能力不足で解雇することはできるか?能力不足の社員の対応を解説します

更新日: 2023.05.15
問題社員  能力不足 能力不足の社員と解雇

能力不足・勤務成績不良による解雇はできるのでしょうか。

能力が低く会社に貢献していないなら解雇できて当然と考える経営者もいるかもしれません。

しかし、能力不足を理由とした解雇には大きなリスクを伴います。

本記事では能力不足による解雇が有効となるための条件を弁護士が解説します。

1.能力不足の解雇が有効となるためには

能力不足を理由とする解雇が有効となるためには、解雇とする合理的な理由があり、解雇処分とすることが社会的に相当といえることが必要です。

労働契約法16条(解雇)
 解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。

具体的には、以下のような事情が求められます。

● 著しい成績不振

● 客観的に公平・平等な評価か

● 改善の余地が見込めるか否か

● 会社に生じる損失の程度

各条件について、詳しく見ていきましょう。

1-1 著しい成績不振

従業員の業績が著しく低い場合といえるためには、雇用契約を維持することが出来ないほどに成績不良の内容と程度が深刻であることが必要です。単に平均的な水準に達していないというだけでは十分な解雇理由にはなりません。

その従業員に対して求められる能力や勤務態度を踏まえて具体的な指標や目標に大幅に達成できていない状況が必要です。

人事考課が他の社員との比較により行われる相対評価である場合、相対評価が低いことのみを理由に解雇することは控えるべきでしょう。なぜなら、相対評価ということは、他の社員よりも評価の低い社員が常に存在することを前提としていますし、相対評価は主観的な指標により判断される傾向が強いからです。

1-2 客観的に公平・平等な評価か

成績不振を解雇理由とする場合、客観的かつ公平な評価をするための基準が必要です。

透明性を持ち、従業員が理解しやすい評価基準や方法を伝え、フィードバックや指導を行うことで、成長の機会を提供していく必要があります。

評価基準が客観的で公平かつ平等であることを確認するために、評価基準の明確さや統一性、フィードバックや指導の適切性、プロセスの透明性をチェックすることが重要です。他の従業員との比較を前提とする相対評価ではなく、明確な目標数値を設定した絶対評価による基準を採用するようにしましょう。

1-3 改善の余地が見込めるか否か

解雇前に従業員に対して改善の機会や指導を行い、改善の余地が見込めない場合に解雇を検討することが望ましいです。

能力不足や勤務成績不良であっても、いきなり解雇することは控えるべきです。教育訓練や本人の能力にマッチした配置転換を行うなど改善の機会を与えて、解雇回避の措置を行うことが必要です。

具体的には以下のとおりです。

● パフォーマンス評価とフィードバック

● 研修やOJTの実施

● メンターやコーチの割り当て

● 目標設定と進捗管理

● 能力や経験に合わせた配置転換を行う

これらの取り組みを通じて、従業員が業務改善のためのサポートを受ける機会を提供した上で、改善の余地が見込めない場合に解雇処分を選択します。

1-4 会社に生じる損失の程度

能力不足による解雇が正当とされるためには、会社に損失が生じたことが必要です。

例えば、生産性が低く、他の従業員に影響を及ぼしている場合が考えられます。

以下は、考えられる損失の例です。

● 売上や利益の減少

● クレームやトラブルの増加

● 他の従業員への負担増加

● 研修や指導のコスト増加

● プロジェクトの遅延や失敗

● 従業員の離職率の増加

● 顧客との信頼関係の損失

● 法的リスクの増加

● 企業秩序の悪化

1-5.就業規則の定め

能力不足による解雇処分は、懲戒解雇ではなく普通解雇とすることが一般的です。

懲戒処分であれば、会社による制裁ですから就業規則の根拠が必要となります。しかし、能力不足の普通解雇は、雇用契約の債務不履行と考えますから、就業規則や雇用契約書の根拠は必要とまでは言えません。

ただ、労働者に対する予測可能性を担保するためにも、就業規則や雇用契約書には、能力不足が解雇事由となることを明記しておくことが必要でしょう。

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2 ケース別でみる能力不足の解雇

ケース別でみると、能力不足が解雇の原因となることがあります。

これは、従業員が新しい職務に対応できなかった場合や、業務に必要なスキルや知識を持っていなかった場合、あるいは業務内容が変化したことに適応できなかった場合などが挙げられます。

