給料の減額を拒否!企業が取るべき正しい対応と法的注意点を弁護士が解説

更新日: 2026.02.28
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給料減額の話は、労働者の誰しもが避けたいテーマです。

しかし、経営上の避けられない事態に直面した際、どのように社員と向き合うべきか。当然ながら、会社側が一方的に社員の給与を減額させることは原則としてできません。仮に、社員が問題行為を行ったとしても、給与を減額させることはそう簡単ではありません。

この記事では、給料減額を拒否する社員の対処法を詳しく解説します。

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【原則】従業員の同意なく一方的に給料は減額できない

従業員にとって給料は、日々の生活を支える大切な基盤であり、労働条件の中でも極めて重要な要素です。そのため、会社の都合や経営状況の悪化を理由に、会社が一方的に給料を減額することは、原則として認められていません。労働契約法第8条においても、賃金を含む労働条件を変更する際に、使用者と労働者双方の同意が不可欠であることを定めています。

したがって、会社が一方的に賃金を減額することは、労働者に多大な不利益をもたらす「労働条件の不利益変更」に当たるため、給与の減額に高度な必要性が認められない限り、一方的な給与減額は認められません。

労働契約法第8条(労働契約の内容の変更) 

労働者及び使用者は、その合意により、労働契約の内容である労働条件を変更することができる。

給料を減額できる方法

給料の減額を行う方法は複数存在し、それぞれ法律的な根拠や適用されるケースが異なります。社員の同意を得る場合に限らず、人事評価の見直しや職務内容の変更、就業規則の変更などのケースがあります。

ただ、いずれの方法を取るにしても、減額手続きの前には、社員に対して十分な説明が必要ですし、可能な限り社員の同意を得ておくことが重要です。一体、どのような方法で給料を減額できるのか、ここでは実際の手続きの流れとともに詳しくご紹介していきます。

人事評価・個別査定により減額する場合

企業が社員の給料を減額する方法の一つとして、人事評価や個別査定により賃金の減額を行う場合があります。

労働者故人の業績や成果を評価・査定し、その結果を賃金額に反映させる制度を採用している企業も多いと思います。この場合に、会社側が、社員の業績・ノルマの達成度、企業の業績等を踏まえて賃金額を決定できるにしても、無制限に社員の賃金額を減額することができるわけではありません。

人事評価の基準が客観的で合理的であることが必要です。つまり、どのような評価項目がどのような評価基準で査定されるのかが明確に定められており、これが社員に周知されていることが必要です。

また、人事評価基準が正しく適用されていることも必要です。目標管理制度(MBO)の採用や労働者との面談を行うことで労働者の意向を反映するとともに、評価者の教育や評価方法の標準化を行うなど、恣意的主観的な評価を排除するようにすることが重要です。

配置転換・職務内容の変更により減額する場合

職務内容と賃金が紐づいている場合、配置転換や職務内容に伴い賃金が減額されることもあります。

配置転換や職務内容の変更は、企業の人事権に基づき行うことができるため、業務上の必要があり、不当な動機や目的がないのであれば、有効と判断されることが多いです。ただし、特定のポストや部署が廃止されたことに伴い、賃金の減額を伴う配置転換をする場合、労働者側の責任の程度は小さいといえるため、賃金の減額やその幅には十分に留意するべきです。

就業規則の変更により減額する場合|不利益変更の条件

就業規則の変更を通じて給与の減額を検討する場合、労働契約法に基づく「不利益変更」の範囲内で対応する必要があります。

就業規則の変更による賃金の減額は、労働者から同意を得て行うことが原則となります。ただ、労働契約法10条で定める要件を満たす場合には、例外的に労働者の同意を得ることなく、会社側で一方的に就業規則の変更により賃金を減額させることができます。具体的には、①労働者の受ける不利益の程度②労働条件の変更の必要性③変更後の就業規則の内容の相当性④労働組合等との交渉の状況等を踏まえて、就業規則の変更が合理的といえることが必要です。

