社内不倫で解雇することができるか?弁護士が解説します

テレビや週刊誌で芸能人などの著名人の不倫が報道されるようになり、社会問題にもなるケースがありました。

その影響もあり、会社が社内不倫に対して非常に厳しい処分を下すことも珍しくありません。

今回は、社内不倫を理由に解雇することができるのかを弁護士が解説します。

社内不倫は懲戒処分の対象となるのか

社内不倫とは、同じ企業に所属する男女が、一方または双方が既婚者であるにもかかわらず、交際関係を持つことをいいます。

あくまでも懲戒処分とは、問題行為を行った従業員に対して制裁を課すことで、企業秩序を維持しようとするものです。

男女の交際関係は、あくまでもプライベート(私生活上)の問題ですので、当然に懲戒処分の対象になるものではありません。

たとえ不倫が社内不倫であっても、ただちに懲戒処分の対象にはなりません。

懲戒処分できる場合は限られている

社内の従業員同士が不倫をしたことで、社内秩序が乱れている場合には、たとえプライベートの問題であっても、使用者やその他の従業員に対する悪影響を及ぼすものですから、懲戒処分の対象となります。

社内秩序が乱れている場合とは、企業運営に具体的な影響を及ぼしている場合や企業の名誉・信用を傷つけている場合に限られます。

例えば、社内不倫が原因で、取引先との取引関係に支障が生じた、関係者が会社に乗り込み、その対応に追われたため業務に支障が出たといった具体的な支障が生じることまで求められます。

また、以下の場合には、社内不倫とは別の懲戒事由にもあたるため、これらを合わせて懲戒処分とすることもできます。

就業時間中に不倫行為に及んでいた

社内メールを私的利用していた

不倫を行うためにシフト表を操作していた

会社負担の出張先のホテルで不倫を行なった

事務所内施設を利用して不倫をしていた

懲戒処分とするかの判断要素

単に、社内不倫によって空気が重くなった、雰囲気が悪くなったという主観的な事情では、社内秩序が乱れたとは言いにくいでしょう。

懲戒処分の対象となるかは以下の事情を考慮して検討する必要があります。

職位上の立場や責任

当事者間の関係(同列か上司部下か)

不倫が行われた場所や時間帯(業務外か、事務所内か、出張先の宿泊先か)

会社に与えた影響の内容や程度

社内メールや社内携帯の不正利用の有無

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取引先との不倫

取引先関係者や顧客との不倫の場合、企業秩序を害するだけでなく、取引先との関係性を悪化させ、取引中止や取引料の減少といった営業上の損失を招くおそれがあります。

そのため、取引先関係者との不倫は、懲戒処分の対象になります。

取引先と自社の関係性や取引額、不倫によって生じた損失額等を踏まえながら、懲戒処分の種類を選択することになります。

社内不倫を放置しないこと

社内不倫を放置すると、会社に様々な損失が生じかねません。

社内不倫を把握すれば、厳重注意または懲戒処分を行うなど、適切に対応しなければなりません。

企業風土の悪化

社内不倫の噂が拡散されると、その他の従業員は不倫当事者に対して好奇の目を向けるようになり、噂が新たな噂を呼ぶ事態になりかねません。このような状況は、企業の健全な企業風土を失わせます。

また、社内不倫を放置すると、社内不倫が許容されているとの誤解を招き、新たな社内不倫を招きます。

人材の流出

社内秩序が乱れれば、従業員のモチベーションも下がります。

また、人事権を有する社員が不倫をしている場合には、不公平な人事考課をしているのではないかと疑念を持ってしまいます。

このような悪循環から、従業員は企業に対する愛社精神を失い、人材流出を招いてしまいます。

新規採用も難しくなる

社内秩序が悪くなり、従業員の忠誠心も下がれば、SNSや掲示板に企業の悪評が発信されてしまうおそれがあります。

これにより、新たな優秀な人材が集まりにくくなり、企業の活性化が阻害されます。

損害賠償を受けるリスク

社内不倫を放置すると、不倫当事者であった女性から、セクハラなどの被害申告を受けることがあります。

企業がセクハラを漫然と放置したとして、被害女性とされる社員から損害賠償を受けるリスクがあります。

また、企業は、従業員の就労環境を整備する義務を負います。それにもかかわらず、企業が何らの対応もすることなく社内不倫を放置すると、この義務違反を理由に損害賠償を受けるリスクもあります。

社内不倫を理由に解雇できるか?

