トラックやタクシーのドライバーが、荷待ちや客待ちで「待っている時間」。この待機時間(手待ち時間)に給料は出るのか、それとも休憩時間なのか——ドライバーと運送・タクシー会社の双方で、最もトラブルになりやすいポイントです。残業代請求では、この待機時間の扱いで請求額が大きく変わります。
この記事では、まず「待機時間・手待ち時間とは何か(労働時間にあたるか)」と「休憩時間との違い」を先に整理し、①労働時間となる具体例、②トラックの荷待ち時間と賃金・待機料、③タクシー運転手、④役員運転手(専属運転手)の断続的労働、⑤裁判例と改善基準告示までを、労働時間・残業代の実務の視点で弁護士がわかりやすく解説します。
手待ち時間(待機時間)とは、実際の作業はしていないが、指示があればすぐ作業できるよう待っている時間をいい、使用者の指揮命令下に置かれているため、原則として労働時間にあたります(=賃金が発生し、残業代の対象にもなります)。これに対し、休憩時間は労働者が自由に利用できる時間で、労働時間ではありません。両者を分けるのは、「指示があれば直ちに作業しなければならないか(=労働からの解放が保障されているか)」です。ドライバーの荷待ち・客待ちの多くは、この基準により労働時間と判断されています。
1待機時間・手待ち時間と休憩時間の違い(比較表)一覧表
「待機時間」「手待ち時間」「休憩時間」は混同されがちですが、労働時間にあたるかどうかがまったく異なります。まず違いを表で整理します。
| 項目 | 手待ち時間(待機時間) | 休憩時間 |
|---|---|---|
| 状態 | 指示があれば直ちに作業が必要 | 労働者が自由に利用できる |
| 指揮命令下か | 置かれている | 置かれていない |
| 労働時間か | 労働時間にあたる | 労働時間ではない |
| 賃金・残業代 | 発生する(対象になる) | 発生しない |
| ドライバーの例 | 荷待ち・客待ち・荷物の管理待ち | 指示なく自由に食事・仮眠できる時間 |
労働時間とは、労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間をいいます(客観的に判断されます)。実作業をしていなくても、使用者の指示や、あらかじめ定められた事象(客の来店など)があれば直ちに作業しなければならない状態なら、指揮命令下にあるものとして労働時間になります。
2手待ち時間(待機時間)が労働時間となる具体例
次のような「待っている時間」は、指揮命令下にあるものとして労働時間と判断されます。
- 荷待ち時間:トラックが荷積み・荷下ろしの順番を待っている時間、時間指定がなくいつ呼ばれるか分からない待機。
- 客待ち時間:タクシーが乗客を待つ時間、来店・来客を待つ時間。
- 荷物の管理待ち:配送先からの連絡を待ちつつ、トラックと積荷(冷凍品の温度管理など)を管理し続けなければならない時間。
- 来客当番:休憩中でも来客当番として待機させられている場合(この場合は休憩ではなく労働時間)。
荷下ろしが終わり、次の指示まで自由に過ごせる(飲酒・仮眠・買い物が自由、呼び出しに応じるかを自分で決められる)時間や、長距離運転の途中でまとまってとる休憩は、労働から解放されているとして休憩時間と評価されることがあります。実態がどうかが決め手です。
3トラックの荷待ち時間は労働時間?賃金・待機料はどうなる新設
運送業は、荷先・配送先の都合や順番待ちで荷待ち(待機)時間が恒常的に発生し、長時間に及ぶことも少なくありません。この時間が労働時間(手待ち時間)にあたれば、賃金・残業代の対象です。もっとも、労働時間にあたるかは待機中の実態から個別に判断されます。
労働時間性が強まる:時間指定がなくいつ呼ばれるか不明/危険物・高価品・冷凍品で常時監視が必要/荷台を施錠できない/路上で待機/列をなして少しずつ前進/呼出しに即対応が必要。
