自己株式の取得手続きを徹底解説!中小企業が知るべき流れと実務上の注意点

公開日: 2025.11.03
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自己株式の取得は、経営戦略の選択肢として利用されています。株価対策や資本政策など、その目的は多岐にわたりますが、実際に取得手続を行うとなると、その自己株式特有の複雑さに戸惑う方も少なくありません。

本記事では、中小企業が自己株式の取得を検討する際に知っておくべき、一連の流れと実務上の注意点を徹底解説します。法的な要件から具体的な手続き、そして会計処理まで、担当者がおさえておくべきポイントを網羅的にまとめました。ぜひ、貴社の経営判断にお役立てください。

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まずは基本から!自己株式取得とは?

自己株式取得とは、株式会社が自社の発行済み株式を株主から買い戻すことを指します。  

以下では、自己株式取得を行う目的と必要となる手続きを解説します。

自己株式取得の概要と主な目的

自己株式取得は、企業経営において多様な目的で活用される手法です。特に中小企業においては、事業承継対策の一つとして活用されています。例えば、後継者への株式集中を促し、安定した経営体制を構築するために、後継者以外の株主から会社が株式を買い取ることが挙げられます。また、非上場株式は換金性が低いため、相続発生時に納税資金の確保が課題となることがあります。この場合、会社が相続人から株式を取得することで、相続人は取得対価を相続税の納税資金に充てることが可能となるでしょう。

さらに、経営に関与しない少数株主や、関係性が希薄になった株主から株式を買い戻し、株主構成を整理することで、迅速な意思決定を可能にし、経営の円滑化を図る目的もあります。株主が亡くなった際の遺産分割においても、株式を相続しない相続人への代償金(現金)支払いのために、会社が相続人から株式を買い取る活用方法も存在します。

  • 事業承継対策として後継者への株式集中を促し、安定した経営体制を構築すること
  • 非上場株式の換金性が低い場合の対応として、相続発生時の納税資金を確保すること
  • 経営に関与しない株主からの買い取りにより、株主構成を整理し経営の円滑化を図ること
  • 遺産分割において株式を相続しない相続人への代償金支払いに充てること

厳格な手続きが必要となる理由?株主平等の原則と財源規制について

自己株式の取得が会社法で複雑かつ厳格な手続きを要求される背景には、主に「株主平等の原則」と「財源規制」という2つの重要な原則が存在します。これらの原則は、会社の公正な運営と利害関係者の保護を目的として定められています。

1つ目の「株主平等の原則」は、会社法第109条第1項で規定されており、株主が保有する株式の内容や数に応じて、会社から平等な扱いを受けるべきという考え方に基づいています。特定の株主だけが有利な条件で株式を売却するといった不公平な状況が生じることを防ぐため、自己株式の取得にあたっては全ての株主を公平に取り扱うための厳格な手続きが求められるのです。

2つ目の「財源規制」は、自己株式の取得が会社財産の社外流出を伴うため、会社の支払い能力を維持し、ひいては会社債権者を保護する目的で設けられています。会社法では、会社が自己株式を取得できるのは「分配可能額」の範囲内に限られると明確に定められています。

もしこれらの原則を遵守せずに自己株式を取得した場合、自己株式の取得が無効となる可能性があります。加えて、会社法第462条第1項に基づき、金銭の交付を受けた株主や業務執行者等は会社に対し連帯して金銭を支払う義務を負うこともあります。

原則の名称主要な目的関連法規
株主平等の原則特定の株主への不公平な利益供与を防ぎ、全株主を公平に扱う会社法第109条第1項
財源規制会社の支払い能力を維持し、会社債権者を保護する会社法第461条第1項第2号、第3号、第8号
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【ケース別】自己株式取得における2つのパターン

自己株式の取得方法は、会社法で大きく2つのパターンに分類されます。一つは「全株主を対象に取得する方法」、もう一つは「特定の株主から取得する方法」です。

以下の項目ては、これら2つのパターンの具体的な手続きについて、それぞれ詳しく解説していきます。

ケース1:全株主を対象に取得する場合の手続き

全株主を対象とした自己株式の取得は、会社法第156条第1項に基づき、株主総会の普通決議によりその枠組みを決定することから始まります。この決議では、以下の事項の大枠を決議します。

  1. 取得する株式数
  2. 取得価額の総額
  3. 取得できる期間(ただし、1年以内)

