残業代の時効は何年?起算点・時効の更新(中断)と会社側の注意点を弁護士が解説

更新日: 2026.10.11
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残業代(賃金請求権)の消滅時効は、原則5年・当分の間3年です(2020年4月1日より前に支払日が到来した分は2年)。

時効は各給与の支払日から1か月分ずつ進みますが、裁判上の請求や「承認」で更新(リセット)され、催告で6か月猶予されます。会社が請求を受けて未払いを安易に認めると、かえって時効がリセットされる点に注意が必要です。時効の年数・起算点・更新/完成猶予の仕組み・会社側の注意点を、弁護士が解説します。

まず結論

残業代の時効は何年ですか?

原則5年、当分の間は3年です。2020年4月1日より前に支払日が到来した残業代は2年です。実務上は現在、3年と考えておけば足ります。

時効はいつから数えますか(起算点)?

それぞれの給与の支払日から数えます。各月の残業代について、その支払日を基準に時効が進み、1か月分ずつ順番に時効にかかります。

請求を受けたとき、会社が最も気をつけることは?

安易に未払いを認めない(承認しない)ことです。承認は時効の更新事由にあたり、うっかり認めると時効がリセットされます。まず事実関係と時効を確認してから対応します。

時効期間が過ぎれば残業代の請求は当然に消えますか?

当然には消えません。時効の「援用」が必要です。会社は時効期間が過ぎた分について時効を援用することで、支払いを免れられます。

この記事の根拠となる主な条文
  • 労働基準法115条・附則143条3項(賃金請求権の消滅時効=原則5年、当分の間3年)
  • 民法147条(裁判上の請求等による完成猶予・更新)
  • 民法150条(催告による6か月の完成猶予)
  • 民法151条(協議を行う旨の合意による完成猶予/2020年改正で新設)

残業代の時効は何年?(原則5年・当分の間3年)

残業代は「賃金請求権」の一つで、消滅時効があります。2020年4月1日施行の法改正により、賃金請求権の消滅時効は原則5年に延長されました。ただし、当分の間は経過措置として3年とされています。したがって、実務上は現在、残業代の時効は3年と考えておけば足ります。

残業代(支払日)時効期間
2020年4月1日以降に支払日が到来した分原則5年・当分の間3年
2020年4月1日より前に支払日が到来した分2年

この改正の影響として、将来的に「当分の間」が終われば時効が5年に統一される可能性があり、会社が負う未払いリスクの期間は長くなる方向にあります。労働時間の管理と適正な残業代の支払いを徹底しておくことが、リスク管理の基本です。

時効はいつから数える?(起算点=給与の支払日)

時効の起算点(数え始める日)は、それぞれの給与の支払日です。残業代は毎月の給与に含めて支払うものなので、各月の残業代について、その支払日を基準に時効が進みます。

具体例:給料日が毎月25日の場合、その月の残業代は26日から時効が進行し、3年後に時効にかかります。残業代全体が一度に時効になるのではなく、1か月分ずつ順番に時効が進んでいくイメージです。

時効の更新(中断)と完成猶予

時効は、一定の事情があるとリセットされたり、一時的に進行が止まったりします。2020年の民法改正で用語が整理され、以前の「中断」は更新、以前の「停止」は完成猶予と呼ばれるようになりました。「中断」という言葉が“リセットされて数え直しになる”効果を想起しにくかったことなどが、用語変更の理由です。

事由効果ポイント
裁判上の請求
(民法147条)
完成猶予→更新訴訟の提起のほか、労働審判の申立ても含む。申立書を裁判所に提出した時点で完成猶予
催告
(民法150条)
6か月の完成猶予内容証明郵便など。再度の催告では猶予は延びない
協議を行う旨の合意
(民法151条)
完成猶予改正で新設。当事者が書面等で協議の合意をすると一定期間、完成が猶予される
承認更新(リセット)会社が未払いを認めること。うっかり認めると時効がリセットされる(下記で詳述)

会社が注意すべき「承認」による時効の更新

実務でとくに注意したいのは、請求を受けたときの初動の受け答えです。労働者側が設定してくる回答期限に法的な拘束力はないため、慌てて回答する必要はありません。むしろ、十分な検討をしないまま安易に「支払う」旨の回答をしてしまうと、未払いを承認したものと扱われ、消滅時効を主張できなくなるおそれがあります。

