「株券不発行」という言葉を耳にして、自社の株券はどうなっているのか、株券を発行していない会社で株式を譲渡するにはどうすればよいのかと迷う経営者・法務担当者は少なくありません。実は、現在の会社法では株券を発行しないことが原則です(会社法214条)。
本記事では、「株券不発行(会社)とは何か」への結論を先に示したうえで、①株券と株式の違い、②株券発行会社と不発行会社の違い(比較表)、③不発行会社での株式譲渡の方法(会社法130条)、④移行(=株券廃止)のメリット・デメリットと手続の流れ、⑤移行登記と「株券を発行していないことを証する書面」までを、中小企業の実務目線で弁護士がわかりやすく解説します。
株券不発行とは、株式会社が株式を表章する「株券」を発行しないことをいい、会社法ではこれが原則です(会社法214条)。株券を発行するのは、定款で「株券を発行する」と定めた会社(株券発行会社)だけで、2006年(平成18年)の会社法施行後に設立された会社は、原則として株券不発行会社です。株券がなくても株式は存在し、株式の管理・譲渡は株主名簿で行います。株券発行会社が不発行へ移行するには、株主総会の特別決議で「株券を発行する旨」の定款の定めを廃止(株券廃止)し、公告・通知と変更登記を行います。
1【原則】株券不発行制度の基本(会社法214条)
株券不発行制度とは、株式会社において株券を発行しないことを原則とする制度です(会社法214条)。かつての商法とは原則・例外が逆転している点が重要です。
旧商法:原則=株券発行/例外=株券不発行(定款で定めた場合)
会社法:原則=株券不発行/例外=株券発行(定款で「株券を発行する」と定めた場合)
平成16年の商法改正で株券不発行制度が導入され、2006年(平成18年)施行の会社法で原則と例外が入れ替わりました。
上場会社は、平成21年(2009年)1月5日の株券の電子化により、すべて株券不発行会社となっています。上場会社以外でも株券不発行会社が多数を占め、非公開の中小企業では株券不発行会社で問題ない場合がほとんどです。
株券を発行しないことの利点
① 株券の発行・保管コストを省ける/② 株券の偽造・紛失・盗難のリスクをなくせる/③ ただし、株券がない分、株主名簿を確実に備え置き・管理することが強く求められます(会社法125条1項)。
2株券と株式はどう違う?(会社法216条)混同に注意
「株券」と「株式」は混同されがちですが、法律上は別物です。ここを押さえると、株券不発行の意味がクリアになります。
株式とは、株主の地位・権利そのものです。一方、株券とは、その株式(株主であること)を紙で表章する有価証券にすぎません(記載事項は会社法216条)。つまり、株券を発行しなくても株式そのものは当然に存在します。株券不発行会社では、株主であることは株主名簿で管理・証明されます。
よくある誤解ですが、株券不発行=株式を発行しない、ではありません。会社は株式を発行して資金を集め、株主が存在します。発行しないのは、その株式を表す証券(株券)だけです。「株式会社なのに株を発行しない会社」という意味ではない点に注意してください。
3株券発行会社と株券不発行会社の違い(比較表)一覧表
両者は、株式譲渡の方法・対抗要件・定款や登記の扱いが異なります。要点を表で整理します。
| 項目 | 株券発行会社 | 株券不発行会社 |
|---|---|---|
| 位置づけ | 例外(定款で「株券を発行する」と定めた会社) | 原則(会社法214条) |
| 株券の発行 | 物理的に発行する | 発行しない |
| 株式譲渡の効力 | 株券の交付が効力発生要件(会社法128条1項) | 当事者の意思表示(契約)で成立 |
| 会社への対抗要件 | 株主名簿の名義書換え(会社法130条2項) | 株主名簿の名義書換え(会社法130条1項) |
| 株主・株式の管理 | 株券+株主名簿 | 株主名簿で管理(会社法125条) |
| 定款・登記 | 「株券を発行する」旨を定款で定め、登記が必要(会社法911条3項10号) | 特段の定め・登記は不要 |
4株券不発行会社での株式譲渡の方法(会社法130条)新設