社内不倫によって企業風土が乱れたとしても、これを理由とした解雇処分は無効とされる可能性が高いでしょう。

解雇処分は、従業員の立場を一方的に奪う、非常に重い処分です。

そのため、解雇処分が有効となるためには、解雇とする合理的な理由があり、解雇することが社会的に相当といえることが必要です。

たとえ社内不倫により企業秩序が乱れたとしても、それのみを理由とする解雇処分は、重過ぎる処分といえ、無効となる可能性が高いでしょう。

社内不倫の解雇に関する事例

社内不倫のみを理由とする解雇は不当解雇となり無効となることが多いです。

旭川地裁平成元年12月27日判決

事案

女性社員が妻子ある男性社員と交際したことを理由に解雇された事案です。

判断

不倫は、社会的に非難される行為であり、就業規則に定める素行不良であるといえる。しかし、「職場の風紀・秩序を乱した」とは、企業運営に具体的に影響を与えるものに限られると解すべきであるところ、会社の風紀等を乱して企業運営に影響が生じたとは認めがたいとして、解雇は無効とされました。

名古屋地裁昭和56年7月10日判決

事案

自動車学校のスクールバスの運転手として勤務していた社員が女性教習生と懇意となり、それが近隣への噂となり受講生の減少を招いたとして懲戒解雇した事案です。

判断

損害額を具体的に把握することができず、両者の関係におけるトラブルは女性教習生側に原因があり、再発の恐れは少なく、かつ近隣の噂が企業運営に具体的な影響を与えたか否か判断できないことから解雇は無効としました。

大阪地裁平28年5月17日

事案

妻子ある男性社員が、不倫相手の女性社員と出退勤時間を合わせたり、昼食時間を合わせたりするために、男性社員のシフトを早出にしたり、女性社員の勤務シフトを変更した場合に懲戒解雇が有効かが争われた事案があります

判断

勤務シフトに関する労働者の行為は不適切なものであり、しかも、上司から注意を受けたにもかかわらず、不倫を改めようともしなかったというのであるから、懲戒処分事由や配転事由には該当するものの、解雇処分はいささか重過ぎるといわざるを得ないとして、解雇を無効としました。

大阪地裁平成9年8月29日

事案

妻子を有する教師が生徒の母親と不倫関係となり、職場から懲戒解雇された事案です。

判断

教育者として相応しい高度な倫理と厳しい自律心が求められるところ、生徒の母親との不倫は社会生活上の倫理や教育者に要求される倫理に反していることから、懲戒解雇が相当性を欠き懲戒権を濫用したものとはいえず、解雇は有効と判断しました。

