飲酒運転で解雇できるか?飲酒運転の防止について解説します

飲酒運転による交通事故が大きな社会問題化となりました。危険運転致死傷罪が創設され、飲酒運転への厳罰化も進んでいます。

飲酒運転が社会的にタブーであることは共通認識かと思います。

ただ、これを理由に社員を懲戒解雇できるかは別の問題になります。

今回は飲酒運転で従業員を解雇できるかを弁護士が解説します。

飲酒運転とは

飲酒運転とは、飲酒後にアルコールの影響が残っている状況で自動車の運転をすることをいいます。

道路交通法における飲酒運転は「酒気帯び運転」と「酒酔い運転」の2種類があります。

酒気帯び運転

呼気1リットル中にのアルコールが0.15mg以上検出されれば、酒気帯び運転となります。

アルコール濃度の数値によって違反点数が変わります。 

酒気帯び運転の刑事罰は、3年以下の懲役又は50万円以下の罰金となります。

アルコール量違反点数行政処分
0.15mg未満酒気帯び運転にあたらずなし
0.15mg以上 0.25mg未満13点免許停止90日
0.25mg以上25点免許取り消し
欠格期間2年

酒酔い運転

酒酔い運転とは、酒によって正常な運転ができないおそれがある飲酒運転をいいます。

酒気帯び運転のように、アルコール濃度によって左右されるものではありません。

酒酔い運転は、違反点数35点となり、欠格期間3年の免許取り消しとなります。

酒酔い運転の刑事罰は、5年以下の懲役又は100万円以下の罰金となります。

飲酒運転は懲戒処分となるのか

2006年に起きた痛ましい飲酒運転の死亡事故をきっかけ、社会全体に「飲酒運転をしない、させない」という意識が浸透しました。

その影響もあり、飲酒運転をすれば当然解雇と考える向きがあります。

当然に懲戒処分とはならない

そもそも、懲戒処分とは、会社の事業活動に関わる社員の非違行為に対して制裁を課して、企業秩序の維持を図るものです。

飲酒運転は、あくまでも社員の私生活上の行為であり、企業の事業活動外の犯罪行為です。

飲酒運転をしたからといって、ただちに会社の企業秩序が害されるとはいえません。

そのため、『飲酒運転=懲戒処分』とは当然にはいえません。

会社の評価が低下すると懲戒対象となる

たとえ私生活上の非行であったとしても、その非行によって会社の社会的評価を傷つける場合や会社の事業活動と関連性がある場合には、企業秩序を乱すおそれがあります。

その場合には、飲酒運転は懲戒対象となります。

日本鋼管事件(最高裁判決昭49年3月15日)

従業員の不名誉な行為が会社の体面を著しく汚したというためには、・・・従業員の行為により会社の社会的評価に及ぼす影響が相当重大であると客観的に評価される場合でなければならない。

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懲戒処分する時の判断要素

以下の要素を考慮し、会社の社会的評価に重大な影響を及ぼしている場合には、飲酒運転を理由とした懲戒処分が認められます。

①飲酒量や呼気中のアルコール濃度・・・悪質な飲酒運転あれば会社に対する影響は大きい
②メディアで報道されたか・・・報道されれば会社に与える影響は大きい
③飲酒運転による結果・・・人身事故であれば結果は重大であり会社に対する非難も強くなる
④会社が運送業を営業しているか・・・運送業であれば会社の事業活動との関連性が強い
⑤会社の社会的な役割・・・会社が飲酒運転の撲滅に寄与する役割を果たしていれば会社の評価を傷つける

運送業や公務員の飲酒運転は、飲酒運転を理由とする懲戒処分が認められることが多いでしょう。

他方で、飲酒運転があっても、およそ会社の評価が傷つかない業態の企業であれば、懲戒処分は難しいでしょう。ただ、飲酒運転の結果、重大な人的損害を生じさせ、大々的にマスコミ報道されれば、全く運転行為と企業の業種の関連性が全くないとしても、懲戒処分の対象になるでしょう。

飲酒運転を理由に解雇できるか

解雇が有効となるためには、客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当と認められることが必要です。

懲戒解雇は、労働者としての立場を一方的に奪う非常に重たい処分です。

そのため、懲戒解雇の有効性については、慎重な判断が求められます。

運送業を営む場合

会社が運送業を営んでいる場合、その会社は、交通事故の防止に努力し、飲酒運転に対しては厳しい対応を求められる立場にあります。

そのような立場にある企業の従業員が飲酒運転をしたとなれば、会社は、事故の有無やマスコミ報道の有無に関わらず、社会から厳しい非難を受け、その社会的評価の低下を招きます。

そのため、運送業を営む会社の場合には、懲戒解雇とすることも不当解雇にはならない可能性は高いでしょう。

ただ、具体的な事情を考慮することなく一律解雇とすることは控えるべきです。飲酒運転が酒気帯びであること、事故がないこと、処分歴がないことなど踏まえて、降格や出勤停止の懲戒処分を選択する場合もあるでしょう。

