顛末書(てんまつしょ)と始末書(しまつしょ)は、どちらも社内でミスやトラブルが起きたときに提出を求められる文書ですが、目的も「重さ」もまったく異なります。混同したまま運用すると、懲戒処分が無効になったり、パワハラと指摘されるおそれもあります。
この記事では、まず「顛末書とは/始末書とは」を読み方つきで即答し、①両者の違い(比較表)、②どちらが重いのか、③書いたらどうなるのか(評価・懲戒・不提出)、④書き方とテンプレート、⑤報告書・反省文などとの違い、⑥企業側が提出を求める際の注意点までを、懲戒実務の視点で弁護士がわかりやすく解説します。
顛末書(てんまつしょ)とは、業務上のミスやトラブルについて、発生から対応・再発防止までの「事の顛末(事実経過)」を報告する文書です。反省ではなく事実の報告が目的です。
一方、始末書(しまつしょ)とは、起こした問題を詫び、反省・謝罪を記して提出する文書で、けん責(譴責)・戒告といった懲戒処分の内容そのものとして提出を求められます。ひとことで言えば、顛末書=事実報告/始末書=反省(+懲戒)です。
1顛末書と始末書の違い(比較表)一覧表
両者の違いは、「事実を報告する文書か、反省を示す文書か」に集約されます。ポイントを表で整理します。
| 項目 | 顛末書 | 始末書 |
|---|---|---|
| 読み方 | てんまつしょ | しまつしょ |
| 主な目的 | 事実経過の報告 | 反省・謝罪の表明 |
| 記載の中心 | いつ・誰が・何を・なぜ・どうした(5W1H)と再発防止 | お詫び・反省・再発防止の誓約 |
| 懲戒との関係 | 懲戒処分ではない(事実確認の資料) | 懲戒処分(けん責・戒告)の内容そのもの |
| 提出のタイミング | 問題発生後、処分を決める前 | 懲戒処分として命じるとき |
| 一般的な「重さ」 | 比較的軽い(報告書) | 比較的重い(懲戒に伴う) |
2顛末書と始末書はどちらが重い?
結論として、一般に「始末書」のほうが重いとされます。理由は、その位置づけの違いにあります。
始末書は、けん責(譴責)や戒告といった懲戒処分の内容そのものです。処分歴が残り、昇給・賞与・昇格などの人事考課で不利に扱われるのが通常です。一方、顛末書は事実経過の報告にすぎず、それ自体は懲戒処分ではありません。したがって、「始末書=反省を伴う重い書類」「顛末書=事実報告の軽い書類」と整理できます。
けん責(譴責)は、始末書を提出させて将来を戒める懲戒処分です。これに対し戒告は、将来を戒めるのみで、通常は始末書の提出を伴いません。どちらも懲戒処分の中では最も軽い部類ですが、始末書の要否に違いがあります。
3顛末書とは?目的と書くべき内容事実の報告
顛末書は、業務上のミス・事故・不祥事について、事の経緯(顛末)を客観的に報告するための文書です。反省文ではなく、「何が起きたのか」を会社が正確に把握するための資料です。
顛末書に書くべきこと(5W1H)
いつ(発生時期)・誰が・どこで・何を・なぜ(原因)・どのように、という5W1Hで事実を具体的に記載します。あわせて、とった対応と再発防止策を書きます。事実を詳細に書面化しておくことは、後日の紛争時に有力な証拠となり、処分の要否を判断する材料にもなります。
顛末書が使われる主な場面
取引先とのトラブル、金銭・在庫の不足、事故(社用車・労災)、情報漏えい、規則違反など、原因と経緯の把握が必要なケースで提出を求められます。
4始末書とは?懲戒(けん責・戒告)に伴う反省文反省・懲戒
始末書は、自ら起こした不祥事を詫びるために、事実の一部始終と反省・謝罪、再発防止の誓約を書いて提出する文書です。けん責・戒告といった懲戒処分では、始末書を提出すること自体が処分の主たる内容になります。
実務上、始末書には、①問題発生の原因・経緯という事実の報告(=報告書・顛末書に近い意味)と、②本人の反省・謝罪・今後の姿勢という反省文の意味が混在しがちです。後述のとおり、この2つは提出を強制できるかどうかの扱いが異なるため、会社は分けて考える必要があります。
