株券不発行とは?中小企業が知っておきたい手続きの進め方とメリット・デメリット

更新日: 2026.08.09

「株券不発行」という言葉を耳にして、自社の株券はどうなっているのか、株券を発行していない会社で株式を譲渡するにはどうすればよいのかと迷う経営者・法務担当者は少なくありません。実は、現在の会社法では株券を発行しないことが原則です(会社法214条)。

本記事では、「株券不発行(会社)とは何か」への結論を先に示したうえで、①株券と株式の違い、②株券発行会社と不発行会社の違い(比較表)、③不発行会社での株式譲渡の方法(会社法130条)、④移行(=株券廃止)のメリット・デメリットと手続の流れ、⑤移行登記と「株券を発行していないことを証する書面」までを、中小企業の実務目線で弁護士がわかりやすく解説します。

まず結論:株券不発行(会社)とは?

株券不発行とは、株式会社が株式を表章する「株券」を発行しないことをいい、会社法ではこれが原則です(会社法214条)。株券を発行するのは、定款で「株券を発行する」と定めた会社(株券発行会社)だけで、2006年(平成18年)の会社法施行後に設立された会社は、原則として株券不発行会社です。株券がなくても株式は存在し、株式の管理・譲渡は株主名簿で行います。株券発行会社が不発行へ移行するには、株主総会の特別決議で「株券を発行する旨」の定款の定めを廃止(株券廃止)し、公告・通知と変更登記を行います。

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1【原則】株券不発行制度の基本(会社法214条)

株券不発行制度とは、株式会社において株券を発行しないことを原則とする制度です(会社法214条)。かつての商法とは原則・例外が逆転している点が重要です。

▶ 旧商法と会社法で「原則」が逆転した

旧商法:原則=株券発行/例外=株券不発行(定款で定めた場合)
会社法:原則=株券不発行/例外=株券発行(定款で「株券を発行する」と定めた場合)
平成16年の商法改正で株券不発行制度が導入され、2006年(平成18年)施行の会社法で原則と例外が入れ替わりました。

上場会社は、平成21年(2009年)1月5日の株券の電子化により、すべて株券不発行会社となっています。上場会社以外でも株券不発行会社が多数を占め、非公開の中小企業では株券不発行会社で問題ない場合がほとんどです。

株券を発行しないことの利点

✓ 株券不発行の主なメリット

① 株券の発行・保管コストを省ける/② 株券の偽造・紛失・盗難のリスクをなくせる/③ ただし、株券がない分、株主名簿を確実に備え置き・管理することが強く求められます(会社法125条1項)。

2株券と株式はどう違う?(会社法216条)混同に注意

「株券」と「株式」は混同されがちですが、法律上は別物です。ここを押さえると、株券不発行の意味がクリアになります。

株式とは、株主の地位・権利そのものです。一方、株券とは、その株式(株主であること)を紙で表章する有価証券にすぎません(記載事項は会社法216条)。つまり、株券を発行しなくても株式そのものは当然に存在します。株券不発行会社では、株主であることは株主名簿で管理・証明されます。

⚠ 「株式を発行しない」と「株券を発行しない」は別物

よくある誤解ですが、株券不発行=株式を発行しない、ではありません。会社は株式を発行して資金を集め、株主が存在します。発行しないのは、その株式を表す証券(株券)だけです。「株式会社なのに株を発行しない会社」という意味ではない点に注意してください。

3株券発行会社と株券不発行会社の違い(比較表)一覧表

両者は、株式譲渡の方法・対抗要件・定款や登記の扱いが異なります。要点を表で整理します。

株券発行会社と株券不発行会社の比較
項目株券発行会社株券不発行会社
位置づけ例外(定款で「株券を発行する」と定めた会社)原則(会社法214条)
株券の発行物理的に発行する発行しない
株式譲渡の効力株券の交付が効力発生要件(会社法128条1項)当事者の意思表示(契約)で成立
会社への対抗要件株主名簿の名義書換え(会社法130条2項)株主名簿の名義書換え(会社法130条1項)
株主・株式の管理株券+株主名簿株主名簿で管理(会社法125条)
定款・登記「株券を発行する」旨を定款で定め、登記が必要(会社法911条3項10号)特段の定め・登記は不要

4株券不発行会社での株式譲渡の方法(会社法130条)新設

「株券がないと株式を譲渡できないのでは?」という質問をよく受けますが、そんなことはありません。株券不発行会社でも、株式は問題なく譲渡できます。

▶ 譲渡の成立と、対抗要件(名義書換え)