2-1試用期間満了時の解雇

試用期間中の従業員が能力不足であると判断された場合、試用期間の満了時に本採用を見送ることが一般的です。

採用時には知らなかったものの、試用期間を通じて、労働者としての適格を持たないことがわかった場合には、本採用拒否できる場合があります。

試用期間中の雇用契約は、解約権の留保された雇用契約であると考えられています。そのため、本採用後の解雇とは全く同じというわけではないため、本採用後の解雇よりも広い範囲で解雇が認められています。ただ、本採用の拒否も、解雇の一種ですから制限なく行えるわけではありません。そのため、採用時に期待していた能力や資質を有さないことが分かる客観的な資料を整理しておきましょう。

2-2アルバイトの能力不足

アルバイト従業員も雇用契約に基づき採用されている以上、解雇処分の対象となり得ます。

アルバイトはパートタイマーも、法律上の違いはなく、パートタイム労働者とされています。

アルバイトを含めたパートタイマーは、パートタイム労働法によって保護されており、正社員との差別的な取り扱いが禁止されています。

そのため、アルバイトだからといって、主観的に能力がない、成績が悪いという理由で解雇をすると不当解雇となります。

2-3新卒採用の能力不足

新卒者の能力不足を理由とした解雇はかなりハードルが高いです。

我が国においては、終身雇用を予定して新卒者を採用する文化が根付いています。新卒者は社会経験も乏しいため、実務能力が乏しいことを前提としているため、会社には、新卒者を教育訓練し、会社に貢献できる社員に育成することを求められています。

つまり、新卒者が能力不足であることは採用時から織り込み済みということです。

そのため、新卒者を能力不足を理由に解雇することは許容されません。能力不足であれば、OJTや社外研修も含めた教育プログラムを試行したり、配置転換をするなどして、改善の機会を十分に与えるべきでしょう。

ただ、著しく能力が欠如しており、向上の見込みがおよそ無いような場合には、解雇が有効となる予知はあるでしょう。

セガ・エンタープライゼス事件(東京地決平11.10.15)

社員が従業員として、平均的な水準に達していなかったからといって、直ちに本件解雇が有効となるわけではなく、著しく労働能力が劣り、しかも向上の見込みがないときでなければならない。

2-4中途採用の能力不足

中途採用者の能力不足を理由とした解雇も、そう簡単に認められるわけではありません。

ただ、新卒採用のように、長期間の教育訓練を行い育成することを予定していない、即戦力として採用された中途採用者であれば、能力が欠如しており、改善しようとしない場合には、解雇できる可能性があります。

他方で、中途採用者であっても、特定の業務に特化せずに、対象業務を汎用性のある業務とする場合には、配置転換や教育訓練を実施することが求められるでしょう。

2-5経営幹部の能力不足

中途採用者であっても、かなりの高賃金で、経営に参画する経営幹部として採用された社員(地位特定者)については、能力不足を理由とした解雇が比較的認められる傾向です。

なぜなら、経営幹部として採用されており、教育訓練を行うことは全く予定されていないからです。また、配置転換や降格も予定されていません。

ただ、地位特定者にあたるかの判断は慎重に行うべきです。肩書きだけで判断するのではなく、与えられた権限や裁量、地位特定者としての待遇かを精査し、教育や降格を予定しない地位特定者といえるかを判断します。

また、地位特定者であっても、主観的・恣意的に『能力がない』『期待に反する』といった理由では能力不足と判断できません。

できる限り、定量的な目標値を設定するなどして、地位特定者に対して求められる能力や成果を「見える化」するようにしましょう。

フォード自動車事件(東京高判昭59.3.30)
人事本部長として雇用された労働者に対して、適格性を欠くとして解雇処分がなされましたが、裁判所は、人事本部長という地位を特定した雇用契約であることを重視して解雇を有効としました。

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3.不当解雇の場合の企業側のリスク

企業側が、ローパフォーマンスの社員を十分な理由もなく普通解雇すると、思ってもいないような経済的な負担を強いられます。

3-1.バックペイ

不当解雇をした場合、企業は解雇を社員に対して、解雇してから解決時までの給与額の合計額を支払う義務を負います。

解雇が不当解雇であり無効であれば、雇用契約は解消されずに存続していることとなります。

社員は、会社に対して労働を提供して、その対価として給与を受け取ります。

しかし、会社が一方的な解雇処分をしたことによって、労働者は勤務をして労働を提供したくてもできない状況になります。このような状況は、会社の不当解雇によって一方的に作り出された状況です。