株主総会で決定された取得枠の範囲内で、取締役会が具体的な取得条件を決議します(会社法第157条第1項、第2項)。この決議では、以下の事項を決議します。

  1. 取得する株式数
  2. 株の取得と引換えに交付する金銭等の内容および数と額(またはその算定方法)
  3. 株式取得と引換えに交付する金銭等の総額
  4. 株式譲渡の申込期日

これらの詳細な条件は、会社法第158条第1項に基づき、全ての株主へ通知または公告されなければなりません。

通知を受けた株主は、会社に対して自己の株式を譲渡する旨を申し込みます(会社法第159条第1項)。

株主からの申込みは、取締役会で定めた期日において会社が承諾したものとみなされ、会社は原則としてこれを拒否できません。ただし、申込み総数が取得予定株数を上回った場合は、按分比例で取得することになります。その後、株式の名義書換手続きを行い、取得対価の支払いをもって一連の取引が完了します。

ケース2:特定の株主から取得する場合の手続き

特定の株主から自己株式を取得する方法は、中小企業において、事業承継や相続対策、特定の株主からの売却希望など、個別の事情に対応するためによく用いられます。その一方で、全株主を対象とする場合とは異なり、特定の株主のみを優遇してしまうリスクがあるため、「株主平等の原則」(会社法第109条第1項)の観点から、法律により厳格な手続きが定められています。

この取得方法における主な要点は以下の通りです。まず、株主総会における「特別決議」が必要とされます。また、他の株主にも同じ機会を与えるために、「売主追加請求権」(会社法第160条)が付与されています。

【実践編】特定の株主からの自己株式取得|手続きの全ステップを5分で理解

特定の株主から自己株式を取得するためには、会社法で定められた厳格なプロセスを経る必要があり、その正確な理解が欠かせません。

以下の項目では、会社法に則った特定の株主からの自己株式取得手続きを、5つのステップに分けて解説します。

特定か部主からの自己株式取得のプロセス

ステップ1:株主総会での特別決議

ステップ2:売主追加請求権に関する通知・公告

ステップ3:取締役会での取得条件の具体的な決定

ステップ4:対象株主との合意と株式譲渡契約の締結

ステップ5:株式の名義書換と取得対価の支払い

ステップ1:株主総会での特別決議

特定の株主から自己株式を取得する際には、会社法第160条第1項に基づき、株主総会での特別決議が必須となります。これは、特定の株主との取引が他の株主にとって不公平となる「株主平等の原則」に抵触するリスクがあるためです。全ての株主に対して公平性を保つ観点から、より厳格な意思決定が求められ、普通決議よりも厳重な要件である特別決議が必要とされています。

この特別決議では、会社法第160条第2項に基づき、以下の事項を決定しなければなりません。なお、特定の株主に加えて追加請求をした株主は、決議の公正を図るため、この決議には参加できません。

  • 取得する株式の種類および数
  • 株式の取得価額の総額
  • 株式を取得できる期間(1年を超えない範囲)
  • 特定株主に関する事項

ステップ2:売主追加請求権に関する通知・公告

自己株式を特定の株主から取得する際、次に重要なのが「売主追加請求権」に関する通知または公告です。

この「売主追加請求権」とは、会社が特定の株主から自己株式を有償で取得しようと決議した場合に、他の株主が「自分も株式の売主に追加してほしい」と会社に請求できる権利を指します。これは、特定の株主のみを優遇し、他の株主が不利益を被ることを防ぎ、「株主平等の原則」を確保する目的で会社法に定められた制度です。

会社は、ステップ1の株主総会ほ2週間(非公開会社では1週間)前までに、株主に対し、会社が特定の株主から取得する予定の株式に自己の株式を加えて総会の議案とすることを請求できる旨を株主に通知しなければなりません。

この通知を受けて、他の株主は株主総会の5日前(非公開会社においては3日前)までに、売主追加請求権を行使することができます。他の株主が売主追加請求をしたことで、取得株式数・取得金額の上限を超えてしまう場合は、特定の株主と追加請求をした株主の各取得株式数の割合に応じて按分して計算することになります。

なお、売主追加請求権は、定款の定めにより排除することができますが、その定款変更は株主全員の同意が必要となります。

相続人株主からの取得する場合には売主追加請求は不要

相続人から相続で取得した株式を取得する場合には、他の株主に売主追加請求権を与える必要がありません。

ただ、相続人株主が株主総会で一度でもその相続株式について議決権を行使した場合には、売主追加請求は付与しなければなりません。また、会社が公開会社(全株式譲渡制限会社ではない場合)も売主追加請求権が認められます。

