業務上横領をした社員に対する会社の対応を弁護士が解説

更新日: 2026.10.02
問題社員 業務上横領 会社の対応とは
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企業法務/労務・コンプライアンス

従業員の横領が疑われたら、本人を問い詰める前に「証拠の保全」が最優先です。順序を誤ると、証拠の隠滅や突然の退職を招き、その後の刑事・民事対応が一気に難しくなります。

業務上横領罪(刑法253条)の位置づけ、初動の進め方、懲戒解雇の可否(労働契約法15条・16条)、刑事告訴・損害回収・身元保証人への請求、給与からの天引きの可否(労基法24条)まで、企業経営者の視点で弁護士が解説します。

まず結論

従業員の横領が疑われたら、最初に何をすべきですか?

本人を問い詰める前に、証拠の保全と事実確認を先に行うべきです。帳簿・通帳・伝票・メール・システムのログなどを確保する前に本人に気づかれると、証拠の隠滅や突然の退職を招きます。

横領した従業員をすぐ懲戒解雇できますか?

直ちにはできません。懲戒解雇は労働契約法15条(懲戒)と16条(解雇)の両方の規制を受け、就業規則上の根拠・十分な証拠・弁明の機会・処分の相当性が必要です。証拠が不十分な解雇は無効と判断されるおそれがあります。

横領された金銭は取り戻せますか?

取り戻せる可能性はありますが、確実ではありません。民事の損害賠償・返還請求、刑事告訴、身元保証人への請求などの手段がありますが、本人に資力がなければ回収は難しくなります。だからこそ早期の証拠保全と方針決定が重要です。

この記事の根拠となる主な条文
  • 刑法253条(業務上横領罪)・252条(単純横領罪)・247条(背任罪)/2025年6月1日施行の改正で「懲役・禁錮」は「拘禁刑」に一本化
  • 労働契約法15条(懲戒権の濫用)・16条(解雇権の濫用)/労働基準法24条(賃金全額払いの原則)/身元保証ニ関スル法律(期間・賠償額の制限)

業務上横領とは(横領・背任との違い)

従業員が、会社から預かって管理しているお金や物を自分のものにする行為は、刑法上の業務上横領罪(刑法253条)にあたり得ます。似た犯罪に単純横領罪や背任罪がありますが、成立要件と重さが異なります。

罪名成立する典型場面法定刑
業務上横領罪
(刑法253条)
業務として預かり管理する会社の金品を領得10年以下の拘禁刑
単純横領罪
(刑法252条)
業務でなく預かった他人の物を領得5年以下の拘禁刑
背任罪
(刑法247条)
任務に背く行為で会社に財産上の損害を与える5年以下の拘禁刑
または50万円以下の罰金
ポイント:経理担当が売上金を着服する、集金した現金を私的に流用する、といった典型例は業務上横領にあたります。「自分の権限で処理しただけ」といった弁解が出ることもありますが、権限の逸脱や名目を偽った支出は横領・背任として問題になります。なお2025年6月1日施行の刑法改正で、従来の「懲役・禁錮」は「拘禁刑」に一本化されています。

横領が疑われたときの初動(証拠保全が最優先)

最も多い失敗は、確たる証拠をそろえる前に本人を問い詰めてしまうことです。慌てて追及すると、証拠を隠されたり、退職して連絡が取れなくなったりして、その後の刑事・民事対応が一気に難しくなります。次の順序で進めます。

  1. 証拠の保全帳簿・通帳・領収書・伝票・メール・会計データ・入退室やシステムのログを確保する。
  2. 客観的な事実調査担当者以外の目で調べる。関係者ヒアリングは順序と範囲に注意する。
  3. 本人への事実確認と弁明の機会の付与証拠を示したうえで、本人の言い分を聞く。
  4. 方針決定懲戒処分の可否・刑事告訴・民事回収の方針を決める。
注意:証拠が固まる前の一方的な追及や、自白書だけを取る対応は避けます。強要と受け取られると、その自白の証拠価値が下がるだけでなく、後で会社側の責任を問われるおそれもあります。

横領した従業員を懲戒解雇できるか

横領は重大な非違行為ですが、懲戒解雇が当然に認められるわけではありません。懲戒解雇は、労働契約法15条(懲戒権の濫用)と16条(解雇権の濫用)の両方の規制を受けます。次の点がそろって初めて有効になります。