株券不発行会社の株式(振替株式を除く)は、民法の一般原則により当事者の意思表示(契約)だけで譲渡が成立します。ただし、会社その他の第三者に譲渡を対抗するには、会社に請求して株式取得者(譲受人)の氏名・住所を株主名簿に記載・記録させる必要があります(会社法130条1項・133条1項)。これを「株主名簿の名義書換え」といいます。

これに対し、株券発行会社では、株式譲渡は株券の交付が効力発生要件です(会社法128条1項)。この点が、不発行会社との大きな違いです。なお、譲渡制限株式の場合は、いずれの会社でも別途会社の承認手続が必要です。

⚠ 名義書換えは原則「共同請求」

名義書換えは、原則として株式取得者と名簿上の株主(またはその一般承継人)が共同で請求します。株券不発行会社では、確定判決を得た場合など会社法施行規則22条1項所定の場合に限り、取得者が単独で請求できます。譲渡の際は、名義書換えまで確実に行うことがトラブル防止の要です。

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5株券不発行会社に移行するメリット・デメリット

すでに株券発行会社となっている中小企業も、株券不発行会社へ移行することで、運営の合理化とリスク低減が期待できます。

メリット:コスト削減・リスク回避・事業承継/M&Aの円滑化

✓ 移行のメリット

株券の発行・保管・回収コストを削減でき、偽造・紛失・盗難のリスクもなくなります。さらに、M&Aや事業承継の場面で、過去の株式譲渡時に株券が交付されていなかったために権利の帰属が不明確になる、といった事態を防げます(株券発行会社では、株券未交付が原因で取引が頓挫する例もあります)。

デメリット:株主名簿の管理徹底が必須になる

⚠ 移行のデメリット・留意点

株券がない分、株主名簿の正確な管理が生命線になります。株式の譲渡・相続・自己株式取得・新株発行・株式併合/分割などがあったつど、名義書換えを正確かつ迅速に行う必要があります(会社法132条)。管理を怠ると、株主とのトラブルに発展しかねません。信託銀行等の株主名簿管理人に管理を委託する方法もあります。

6株券不発行会社への移行(株券廃止)の流れ手続き

「移行」=「株券を発行する旨の定款の定めの廃止(株券廃止)」

株券発行会社が株券不発行会社へ移行することは、法律的には「株券を発行する」旨の定款の定めを廃止すること(株券廃止)を意味します。手続の中心は、株主総会の特別決議による定款変更と、公告・通知、そして変更登記です。

事前準備:株券の回収(必要に応じて)実際に株券を発行している場合は、移行前に株券を回収しておくとスムーズです。株主に株券不所持の申出(会社法217条)をしてもらう方法などで対応します。移行後は株券が無効になるため、無効な株券が手元に残る混乱を防げます。
公告および株主・登録株式質権者への各別の通知効力発生日の2週間前までに、①株券廃止の定款変更をする旨、②その効力発生日、③効力発生日に株券が無効となる旨を、公告し、かつ株主等に各別に通知します(会社法218条1項)。公告・通知は到達主義のため、余裕を持って実施します。
株主総会の特別決議で定款変更(株券廃止)「株券を発行する」旨の定款の定めを廃止する定款変更を、株主総会の特別決議(議決権の過半数を有する株主が出席し、出席株主の議決権の3分の2以上の賛成)で行います(会社法466条・309条2項11号)。
効力発生後、2週間以内に変更登記定款変更の効力が発生したら、その日から2週間以内に、「株券を発行する旨」の定めの廃止に係る変更登記を申請します(会社法915条1項・911条3項10号)。
▶ 実務のコツ:通知と招集を一体で

取締役会設置の非公開会社では、株主総会の招集通知は原則1週間前まででよいところ、公告・各別の通知(2週間前まで)とタイミングを合わせて一体的に処理すると、コストと手間を抑えられます。

7移行の登記と「株券を発行していないことを証する書面」新設

移行手続の締めくくりが、法務局への変更登記です。ここでよく検索されるのが「株券を発行していないことを証する書面」です。

登記の期限と主な添付書類

▶ 変更登記(効力発生日から2週間以内)

「株券を発行する旨」の定めの廃止による変更登記の期限は効力発生日から2週間以内です(会社法915条1項)。主な添付書類は、定款変更を決議した株主総会議事録公告をしたことを証する書面(官報等)、そして株式の全部について株券を発行していないことを証する書面(該当する場合)などです。

⚠ 「株券を発行していないことを証する書面」とは

これは、実際には株券を1枚も発行していないことを会社が証明する書面で、株券発行会社が「株式の全部について株券を発行していない」場合の移行登記で用いられます。株券が現に存在しないため公告等に代えられる場面があり、通常は会社(代表者)が作成します。自社の発行状況に応じて要否が変わるため、登記の前に司法書士・弁護士に確認すると確実です。

