給料差し押さえ通知が届いたら?会社の対応を徹底解説|人事・経理担当者がやるべきこと

更新日: 2026.08.09
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人事・経理担当者向け

従業員の給料差し押さえ通知(債権差押命令)が会社に届いたら、会社は法律上の第三債務者として対応する義務があり、拒否も無視もできません。この記事では、通知が届いた直後の初動、差し押さえできる金額の計算、供託、税金滞納のケース、そして従業員への対応(解雇・懲戒の可否)まで、担当者が迷わず動けるよう順に解説します。

ある日突然、裁判所から「債権差押命令」という書類が会社に届く——。取引ではなく、従業員個人の借金や税金の問題であっても、会社は当事者として巻き込まれます。対応を誤ると会社が二重に支払うことになりかねません。まずは全体像から押さえましょう。

会社は差し押さえを拒否・無視できる?(第三債務者の立場)

給料の差し押さえは、法的には債権執行という強制執行の一つです。従業員(債務者)が第三者(債権者)に負う金銭を回収するため、裁判所が「給料の一部を従業員に払わず、債権者へ直接支払え」と会社に命じるものです。

このとき会社は、給料を支払う立場にある第三債務者として命令の名あて人になります。差押命令には法的拘束力があり(民事執行法145条)、会社の意思で拒否したり、従業員に同情して無視したりはできません。従業員から「払わないでほしい」と頼まれても応じられない、という点が対応の出発点です。

!結論

差押命令が届いたら、会社は受け取りを拒めず、命令に従う義務があります。無視・従業員への肩入れは「二重払い」などのリスクに直結します(詳細は後述)。まずは冷静に書類を確認し、期限内の手続きを進めることが最優先です。

関係者立場会社との関係
債権者お金を回収する側会社から差押分の直接支払いを受ける
債務者借金等を負う従業員本人給料の一部を受け取れなくなる
第三債務者給料を支払う会社裁判所の命令に基づき、差押分を債権者へ支払う義務を負う

差押通知が届いた直後の初動対応(3ステップ)

届いた直後は、次の順序で進めると漏れがありません。特に陳述書の返送には期限があるため、放置は禁物です。

1
送られてきた書類の内容を確認する

債務者(従業員)が自社の在籍者か、債権者は誰か、請求債権額(元金・利息・遅延損害金)、差押えの対象(給料・賞与・退職金の別)を正確に読み取ります。同封される「陳述催告書」の回答期限も必ず確認します。

2
従業員本人に事実確認と今後の流れを伝える

本人に事実を確認し、給料の一部が差し押さえられること・その計算方法を説明します。プライバシーに配慮し、借入れの理由などを根掘り葉掘り聞くのは避け、必要な範囲にとどめます。

3
期限内に「陳述書」を裁判所へ返送する

裁判所からの陳述催告(民事執行法147条)に対し、給料債権の有無・金額・他の差押えの有無などを回答します。虚偽や不正確な記載は損害賠償の原因になり得るため、事実に基づき正確に記載します。

差し押さえできる給与額の計算(4分の1ルール)

給料は従業員とその家族の生活を支えるものなので、全額は差し押さえられません。差押えが禁止される範囲は法律で定められています(民事執行法152条)。

計算の基準は「額面」ではなく「手取り」

差押禁止の範囲は、額面(支給総額)ではなく、所得税・住民税・社会保険料・通勤手当を差し引いた手取り額を基準に計算するのが実務上の扱いです。この手取り額の4分の3が差押禁止となり、残る4分の1が差押えの対象になります。

支給総額 23万円 −(税・社会保険料 4万円 + 通勤手当 1万円)= 基準額 18万円
18万円 × 3/4 = 13.5万円 … 差押禁止
18万円 × 1/4 = 4.5万円が差押え可能(会社が債権者へ支払う額の上限)

手取りが高額な場合の上限

手取りが政令で定める基準(月額44万円)を超える場合は、4分の1ルールではなく、44万円を超える部分が差押えの対象になります(差押禁止額は月33万円で頭打ち)。高給者ほど差押可能額が大きくなる、というイメージです。

