残業代未払いによるリスクとは?残業代の不払いの罰則や対策を弁護士が解説します

残業代を未払いにすると、従業員から請求を受けて本来よりも大きな額の支払いを強いられるリスクがあります。トラブルを防止するためには、残業代についての基本知識をつけたうえで、適切な対策を講じなければなりません。

本記事では、残業代未払いによるリスクと事前にできる対策を中心に解説しています。トラブルを避けたい企業経営者や労務担当者の方は、ぜひ最後までお読みください。

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残業代未払いによるリスク

「残業代は言われたら払えばいい」と安易に考えてはなりません。未払いのまま放置していると金額が膨らむうえ、社会的評価も下がるリスクがあります。

具体的には、以下の点が残業代を支払わないリスクです。

割増賃金率

そもそも残業が企業にとって負担になるのは、通常の賃金に加えて割増賃金を支払う必要があるためです。

1日8時間、週40時間の法定労働時間を超える残業には、割増賃金を支払わなければなりません。他にも午後10時から午前5時までの深夜労働や、法定休日の労働には割増賃金が発生します。

割増率は以下のとおりです。

2023年4月より、中小企業においても月60時間超の時間外労働について割増率が50%となりました。長時間の残業があると、より支払い額が増えやすい仕組みになっています。

遅延損害金

残業代が発生した後に未払いのまま放置していると、遅延損害金が発生します。

利率は年3%です。退職後には年14.6%となります。

未払いを放置している期間が長ければ長いほど、遅延損害金が膨らんでしまいます。

付加金

残業代の支払いを怠ると、裁判になったときに付加金の支払いを命じられる可能性があります。

付加金の金額は未払い金と同額です。付加金が認められると、元の金額の2倍の支払いを強いられてしまうのです。

消滅時効の伸長

残業代の請求権は、発生時から3年を経過すると時効により消滅します。

かつて時効期間は2年でしたが、2020年4月以降に発生した分については3年に延長されました。今後さらに5年にまで延長される可能性があります。

時効期間が延びたため、さかのぼって請求される金額が増加し、残業代を未払いにするリスクが増大しています。

刑事罰と企業名公表

悪質なケースでは、ペナルティが与えられる可能性もあります。

残業代不払いの刑罰は「6月以下の懲役または30万円以下の罰金」です。企業名が公表されるケースもあります。

ペナルティに至らないにしても、労基署の検査が入れば対応しなければなりません。

風評被害と離職

残業代を支払わないと、企業の社会的評価が下がるリスクもあります。

現代はSNSやネット掲示板などで情報が簡単に拡散される時代です。「残業代を払わないブラック企業」とのイメージが広がると、従業員が離職し、採用も難しくなってしまいます。

最悪の場合、事業継続にまで支障が出るリスクがあります。「金さえ払えばいい」わけではありません。

残業代の基本知識と反論方法

残業代請求を受けたときに備えて、計算方法や反論のパターンを知っておきましょう。

残業代の計算方法

残業代は、以下の計算式で計算します。

1時間あたりの基礎賃金×残業時間×割増率

1時間あたりの基礎賃金とは、わかりやすく言えば時給のことです。月給制のときには「月の基礎賃金÷月平均所定労働時間」で求められます。家族手当、通勤手当、住宅手当など、法律上基礎賃金に含まれない手当がある点に注意してください。

具体的な残業代の計算例として、以下のケースで考えます。

● 1時間あたりの基礎賃金:2000円(基礎賃金32万円、月平均所定労働時間160時間)

● 残業時間:10時間(深夜労働・休日労働なし)

● 割増率:25%(時間外労働のみ)

このケースの残業代は、2000円×10時間×1.25=2万5000円です。

反論方法

残業代を請求された企業としては、以下の反論が考えられます。

残業時間数が異なる

計算の元になる残業時間は、労働者が主張立証しなければなりません。しかし、労働者の主張する残業時間数が実際と異なるケースがあります。

労働時間は、タイムカード、勤怠管理システム、入退室記録などから証明されます。請求を受けたら証拠を精査し、労働者が主張する時間が過大でないかを確かめてください。

労働していなかった

職場にいたとしても、業務と関係ないことをしていれば残業代は発生しません。「労働していなかった」との反論が可能です。

労働していない事実を主張する際にも、証拠が重要です。私的なやり取りをしていたメールの記録や、SNSにプライベートの投稿していた記録などが見つかれば、反論材料になります。

時効期間が経過している

請求の消滅時効期間が経過しているケースもあります。

前述した通り、残業代の消滅時効期間は3年です。月ごとに権利は消滅します。

期間を過ぎている残業代については、時効の効果を受ける旨を相手に伝える「時効の援用」が必要です。記録を残すために、内容証明郵便を送付して「時効の援用」の意思表示をしてください。