特に賃金の減額は労働者にとって死活問題となりますから、減額が必要とされる高度の必要性があることが必要です。また、賃金減額による不利益を軽減させるために、代償措置を講じることも検討するべきです。例えば、長期休暇の増加、労働時間の短縮や臨時休業の付与等が挙げられます。

懲戒処分による減額 | 減給の限度額に注意する

懲戒処分としての減給を行う際には、労働基準法におけるルールを守る必要があります。

1回の減給処分については、1日の賃金の半分を超えることはできません。1ヶ月に2回以上の減給処分を行う場合にも、同様の限度額となりますが、1か月の給与の10%を超えることはできません。

さらに、減給の対象となる問題行為、処分の基準、手続きなどを就業規則で明確に定めておく必要があります。これらのルールを遵守しない減給は無効となる可能性が高く、社員の信頼を失う原因にもなりかねません。

労働者から個別に同意をもらい賃金を減額する

労働者から個別の同意を得て、賃金を減額する方法もあります。

社員個々に減給の同意を得る際には、まずはその賃金の減額が正当な理由によることが必要です。企業の経営状況の悪化など、賃金減額を求める事業上の必要性があることを要します。また、減額の金額、理由、期間などを詳細に説明し、社員の理解と協力を求めることが肝心です。社員一人一人と面談を行い、質問に丁寧に答え、疑問点を解消していく姿勢が同意を得るカギとなります。また、個別の同意を得た場合も、その記録として文書に残し、双方で内容に同意した証として保管することが重要です。

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従業員から減額の同意を得るための適切な手順

給与の減額を進めるためには、会社が一方的に通告するのではなく、適切に手順を踏むことが求められる。このプロセスをきちんと守ることは、従業員の納得感を高め、士気の低下を極力防ぐだけでなく、将来的な労務トラブルを未然に回避するために極めて重要です。

ここでは、従業員から減額の同意を得るための具体的な3つのステップを詳しく解説します。

減額の必要性や背景を丁寧に説明する

従業員から給与減額への同意を得るには、まずその必要性と背景を丁寧に説明することが不可欠です。

会社の経営状況が悪化している場合には、具体的な財務データや事業計画を提示しながら、現状を客観的かつ正確に伝えることが重要です。単に売上が悪いといった抽象的な説明だけでは、従業員の納得は得られにくいでしょう。給与減額が事業の立て直しや従業員の雇用維持といった、会社全体の未来のために不可欠な選択肢であることを、誠実に説明する姿勢が求められます。

また、給与削減の前に行える対応(役員報酬の減額や交際費の削減)を全て実施しており、従業員だけに不利益を強いるものではないことを示すことも重要です。労働者全体の説明会だけにとどまらず、対象となる従業員とは個別に面談する場を設け、質問や懸念に真摯に耳を傾ける機会を設けるべきです。

従業員の自由な意思を尊重し、強要は避ける

給与減額に対する従業員の同意は、「自由な意思」に基づいていることが必須です。同意さえ得ておけば当然に有効となるわけではありません。もし企業が強要や圧力によって同意を得た場合、その合意は自由な意思によるものではないとして、無効と判断されるリスクがあります。具体的には、「同意しなければ解雇する」「ボーナスがゼロになる」といった他の不利益を示唆したり、不正確・虚偽の情報を伝えたりして同意を迫る行為は、「強要」と見なされます。

従業員が冷静に判断できるよう、その場での即決を求めず、一度持ち帰って検討するための十分な時間を与えることが不可欠です。面談の際は、企業側は威圧的な態度を取らず、誠実な姿勢で臨み、従業員の質問には真摯に回答することが不可欠です。万が一のトラブルに備え、面談のやり取りを録音したり、メモを残すことも有効な対応策です。