やってはいけない初動:相手の回答期限に焦って「支払います」「未払いがあったかもしれません」と認めてしまう。これは承認=時効の更新(リセット)にあたり、時効にかかっていた分まで支払義務が復活しかねません。まずは請求内容・労働時間の実態・時効を確認し、時効にかかっている分がないかを見極めてから対応します。

時効が過ぎても「援用」が必要

注意したいのは、時効期間が過ぎただけでは、残業代の請求権は自動的には消滅しないという点です。時効の効果を確定させるには、「時効の援用」(=時効によって支払義務が消滅したと主張する意思表示)が必要です。会社側としては、時効期間が経過した分について請求を受けた場合、時効を援用することで支払いを免れられます。

退職後の残業代請求と時効

時効は在職中・退職後を問わず進行します。もっとも実務では、退職した元従業員が、在職中の残業代を退職後にまとめて請求してくるケースが多く見られます。この場合でも、時効にかかっていない直近3年分については支払義務が生じ得ます。退職者からの請求に備えるためにも、日頃から労働時間の記録を適切に管理しておくことが重要です。

残業代を請求されたときの初動(会社側)

時効を守り、支払うべき範囲を正しく見極めるために、初動は次の順序で進めます。

安易に認めず、回答を急がない
相手の回答期限に法的拘束力はない。「支払う」「未払いがあった」と口頭・書面で認めると承認(時効の更新)になり得るため、まずは受領のみにとどめる。
請求内容・労働時間・時効を精査
請求期間と金額の根拠、タイムカード・PCログ等の記録を突き合わせ、時効(原則5年・当分3年)が経過している分がないかを確認する。
時効の援用も含め、対応方針を決める
時効にかかった分は援用し、支払うべき範囲を見極めたうえで、交渉・和解・訴訟の方針を固める。必要に応じて弁護士に相談する。

よくある質問(FAQ)

残業代の時効は何年ですか?
原則5年、当分の間は3年です。2020年4月1日より前に支払日が到来した残業代は2年です。実務上は現在、3年と考えておけば足ります。
時効はいつから数えますか(起算点)?
それぞれの給与の支払日から数えます。各月の残業代について、その支払日を基準に時効が進み、1か月分ずつ順番に時効にかかります。
時効の更新(中断)・完成猶予とは何ですか?
更新(旧・中断)は時効がリセットされること、完成猶予(旧・停止)は一定期間だけ時効の完成が先延ばしになることです。裁判上の請求や会社の承認で更新され、内容証明による催告で6か月間猶予されます。
請求を受けたとき、会社が気をつけることは?
安易に未払いを認めない(承認しない)ことです。承認は時効の更新事由にあたり、認めると時効がリセットされるおそれがあります。事実関係と時効を確認して慎重に対応しましょう。
時効期間が過ぎれば残業代の請求は当然に消えますか?
当然には消えません。時効の効果を確定させるには時効の援用が必要です。会社は時効期間が過ぎた分について時効を援用することで支払いを免れられます。
残業代を請求されました。すぐに回答すべきですか?
慌てて回答する必要はありません。労働者側が設定する回答期限に法的な拘束力はないためです。検討せずに安易に支払う旨を回答すると、未払いを承認したと扱われ時効を主張できなくなるおそれがあります。まず請求内容・労働時間・時効を確認しましょう。
退職した従業員からもまとめて請求されますか?
あります。時効にかかっていない直近3年分については支払義務が生じ得ます。退職者からの請求に備え、日頃から労働時間の記録を適切に管理しておくことが重要です。

残業代の時効・請求対応は弁護士にご相談ください

残業代請求への初動を誤ると、承認による時効の更新で支払義務が膨らむことがあります。請求内容・労働時間・時効の精査から、時効の援用・反論・交渉まで、企業経営者の立場で弁護士がサポートします。大阪・なんば/心斎橋の難波みなみ法律事務所へ。

※本記事は一般的な解説であり、個別の事案では時効の起算点・更新の有無は具体的な事情により異なります。実際の残業代請求への対応は、監修弁護士(難波みなみ法律事務所 代表弁護士 南 宜孝/大阪弁護士会)にご相談ください。

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