「情報を共有しない」「周囲と衝突する」「仕事はできるが協調性がない」——そんな社員への対応は、多くの経営者・管理職が頭を悩ませる問題です。放置すれば職場全体の生産性やモチベーションに響き、優秀な人材の離職を招くこともあります。
本記事では、協調性がない社員の特徴・原因から、正しい対応の手順、やってはいけない対応、そして「協調性の欠如を理由に解雇できるのか」という一番の関心事まで、裁判例を踏まえて企業側の弁護士が解説します。
協調性の欠如だけを理由に、いきなり解雇するのは困難です。裁判所は、協調性のなさが業務に具体的な支障を生じさせ、注意指導や配置転換などを尽くしても改善しない場合に限って解雇を有効と判断する傾向にあります。段階を踏まずに解雇すると、不当解雇として無効になり、多額の金銭負担を負うリスクがあります。まずは正しい手順で対応することが不可欠です。
この記事のポイント
- 協調性のなさの背景には、価値観の相違・過剰な自信・コミュニケーションの苦手意識など様々な原因がある
- 放置すると生産性の低下・他の社員のモチベーション低下・離職を招く
- 正しい対応は調査 → 注意指導 → 配置転換 → 段階的な懲戒 → 退職勧奨という順序
- 大勢の前での叱責・放置・いきなりの解雇は、かえって会社のリスクになる
- 解雇が有効となるのは、業務への具体的支障があり、改善指導を尽くしても改まらない場合に限られる
「協調性がない」とは、周囲と歩調を合わせて働くことが難しい状態を指します。まずは、どのような言動が「協調性がない」と受け止められやすいのか、よくある特徴を整理します。感情的に判断する前に、事実として当てはまるかを確認することが、後の対応の出発点になります。
協調性がないと受け止められやすい言動
- 情報を共有しない・報連相をしない(自分の担当範囲だけで完結させる)
- チームの方針やルールに従わない(自分のやり方を優先する)
- 他人の意見を聞き入れない・高圧的で衝突が多い
- 頼まれた協力を断る・自分の担当外には非協力的
- 感謝や謝罪が乏しく、周囲との関係を築こうとしない
注意したいのは、「協調性がない=問題社員」と即断しないことです。単に控えめ・マイペースなだけの人や、会社側のマネジメント不足が背景にある場合もあります。まずは業務にどのような具体的支障が出ているかを、事実に即して見極めることが大切です。
協調性のない言動の裏には、本人の性格だけでなく、いくつかの原因が潜んでいることが少なくありません。効果的に対応するには、まずその理由を理解することが第一歩です。
よくある3つの原因
- ①仕事の価値観の相違:個人の成果を最優先し、チームでの情報共有や協力を「非効率」と捉えている。本人は貢献しているつもりで、指摘に納得できないことも
- ②過剰な自信・プライド:過去の成功体験や技能から、自分の考えを曲げず、他人の意見や社内ルールを軽視してしまう
- ③コミュニケーションへの苦手意識:本当は協力したいが、伝え方や関わり方がわからず、結果として非協力的に見えてしまう
原因によって、有効なアプローチは変わります。価値観の相違なら会社の期待を具体的に伝える、苦手意識なら関わり方をサポートする、といったように、「なぜそうなるのか」を踏まえた対応が改善への近道です。
協調性のない社員を「個人の性格の問題」として放置すると、影響は本人だけにとどまりません。組織全体に悪影響が広がり、企業活動そのものを揺るがしかねないのが実情です。
生職場全体の生産性低下
- 情報共有が滞り、業務連携が阻害される
- 作業の遅延・重複・ミスが多発する
- 職場に不信感や緊張感が生まれ、雰囲気が悪化する
離モチベ低下と離職
- 業務負荷の偏り・不公平感が生まれる
- 周囲の心理的ストレスで意欲が低下
- 耐えかねた優秀な人材が離職してしまう
「一人の問題」が「職場全体の問題」に発展する前に、早めに正しい手順で手を打つことが重要です。