養育費・婚姻費用などは「2分の1」まで

差押えの原因が養育費や婚姻費用など扶養義務等に係る債権の場合は特例があり、差押禁止の範囲が手取りの2分の1に緩和されます(民事執行法152条3項ほか)。子の生活を守るための優先的な扱いです。ただし会社が支払うのは、あくまで請求されている債権額が限度である点に注意します。

賞与(ボーナス)・退職金の扱い

賞与も給与に準じて4分の1が差押えの対象となります。退職金についても原則として4分の3が差押禁止です。差押命令が「給料及び賞与」を対象としている場合は、賞与支給時にも同様の計算で処理します。

差し押さえた給与の支払い・供託の手続き

計算した差押分をどこへ・どう払うかは、差押えが1件か、複数競合しているかで変わります。

差押えが1件の場合:債権者へ直接支払う

債権者が1人だけなら、会社は差押可能額をその債権者へ直接支払うことができます。取立てを受けたら、給料支払日に合わせて差押分を債権者に、残りを従業員に振り分けて支払います。

複数の差押えが競合した場合:「供託」が必要

同じ従業員の給料に複数の差押えが競合したり、配当手続きが必要になったりした場合、会社は差押分を法務局に供託する義務を負います(民事執行法156条)。単独債権者の場合の供託は「権利供託」、競合時の供託は「義務供託」と整理されます。

!実務上の注意

供託は給料の支払期ごとに行う必要があり、毎月の事務負担が生じます。遅延損害金の取り扱いなど細かな論点も多いため、競合案件や高額案件では、早めに弁護士へ相談して手続きを設計するのが安全です。

税金滞納による差し押さえ(滞納処分)は手続きが違う

「税金滞納で従業員の給料が差し押さえられた」というケースは、これまで説明した裁判所の債権執行とは手続きの入口が異なります。混同すると対応を誤るため、違いを押さえておきましょう。

比較項目裁判所の債権執行税金滞納の差押え(滞納処分)
根拠民事執行法国税徴収法・地方税法
差し押さえる主体債権者(裁判所の命令を得て)税務署・市区町村(自ら執行)
裁判所の関与あり(差押命令)なし(行政庁が直接通知)
会社に届く書面債権差押命令・陳述催告書債権差押通知書 等

税金の滞納による差押えは、裁判所を通さず、税務署や市区町村が自ら差押えを行い、会社へ直接通知します。会社が第三債務者として差押分を支払う点は共通しますが、手続きの窓口が行政庁になり、差押禁止の範囲の考え方にも独自のルールがあります。届いた書面が裁判所発か行政庁発かをまず確認し、不明な点は発送元へ照会するのが確実です。

担当者のチェックポイント

「市役所・税務署」から届いた場合は滞納処分、「裁判所」から届いた場合は債権執行。返送先・手続きが異なるため、書面の発送元を最初に見分けましょう。判断に迷う場合は自己判断で処理せず、専門家に確認してください。

差し押さえられた従業員への対応(解雇・懲戒はできる?)

給料差押えを理由に解雇・懲戒はできない

「事務手続きが増える」「会社の信用に関わる」として、差押えを受けた従業員を懲戒・解雇したいという相談は少なくありません。しかし、給料の差押えは従業員の私生活上の問題であり、これを理由とする懲戒処分は原則としてできません。

私生活上の非行が懲戒の対象になるのは、企業秩序や会社の社会的評価に重大な影響を及ぼす例外的な場合に限られると解されています(日本鋼管事件・最高裁昭和49年3月15日判決)。給料を差し押さえられた事実自体は会社の社会的評価を下げるものではなく、事務負担の増加も裁判所の法的手続に応じる会社の義務の範囲です。したがって、差押えを理由とした解雇・懲戒は避けるべきです。注意・指導を行うことは差し支えありません。

