転勤を拒否した社員の対応は?解雇する前に確認しておきべき注意点を弁護士が解説

公開日: 2026.01.11
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従業員から転勤の拒否があった場合、企業としては慎重な対応が求められます。 一方的に解雇というわけにはいきません。まずは、転勤命令が有効かどうかを確認する必要があります。また、従業員に対する説得も重ねる必要があります。

この記事では、転勤拒否があった際の対応について、解雇する前に企業が確認すべき事項を弁護士が解説いたします。ぜひ参考にしてください。

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なぜ転勤命令を拒否できないのか?

企業は配置転換を命じる権限を有しています。企業に配転命令権がある以上、従業員は原則として転勤命令を拒否できないと理解しておくべきです。以下では、配転命令の基本について解説します。

企業の「配転命令権」とは

配転命令権とは、企業が業務上の必要に基づき、従業員の職務内容や勤務場所(転勤、配置転換など)を一方的に変更できる権利を指します。この権利は、法律に明記されているわけではありませんが、労働契約上の使用者の人事権の一部とされています。

企業が配転命令権を行使するには、就業規則や雇用契約書に「業務上の必要により、配置転換や転勤を命じることがある」といった根拠規定が定められていることが前提となります。このような規定がない場合や勤務地・職種を限定する合意がある場合には、従業員の同意なく配転命令を行うことはできません。

また、配転命令も無制限ではありません。業務上の必要性が認められない場合や、後述する「権利の濫用」にあたる特定のケースでは、転勤命令が無効と判断される可能性があります。

就業規則や雇用契約書の確認が第一歩

転勤命令の有効性を判断するにあたり、まず自社の就業規則や個別の雇用契約書の内容を確認することが不可欠です。

就業規則においては、「業務上の必要がある場合は、従業員に配置転換、転勤、職務内容の変更を命じることがある」といった、配転命令権の根拠となる条項が明確に記載されているかを確認しましょう。一般的に、このような包括的な規定であっても、従業員は正当な理由なく転勤命令を拒否することは原則として難しいと考えられます。

また、個別の雇用契約書も重要な確認ポイントです。勤務地を特定の場所に限定する合意、いわゆる「勤務地限定特約」が交わされていないかを確認する必要があります。

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転勤命令が無効・違法と判断される3つのケース

企業が持つ転勤命令権は、決して無制限ではありません。特定の条件下では、転勤命令が無効または違法と判断される可能性があります。

ケース1:雇用契約で勤務地が限定されている

転勤命令が無効または違法と判断されるケースの一つに、従業員の雇用契約で勤務地が限定されている場合があります。雇用契約書や労働条件通知書に、勤務地が特定の地域や事業所のみに限定されている旨が記載されている場合、企業は原則として、従業員の個別の同意なしに転勤を命じることはできません。また、職種が限定されている場合において、職種の変更を伴う転勤は認められません。

勤務地限定が認められやすいケース

・雇用契約書や労働条件通知書に、勤務地が特定の地域や事業所のみに限定されている旨が明示的に記載されている場合。

・採用時に「転勤はない」といった明確な口約束があった場合。

勤務地限定が認められにくいケース

・雇用契約書に単に「採用時の配属先」として勤務地が記載されているに過ぎない場合。

・「総合職」として採用され、就業規則に転勤の可能性が包括的に定められている場合。

ケース2:業務上の必要性が認められない

転勤命令の有効性を判断する上で、「業務上の必要性」が有ることは重要な要素です。

業務上の必要性とは、企業が合理的かつ円滑に事業を運営するために、従業員の適材適所への配置、能力開発、業務運営の円滑化といった正当な目的があることを指します。東亜ペイント事件判決でも、その異動が「余人をもって替え難い」高度な必要性に限定されず、企業の合理的運営に寄与する点が認められれば足りるとされています。

しかし、業務上の必要性が認められないケースも存在します。例えば、以下のような事情がある場合には業務上の必要性が否定される、あるいは、必要性があっても権利濫用に該当する可能性があります。