このような場合にまで、労働者の給与をもらう権利を奪うのは不公平と考えられています。

そのため、解雇が無効となれば、判決や和解時までの給与合計額を負担する必要が生じます。

3-2.解決金

解雇が不当解雇となれば、雇用契約は存続しています。そのため、社員は、雇用契約に従って復職できるはずです。

しかし、労働審判や訴訟手続きを通じて企業と労働者の信頼関係はかなり破綻しています。企業側としては一度解雇をした社員の復職を望まないでしょう。

そこで、社員の復職を回避して雇用契約を終了させるために解決金を支払わなければならないこともあります。

解決金の金額は、訴訟手続きにおいて、負担する場合が多く、解雇の違法性の程度に応じて決定されるのが一般的です。

3-3.残業代の請求を受ける

不当解雇を受けたことが契機となり、社員から残業代等の請求を受ける場合もあります。

不当解雇を受けた社員は、労働基準監督署や弁護士に相談します。労基署の担当者や弁護士は社員に対して、労働時間の実態や残業代の支払状況を聞き取ります。これがきっかけとなり、社員は、残業代等が未払いとなっていることを知るに至ります。

そこで、社員は会社に対して、解雇の無効とともに時間外等割増賃金を請求します。

会社は、過去3年分の時間外等割増賃金を支払う必要が生じる可能性があります。

3-4.付加金の負担

時間外等割増賃金を支払っていない場合、使用者は、時間外等割増賃金と同額の金員を支払う義務を負います。この金員を付加金と呼びます。

つまり、企業は社員に対して、時間外等割増賃金の2倍の金額を支払う必要が生じるということになります。

3-5.会社の社会的評価の低下

不当解雇をしたことで、企業の社会的評価が低下し、人材の流出や新規人材の確保が難しくなる場合があります。

不当解雇を受けた社員がSNSや転職掲示板等に会社の悪評を書き込むことで、会社の悪い情報が拡散されてしまいます。

企業の社会的評価が落ち込むことで、従業員の愛社精神(モラール)が低下することで、モチベーションが悪化し、離職を招きます。さらに、社会的評価の低い企業への転職を控えるようになり、転職希望者の雇用も難しくなるかもしれません。

▶裁判所の労働審判に関する解説はこちら

4.能力不足の従業員に対する対応

組織には、さまざまなタイプの従業員がいます。

能力不足の従業員に対する対応は、組織にとって重要な課題です。

4-1能力不足を客観的に確認できる証拠の収集

能力不足か否かは一見してわかるものではありません。

そのため、能力不足を理由に解雇する場合には、その社員に求められている能力とその能力が不足していることを裏付ける客観的な資料を準備します。

特に、解雇は従業員にとって深刻な影響を与えるため、解雇を決定する前に、従業員の業務成績を詳細に分析することが重要です。

分析には、業務評価表や成績報告書など、客観的なデータを用意しましょう。

業務評価表では、従業員の業務成果、業務遂行能力、コミュニケーション能力、チームワークなどについて客観的に評価されます。

成績報告書は、従業員の業績や成果をまとめた報告書であり、業務評価表とは異なる観点から業務成績を評価できます。

これらの資料を適切に分析することで、能力不足による解雇を検討する際に、より正確な判断ができるようになります。

4-2改善のための指導を行う

従業員に改善の機会を与えるためには、指導や研修を実施することが重要です。

例えば、業務に関する研修やメンター制度を導入することで、従業員の技能や専門知識を向上させられます。

従業員の意見を取り入れることで、仕事のやり方やプロセスを改善できます。

さらに、モチベーションを高めるために、社員のキャリアパスを明確に示し、スキルアップのための機会を提供することも有効です。

具体的な改善方法を提案することで、従業員が自ら積極的に改善に取り組めるようになります。

4-3業務日報を作成させる

業務日報の作成を命じることで、能力不足の『気付き』の機会となります。また、能力不足の原因を知ることで、それを改善できる機会にもなります。

能力不足の社員には、自身の能力不足に気付けないことも多くあります。

30分から1時間毎に業務内容を記録することで、業務の非効率な部分やパフォーマンスの低くなっている業務を見える化させることができます。

さらに、一方向的な日報ではなく、上長のコメントを付けることで、双方向のコミュニケーションのツールにもなります。ローパフォーマンスは、上司や同僚とのコミュケーション不足によるモチベーションの低下によって生じている可能性もあります。コミュニケーションの活性化により能力不足が改善される場合もあります。