誤って支払いに応じないよう、時効を過ぎていないかは必ず確認しましょう。

管理監督者である

法律上の「管理監督者」に該当する場合には、残業代が発生しません。

「管理監督者」にあたるかは、以下の観点から判断されます。

● 労務管理について経営者と一体の立場にあるか

● 労働時間に裁量があるか

● 地位にふさわしい待遇を受けているか

管理職であっても「管理監督者」にあたらないケースがある点に注意してください。

企業の対応と残業代未払いへの対策

残業代トラブルを防ぐためには、以下の対策が考えられます。

労働時間の適切な管理

労働時間を記録し、適切に管理するのは不可欠です。

記録を確実に取れていないと、残業代を正確に計算できません。労働者からの勝手な主張への反論も、十分にできなくなってしまいます。

記録が取れていれば、業務量の調整を通じて残業そのものをなくす方向に進めることも可能です。

残業の禁止と懲戒処分

残業を許可制にしているときは、周知徹底してください。

従業員が勝手に残業していたとしても、会社側が明示的に禁止していないと、黙認していたとみなされるリスクがあります。許可を得ず残業している従業員には明確に指導しましょう。注意に従わないときには懲戒処分も検討し、残業を禁じている事実を示してください。

固定産業代の導入

残業代の未払いを防ぐために、固定残業代の導入も考えられます。

固定残業代とすれば、定められた時間数までは一定額とできるため、未払いとなる可能性を下げられます。

もっとも、固定残業代を定める際には、通常の労働時間分の賃金と割増賃金とを区別できなければなりません。所定の時間数を超えた部分については、別途支払いが必要です。

法律上の要件を満たさないとかえって未払い額が増加してしまうので、注意してください。

変形労働時間制の導入

業務の性質上労働時間に波がある場合には、変形労働時間制の導入もひとつの選択肢です。

変形労働時間制であれば、1日8時間、週40時間という制限にとらわれずに、月や年ごとにトータルで労働時間の枠を定められます。

ただし、就業規則や労使協定で定めるなど、導入する際には法律上の要件を満たさなければなりません。変形労働時間制にしても残業代は発生するため、正しく計算して支給する必要があります。

残業代請求の手続き

労働者が使用者に対して残業代を請求する場合の手続きには、以下のものがあります。

交渉

労働者が使用者に対して残業代の支払いや証拠書類の開示を求めてきます。口頭ではなく内容証明郵便により通知されることが多いです。

労働者の主張する労働時間や残業代の内容を精査した上で、労働者側の対応、請求額から推測される和解額、将来の訴訟の見通し等も踏まえて、労働者側と交渉を進めるのか、交渉を進めるとして、どのような交渉を進めるべきかといった交渉の方針を判断します。

交渉の末、労働者と合意に至れば、争いの蒸し返しのないように合意書を作成するようにします。

残業代のケースでは、労使間での対立も強く、交渉による金額の調整にまで至らないことが多くなっています。

労働審判

労使間の交渉が難航する場合、労働者から労働審判の申立てが行われることがあります。

労働審判とは、審判官である裁判官と労働審判員2名で構成される労働審判委員会が、労使間の紛争を解決させる手続きです。労働審判は3回の期日内で解決させる迅速な手続きです。申立てから解決までの期間は2か月前後となっており、訴訟手続きよりも圧倒的に短期間といえます。

話し合いを通じて解決できる場合には、調停が成立します。話し合いによる解決ができない場合には、労働審判が行われます。2週間以内に異議申立てをしなければ、審判は確定します。

訴訟手続

交渉が決裂すれば、労働者は、残業代の支払いを求める訴訟を提起することもあります。

訴訟手続きとは、労働者と使用者が準備書面と証拠を提出すること審理を進めていき、判決による終局的な解決を図るプロセスです。

判決手続の前に証人尋問を行う場合もあります。

訴訟手続きは、労働審判のような裁判期日の制限はなく慎重な審理を行うため、1年以上の期間を要することが一般的です。

また、残業代の不払いが悪質と判断されれば、残業代と同額の付加金の支払いを命じられることもあります。

あっせん

労働者が都道府県労働局等に対して、あっせんの申立てをすることもあります。

あっせんとは、あっせん委員が労使間に入って話し合いを促して解決を目指す手続きです。

期日は1〜2回しか行われないため、1か月前後で終了するため迅速なプロセスといえます。

しかし、使用者側はあっせんに応じることを拒否することもでき、解決率は33.1%に留まっています。そのこともあり、あっせんの申立件数は減少傾向にあり、平成24年と比較すると半分近く減少しています(厚生労働省「令和3年度個別労働紛争解決制度の施行状況」)。

労働基準監督署の調査

労働者が労働基準監督者に対して、残業代の不払いに関する相談や申告をすることがあります。

これを受けて労働基準監督署は、事業所への立入調査(臨検)を行う場合があり、使用者はこの臨検に応じる義務があります。

調査の結果、労働基準法違反があれば、労働基準監督署から是正勧告書が交付されます。

指定された期日までに違反内容を改善して報告書を提出しなければなりません。

使用者が是正勧告に従わなければ、検察庁に送致される可能性があります。

労働基準法違反で起訴されて有罪となれば、6か月以下の懲役又は30万円以下の罰金が科されます。

残業代の問題は早期に弁護士に相談を

残業代の問題を放置すると様々なリスクを引き起こします。経済的な負担だけでなく、社会的な評価を悪化させ、人材の流出を引き起こします。最悪の場合、刑事罰が科される可能性すらあります。

早期の対策が肝心です。

残業代の問題は弁護士に相談しましょう。

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