見落とされがちですが、放置は会社自身のリスクでもあります。問題を放置して職場環境が悪化し、他の社員が体調を崩したり退職したりすると、会社が良好な職場環境を保つ義務(職場環境配慮義務)を怠ったとして責任を問われることがあります。「様子見」で放置し続けることは、法的にも安全ではありません。
協調性がない社員への対応は、いきなり重い処分に飛ばず、段階を踏むのが基本です。この順序は、社員の改善を促すと同時に、万一解雇に至った場合にその有効性を支える土台にもなります。
対応の5ステップ
- 事実を調査する:周囲からの聞き取りや記録で、問題となる言動と業務への支障を具体的に特定する(日時・内容・影響をメモに残す)
- 面談で注意・指導する:本人に事実を伝え、期待する行動を「ルール(行為規範)」として具体的に、できれば書面で示す(例:「挨拶されたら挨拶を返す」「決まった方針には従う」)。「改善が見られない場合は処分もあり得る」ことも明確に伝え、記録に残す
- 配置転換・人事考課を検討する:人間関係を緩和できる部署への異動を検討する。解雇を回避する方策を尽くしたかは、後に解雇の有効性を大きく左右します。あわせて評価への反映で改善を促す
- 段階的に懲戒処分を行う:改善がなければ、けん責・減給・出勤停止など軽い処分から段階的に行い、改善の機会を与える
- 退職勧奨を行う:それでも改善せず就業が難しい場合は、解雇の前に合意による退職(退職勧奨)を検討する
指導の際、本人から「そんな行為はしていない」「この指導自体がパワハラだ」と反論されることがあります。複数の同僚からの聞き取りなど客観的な裏づけがあれば、指導を撤回する必要はありません。感情的にならず、事実を根拠に淡々と伝えることがポイントです。
弁護士からのワンポイント
各ステップで「いつ・何を・どう指導し、本人がどう反応したか」を書面で残すことが決定的に重要です。この改善指導の記録が乏しいと、後に解雇の有効性を争われたとき、会社は非常に不利になります。
よかれと思った対応が、かえって会社のリスクを高めることがあります。次の3つは避けましょう。
×大勢の前で叱責する
- 人格否定はパワハラと評価されるおそれ
- 本人が反発し、改善から遠ざかる
×見て見ぬふりで放置
- 問題が常態化・深刻化する
- 周囲の不満が会社への不信に変わる
いきなり解雇するのも危険です。注意指導や改善の機会を与えないまま解雇に踏み切ると、不当解雇と判断されやすく、次章のとおり会社が大きな負担を負うことになります。
結論として、協調性の欠如を理由とする解雇(普通解雇)は、簡単には認められません。解雇には客観的に合理的な理由と社会通念上の相当性が必要で 労契法16条、これを欠く解雇は無効になります。裁判例は、協調性の欠如について次のような点を重視しています。
解雇が有効と認められるための主なポイント
- 協調性のなさが業務に具体的な支障を生じさせていること(単なる不快感では足りない)
- 問題の言動を証拠で具体的に立証できること
- 注意指導を繰り返し、「改善しなければ解雇もあり得る」と警告したこと
- 配置転換など、解雇以外の手段を検討・実施したこと
- けん責・減給などより軽い処分を先に検討したこと
どんな場合に「解雇もやむなし」となるか|2つの視点
実は、「協調性がない」ことを直接の解雇事由と定める就業規則はまれです。多くは「執務能力・職務の適格性を欠く」「業務の運営上やむをえない事由があるとき」といった条項への該当性として判断されます。そのうえで裁判所は、次の2点を特に重視します。
1業務への重大な支障
- 協調性のなさが業務遂行の重大な障害になっているか
- 単なる不快感・個性の強さでは足りない
2協調性が重視される職場か
- 少人数でチームワークが不可欠な職場か
- 配置転換などで摩擦を避ける余地が乏しいか
裁判例|結論は「指導を尽くしたか」で分かれる
| 裁判例 | 結論 | ポイント |
|---|---|---|
| ネギシ事件 東京高判平28.11.24 | 解雇有効 | 小規模企業で暴言・きつい言動を繰り返し、退職勧告・警告後も改めなかった |
