結論から。解雇理由証明書とは、解雇の理由を記載して交付する書面です。解雇を予告された(または解雇された)労働者から請求された場合、会社は遅滞なく交付する義務があり、拒否できません(労働基準法22条)。交付を怠ると罰則の対象になります。一方で、ここに書いた解雇理由は、後の不当解雇の紛争で会社側を縛ることになるため、就業規則の条項と事実に基づいて正確・具体的に作成することが極めて重要です。
従業員から解雇理由証明書を求められたら、断れますか?
断れません。労働者から請求があれば、会社は遅滞なく交付する義務があります(労働基準法22条)。拒否したり放置したりすると、30万円以下の罰金の対象となります。ただし、記載してよいのは労働者が請求した事項だけで、余計なことは書けません。
解雇理由証明書とは(労働基準法22条)
解雇理由証明書は、「なぜ解雇したのか」という理由を記載した証明書です。労働基準法22条2項は、解雇の予告をされた労働者が、解雇される日までの間に解雇理由の証明書を請求したとき、使用者は遅滞なく交付しなければならないと定めています。労働者はこれを、解雇に納得できるかの判断材料や、不当解雇を争う際の証拠として使います。
「退職時証明書」との違い
似た書面に「退職(時)証明書」があります。根拠条文と請求できる時期・内容が異なります。
| 解雇理由証明書 | 退職時証明書 | |
|---|---|---|
| 根拠 | 労働基準法22条2項 | 労働基準法22条1項 |
| 請求できる時期 | 解雇予告の日から解雇日までの間 | 退職後(解雇を含む退職時) |
| 記載内容 | 解雇の理由 | 使用期間・業務の種類・地位・賃金・退職の事由のうち、労働者が請求した事項 |
いずれも労働者が請求した事項のみを記載し、請求していない事項を書いてはいけない点は共通です。
何を書く?書いてはいけないことは?
解雇理由証明書には、次の事項を記載します。解雇理由は抽象的な表現ではなく、就業規則の該当条項と、それに当たる具体的な事実を対応させて書くのが実務のポイントです。
- 労働者の氏名
- 使用者(会社)の名称・氏名
- 交付の年月日
- 解雇の年月日
- 解雇の理由(就業規則の条項番号+該当する具体的事実)
書いてはいけないこと
- 労働者が請求していない事項を記載すること
- 再就職を妨害する目的で、秘密の記号を書き込むこと(労基法22条4項で禁止。違反は重い罰則の対象)
記載のコツ(実務)
行政通達(平成15年10月22日基発1022001号)も、解雇理由は「就業規則の当該条項の内容」と「その条項に該当するに至った具体的な事実関係」をセットで記載するよう求めています。条文番号を並べるだけ、「能力不足」「協調性の欠如」といった抽象的な言葉だけ、では不十分です。一方で、解雇理由を欲張って網羅的に列挙するのは逆効果です。理由が増えるほど「会社が本当に問題視していた点」がぼやけ、証拠として弱くなります。実務では本当に重要な理由を数点(目安として3つ程度)に絞るのがコツです。また、又聞き・伝聞をそのまま書き写すと、後で事実関係が食い違うおそれがあるため注意してください。
いつ交付する?拒否したらどうなる?
労働者から請求があったら、「遅滞なく」(=可及的すみやかに。おおむね1〜2週間程度が目安)交付します。正当な理由なく交付を拒んだり、放置したりすることはできません。なお、解雇理由証明書を請求できるのは「解雇予告の日から退職(解雇)日まで」で、退職日を過ぎた後は「退職時証明書」の交付で対応することになります。
交付しないと罰則があります
解雇理由証明書の交付義務に違反すると、会社および担当者は30万円以下の罰金に処される可能性があります(労働基準法120条)。「渡したくない」という理由で拒否することはできません。交付しないと、労働者は労働基準監督署に22条違反として申告し、行政指導で交付させることもできます。ただし、交付しなかったこと自体で解雇が直ちに無効になるわけではありません(あくまで別個の義務違反です)。なお、証明書の請求権は、原則として行使できるときから2年で時効消滅します(労基法115条)。
会社側が最も注意すべきこと
解雇理由証明書で最も重要なのは、「一度書いた解雇理由が、その後の紛争で会社を縛る」という点です。
後から解雇理由を追加・変更するのは難しい
解雇理由証明書に書いた理由は、不当解雇を争う労働審判・訴訟で有力な証拠になります。理論上、普通解雇では解雇時に認識していなかった事情も裁判で主張できる余地はありますが、実際には証明書に書いていなかった理由は「後づけ」と評価され、「会社が当時重視していなかった=それを理由に解雇するのは権利濫用」と判断されやすくなります。訴訟では証明書に記載された事実の有無が中心的な争点になるのが実情です。逆に、抽象的・不正確な記載をすると、会社の主張の信用性が下がります。だからこそ、解雇に踏み切る前(=解雇予告の段階)で理由を固め、就業規則の条項と具体的事実を正確に対応させて作成することが重要です。作成に不安がある場合は、交付前に弁護士へご相談ください。
記載イメージ(例)
※実際の記載は事案により異なります。就業規則の条項・事実関係を正確に反映してください。
退職勧奨で「合意退職」した場合はどうなる?
ここは会社が判断を誤りやすいポイントです。退職勧奨に応じてもらって合意退職が成立した場合は、「解雇」ではありません。そのため、解雇理由証明書を発行することはできず、労働者から求められても「解雇ではなく合意退職である」旨を書面で回答することになります(この場合は退職時証明書で対応します)。
「本人名義での請求」に注意
解雇理由証明書を本人名義で請求してくる場合、労働者側には「会社に発行させることで『解雇があった』という事実を固める」という狙いがあることがあります。安易に発行すると、後で「合意退職ではなく解雇だった」という前提で不当解雇を主張され、復職・バックペイ・慰謝料の請求につながることもあります。合意退職と考えている案件で証明書を求められたら、発行の前に「解雇か・合意退職か」の整理を弁護士に相談してください。なお、退職勧奨を拒否したうえで実際に解雇した場合は、当然に交付義務が生じます(拒否はできません)。
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解雇の可否や手続の詳細は、次の記事もご参照ください。
よくある質問
従業員から解雇理由証明書を求められたら断れますか?
解雇理由証明書と退職証明書は何が違いますか?
解雇理由証明書には何を書けばいいですか?
いつまでに交付すればいいですか?
解雇理由証明書を渡すと会社が不利になりますか?
解雇理由証明書の記載(就業規則の条項と事実の対応)、そもそも解雇できるかの見極め、不当解雇を主張された場合の対応まで、企業側の立場でサポートします。証明書は交付前のチェックが肝心です。
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本記事は一般的な情報提供であり、個別の事案の法的判断ではありません。解雇理由証明書の記載内容は事案ごとに異なります。具体的な作成・対応は弁護士にご相談ください。最終監修:南 宜孝 弁護士(大阪弁護士会)。