  • 就業規則に懲戒事由と懲戒解雇の定めがあり、周知されていること
  • 横領の事実を裏づける十分な証拠があること
  • 本人に弁明の機会を与えるなど、適正な手続を踏んでいること
  • 行為の重大性に照らして解雇が重すぎない(相当である)こと
バックペイのリスク:証拠が不十分なまま解雇を急ぐと、後の労働審判・訴訟で「不当解雇」と判断され、賃金の遡及支払い(バックペイ)を命じられるリスクがあります。証拠が固まっていない段階では、普通解雇や諭旨退職を含めて慎重に方針を検討します。

会社がとれる法的手段(回収と責任追及)

手段内容・ポイント
刑事告訴業務上横領罪で告訴。捜査を通じた事実解明・本人への強い圧力になる。告訴には証拠の整理が前提。
民事の損害賠償・
返還請求
不法行為・不当利得に基づく返還請求。支払督促・訴訟、財産隠しに備えた仮差押えも検討。
身元保証人への
請求
身元保証法により、期間の定めがなければ原則3年(最長5年)。ただし賠償額は諸事情を考慮して裁判所が減額し得る。
退職金の
不支給・返還
就業規則の定めと相当性が必要。全額不支給が認められるかは事案による。
給与や退職金からの一方的な天引きは避けてください。賃金は全額を支払うのが原則(労働基準法24条)で、本人の自由な同意なく損害額を勝手に差し引くと、別の法律違反になりかねません。相殺・返還は合意書や法的手続を通じて行います。

やりがちだが避けたい3つの対応

誤解1:まず本人を呼んで問い詰めればよい
→ 証拠保全が先です。先に追及すると証拠隠滅・退職を招きます。
誤解2:横領なのだから即日クビにできる
→ 懲戒解雇にも証拠と手続・相当性が必要で、不備があれば無効になり得ます。
誤解3:損害額を給与から差し引けばよい
→ 賃金全額払いの原則に反します。相殺は本人の同意や法的手続によります。

よくある質問(FAQ)

従業員の横領はどの犯罪にあたりますか?
会社から業務として預かり管理している金品を領得した場合、業務上横領罪(刑法253条)にあたり得ます。法定刑は10年以下の拘禁刑です。任務違背で会社に損害を与える行為は背任罪になることもあります。
横領を疑ったら最初に何をすべきですか?
本人に気づかれる前に証拠を保全することです。帳簿・通帳・伝票・メール・会計データ・システムログなどを確保し、客観的に事実調査をしてから、本人の弁明を聞く順序で進めます。
証拠が十分でなくても懲戒解雇できますか?
おすすめできません。懲戒解雇は労働契約法15条・16条の両規制を受け、十分な証拠・適正な手続・相当性が必要です。証拠が不十分だと不当解雇と判断され、バックペイを命じられるおそれがあります。
横領した本人に弁明の機会は必要ですか?
必要です。就業規則に基づく懲戒手続として、本人に事実を示して言い分を聞く弁明の機会を与えることが、処分の有効性を支えます。手続を省くと処分が無効となるリスクが高まります。
横領された金額を給与から天引きできますか?
一方的にはできません。賃金は全額を支払うのが原則(労働基準法24条)で、本人の自由な同意なく損害額を差し引くことは認められません。返還は合意書や訴訟などの手続を通じて行います。
退職金を支払わない、または返還させることはできますか?
就業規則に不支給・返還の定めがあり、行為の重大性に照らして相当と認められる場合に限られます。全額の不支給が認められるかどうかは事案ごとの判断になります。
身元保証人に賠償を求められますか?
求められる場合があります。身元保証法により、期間を定めなければ原則3年(最長5年)保証の効力があります。ただし賠償額は、会社の落ち度や監督状況など一切の事情を考慮して裁判所が減額することがあります。
刑事告訴と民事請求はどちらを先にすべきですか?
事案によります。刑事告訴は事実解明と本人への圧力に有効で、民事請求は損害の回収を目的とします。両方を組み合わせることも多く、まず証拠を整理したうえで、回収可能性や再発防止の観点から方針を決めます。

従業員の横領対応は難波みなみ法律事務所へ

横領が疑われる段階での証拠保全の進め方から、懲戒処分の可否判断、刑事告訴・損害回収まで、初動を誤らないよう企業側に立って支援します。顧問契約による平時の内部統制・再発防止の整備もご相談ください。大阪・なんば/心斎橋の難波みなみ法律事務所へ。初回相談30分無料・来所不要・zoom/電話対応。

※本記事は一般的な解説であり、個別の事案では対応の要否・内容は具体的な事情により異なります。従業員の横領対応(証拠保全・懲戒処分・刑事告訴・損害回収・身元保証人への請求)については、監修弁護士(難波みなみ法律事務所 代表弁護士 南 宜孝/大阪弁護士会)にご相談ください。

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