合意内容は必ず書面化する

給与減額の合意は、従業員の生活に直結する重要な労働条件の変更です。そのため、口頭でのやり取りに留めると、合意内容が不明瞭となり、「言った、言わない」といった水掛け論に発展し、トラブルとなるリスクが極めて高まります。このような事態を避けるためにも、合意内容を必ず書面(同意書)で残すことが不可欠です。書面は、従業員の真摯な同意があったことを客観的に示す重要な証拠となり、万が一、法的な紛争が生じた際の根拠としても機能します。

同意書に記載すべき項目は多岐にわたりますが、特に以下の内容は必須であり、明確に記載することが重要です。

項目説明
減額前後の給与額「月額〇〇円から〇〇円に減額する」などと明確に記載します。
減額の始期(開始日)いつから減額が適用されるかを明記します。
減額に至る理由会社の経営状況や業績の悪化など、合意に至った背景を具体的に記載し、従業員の理解を深めます。
従業員が自由意思で同意した旨の一文強要ではなく、企業が十分に説明を尽くした上で、従業員自身の判断で合意したことを示す文言を盛り込みます。
会社側および従業員側の署名・捺印欄双方が合意内容を確認し、同意したことを証明するものです。

これらの項目を盛り込んだ同意書を作成し、適切に保管することで、将来的な労務トラブルを未然に防ぎ、会社と従業員双方の信頼関係を維持することにつながるでしょう。

給料の減額を拒否された場合の対処法

従業員が給料の減額に同意しない場合、企業は感情的な対応や強硬な手段に訴えることを避けるべきです。従業員から減額の同意が得られなかった場合でも、企業は冷静かつ法的な手順を踏むことが不可欠です。まずは従業員の主張に耳を傾け、対話を通じて解決の糸口を探ることが基本姿勢となります。

以下では、従業員に給料の減額を拒否された際に企業が取るべき具体的な対処法について解説します。

給与減額を拒否する理由を傾聴する

従業員から給与の減額を拒否された場合、企業は一方的に説得を試みるのではなく、まずその理由を真摯に傾聴する姿勢が不可欠です。従業員が減額を拒否する背景には、色々な要因が隠されている可能性があります。例えば、以下のような理由が考えられます。

  • 生活への不安
  • 減額理由への不満
  • 会社や人事評価への不信感

従業員が本音をストレートに伝えないケースは少なくありませんが、企業が減額を拒否する具体的な事情を丁寧にヒアリングすることは、感情的な対立を避け、従業員との信頼関係を維持しながら給与減額の同意を得るために必要となるプロセスといえます。

賃金減額を拒否する理由に解雇することは避ける

企業が給料減額を進めたいとしても、減額を拒否する労働者を解雇することはできません。その他の懲戒処分をすることもできません。

賃金減額への同意は労働者の権利であり、拒否することもその権利の範囲内です。したがって、同意を拒否する労働者を解雇した場合、不当解雇とみなされる可能性が高く、企業にとって法的なリスクを負うことになるでしょう。

ただし、経営上の深刻な危機を回避するための「整理解雇」の一環として減額を提示し、それが拒否された場合など、極めて例外的な状況下でのみ解雇が有効となる可能性があります。しかし、その場合でも、企業には以下の「整理解雇の4要件」を厳格に満たすことが求められます。

  • 人員削減の必要性
  • 解雇回避の努力
  • 人選の合理性
  • 手続きの妥当性

そのため、賃金減額が必要だと判断した場合でも、法的な手続きを踏まえ、社員との対話を重ね、合意形成を目指すことが大切です。

代替案や不利益を緩和する措置を検討する

給与減額の必要性が認められる状況下でも、企業は従業員の生活への影響に十分に配慮し、代替案や不利益を緩和する措置を提示することが不可欠です。このような誠実な姿勢は、労使間の対立を避け、合意形成を目指す上で非常に重要となります。

従業員への影響を最小限に抑えるための具体的な措置としては、以下のようなものが挙げられます。

代償措置の具体例

  • 減額幅の縮小を検討する。
  • 減額期間を限定する。
  • 月々の給与減額の代わりに、賞与(ボーナス)で調整する。
  • 将来の業績回復時に給与を元に戻す約束をする。
  • 減額に見合った業務負荷の軽減を行う。
  • スキルアップのための研修機会を提供する。
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給料減額時に注意するべき点