日本通運事件(東京地方裁判所平成29年10月23日)

ドライバーではない運送業従業員に対する業務時間外の酒気帯び運転を理由とした懲戒解雇を有効と判断しました。

ヤマト運輸事件(東京地裁平成19年8月27日)

大手の貨物自動車運送事業者である会社が、会社のセールスドライバーである労働者を、飲酒運転を理由に懲戒解雇とした事案。

運送業の会社は、交通事故の防止に努力し、飲酒・酒気帯び運転等の違反行為に対しては厳正に対処すべきことが求められる立場にあるため、飲酒運転があれば、社会から厳しい批判を受けること等を理由に懲戒解雇を有効としました。

運送業ではない場合

運送業ではない会社の場合、運送業のように飲酒運転により直ちに社会的に非難される立場にはありません。

しかし、飲酒運転の結果、重大な人身事故を起こし、メディア報道がなされている場合には、懲戒解雇とするべき場合もあるでしょう。

また、運送業ではないとしても、飲酒運転を厳しく批判する立場にあるマスコミ関連の会社である場合には、社員の飲酒運転により、企業に対しても厳しい目が向けられるでしょう。その場合には、懲戒解雇とするべき場合もあるでしょう。

ただ、いずれにおいても、一律解雇とするのではなく、諸事情を考慮しながら出勤停止や降格の懲戒処分も選択肢としておくべきでしょう。

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公務員が飲酒運転した場合

飲酒運転の社会問題化を受けて、平成20年4月1日には国家公務員の「懲戒処分の指針」が一部改正され、酒酔い運転で人に傷害を負わせた場合に「免職」とされるなど、懲戒処分の基準が厳格化されました。

公務員は国民全体の奉仕者であり、国民の模範となることを求められるため、飲酒運転に対して厳しく処断される傾向があります。

しかし、公務員であるというだけで、事案の軽重に関わらず、一律懲戒免職とすることはあまりにも重い処分といえます。

都城市職員事件(宮崎地判平成21年2月16日)

呼気1リットルにつき0.35ミリグラム、飲酒後30分で運転をしており、徒歩で帰ることも可能な距離で運転の必要に迫られた事情のないこと等、本件と似たケースで、懲戒免職を有効としました。

福岡市水道局事件(最高裁平成28年9月8日)

酒気帯び運転(原付バイク)は飲酒運転の中では比較的軽微な態様であること、被害結果も生じていない上、悪質性が著しいとまではいえないこと、管理職又は指導的立場にあったわけではなく、警察による検査や事情聴取に素直に応じ,上司にも速やかに本件非違行為の事実を報告するなどしていること等を考慮すれば、懲戒免職は重きに失するとして、取り消す旨判示しました。

京都市職員事件(京都地裁平21年6月25日)

呼気1リットル当たり0.4ミリグラムのアルコールが検出された酒気帯び運転の事案において、処分歴のないこと、人身事故や物損事故を伴っていないこと、職務と関連する行為ではなく、管理職でもなかったため社会に与える影響は比較的少なかったこと等から、懲戒免職を取り消した。

神戸市消防局事件(大阪高裁平21年4月24日)

呼気アルコールの量は呼気1リットル中0.2ミリグラムで、物損事故を伴う酒気帯び運転であったが、前日夜の飲酒で、運転まで10時間近くの間隔があり、本人がアルコールが残っていることを認識していたとするには大きな疑問がある等として、懲戒免職を取り消しています。

懲戒処分を行う流れ

社員が飲酒運転を行った場合、懲戒処分を行うにあたって、会社が踏むべきプロセスを解説します。

飲酒運転の把握、調査、処分の選定、弁明の機会、処分通告

就業規則の定めがあること

懲戒処分の大前提として、飲酒運転が懲戒事由として明確に規定されていることが必要です。

就業規則に懲戒事由の定めがない場合、飲酒運転後に急いで就業規則を改定したとしても、過去の非行を懲戒処分することはできません。これを不遡及(ふそきゅう)の原則といいます。

調査・聞き取り

飲酒運転により警察に赤切符を切られたとしても、警察が勤務先に連絡をすることは通常ありません。

飲酒運転を理由に警察に検挙されたことの報告を社員から受けることで、会社が社員の飲酒運転を検知します。

また、会社名義の車で事故を起こした場合には、会社の損害保険を利用したり、車両の所有者である会社も被害者から損害賠償を受ける可能性があります。そのため、社員本人の報告を受けていなくても会社は飲酒運転を検知することができます。 

さらに、運送業を営む会社の場合、ドライバーの飲酒運転により、免許停止や免許取消しとなれば、職務に就くことができなくなります。これにより、会社に報告せざるを得なくなる場合もあるでしょう。