| 空調服事件 東京高判平28.8.3 | 解雇有効 | 試用期間中、全従業員の前で配慮を欠く言動をし、組織への適格性を欠いた |
| MAIN SOURCE事件 東京地判令元.12.20 | 解雇有効 | 日報の未記載や教育方針への反発。小規模で協調性が特に必要だった |
| 設計事務所事件 東京地判平27.1.28 | 解雇無効 | 十分な注意指導がなく、より軽い処分の検討もなかった |
| 会計事務所事件 大阪地判平30.11.22 | 解雇無効 | 問題はあったが、段階的な指導を尽くさずに解雇した |
有効・無効を分ける最大のポイントは、会社が改善の機会(注意指導・軽い処分・配置転換)をどれだけ尽くしたかです。指導を尽くさずに解雇した事案では、解雇が無効とされ、解雇日以降の賃金(バックペイ)や解決金として数百万円規模の負担を命じられた例もあります。
なお、小規模企業や試用期間中は、協調性がより強く求められたり適格性が問われやすかったりする傾向もありますが、それでも「指導・改善の機会を与えたか」は必ず問われます。解雇の可否は個別事情で大きく変わるため、判断の前に弁護士へご相談ください。
能力は高いのに協調性に欠ける社員は、対応が悩ましいものです。戦力である一方、周囲との摩擦が組織の足を引っ張るためです。この場合、いきなり解雇を考えるより、まず能力を活かせる環境に整えるのが得策です。
- 配置転換:一人で完結できる業務や、摩擦の少ないチームへ異動させ、強みを活かす
- 役割の明確化:期待する行動と、守るべき最低限の協働ルールを具体的に伝える
- 評価への反映:協調性を人事考課の項目に組み込み、改善のインセンティブを設ける
協調性の問題は、職場環境や配置次第で改善することも少なくありません。配置転換などが困難でない限り、解雇より先に環境調整を優先するのが、リスクの低い進め方です。
関連:問題社員の解雇全般は「不当解雇とは?」、懲戒処分の進め方は「懲戒処分とは」、無断欠勤への対応は「無断欠勤をする社員の対応」で解説しています。
協調性がないことだけを理由に解雇できますか?
難しいです。協調性のなさが業務に具体的な支障を生じさせ、注意指導や配置転換など改善の機会を尽くしても改まらない場合に限り、解雇が有効と判断される傾向にあります。段階を踏まずに解雇すると、不当解雇として無効になり、多額の金銭負担を負うリスクがあります。
「仕事はできるが協調性がない」社員はどう扱えばよいですか?
まずは配置転換で摩擦の少ない環境に整え、強みを活かすのが得策です。期待する協働ルールを具体的に伝え、協調性を人事評価に反映する方法もあります。配置転換などが困難でない限り、解雇より環境調整を優先するほうがリスクは低くなります。
協調性がない社員を指導するコツはありますか?
感情的に叱るのではなく、事実(いつ・何が・どんな支障を生んだか)を具体的に示し、期待する行動を明確に伝えることが大切です。あわせて「改善が見られない場合は処分もあり得る」ことを伝え、指導の経過を書面で記録しておくと、改善にも、万一の解雇の有効性にもつながります。
大勢の前で注意してもよいですか?
避けるべきです。大勢の前での叱責や人格否定はパワハラと評価されるおそれがあり、本人の反発を招いて改善から遠ざかります。指導は個別に、事実に基づいて行いましょう。
放置し続けるとどうなりますか?
情報共有の停滞や業務連携の阻害で職場全体の生産性が下がり、業務負荷の偏りや心理的ストレスから、周囲のモチベーション低下や優秀な人材の離職を招きます。問題が常態化する前に、早めに正しい手順で対応することが重要です。
協調性がない社員への対応・解雇の判断は弁護士に相談を
協調性の欠如を理由とする解雇は、進め方を誤ると不当解雇として大きな負担を招きます。どこまで指導すべきか、配置転換や退職勧奨をどう進めるか、解雇に踏み切れるか——難波みなみ法律事務所は企業側の顧問弁護士として、問題社員対応を初期段階からサポートします。
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