懲戒解雇をされた社員は有給休暇を取れるのか?有給買取や解雇予告手当について解説

更新日: 2024.05.27

懲戒解雇された社員が有給休暇を取ることは可能なのでしょうか?これは多くの管理職や人事担当者が直面する疑問です。

懲戒解雇は社員の重大なルール違反や犯罪行為などを理由に解雇される懲戒処分の一つです。

この際に未消化の有給休暇がどのように扱われるかが問題となります。

有給休暇は労働者に与えられた権利ですが、懲戒解雇という特別な状況では異なる取り扱いが求められる場合があります。

本記事では、懲戒解雇された社員が有給休暇を取ることができるのかについて、労働法の観点から詳しく解説します。

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解雇日までの有給消化は認められるのか?

問題社員を懲戒解雇をした場合に、社員が有給申請した場合に、使用者はこの有給消化を認めるべきかは、解雇が解雇予告をした上で解雇する場合と即時解雇する場合とで、取り扱いが異なります。

解雇予告であれば有給消化は認められる

解雇予告がある場合には、有給消化が認められます。

使用者が従業員を解雇する場合、解雇日の少なくとも30日前までに解雇予告をしなければなりません。

懲戒解雇は、重大な非違行為を行った社員に対して、雇用契約を一方的に終了させる懲戒処分です。たとえ、懲戒解雇であっても原則として解雇通知はしなければなりません。

他方で、労働者が有給休暇を自由に取得することができ、会社は労働者の有給申請を妨げてはなりません。

そのため、たとえ解雇期間中であっても、労働者は有給休暇を申請することができます。

つまり、会社が30日前に解雇を通告した場合、その間に、労働者が未消化の有給休暇を取得することで、解雇日までの労働日の一部を休むことができます。

このように、労働基準法は労働者の権利を保護するために、解雇予告が行われた場合でも有給休暇の取得を認めています。

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即時解雇の場合には有給消化できない

即時解雇の場合、残っている有給休暇を消化することはできません。

即時解雇は、解雇予告することなく労働契約を即座に終了させる処分です。

上記の通り、労働者を解雇しようとする場合、会社は解雇予告をしなければなりません。

しかし、常に解雇予告を要するとなると不都合が生じるため、解雇予告を経ずに即時解雇することも認められています。ただし、即日解雇とする代わりに、30日分以上の平均賃金を解雇予告手当として支給しなければなりません。

このように、即時解雇の場合、解雇通知の時点で雇用契約は終了し、労働者の就労義務も消滅します。

よって、労働者の年次有給休暇の権利も消滅することになるため、即時解雇の場合には、有給取得は認められません。

除外認定を受ければ解雇予告手当は不要
即時解雇であっても除外認定を受ければ、会社は解雇予告手当を支給する義務を負いません。以下のケースで社員を解雇する場合には、所轄の労働基準監督署長の除外認定を受けていれば、解雇予告手当の支払いから免れます。①天災事変その他やむを得ない事由があって事業の継続ができなくなった場合②社員の責めに帰すべき事由により解雇する場合特に、②の場合、単に社員に責任がある場合ではなく、重大な非違行為がある場合に限られます。例えば、社内で窃盗や横領などの犯罪行為がある場合や長期にわたり正当な理由なく無断欠勤を続けた場合が想定されます。
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会社は有給申請を拒否できるか?

解雇予告をした社員が、解雇日までの出勤日の全部又は一部について有給申請した場合、会社側がその申請を拒否できるかどうかが問題となります。

有給休暇の取得を拒否できない

有給休暇の取得は労働者の権利であり、原則として会社はこれを拒否することはできません。

年次有給休暇をどのような目的でどの時期に使用するのかは、労働者の自由です。これを年休自由利用の原則といいます。

例えば、従業員が会社に対して、取得したい日程を事前に通知し、所定の手続きを踏んでいる場合、会社はその取得を妨げる権限を持ちません。

ただし、会社の正常な業務を妨害することを目的とした有給申請である場合には、例外的に労働者の有給取得を拒否できます。

このように、有給休暇の取得を拒否することは原則できないため、会社はこれを尊重し労働者の権利を守ることが求められます。

なお、未消化分の有給休暇を買い取ることも可能ですが、それを理由に有給休暇の申請を拒否することはできません。

時季変更権の行使はできない

懲戒解雇を社員の有給申請に対して、会社は時季変更権を行使することができません。

労働者が指定した年休日が、事業の正常な運営を妨げる場合には、使用者は有給休暇を別日に与えることができます(労基39条項但書)。これを時季変更権といいます。

しかし、解雇予告を受けた労働者が、一括して未消化分の有給申請をした場合、解雇日以降に出勤日がない以上、他に変更できる日程がありません。つまり、会社は時季変更権を行使することができません。

行政解釈においても、「年次有給休暇の権利が労働基準法に基づくものである限り、当該労働者の解雇予定日をこえての時季変更は行えないものと解する」としています(昭49・1・11基収5554)。

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有給休暇の買い取り義務はない

会社には有給休暇を買い取る義務はありません。

有給休暇の買取り(買上げ)とは、使用者が労働者に対して、一定の金銭を支払うことで、労働者の有給休暇の権利を買い上げて、有給休暇の残日数を減らすことをいいます。これを年休の買上げといいます。

会社は、社員の在職中に年次有給休暇を買い取ることは禁止されていますが、退職時に未消化分の有給休暇を買い取ることは労働基準法に違反しません。

ただし、法令上、会社には未消化分の有給休暇を買い取る義務はありませんので、社員から有給買取りを求められても応じる法的な義務はありません。

したがって、有給休暇の買い取りは会社の任意であり、義務ではありません。ただし、業務の引き継ぎ等のために出勤してもらう必要がある場合には、有給の買上げを行うことも検討するべきです。

有給消化をした場合でも解雇予告手当は払う必要がある

会社は、解雇した社員が有給休暇を消化した場合でも、解雇予告手当を支払う必要があります。

会社が即時解雇ではなく30日間よりも短い期間で解雇予告した場合、30日から解雇日までの期間を引いた分の解雇予告手当を支払う必要があります。この場合、社員は、解雇日まで出勤する義務を負いますが、その期間を指定して年休を取得することは可能です。

しかし、会社は、社員の有給取得とは関係なく、30日に不足する分の解雇予告手当を支払う義務を負います。有給消化と解雇予告手当はそれぞれ別の問題であるからです。

懲戒解雇と有給休暇の問題は弁護士に相談を

懲戒解雇と有給休暇の問題は単純ではありません。そもそも、懲戒解雇に合理的な客観的な理由があるのかなど、解雇の条件を満たしているのかが問題となることも多くあります。

懲戒解雇は、労働者の強い反発を受けることも多くあるため、会社には慎重な対応が求められます。

そのため、会社が適切な対応をするためには労働法に詳しい弁護士に相談することが最も効果的です。

懲戒解雇や有給休暇の問題に直面した場合は、できるだけ早く弁護士に相談しましょう。問題を放置すると後々のトラブルが大きくなる可能性があります。

早めの対応が円満な問題解決に繋がり、法的にも有利な解決策を見つけることができます。

まずは信頼できる弁護士を探し、具体的な相談を進めることが重要です。