8移行後に注意すべきこと(株主名簿の管理)

移行が完了しても、そこがゴールではありません。株券がない以上、株主・株式の唯一の管理台帳である株主名簿を適切に運用し続けることが不可欠です。

  • 株主名簿の備置き:すべての株式会社は、株主名簿を本店(株主名簿管理人がある場合はその営業所)に備え置く必要があります(会社法125条1項)。
  • 名義書換えの的確な運用:譲渡・相続・自己株式取得・新株発行・株式併合/分割などがあれば、正確・迅速に名義書換えを行います(会社法132条)。
  • 証明書交付請求への対応:株主は、株主名簿記載事項を証明する書面の交付等を請求できます(会社法122条)。求めに応じられる体制を整えます。
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9よくある質問(FAQ)新設

株券不発行はいつから原則になったのですか?
2006年(平成18年)施行の会社法により、株券不発行が原則、株券発行が例外(定款で定めた場合)となりました。上場会社は平成21年(2009年)1月の株券電子化によって、すべて株券不発行会社になっています。
「株式を発行しない」のと「株券を発行しない」は違いますか?
違います。会社は株式を発行して株主が存在します。株券不発行会社が発行しないのは、株式を表す証券(株券)だけで、株式そのものは当然に存在します。「株を発行しない会社」という意味ではありません。
株券不発行と「株券不所持制度」はどう違いますか?
株券不所持制度は、株券発行会社で、株主が「株券の交付を受けない」旨を会社に申し出る制度です(会社法217条)。会社全体として株券を発行しない「株券不発行(会社)」とは別の制度です。移行時の株券回収の場面で活用されることがあります。
株券不発行会社は登記が必要ですか?
株券不発行は原則のため、そのための特別な登記は不要です。登記が必要なのは、「株券を発行する」旨を定款で定めた株券発行会社(会社法911条3項10号)と、株券発行会社が不発行へ移行してその定めを廃止する場合の変更登記(効力発生日から2週間以内)です。
株券を紛失していても移行できますか?
できます。移行の効力発生日に株券は無効となるため、紛失した株券があっても手続は進められます。ただし混乱防止のため、事前に株券不所持の申出(会社法217条)などで回収・整理しておくことが望ましいです。
特例有限会社が株券廃止の定款変更をする場合の決議要件は?
特例有限会社が定款変更を行うには、総株主(頭数)の半数以上であって、かつ総株主の議決権の4分の3以上の賛成が必要です(会社法整備法14条3項)。通常の株式会社の特別決議とは要件が異なる点に注意してください。
株券不発行会社への移行(株券廃止)の手続きの流れは?
株券発行会社が株券不発行会社へ移行する(株券廃止する)ためには、①株主総会の特別決議(議決権の過半数を有する株主が出席し、その議決権の3分の2以上の賛成)で「株券を発行する旨」の定款の定めを廃止(会社法466条・309条2項11号)、②定款変更の効力発生日の2週間前までに、株主および登録株式質権者に対する公告・各別通知(会社法218条1項)、③効力発生日に旧株券は無効となり(会社法218条2項)、その日から2週間以内に変更登記(会社法911条3項10号・915条1項)、というステップを踏みます。実務上は、過去の株式譲渡の経緯や株券発行状況を事前に確認したうえで手続を進めることが望ましく、移行後1年間は株券喪失登録簿の作成・備置義務が残る点にも留意が必要です(会社法221条・231条1項)。
株券不発行会社でも、株主から株券発行を請求されるケースはありますか?
原則として、会社法214条により定款の定めがない限り会社は株券を発行しません(株券不発行が原則)。もっとも、公開会社(譲渡制限のない株式を発行する会社)の場合、株主からの請求により株券を発行しなければならない場面が生じ得ます。他方、多くの中小企業は全株式に譲渡制限が付された非公開会社であり、この場合には株主からの株券発行請求権は原則として認められません。譲渡制限の有無・定款の記載を確認したうえで、対応の要否を判断することになります。
株式譲渡制限会社と株券不発行会社の関係は?
両者は別々の概念ですが、中小企業の多くは「株式譲渡制限会社かつ株券不発行会社」に該当します。①株式譲渡制限会社とは、株式の譲渡について会社(取締役会または株主総会)の承認を必要とする会社をいいます(会社法107条1項1号)。②株券不発行会社とは、株券を発行しない旨を定款で定めた(または定めがない)会社をいいます(会社法214条)。株券不発行会社では、株式の譲渡は当事者間の合意で効力を生じますが、会社に対しては株主名簿の名義書換によって初めて対抗できます(会社法130条1項)。譲渡制限会社の場合、これに加えて会社の承認手続を経る必要があるため、両制度の要件を併せて確認する必要があります。

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