プライバシーへの配慮

差押えの事実は機微な個人情報です。社内で共有する範囲は手続きに必要な最小限にとどめ、本人への聞き取りも必要な範囲で行います。

§あわせて注意:社内貸付がある場合の相殺

会社が従業員に社内融資をしているケースでは、貸付金と給料を相殺して回収したくなりますが、差押え後に取得した債権では相殺できません(民法511条)。また賃金からの控除には労使協定(労働基準法24条)が必要です。回収可否は差押えと貸付の前後関係で変わるため、個別に確認が必要です。

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よくある質問(FAQ)

Q給料の差し押さえは、いつまで続くのですか?
A

請求債権額(元金・利息・遅延損害金)が完済されるまで、毎月の給料から差押分の支払いが続きます。差押えの原因が養育費などの継続的な債権の場合は、将来分についても効力が及ぶことがあります。完済や取下げの連絡が来たら、その内容を確認して処理を終えます。

Q従業員が退職・転職した場合はどうなりますか?
A

差押えを受けていても、従業員が退職すること自体は妨げられません。退職して給料の支払いがなくなれば、会社の支払義務も基本的に消滅します。ただし退職金が差押えの対象に含まれている場合は、退職金についても計算・処理が必要です。なお、差押えを理由に会社が退職を強要することは避けてください。

Q従業員本人にも通知は届きますか?会社にバレずに済みますか?
A

差押命令は会社(第三債務者)と債務者(従業員本人)の双方に送達されるため、本人にも届きます。会社は手続き上、差押えの事実を知ることになりますが、社内での共有は必要最小限にとどめる配慮が求められます。

Qボーナスや退職金も差し押さえの対象になりますか?
A

なります。賞与も給与に準じて4分の1が対象となり、退職金も原則4分の3が差押禁止(残りが対象)です。差押命令の対象欄に「賞与」「退職金」が含まれているかを確認し、支給時に計算して処理します。

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Q会社は給料差し押さえの手続きを拒否できますか?
A

基本的にはできません。差押命令が裁判所から会社(第三債務者)に送達された時点で、会社は法律上の応答義務を負い、対象社員の給料からの差押分を債権者へ支払う義務が生じます。「面倒だから対応しない」「本人に不利益だから応じない」といった理由での拒否は認められません。差押命令に対する陳述催告への回答を怠ったり、差押部分を本人に払い戻したりすると、二重払いのリスクや損害賠償責任を負う可能性があります。適法な差押えかどうかについて疑義がある場合は、会社側で判断せず弁護士に相談することをおすすめします。

Q差し押さえを理由に社員を解雇・懲戒できますか?
A

原則としてできません。給料の差押えは、社員の私的な金銭トラブル(借金・税金滞納等)に起因するもので、業務そのものに支障が生じているとは通常評価できないためです。差押えの事実のみを理由とする解雇・懲戒処分は、労働契約法や公序良俗の観点から無効と判断される可能性が高く、不当解雇や不当な処分としてトラブル化するリスクがあります。もっとも、差押えの背景に金銭管理上の重大な問題(会社の金銭を私的流用した等)や、業務への具体的な支障(無断欠勤の常態化等)がある場合には、その事実自体を対象として別途処分を検討する余地はあります。

Q税金滞納による差し押さえと通常の差し押さえは何が違いますか?
A

手続きの根拠となる法律と、通知の主体が異なります。通常の差押え(民事執行)は、債権者が裁判所に申し立て、裁判所から差押命令が送達されます。一方、税金滞納による差押え(滞納処分)は、税務署や地方自治体(市区町村)が国税徴収法・地方税法に基づき、裁判所を介さずに直接会社へ差押通知を行います。会社側の実務対応は概ね共通しますが、通知元の権限や連絡窓口が異なるため、届いた通知書の発信元(裁判所か行政機関か)を最初に確認することが重要です。滞納処分の場合、差押可能な範囲について国税徴収法76条の計算式が適用され、民事執行法とは異なる基準となる点にも注意が必要です。

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