  • 不当な動機・目的による場合
  • 退職勧奨を拒否したことの嫌がらせ
  • ハラスメントに対する苦情や報告をしたことの報復
  • 退職に追い込むことを目的としている
  • 労働組合の活動を妨害する意図

このような目的で行われる転勤命令は、権利濫用となり無効となる可能性があります。

そのため、企業側としては、転勤の目的や人選の合理性について、客観的かつ合理的に説明できることが重要となります。

ケース3:従業員の不利益が著しく大きい

転勤命令に業務上の必要性があったとしても、従業員が被る不利益が「通常甘受すべき程度を著しく超える」場合、配転命令は権利の濫用として無効となる可能性があります。

具体的には、従業員本人や家族が重篤な病気を抱えており、転勤によって治療の継続が困難になる場合や、他に代わる者のいない家族の介護が必要となる場合などが挙げられます。詳細は後述します。

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育児や介護等の家庭の事情がある場合の配慮

転勤命令の有効性を判断する際、従業員の育児や介護といった家庭の事情は、「権利の濫用」に該当するかどうかの判断要素の一つとなります。

従業員の家庭内の事情によっては、企業が可能な限りの代替案や配慮措置を検討する必要があります。

育児・介護休業法で定められた「配慮義務」の内容

育児・介護休業法第26条には、企業が従業員の配置転換を行う際、子の養育や家族の介護を行っている労働者については、その状況に「配慮しなければならない」と明確に定められています。指針(平成21年12月28日厚労告509号)においては、企業が配慮するべき内容が列記されています。

  1. その労働者の子の養育又は家族の介護の状況を把握すること
  2. 労働者本人の意向を斟酌すること
  3. 転勤の場合の子の養育や家族の介護の代替手段の有無を確認すること

そのため、育児や介護を担っている従業員に対して配転命令を出す際には、配転に伴う育児・介護に関する不利益を慎重に検討することが必要です。

企業が講じる努力として、以下のような具体的な措置が該当します。

  • 転勤時期の調整
  • 代替勤務地の検討
  • 単身赴任手当や社宅制度など、経済的・生活支援の充実
  • 子の転校手続き支援

企業は、こうした配慮を通じて、従業員が仕事と家庭を両立できる環境を支援することが重要です。

「重度の要介護家族」がいる場合

上記のとおり、従業員が障害をもつ親や子供を介護しながら従業員している場合には、転勤命令を命じるにあたって十分な配慮をしなければなりません。

例えば、重度の視力障害を持つ父親と膝関節に障害を持つ母親を介護していた従業員に対して行った、北海道から東京への転勤命令は違法と判断したケースがあります。また、長女が躁うつ病の疑い、次女が脳炎の後遺症、隣接住居に住む両親も体調不良にある労働者に対する帯広工場から札幌本社工場へ転勤命令も違法無効とされました。

このように、親族を介護する労働者に対して転勤命令を行う場合には、親族の介護の必要性の程度とその労働者自身が介護を行う必要性がどれ程あるのかという視点から、人選手続きを慎重に行い、他の適格者がいないか、他の配転先がないかを検討するべきでしょう。

本人に持病がある場合

労働者本人がその持病を理由に転勤を拒否することがありますが、原則として持病は転勤を拒否する正当な理由にはなりにくいと解されています。なぜなら、労働者は雇用契約に基づいて労働を提供する義務を負っており、転勤先であっても同様に労働に従事する必要があるからです。持病を理由に転勤先での就労ができないのであれば休職の問題が生じることになります。そのため、転勤に伴って主治医が交代する不利益は労働者として我慢するべき不利益と考えられます。

ただし、持病が難病であり主治医が限定される場合や自殺念慮の出る重度の精神疾患に罹患している場合には、転勤に伴い大きな不利益が生じるため慎重な配慮が求められるといえます。

「子供の教育」や「持ち家」を理由とした拒否

従業員が転勤命令を拒否する理由として、「子供の転校回避」や「持ち家の維持」といった家庭の事情を挙げるケースは少なくありません。しかし、これらの理由は転勤に伴い通常発生する不利益の範囲内と判断されることが多いため、単独で転勤命令を拒否することは原則として難しいでしょう。