労働時間性が弱まる:時間指定がある/到着後すぐ荷役できる/荷台を施錠できる/コンビニ・SA等で自由に待機できる/ドライバー用休憩スペースがある/呼出しに自分の都合で対応してよい。
荷待ち時間も労働時間なら賃金・残業代の支払いが必要です。近年は荷待ち時間の把握・記録が求められ、標準的な運賃の中で待機時間料を収受する考え方も示されています。デジタコ(デジタルタコグラフ)や日報の「休憩ボタン」を実態と違って押している場合、後の残業代トラブルで争点になります。実態に合った記録運用が重要です。
4タクシー運転手の待機(客待ち)・労働時間・休憩新設
タクシー運転手の客待ち(付け待ち)時間も、いつ来るか分からない乗客に適切に対応できる体制を求められている以上、原則として労働時間です。「営業所以外での一定時間を超える待機は労働時間から除外」といった運用が争われた裁判例もあり、実態次第で判断されます。
「休憩」とするには乗務からの解放(自由利用)が保障されていることが必要で、客待ちをさせながらの時間は休憩になりません。タクシー運転者には、後述の改善基準告示により拘束時間・休息期間の上限が定められています(隔日勤務など勤務形態ごとに基準があります)。
5役員運転手(専属運転手)の手待ち時間と断続的労働新設
社長・役員の専属運転手は、送迎の合間の手待ち時間が非常に多いのが特徴です。この手待ち時間も、原則は指揮命令下の労働時間ですが、「監視・断続的労働」として例外的な扱いが認められる場合があります。
手待ち時間が多く労働密度の薄い業務は、所轄労働基準監督署長の許可を受ければ、労働時間・休憩・休日の規定が適用除外となります(労基法41条3号。ただし深夜割増は適用されます)。役員運転手はこの許可の対象になり得ますが、許可がなければ通常どおり労働時間として扱われ、残業代が発生します。「専属運転手だから残業代は不要」という思い込みは危険です。
6手待ち時間をめぐる主な裁判例判例で解説
いずれも、待機中に労働から解放されていたか(自由利用が保障されていたか)を実態に即して詳細に検討しています。逆に、次の指示まで自由に過ごせた事案では労働時間性が否定されています。
7ドライバーの拘束時間・休息期間(改善基準告示)2024年改正
自動車運転者(トラック・バス・タクシー)については、労働時間そのものに加え、「改善基準告示」(自動車運転者の労働時間等の改善のための基準)により、拘束時間(始業から終業までの時間)と休息期間の上限・下限が定められています。2024年4月の改正で基準が強化されました。
拘束時間=労働時間+休憩時間(手待ち時間を含む)。改善基準告示は、1日・1か月・1年の拘束時間の上限や、勤務と勤務の間に確保すべき休息期間(継続した休みの時間)などを定めます。待機・手待ち時間はこの拘束時間に含まれるため、待機が長い運送・タクシーでは、拘束時間の管理が重要です。
8手待ち時間以外にも注意すべき労働時間
待機時間のほかにも、次のような時間が労働時間と判断されることがあります。ドライバーに限らず共通する論点です。
- 点呼・点検の時間:始業前の点呼やアルコールチェック、車両点検の時間。
- 移動時間:会社にいったん集合して資材を積み、現場へ向かう移動など、業務性のある移動時間。
- 着替え時間:制服・作業着への着替えが義務づけられている場合の着替え時間(三菱重工長崎造船所事件・最判平12.3.9 等)。
- 研修・ミーティング:参加が事実上義務づけられている研修や終業後のミーティング。
9企業側(運送・タクシー会社)が取るべき対応
運送業は長時間労働と待機時間により、残業代請求が高額化しやすい業種です(1,000万円を超える請求例もあります)。待機時間の扱いを曖昧にしたまま放置すると、後日まとめて請求を受けるおそれがあります。早めに労働時間管理を見直すことが重要です。