4-4配置転換を試みる

能力不足がある部分に対しては、配置転換(配転)を試みることも一つの対応策です。

異なる部署や業務に配置転換することで、従業員は新しい環境でスキルを磨くことができ、会社もそのスキルを活かせるようになるでしょう。

配置転換は従業員のモチベーション向上にもつながります。

新しい環境での仕事によって、従業員は自分の可能性に気付き、自信を付けられます。

さらに、異なる部署や業務での経験は、従業員の視野を広げ、企業全体にとって有益なアイデアや提案を生み出すことにもつながるでしょう。

従業員が配置転換に前向きであることが重要であるため、会社側は、従業員が自分のスキルを活かせる環境を提供することが望ましいです。

4-5退職勧奨を行う

改善に向けた取り組みが行われたにもかかわらず、業務成績が改善しない場合や、従業員自身が退職を希望する場合、退職勧奨を行うことが選択肢の一つです。

退職勧奨には、従業員の個人的事情や希望するキャリアパスなどさまざまな要因が影響するため、適切な手続きや配慮が求められます。

例えば、退職勧奨を検討する際には、従業員に対してその理由や背景を十分に説明し、その上で再度改善に向けた支援策を提供するなど、丁寧で適切な対応が必要です。また、社員が退職勧奨に難色を示すことを予想して、上乗せ退職金や有休買取などの退職条件を用意しておくと良いでしょう。

このような手続きや配慮を怠ると、従業員が不当な扱いを受けることにつながるため、注意しましょう。

4-6.解雇処分を行う

退職勧奨を経てもなお、退職の合意に至らなければ、解雇処分を検討することになります。

配置転換、教育訓練、降格処分などの取りうる方策を尽くしても改善できなければ解雇処分とせざるを得ません。

使用者が社員に対して、解雇処分を通告します。

この場合には、口頭ではなく処分内容と理由を記載した文書をもって解雇処分を通告します。

また、解雇処分とする場合には、少なくとも30日前の解雇予告をするか、即時解雇であれば30日分以上の平均賃金を支払う必要があります。この30日分以上の平均賃金を解雇予告手当と言います。

4-7.解雇処分時の注意点

普通解雇は会社都合による離職です。また、解雇処分ではない退職勧奨による退職も会社都合による離職となります。

会社都合による離職となれば、退職した社員は、7日間の待期期間を経れば失業給付金(失業手当)を受給できます。

他方で、会社は、会社都合の離職により、助成金の要件を満たさなくなり、助成金の受給ができなくなるリスクがあります。例えば、キャリアアップ助成金に関しては、正社員への転換日の前日から起算して6か月前〜1年を経過した日までの間に会社都合退職者がいると受給することができません。

5.予防策を講じておく

能力不足による解雇を避けるためには、以下のような予防策を講じることが重要です。

5-1採用時に能力検査を実施する

採用時には、能力検査が実施され、適性が確認されることが望ましいです。

能力不足による問題を未然に防げます。

採用プロセスでは、適性検査や面接によって、求められるスキルや経験を事前に確認することが重要です。

適性検査は、応募者のスキルや経験に基づいて、応募者の適性を評価するために行われます。

面接では、応募者の人格、コミュニケーション能力、そして仕事に対するモチベーションを評価できます。

これにより、採用後に問題が発生する可能性を低減できます。

5-2試用期間を設ける

試用期間は、従業員の能力を評価するために非常に役立ちます。

試用期間は、従業員が適性を持っているかどうかを確認するために行われるため、試用期間が終了する前に適切な指導と評価を行うことが重要です。

試用期間中、従業員は、仕事の内容や職場の雰囲気を経験することができ、その後に自分に適した仕事を選べるため、試用期間は従業員にとってもメリットがあります。

さらに、試用期間は、従業員と雇用者の間における信頼関係の構築にも役立ちます。

5-3有期雇用とする

有期雇用を導入することにより、従業員の能力不足に対処できます。

有期雇用とは、雇用期間が一定期間のみである雇用契約のことです。

従業員の能力が不足している場合、雇用契約の更新をすることなく、有期雇用期間が終了した後に雇用関係を終了させられます。

ただし、有期雇用には一定の制約があるため、法令に則った運用が必要です。

能力不足での解雇は、一定の条件が揃っている場合に妥当とされます。

従業員の能力不足については、具体的な事例や法令、判例、裁判例を参考にしながら、適切な対応を行うことが重要です。

企業側としては、従業員の能力向上を促す環境を整え、適切な人事管理を行うことが望ましいでしょう。

例えば、以下のような方法が考えられます。

● 研修プログラムの提供

● フィードバックを提供することによる改善の促進

● キャリアアップにつながるプロジェクトへの参加

● 給与や福利厚生の改善

これらの取り組みにより、企業側は従業員の能力向上を促進し、能力不足の従業員を解雇することを避けられます。

6.能力不足の社員の対応は弁護士に相談を

能力不足の社員を放置すると、会社に数々の損失を生じさせます。

在籍する他の従業員のモチベーションを低下させたり、会社全体の作業効率を悪化させます。

そのため、企業は、能力不足の社員を決して放置せず、教育訓練、適正な人材配置、解雇といった対応を行う必要があります。

当事務所には、中小企業診断士である弁護士が在籍しており、中小企業法務全般を得意としています。

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