5顛末書・始末書を書いたらどうなる?(評価・懲戒・不提出)新設
「書かされたら、やばい?」「クビになる?」と不安に思う方も多いですが、まずは落ち着いて位置づけを確認しましょう。
顛末書を書いた場合
顛末書は事実の報告であり、それ自体は懲戒処分ではありません。提出したからといって、直ちに解雇や減給になるものではありません。ただし、記載された事実が調査の結果、懲戒事由に当たると判断されれば、別途、懲戒処分の検討対象にはなります。
始末書を書いた場合
始末書はけん責・戒告という懲戒処分の内容です。処分歴として残り、昇給・賞与・昇格などの人事考課で不利に考慮されることがあります。もっとも、これも直ちに解雇を意味するものではありません。
事実報告(顛末書)としての提出を拒む場合は、事実関係を会社に報告する必要性が高いため、業務命令違反として懲戒の対象になり得ます。一方、反省・謝罪を求める「反省文」としての始末書の不提出については、裁判例が分かれており、これを強制できない(不提出を理由に重ねて懲戒できない)とする考え方が主流です。始末書の提出は最終的には本人の任意に委ねられる部分があり、無理に書き直させるなど強く反省を迫ると、人格権侵害・パワハラと評価されるおそれがあります。
内容に納得できないときは
事実と異なる内容や、過度に不利益な記載を強要されることはありません。会社は事実に基づく報告や、相当な範囲の反省を求められるにとどまります。納得できない場合は、自分が認識している事実を正確に記載し、必要に応じて弁明の機会を求めるのが適切です。
6顛末書・始末書の書き方とテンプレート
顛末書のテンプレート(事実報告・5W1H)
令和○○年○○月○○日/○○株式会社 代表取締役 ○○ ○○ 殿/○○部 ○○(氏名)
件名:○○に関する顛末書
1. 発生日時:令和○年○月○日○時ごろ
2. 発生場所/関係者:○○
3. 経緯(何が・なぜ・どのように起きたか):○○
4. とった対応:○○
5. 原因と再発防止策:○○
以上、事実のとおり報告いたします。
始末書のテンプレート(反省・謝罪)
令和○○年○○月○○日/○○株式会社 代表取締役 ○○ ○○ 殿/○○部 ○○(氏名)
件名:始末書
この度、私が行った○○の行為により、貴社に多大なご迷惑をおかけしましたことを深くお詫び申し上げます。今後は、このようなことを二度と繰り返さないよう、十分に注意し、勤務に精励してまいります。
以上
顛末書は感情を交えず、事実を時系列で客観的に。始末書は簡潔なお詫び+再発防止の誓約が基本で、長文の言い訳は不要です。日付・宛名・所属氏名を忘れずに記載します。
顛末書・始末書のテンプレート(記入イメージ)
下記は、そのまま印刷して使える記入イメージ(フォーマット)です。自社の様式に合わせてご利用ください。



7報告書・経緯書・反省文・理由書との違い新設
顛末書・始末書と混同されやすい書類を整理します。
| 書類 | 目的・位置づけ |
|---|---|
| 顛末書 | ミス・不祥事の事実経過を報告(原因・経緯・再発防止) |
| 始末書 | 懲戒(けん責・戒告)に伴う反省・謝罪の文書 |
| 報告書・経緯書 | 事実や経過を報告する文書。顛末書とほぼ同義で使われることが多い |
| 反省文 | 反省の気持ちを述べる文書。始末書に近いが、懲戒の形式的手続を伴わないことが多い |
| 理由書・弁明書 | 遅刻・欠勤などの理由の説明や、処分に対する言い分(弁明)を述べる文書 |
8提出を求める際の企業側の注意点(手続の順序)重要
企業が最も間違えやすいのが、顛末書と始末書を求める順序です。順序を誤ると、懲戒処分そのものが無効になりかねません。
事実確認の段階でいきなり「始末書」を取り、後で同じ件を懲戒処分にすると、所定の手続を経ずに処分をした(=上司の独断)と判断されたり、同一事案に二重に処分した(一事不再理)と評価され、処分が無効になるおそれがあります。事実確認は必ず顛末書で行うのが安全です。現場の監督者が独断で始末書を取得してしまう例が多いため、社内での区別の徹底が重要です。



