制服の着替えが労働時間となる4つのケース|企業側のリスクと取るべき対応を弁護士が解説

更新日: 2026.07.26
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「制服やユニフォームに着替える時間は、労働時間に含まれるのだろうか」——これは、始業前・終業後の着替えをめぐって、残業代や賃金の未払いトラブルに直結する問題です。「作業をしているわけではないから労働時間ではない」と考えていると、思わぬ未払い賃金・残業代の請求を受けるおそれがあります。

本記事では、制服の着替え時間が労働時間になる条件と4つのケース、労働時間に該当しないケース、更衣手当の扱い、裁判例、放置した場合のリスク、就業規則・タイムカード運用の整え方まで、企業側の弁護士がわかりやすく解説します。

Q制服の着替え時間は労働時間になる?

会社が制服・作業服への着替えを義務付けており、かつ事業所内の指定場所で行う必要があるなど、従業員が使用者の指揮命令下に置かれていると客観的に評価できる場合、着替え時間は労働時間になります。逆に、着替えが従業員の任意で、自宅や好きな場所で行える場合は労働時間になりません。なお、「更衣手当」を払えば労働時間にしなくてよい、というわけではありません

この記事のポイント

  • 労働時間とは「使用者の指揮命令下に置かれた時間」で、実際に作業しているかは問わない(三菱重工業長崎造船所事件・最判平12.3.9)
  • 着替えが義務付けられ・指定場所で行う必要があるなら、その時間は労働時間になる
  • 着替えが任意で、場所も自由なら、原則として労働時間にならない
  • 更衣手当・着替え手当は法律上の義務ではなく、支給しても労働時間該当性や賃金支払義務は消えない
  • 放置すると未払い賃金・残業代・遅延損害金・付加金・罰則のリスク。就業規則とタイムカード運用で整える
SECTION01
そもそも労働時間とは?|判断の基準

着替え時間が労働時間にあたるかを考える出発点は、労働基準法上の「労働時間」の定義です。労働基準法32条にいう労働時間とは、労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間をいいます。実際に手を動かして作業しているかどうかではなく、「指揮命令下にあるかどうか」で判断されるのがポイントです。

そして、労働時間にあたるかは、就業規則や労働契約の定めではなく、労働者の行為が使用者の指揮命令下に置かれたものと客観的に評価できるかによって決まります。この枠組みを示したのが、次の最高裁判例です。

最高裁の考え方(三菱重工業長崎造船所事件・最判平12.3.9)

造船所の従業員が、更衣所で作業服・保護具の着脱を義務付けられ、事業所内で行う必要があった事案で、最高裁はその着替え等の時間は「使用者の指揮命令下に置かれたもの」として労働時間にあたると判断しました。着替えに限らず、業務のための準備行為が労働時間になるかは、それが義務付けられているか・場所的な拘束があるかで決まる、という基準を示した重要判例です。

SECTION02
着替えが労働時間になる場合・ならない場合

上の基準を、着替えの場面にあてはめると、次のように整理できます。

労働時間になる(指揮命令下)
  • 会社が着替えを明示的に指示している
  • 指示はなくても黙示的に義務付けられている(着替えないと業務ができない等)
  • 更衣室など会社が場所を指定・拘束している
  • 制服・保護具の着用が業務上・安全上必要とされている
労働時間にならない(任意)
  • 従業員側の都合・任意で着替えている
  • そもそも着替えを必要としない服装で足りる
  • 制服のまま通勤することが認められている(自宅で着替え可)
  • 着替える場所や時間が従業員の自由に委ねられている

労働時間になる4つのケースを具体的に

着替え時間が労働時間に当たる典型例

  • ①明示的な指示がある:「始業前に更衣室で制服に着替えること」と会社が指示している
  • ②黙示的な命令がある:明確な指示はなくても、制服を着ないと就労できず、事実上着替えが強制されている
  • ③場所を拘束している:着替えを会社の更衣室など指定場所で行うことが必要とされている
  • ④業務上・安全上必要:衛生・安全の観点から作業服や保護具の着用が欠かせない(食品・医療・製造など)

逆に、制服のまま通勤してよい場合の着替えは、指揮命令下とはいえず労働時間になりません。通勤経路や着替える場所を労働者がある程度自由に決められ、場所の拘束も受けていないためです。

SECTION03
更衣手当(着替え手当)を払えば労働時間にしなくてよい?