会社は、社員の飲酒運転の事実を把握すれば、飲酒量、飲酒の経緯、事故の有無や被害の程度、事故の示談の状況などの事情を詳しく聞きたりします。

懲戒処分を選定する

飲酒運転の悪質性や会社に及ぼす影響の度合いを踏まえて、懲戒処分の量刑を選定します。

懲戒解雇とする場合には、解雇が不当解雇となるリスクを十分に精査しなければなりません。仮に不当解雇の余地があれば、懲戒解雇を回避した上で、退職勧奨や解雇よりも軽い処分の可能性を検討するべきでしょう。

弁明の機会を与える

社員に対して懲戒処分を行う場合には、社員に対して、弁明の機会を与えます。

就業規則上、弁明の機会を与える規定があれば必ず実施します。仮に、就業規則において弁明の機会を与える規定がなくても、適正な手続きを保障するため、弁明の機会は与えておきましょう。

処分を通告する

会社から社員に対して、処分内容を通告します。

懲戒処分は口頭でも行うことはできます。

しかし、企業から問題社員に対して、制裁の強い意思を示すためにも、文書により通達するべきでしょう。

文書には、懲戒の種類、懲戒の理由、適用すること就業規則の条文を具体的に記載します。

飲酒運転を放置しない 

会社は、社員の飲酒運転を放置するべきではありません。

後述する予防策を適切に講じるだけでなく、実際に起きた場合には、適切に対応することが必要です。

飲酒運転によって生じる会社の不利益は以下のようなものがあります。

刑事上の責任

会社が、従業員の飲酒運転を放置すると、従業員だけでなく会社も刑事責任を追及されるおそれがあります。

社員が飲酒運転により正常な運転ができないと知っていながら、その社員に運転させた場合

社員が酒酔い運転することを容認していた場合

には、「車両等提供罪」にあたり、会社代表者等に対して、5年以下の懲役又は100万円以下の罰金が科される可能性があります。

酒気帯び運転の場合には、3年以下の懲役または50万円以下の罰金が科せられます。

行政上の責任

会社が貨物・旅客運送事業者であるような場合で、社員が飲酒運転をして事故を起こすと、車両使用停止、事業停止、営業許可取消処分等の処分が科されることもあります。

これら行政上の処分により事業活動そのものが立ち行かなくなり、大きな事業上の損失を招きます。

民事上の責任

従業員が、業務遂行中に飲酒運転をして事故を起こすと、会社は使用者責任として損害賠償を請求されます。

また、従業員が会社名義の自動車で交通事故を起こすと、会社は運行供用者責任として、人的損害を負担しなければなりません。

会社の社会的信用の低下

メディア報道やSNSの発信により、会社の社会的信用が悪化するおそれがあります。

会社の社会的信用が悪化すれば、取引先の新規開拓が停滞したり、既存の取引関係の解消を招く可能性があります。

さらに、新規の人材確保も難しくなったり、従業員の離職も引き起こします。

飲酒運転を予防するためには

飲酒運転により会社には多くの損失が生じます。

そのため、企業は社員の飲酒運転を予防する対策を十分に講じるべきです。

講習を実施

定期的に飲酒運転撲滅のための講習を行います。

講習を通じて、飲酒運転の危険性、飲酒運転をした場合に課せられるペナルティを行い、「飲んだら乗るな!乗るなら飲むな!」の意識を徹底して植え付けます。

アルコール検査の徹底

道路交通法の改正により、安全運転管理者のアルコールチェックが白ナンバー事業者においても義務になりました。2022年 10月 1日 からは

目視のチェックだけでなくアルコール検知器を使ったチェックも義務化されました。

アルコール検査を徹底することで、配送業務中の飲酒運転を防ぐとともに、飲酒運転を撲滅する会社の姿勢を強く示すことができます。

処分結果を公表する

飲酒運転を理由に懲戒処分をした場合に、これを社内で公表します。公表することで、飲酒運転により受けるペナルティを知らしめるとともに、飲酒運転には厳しく処断する会社の意思を示すことができます。

ただ、公表時に、社員の氏名や社員個人を特定できる情報は公表しないように注意しましょう。社員を識別特定できる情報を公表すると、名誉毀損により損害賠償を受けるリスクがあります。

職場の飲み会時には注意喚起する

職場の飲み会後に飲酒運転をして検挙されるケースは多くあります。

特に忘年会や新年会、歓送迎会の時期に、気の緩みから飲酒運転が増えがちです。

飲み会に際しては、車の運転をせず公共機関を利用して参加するように徹底します。

飲酒運転で解雇する場合は弁護士に相談を

社員の飲酒運転を放置すると、会社に多くの損失を招きます。

飲酒運転に対しては、毅然とした対応が求められます。ただ、具体的な事情を考えずに解雇処分とすると不当解雇となるリスクもあります。

飲酒運転による懲戒処分をする場合には、弁護士に相談をして進めていきましょう。

当事務所には、中小企業診断士である弁護士が在籍しており、中小企業法務全般を得意としています。

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