解雇処分が無効となった場合の負担

解雇処分が無効となれば使用者には様々な負担が生じます。

以下のような様々な負担を回避するためにも、拙速な解雇処分は控えなければなりません。

バックペイの支払い

解雇が無効となれば、解雇処分から解決時までの給与を払う必要が生じます。

解雇が無効となれば労働契約は継続していることになります。

本来、ノーワークノーペイですから、社員が仕事をしていないのであれば給与を払う必要はないはずです。

しかし、企業の一方的な解雇処分によって、これを受けた労働者は仕事をしたくてもできない状態に置かれています。

そのような状況にまで、ノーワークノーペイを貫くことは、労働者にとって酷です。

そこで、たとえ労務を提供していなかっとしても、解雇が無効となれば、労働者に対して給与相当額を支払わなければなりません。

この給与相当額をバックペイと呼びます。

解決金の支払い

解雇が無効となれば、バックペイとは別に解決金を支払う必要が生じる場合があります。

解雇が無効となれば、雇用契約は存続していることになります。

しかし、解雇処分によって、労使間の関係性は修復できない程に破綻しています。

企業としては、解雇をした労働者の復職を希望しないのが通常です。

そのため、雇用契約を終了させるため、企業は労働者に対して解決金を支払うことを要します。

解決金の金額は、解雇の違法性の程度や選択した手続(労働審判か訴訟か)等によって変わります。

残業代の支払い

解雇処分がきっかけとなり、これまでの残業代の請求を受ける場合があります。

残業代の時効が、令和2年4月1日から、2年から3年に伸長されました。時効が伸びたことは、改正前よりも残業代の負担が1.5倍になることを意味します。

先ほどのバックペイや解決金に加えて、3年分の残業代が加算されることになるため、使用者側の経済的な負担はかなり大きいものになります。

裁判手続きに伴う負担

社員が解雇処分の有効性を争う場合には、訴訟外での合意ができなければ、社員は、企業を相手方とする労働審判の申立てや訴訟提起を行うことになります。

労働審判であれば3回の審判期日以内で審理が終結しますから、比較的早い手続きといえます。しかし、代理人弁護士を就けずに対応することは難しいでしょう。

訴訟手続きであれば、短くても1年以上の期間を要します。その上、専門性の高い手続きですから、弁護士を代理人として就けるのが一般的です。

このように、無効となる解雇処分を行うと、社員から労働審判の申立てや訴訟提起を受ける可能性が高いため、企業は、裁判手続きに対応するために必要となる弁護士費用を負担せざるを得なくなります。

✓裁判所の労働審判の解説はこちら

社内不倫を理由とする懲戒処分の手順

社内不倫を理由に懲戒処分を行う場合には、所定のプロセスを踏んで行う必要があります。

なお、社内不倫が、およそ会社の企業秩序に悪影響を及ぼさないものであれば、懲戒処分とせずに、社内不倫を止めるように勧告することも考えられます。

社内メール等を確認する

不倫の当事者が、社内メールや社内携帯を利用して、不倫に関係するやり取りをしている場合があります。

会社は社員の社用メールをチェックすることができます。

そのため、社員同士の不倫や取引先との不倫が疑われる場合には、社内メールをチェックし、不倫を裏付けるメッセージを確保します。

不倫の連絡が就業時間中に行われている場合には、社員の職務専念義務違反等も問題となり、不倫とは別途の懲戒事由に該当する可能性が出てきます。

当事者以外の関係者からの聞き取り

社内不倫を直接見聞きした従業員がいる場合には、当事者からの聞き取りを行う前に、利害の薄い他の従業員から聞き取りを行います。

当事者からの聞き取り

メールの確認や第三者からの聞き取りを終えれば、当事者からの聞き取りを行います。

社内不倫の聞き取りの場合、性的な質問にも及ぶため、人事担当者が女性に対して詳細な質問をすると、かえってセクハラの被害申告を受ける可能性もあります。そのため、女性社員に対する聞き取りは、同性の女性社員が聞き取りを行うようにします。

聞き取りの際には、『はい』や『いいえ』で回答できる誘導尋問は控え、できる限り具体的な回答を求めるようにします。

また、聞き取り時には、録音を行うことを告げた上で録音を実施しておきましょう。

当事者が不合理な反論をしたり、不誠実な対応をしても、ヒアリング担当者は冷静に対応をするように心がけます。当事者の言動に過剰に反応をしてしまうと、かえってパワハラ等の主張を受けるリスクがあります。

懲戒処分の選択

当事者からの聞き取りを終えれば、不倫の内容や使用者に生じた不利益の程度を踏まえて、懲戒処分を選択します。

総合的に判断して、社内不倫による社内への影響がそれ程大きくなければ、厳重注意か戒告といった軽い懲戒処分とします。他方で、会社に及ぼす影響が小さくない場合には、減給や出勤停止等の懲戒処分を検討します。少なくとも解雇は回避するべきでしょう。

配置転換を行う

社内不倫の再発を防ぐために、社内不倫の当事者を配置転換させることが多いです。

あくまでも社内不倫の再発を防ぐために行うものですから、それ以外の不当な目的の下で配置転換を行うことは控えるべきです。

退職勧奨を行う

不倫を行った社員に対して、退職勧奨することが考えられます。

退職勧奨とは、企業が従業員に対して、退職を勧めることです。

退職勧奨はあくまでも企業から社員への勧誘であり、従業員の自由な意思により退職するか否かを決断させるものです。そのため、勧誘のレベルを超えて、応じなければ解雇する、退職金を不支給とするといった言葉を述べて退職を強要すると、社員から損害賠償を受けるリスクがあります。

退職勧奨の結果、社員が退職の途を選んだ場合には、合意書を作成しておきます。退職後の紛争を予防するため、退職届の提出だけでなく、退職条件を記載した合意書を作成することが重要です。

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社内不倫の問題は弁護士に相談を

社内不倫は、犯罪にも匹敵するような風潮があります。

しかし、社内不倫を理由とした解雇が有効なることはほぼありません。

勢い余って解雇処分を下すことは避けなければなりません。

従業員に対する懲戒処分は慎重なプロセスが重要です。

当事務所には、中小企業診断士である弁護士が在籍しており、中小企業法務全般を得意としています。

初回相談30分を無料で実施しています。

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