「株券がないと株式を譲渡できないのでは?」という質問をよく受けますが、そんなことはありません。株券不発行会社でも、株式は問題なく譲渡できます。
株券不発行会社の株式(振替株式を除く)は、民法の一般原則により当事者の意思表示(契約)だけで譲渡が成立します。ただし、会社その他の第三者に譲渡を対抗するには、会社に請求して株式取得者(譲受人)の氏名・住所を株主名簿に記載・記録させる必要があります(会社法130条1項・133条1項)。これを「株主名簿の名義書換え」といいます。
これに対し、株券発行会社では、株式譲渡は株券の交付が効力発生要件です(会社法128条1項)。この点が、不発行会社との大きな違いです。なお、譲渡制限株式の場合は、いずれの会社でも別途会社の承認手続が必要です。
名義書換えは、原則として株式取得者と名簿上の株主(またはその一般承継人)が共同で請求します。株券不発行会社では、確定判決を得た場合など会社法施行規則22条1項所定の場合に限り、取得者が単独で請求できます。譲渡の際は、名義書換えまで確実に行うことがトラブル防止の要です。

5株券不発行会社に移行するメリット・デメリット
すでに株券発行会社となっている中小企業も、株券不発行会社へ移行することで、運営の合理化とリスク低減が期待できます。
メリット:コスト削減・リスク回避・事業承継/M&Aの円滑化
株券の発行・保管・回収コストを削減でき、偽造・紛失・盗難のリスクもなくなります。さらに、M&Aや事業承継の場面で、過去の株式譲渡時に株券が交付されていなかったために権利の帰属が不明確になる、といった事態を防げます(株券発行会社では、株券未交付が原因で取引が頓挫する例もあります)。
デメリット:株主名簿の管理徹底が必須になる
株券がない分、株主名簿の正確な管理が生命線になります。株式の譲渡・相続・自己株式取得・新株発行・株式併合/分割などがあったつど、名義書換えを正確かつ迅速に行う必要があります(会社法132条)。管理を怠ると、株主とのトラブルに発展しかねません。信託銀行等の株主名簿管理人に管理を委託する方法もあります。
6株券不発行会社への移行(株券廃止)の流れ手続き
株券発行会社が株券不発行会社へ移行することは、法律的には「株券を発行する」旨の定款の定めを廃止すること(株券廃止)を意味します。手続の中心は、株主総会の特別決議による定款変更と、公告・通知、そして変更登記です。
取締役会設置の非公開会社では、株主総会の招集通知は原則1週間前まででよいところ、公告・各別の通知(2週間前まで)とタイミングを合わせて一体的に処理すると、コストと手間を抑えられます。
7移行の登記と「株券を発行していないことを証する書面」新設
移行手続の締めくくりが、法務局への変更登記です。ここでよく検索されるのが「株券を発行していないことを証する書面」です。
登記の期限と主な添付書類
「株券を発行する旨」の定めの廃止による変更登記の期限は効力発生日から2週間以内です(会社法915条1項)。主な添付書類は、定款変更を決議した株主総会議事録、公告をしたことを証する書面(官報等)、そして株式の全部について株券を発行していないことを証する書面(該当する場合)などです。
これは、実際には株券を1枚も発行していないことを会社が証明する書面で、株券発行会社が「株式の全部について株券を発行していない」場合の移行登記で用いられます。株券が現に存在しないため公告等に代えられる場面があり、通常は会社(代表者)が作成します。自社の発行状況に応じて要否が変わるため、登記の前に司法書士・弁護士に確認すると確実です。
8移行後に注意すべきこと(株主名簿の管理)
移行が完了しても、そこがゴールではありません。株券がない以上、株主・株式の唯一の管理台帳である株主名簿を適切に運用し続けることが不可欠です。
- 株主名簿の備置き:すべての株式会社は、株主名簿を本店(株主名簿管理人がある場合はその営業所)に備え置く必要があります(会社法125条1項)。
- 名義書換えの的確な運用:譲渡・相続・自己株式取得・新株発行・株式併合/分割などがあれば、正確・迅速に名義書換えを行います(会社法132条)。
- 証明書交付請求への対応:株主は、株主名簿記載事項を証明する書面の交付等を請求できます(会社法122条)。求めに応じられる体制を整えます。