ただし、家庭内の不利益がある場合には、一定の配慮をすることも必要になります。例えば、転勤時期を子供の転入学に合わせる、持ち家を社宅として賃借りする、単身赴任手当を支給する、一定額の帰郷費用を支給する、単身赴任期間が長期とならないようにするなどが挙げられます。

従業員から転勤を拒否された場合の正しい対応フロー

転勤命令を拒否した従業員に対し、企業が安易に懲戒処分を下すことは、大きなリスクを伴う可能性があります。

そのため、企業には、感情的な対応を避け、法的に適切な手順を踏んだ、慎重かつ段階的なプロセスが求められます。

STEP1:拒否理由をヒアリングする

従業員から転勤拒否の申し出があった場合、その背景には本人にとって深刻な事情があるかもしれません。企業は、まず冷静かつ真摯な姿勢で面談に臨むことが重要です。一方的に転勤命令を押し付けるのではなく、従業員が置かれている状況を理解することも求められます。

面談では、拒否理由を具体的に聞き取ることが大切です。例えば、育児や介護、本人の健康問題などが挙げられますが、それぞれの事情が転勤によってどの程度の影響を受けるか、またそれがどのような影響を及ぼすかを深く掘り下げてヒアリングします。必要に応じて、医師の診断書や介護認定証などの客観的な証拠の提出を求めることも検討しましょう。

後々の労使トラブルを避けるため、面談の議事録を正確に記録しておくことが重要です。議事録には、少なくとも面談日時、出席者、ヒアリング内容を記録しておくように努めます。

STEP2:代替案の検討と配慮措置の提示

従業員から転勤を拒否された理由を詳細にヒアリングした後は、企業として柔軟な対応が可能か検討します。拒否理由が合理的であると判断される場合には、転勤以外の選択肢を模索することも必要となります。具体的には、異動先の再検討、転勤時期の延期、他の従業員への打診などが考えられます。

仮に転勤が避けられないと判断された場合でも、従業員の経済的・精神的な負担を軽減するための具体的な配慮措置を提示することが不可欠です。

単身赴任手当や住宅手当などの措置は、転勤に伴う不利益を「通常甘受すべき程度」に抑える上で重要となります。提示した代替案や配慮措置については、従業員と再度面談した上で、納得を得られるようにしましょう。

STEP3:説得しても拒否する場合には懲戒処分を検討する

従業員からのヒアリングや代替案、配慮措置の提示を尽くしても、正当な理由なく転勤命令を拒否し続ける場合には、以下の手順で強い姿勢で説得を改めて行います。

まずは、現在の就労場所での就労を明確に拒否した上で転勤命令にしたがって新職場で就労するように説得をします。現在の職場の後任が既に決まっているのであれば、その予定とおり後任に就労してもらいます。並行して対象社員に対して説得を重ねますが、それでも転勤命令を拒否する場合には、内容証明郵便により赴任日までに着任するように通達するとともに転勤命令に応じない場合には雇用契約の解消をする旨を通達します。それでもなお、転勤命令に応じない場合には、企業は次のステップとして懲戒処分を検討することになります。

STEP4:懲戒解雇をする

社員が転勤命令を拒否する場合には、解雇処分を行うことになります。

なぜなら、解雇処分よりも軽微な処分、例えば、戒告、減給、出勤停止といった処分をしてしまうと、転勤を拒否して、あえて軽微な処分を受け入れることを選択する労働者が出てくる可能性があります。そうすると、労働者の適正な配置ができず業務上の目的を達成できなくなります。また、業務命令に従わない風潮ができてしまい、労務管理面上の弊害を招きます。

また、解雇処分以外の処分を一度行うと、転勤拒否に対して改めて処分を行うことができません。なぜなら、同一の行為に対して再度懲戒処分を行うことができないからです。これを一時不再理の原則といいます。

ただ、懲戒解雇を選択すると、対象社員の再就職の問題や退職金の問題が生じ、訴訟問題へと発展しかねまさん。そこで、まずは自主退職するように勧奨し、これに応じない場合には普通解雇を選択するのが穏当かもしれません。