「更衣手当(着替え手当)を支給しているから、着替え時間は労働時間として扱わなくてよいのでは」という質問をよく受けます。結論から言うと、更衣手当の支給と、着替え時間が労働時間にあたるかどうかは別の問題です。

  • 更衣手当は法律上の義務ではありません。会社が任意に設ける手当で、名称や金額に決まりはありません。
  • 着替えが労働時間にあたる場合、手当の名目で一定額を払っても、実際の労働時間に対する賃金・残業代の支払義務がなくなるわけではありません
  • 手当額が実際の着替え時間分の賃金を下回ると、その差額の未払いとして請求を受けるおそれがあります。

着替え時間を定額手当で処理したい場合でも、労働時間としてどう計算し、手当がその対価として十分かを説明できる設計にしておくことが大切です。手当を払っているという事実だけで、労働時間性の問題を回避することはできません。

SECTION04
着替え時間が争われた裁判例
裁判例結論ポイント
三菱重工業長崎造船所事件
最判平12.3.9
労働時間に該当更衣所での作業服・保護具の着脱が義務付けられ、事業所内で行う必要があった。準備行為も指揮命令下として労働時間と判断
ビル代行(宿直勤務)事件
東京高判平17.7.20
労働時間に該当警備員の始業前の制服着替えと朝礼への出席が義務付けられていた。更衣5分+朝礼時間を労働時間とした
アートコーポレーション事件
横浜地判令2.6.25
労働時間に該当引越作業員の制服着用が義務付けられ、朝礼前に着替えを済ませる扱い。社会通念上相当な範囲で着替え時間を労働時間とした
西日本高速道路サービス関西事件
大阪地判令7.10.30
労働時間に非該当料金ステーションの制服着用は社会通念上通勤も可能な服装で、更衣室での着替えを明示的に義務付けたとまでは認められないとして、始業前の更衣時間を労働時間と認めなかった

裁判例の傾向は明確です。着替えが義務付けられ、場所も拘束されていれば労働時間になりやすく、着替えの要否や場所が従業員に委ねられていれば労働時間になりにくい。近年の西日本高速道路サービス関西事件のように、制服のまま通勤できるかどうかが、結論を分ける重要な要素になっています。

※ 同じ「制服の着替え」でも、業種や運用(着用義務・更衣室の指定・通勤時着用の可否)によって結論は異なります。自社の実態がどちらに近いか、個別の確認が重要です。

SECTION05
着替え時間を放置した場合の企業リスク

着替え時間が労働時間にあたるのに、労働時間として扱わずに放置すると、企業側には次のようなリスクが生じます。

  • 未払い賃金・残業代の請求:短時間でも賃金の対象。1日の労働時間が8時間を超える部分は割増賃金(残業代)の支払義務も生じます。
  • 遅延損害金:未払い分には遅延損害金(退職後は年14.6%)が加算されます。
  • 付加金:割増賃金の未払いは、裁判で未払額と同額までの付加金の支払いを命じられることがあります(労基法114条)。
  • 罰則:賃金の全額払い違反(労基法24条)や割増賃金の未払いは、6か月以下の拘禁刑または30万円以下の罰金の対象となり得ます。
  • 信頼・評判の低下:未払いが表面化すると、離職や採用難、口コミ・SNSでの評判低下につながります。