ステップ3:取締役会での取得条件の具体的な決定

株主総会の特別決議によって自己株式取得の「上限」が定められた後、取締役会で具体的な取得条件を決定する段階へと進みます。これは、会社法第157条第2項に基づき規定される、重要なプロセスです。株主総会で承認された枠組みの中で、具体的な条件を取締役会が定める役割を担います。

取締役会の決議後は、速やかに取締役会議事録を作成し、適切に保管することが義務付けられています。なお、取締役から自己株式を取得する場合は、利益相反取引となるため、取締役会の承認を要するとともに、売主となる取締役は取締役会の議決に加わることができません。

ステップ4:対象株主との合意と株式譲渡契約の締結

特定の株主に対して決議事項を通知します。通知を受けた株主が、申込期日までに申し込む株式の数や種類を明示して譲り渡しの申込みをすると、会社は申し込みを受けた自己株式の譲り受けを承諾したものとみなされます。

会社法上、支払日や支払方法に関する定めがないため、会社は特定株主との間で、支払日や支払方法に関する協議を進めていきましょう。

ステップ5:株式の名義書換と取得対価の支払い

会社が株主から自己株式を取得した際は、株主の請求によることなく速やかに株主名簿の名義書換手続きを行う必要があります。

これと並行して、合意された支払期日と方法に従い、特定株主へ取得対価を支払います。

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押さえるべき自己株式取得の重要ポイント

以下の項目では、自己株式の重要ポイントについて、具体的な計算方法や実務上の注意点を詳しく解説します。正確な理解と適切な対応が、自己株式取得を円滑に進める鍵となるでしょう。

ポイント1:財源規制は必ず遵守!分配可能額の計算方法

自己株式の取得は、会社財産の社外流出を伴う行為であるため、会社の支払い能力を維持し、会社債権者を保護する目的で、会社法により「財源規制」が設けられています。

この財源規制とは、自己株式の取得に充てられる会社の財産の上限額を定めるものであり、この上限額を「分配可能額」と称します。会社法第461条第1項により、この分配可能額の範囲内でなければ自己株式を取得することはできません。

分配可能額 = その他資本剰余金の額 + その他利益剰余金の額 - 自己株式の帳簿価額等

ここでいう「その他資本剰余金」「その他利益剰余金」「自己株式の帳簿価額」は、いずれも貸借対照表の純資産の部に計上される項目ですが、会社の状況に応じて、他にも控除すべき項目が存在する場合があります。

分配可能額の計算は、会社の財務状況によって複雑になる場合があるため、自社のみで判断せず、最終的には顧問税理士や公認会計士などの専門家に必ず確認を依頼することが不可欠です。もし財源規制に違反して自己株式を取得した場合、会社法第462条第1項の規定に基づき、金銭の交付を受けた株主や業務執行者などが会社に対し、連帯して金銭を支払う義務を負うといった重大なリスクを負うことになります。

ポイント2:税務上の取り扱い|「みなし配当」に要注意

自己株式の取得対価は、税務上「資本の払戻し」と「利益の配当(みなし配当)」の2つに区分される点に注意が必要です。このうち「みなし配当」に該当する金額は、株主にとって配当所得として取り扱われます。具体的には、取引金額がその株式に対応する資本金等の額を超える場合には、その超える部分がみなし配当金額となり、配当所得となります。配当所得は、所得税として5%~45%の超累進課税率の課税を受けるとともに、復興所得税及び住民税が課せられます。

他方で、株式売買による譲渡所得税については、取引金額からみなし配当額及び取得価額を控除した利益に対して一律20.315%の税率が課せられます

みなし配当の金額算出は複雑であり、計算を誤ると税務上のトラブルに発展するリスクもあります。自己株式取得の手続きを進める前に、必ず税理士などの専門家に相談し、正確な納税額を算出することが不可欠です。

自己株式の取得は難波みなみ法律事務所へ

本記事では、自己株式取得の概要から、全株主を対象とする場合と特定の株主から取得する場合の手続き、押さえるべき重要ポイントまで、包括的に解説しました。

自己株式取得は、事業承継対策、資本政策、株価対策など多岐にわたる目的で活用される有効な手段です。しかし、その実務は決して単純ではありません。会社法に基づき、厳格な手続きを正確に踏む必要があります。

自己株式取得の手続きは専門的な知識を要します。そのため、計画段階から弁護士といった専門家へ相談することをおすすめします。専門家の助言を得ることで、法的なリスクを回避し、自己株式取得を安全かつ円滑に進めることができるでしょう。

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