いずれの手段を選択する場合でも、懲戒解雇や退職勧奨を実行する前には、必ず弁護士などの専門家に相談し、法的な妥当性や潜在的なリスクについて助言を求めることが不可欠です。

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転勤をめぐるトラブルを未然に防ぐための4つの対策

転勤命令は企業の事業運営に不可欠なものですが、従業員の生活に大きな影響を与えるため、拒否されたりトラブルに発展したりするケースも少なくありません。そのため、トラブルが発生する前に予防策を講じることが極めて重要です。

採用時に転勤の可能性を明確に伝えておく

転勤に関するトラブルを未然に防ぐためには、採用の段階で転勤の可能性について明確に伝えることが最も重要です。この初期段階での認識合わせは、入社後のミスマッチや「言った言わない」といった不必要な労使間のトラブルを避ける上で不可欠となります。

具体的には、採用プロセスにおいて以下の段階で転勤の可能性を伝えておく必要があります。

  • 求人票・募集要項での明示
  • 面接時の丁寧な説明と確認
  • 雇用契約書・労働条件通知書への記載

人事異動の内示を丁寧に行う

転勤に伴うトラブルを避けるためには、内示から正式な発令までの期間を十分に確保することが重要です。従業員の引っ越し準備、家族の転校手続き、現在の業務引き継ぎなどを無理なく行えるよう、適切な準備期間を設けるのが望ましいでしょう。

また、内示は一方的な「通告」で終わらせず、必ず上司との面談機会を設けるべきです。面談では、転勤の背景や目的、異動先で期待される役割不利益の緩和措置などを具体的に説明し、従業員の疑問や不安に寄り添う姿勢を示すことが、トラブル回避につながります。対話を通じて従業員の納得感とモチベーションを高めることが肝要です。

単身赴任手当や社宅制度などサポート体制を充実させる

転勤命令を円滑に進めるには、従業員が直面する経済的・精神的負担を軽減するための企業のサポート体制を充実させることが不可欠です。

具体的なサポート制度としては、単身赴任手当や社宅・借り上げ社宅制度が挙げられます。その他には、引越し費用や支度金の支援、定期的な帰郷費用の支給などが挙げられます。

勤務地限定制度の導入を検討する

転勤をめぐる問題の根本的な解決策の一つとして、「勤務地限定制度」の導入が有効です。これは、従業員が特定の地域や事業所で働くことを前提とした雇用形態を指すものです。 

入社時に勤務地を明確に限定することで、従業員は安心してキャリアを形成でき、企業側も転勤拒否によるミスマッチや労使間の紛争を未然に防げます。この制度の導入は、企業にいくつかの利点をもたらします。転勤を希望しない優秀な人材を確保しやすくなるだけでなく、育児や介護など家庭の事情で転勤が困難な従業員の離職を防ぐ効果も期待できます。 

ただし、導入に際してはいくつか注意すべき点があります。転勤の可能性がある他の正社員との間で、給与や昇進・昇格、福利厚生などの労働条件に不均衡が生じないように制度設計をしっかりとしておくことが必要です。

まとめ:円滑な人事異動のために企業が心掛けるべきこと

転勤命令は、企業の事業運営に不可欠な「配転命令権」に基づくものですが、その行使は決して無制限ではありません。

例えば、就業規則や雇用契約で勤務地が限定されている場合、業務上の必要性が認められない場合、あるいは従業員が「通常甘受すべき程度を著しく超える」不利益を被る場合には、転勤命令が無効となるリスクがあることを再認識しておくべきです。

従業員から転勤命令を拒否された際は、感情的な対応を避け、冷静かつ法的に適切な手順を踏むことが重要です。まず、拒否理由を詳細に聞き取り、従業員の個別事情を深く理解する姿勢が求められます。また、代替案の検討や単身赴任手当、社宅制度といった具体的な配慮措置の提示も必要となることもあります。懲戒解雇は、不当解雇として訴訟に発展し、企業の社会的評価を大きく損なうリスクがあるため、あくまで最終手段と位置づけ、退職勧奨も視野に入れた対話による解決を目指すことが大切です。

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