出させて戒める懲戒処分です。

それでも、改善されない場合には、減給や出勤停止などの処分を行います。

いずれの懲戒処分においても、口頭ではなく書面により通知するべきでしょう。事後的に処分内容や理由が曖昧にならないように書面化しておくことが重要です。

東京地方裁判所平成2年12月21日

正当な理由がないのに就業規則の定めどおりに出勤簿の捺印をしなかったこと、再三にわたって指示命令に従わず協調を欠く行為に終始したこと等を理由としてされた戒告処分を有効としました。

業務日報の作成指示

懲戒処分をひたすらに行ったとしても、問題社員の改善は期待できません。

企業側が気づいていない過大な業務負荷やコミュニケーション不足が業務命令違反を引き起こしているかもしれません。

問題社員の改善を図るために業務日報の作成を指示します。

社員による一方的な報告書類とするのではなく、業務日報内に上司による評価やコメントを記載することで、上司と社員の双方向のコミュニケーションツールとして活用しましょう。

定期的な面談

業務日報に加えて定期的に面談を行うことも検討します。

懲戒解雇ありきの対応では、不当解雇と判断される可能性があります。企業が社員の改善に向けて向き合ってきたかが重要となります。

そこで、定期面談を通じて、使用者側と社員とのコミュニケーションを促し、信頼関係の構築に努めます。また、面談を通じて業務命令違反を繰り返す原因を探り改善を図ります。

退職勧奨を行う

業務命令違反を繰り返し、改善の見込みがなければ懲戒解雇とする他ありません。しかし、解雇は重大な処分ですから不当解雇となるリスクがあります。

そこで、解雇処分は最終手段と位置付けて、まずは退職勧奨を行い退職を促します。

退職勧奨にすぐに応じないとしても、色々な退職条件を提示することで解雇を回避するようにします。

退職する場合には、必ず退職合意書を必ず作成します。

解雇を行う

退職勧奨を行なっても、社員が応じない場合には、普通解雇または懲戒解雇を行います。

解雇処分を行う場合には、30日前の解雇予告が必要となります。即時解雇であれば、解雇予告手当(30日分以上の平均賃金)を支払う必要があります。

解雇処分を行う場合には、処分内容と解雇理由を記載した通知書を交付します。

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業務命令違反の社員を放置することのデメリット

業務命令を拒否する社員を放置すると、数々の損失を招きます。そのため、会社は業務命令を拒否する社員の改善に努めるべきです。

業務効率の低下

上司の指示・命令に従わない社員がいると、会社の業務がスムーズに進みません。業務命令に従わない社員がいれば、その代わりに別の社員や上司が仕事をしなければならず、本来やるべき他の仕事が停滞します。

このような連鎖から、会社全体の業務効率が低下します。

モチベーションの低下

他の社員の業務負荷が増えて、適切な対応をしない会社に対する忠誠度が悪化することで、モチベーションの低下を招きます。業務命令を拒否する社員がいれば、社内のコミュニケーションが円滑に行えず、社内の雰囲気も悪くなり、一層モチベーションの低下を引き起こします。

この状況が続けば、その他の優秀な社員の離職を引き起こします。また、掲示板やSNSにより会社の悪評が拡散され、新たな人材の確保も難しくなります。

取引先との関係悪化

業務命令の拒否により取引先との取引条件を守れなくなる可能性があります。納期や交渉の遅延などにより取引先との関係が悪化したり、新規取引を逃してしまう可能性もあります。

業務命令違反をした社員に対する損害賠償

業務命令違反をする社員への損害賠償は原則として認められません。

従業員による業務命令違反によって損害が発生したことを証明することは難しいことがほとんどです。さらに、会社は社員を通じて利益を得ている以上、社員により生じた損失も負担するべきと考えられていることも理由の一つです。

問題社員の対応は弁護士に相談を

業務命令に従わない社員を放置することは会社にとって大きな問題を招きます。ただ、無計画に懲戒処分を行うと不当な処分となってしまいます。

問題社員の対応には弁護士にまず相談をしましょう。

当事務所は労働問題を多く取り扱っています。

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