着替え時間は1回あたりは短くても、従業員数×日数で積み上がると多額になり、しかも過去分(残業代の時効は当面3年)にさかのぼって請求される点に注意が必要です。

SECTION06
企業が取るべき対応|就業規則とタイムカード運用

就業規則に着替えのルールを明記する

認識のずれやトラブルを防ぐには、就業規則に着替えの扱いを明確に定め、周知することが有効です。具体的には、次の項目を定めておくと運用が安定します。

  • 着替えが労働時間に含まれるか否か
  • 労働時間とみなす場合の具体的な時間(例:1日10分など)
  • 対象となる服装の種類(制服・作業服など)
  • 着替えを行う場所(指定の更衣室など)
  • タイムカードを打刻するタイミング(着替え前か後か)

タイムカードの打刻場所・タイミングを適正化する

着替え時間を労働時間として正確に扱うには、勤怠打刻の運用ルールの見直しが欠かせません。着替えを労働時間とする場合は「着替えを始める前に打刻し、着替えを終えてから退勤打刻する」といったルールにし、客観的な記録を残します。打刻機・ICカードリーダーの設置場所も、更衣室の入口付近や勤務エリアの近くなど、実態に即した記録が残る場所を検討します。

関連:労働時間の考え方は「移動時間は労働時間か」「待機時間・手待ち時間は労働時間か」、賃金の支払いルールは「賃金支払いの5つの原則」、未払いのリスクは「残業代未払いによるリスク」、規程整備は「就業規則とは」で解説しています。

SECTION07
よくある質問(Q&A)

制服に着替える時間は勤務時間(労働時間)に含まれますか?

会社が着替えを義務付け、更衣室など指定場所で行う必要があるなど、使用者の指揮命令下に置かれていると評価できる場合は、労働時間に含まれます。着替えが任意で、自宅など好きな場所で行える場合は含まれません。実際に作業しているかどうかではなく、指揮命令下にあるかで判断されます。

更衣手当(着替え手当)を払えば、着替え時間を労働時間にしなくてよいですか?

いいえ。更衣手当は法律上の義務ではなく会社が任意に設ける手当で、支給しても着替え時間が労働時間にあたるかどうかは別問題です。労働時間にあたる場合、手当の名目で払っても賃金・残業代の支払義務は消えず、手当が実際の労働時間分を下回れば差額の未払いになり得ます。

帰り(終業後)の着替え時間も労働時間になりますか?

終業後の着替えも、会社が義務付け、指定場所で行う必要があるなど指揮命令下にあると評価できれば、労働時間になります。始業前だけでなく終業後の着替えも同じ基準で判断されるため、打刻は「着替えを終えてから退勤打刻」とするなど、実態に合わせた運用が必要です。

制服のまま通勤できる場合はどうなりますか?

制服のまま通勤することが認められ、自宅で着替えられる場合は、着替えの場所や時間が従業員に委ねられており、指揮命令下とはいえないため、原則として労働時間になりません。着替えを会社の更衣室で行うことを義務付けているかどうかが、判断の分かれ目になります。

タイムカードは着替えの前後どちらで打刻させるべきですか?

着替えを労働時間とする場合は、「着替えを始める前に出勤打刻し、着替えを終えてから退勤打刻する」ルールが適切です。着替えを労働時間に含めるか否かを就業規則で明確にし、打刻機の設置場所も実態に即した記録が残る場所にすることで、後日のトラブルを防げます。

関連:休日出勤を命じる場合も、36協定・就業規則の根拠規定や割増賃金の扱いが問題となります。詳しくは「休日出勤は強制できる?命令の要件・拒否された場合の対応と割増賃金を弁護士が解説」で解説しています。

着替え時間・労働時間の管理は弁護士に相談を

着替え時間の労働時間該当性は、業種や運用によって結論が分かれ、放置すると未払い賃金・残業代・付加金のリスクにつながります。就業規則の整備、勤怠打刻ルールの見直し、未払い請求への対応まで、難波みなみ法律事務所は企業側の顧問弁護士としてサポートします。まずはご相談ください。

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※本記事は一般的な法令・裁判例・実務に基づく解説です。着替え時間の労働時間該当性は個別の事実関係により異なります。具体的な対応は弁護士にご確認ください。

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