給料の減額は、企業が直面する経済的困難を乗り越えるための一つの選択肢です。しかし、この過程では多くの注意点があります。給料減額をきっかけに法的な問題を引き起こさないよう、一連の手続きを適切に行うことが重要となります。 

給料減額の優先順位

企業が経費削減を迫られる状況において、いきなり社員の賃金減額を選択するべきではありません。

まず最初に考えるべきは、組織の上層部である役員報酬の減額です。経済的な苦境にあるにもかかわらず、役員の給料を維持することは、社員の理解を得られず、社員の士気にも影響を与えるでしょう。次に、賞与の減額を検討することが一般的です。その上で、管理職の給与減額を行います。

これらのプロセスを踏んでもなお、会社が苦境から脱することができない場合に社員の賃金減額を検討します。

減額の範囲を合理的に限定する

賃金減額を実施する際には、その範囲を合理的に限定することが非常に重要です。

経営危機を脱するために、企業全体で必要な経費削減額を導きます。これを詳細に算出し、各部門ごと、さらには個々の従業員ごとの減額の必要性を検討する必要があります。漠然とした金額を提示するだけでは、社員の理解や協力を得られません。

その上で、従業員一人ひとりに公平を期した減額額を決定し、それを実施するべきです。過度な減額は、従業員間での不公平感を生じさせ、法的な争いの火種にもなりかねません。そのため、減額の範囲は可能な限り合理的なものに留め、必要最小限の減額にすることが求められます。

育休取得などを理由とした不利益な取り扱いは厳禁

育児・介護休業法は、従業員が育児休業や介護休業の申し出をしたこと、または実際に取得したことを理由とする不利益な取り扱いを固く禁じています(育児・介護休業法第10条)。

具体的には、育児休業から復帰した従業員の役職を一方的に引き下げ、それに伴って給与を減額するケースが挙げられます。また、育児休業の取得を理由に、昇給・昇格の対象から除外することも、法律で禁じられています。賞与の算定においても、休業期間を日割りで控除することは認められますが、必要以上に減額することは不利益な取扱いに該当します。

これらの法律に違反した場合、企業は行政からの指導や勧告を受けるリスクがあります。勧告に従わない場合は企業名が公表されるおそれがあり、さらには、報告をしなかったり、虚偽の報告をした場合には20万円以下の過料が科されるリスクも生じます。

固定残業代の廃止する場合

残業時間が少ないことなどを理由に固定残業代制度を廃止する場合があります。

固定残業代とは、残業時間にかかわらず、一定の時間相当分を残業代として固定的に支払う制度をいいます。この固定残業代を廃止することは、固定残業代を受けていた労働者からすると、安定的な収入が得られなくなるため、契約内容の不利益変更となります。

そのため、企業が賃金中に含まれている固定残業代を賃金総額を変更させる形で一方的に廃止することは原則として認められないと解するべきです。

ただ、常に固定残業代の廃止が許容されないわけではありません。つまり、契約内容のうち賃金等の重要な契約条件を変更する場合、労働者に対して大きな影響を及ぼすため、固定残業代を廃止することについて、高度な業務上の必要性が認められ、適切な代償措置が講じられている場合には、固定残業代の廃止も認められます。

東京高等裁判所令和4年6月29日

時間外労働等に従事していた時間がみなし手当で定められている時間より実際には少ないなどの理由から、会社において自由に減額することはできない性質のものであったというべきである。

賃金減額の際は弁護士に相談を

賃金減額は、社員にとって死活問題であり、社員の反発を強く招きます。大量の離職や残業代の請求などの問題が顕在化する可能性もあります。

社員の理解を得られるためには、役員や管理職自身も身を切る姿勢を示すとともに、十分な説明を果たすことが重要です。

賃金減額に際しては、弁護士に相談しながら慎重に進めていきましょう。

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