- Q. 「利害関係」とは?
- ある事項について直接的な利益・不利益を受ける関係を指します。会社法369条2項の「特別の利害関係」はさらに限定され、取締役の忠実義務の誠実履行が定型的に困難と認められる個人的な利害関係を意味します。
- Q. 特別利害関係取締役はどう扱われる?
- 取締役会の議決に加われず、定足数からも除外されます(会社法369条2項)。利益相反取引の承認・取締役の責任一部免除・代表取締役の解職などが典型例です。
- Q. 違反した決議はどうなる?
- 決議取消しの訴え(会社法831条1項3号)の対象となります。ただし当該取締役を除外しても決議に必要な多数が存在すれば有効と解されています(最判平28.1.22ほか)。
株主総会や取締役会の議案に関して、しばしば問題になるのが「特別利害関係人(特別利害関係取締役)」の扱いです。特別の利害関係を有する取締役は、その議案の議決に加わることができません(会社法369条2項)。
本記事では、「利害関係」「特別利害関係」とは何かという基本の定義から、会社法369条の条文、該当・非該当の具体例、取締役会での制限(議決権行使の禁止・定足数からの除外)、決議に加わってしまった場合の効力、株主総会との違いまで、実務で押さえるべきポイントをわかりやすく解説します。
1「利害関係」「特別利害関係」とは?(まず定義をわかりやすく)新設
まず言葉の意味を、広い順に整理します。
- 利害関係とは
- ある物事の結果によって、利益を受けたり損失を被ったりする関係のことです。一般には「その事柄と得失の関わりを持っていること」を指します。
- (法律上の)利害関係とは
- 法律上の権利・義務に影響を受ける関係をいい、単なる事実上・経済上の関わりより限定的に捉えられます。
- 特別(の)利害関係とは(取締役会)
- 取締役会の決議について、特定の取締役と会社の利益が衝突し、その取締役が会社に対する忠実義務を誠実に履行することが定型的に困難と認められる、取締役個人の(または会社外の)利害関係をいいます。この関係を持つ取締役が「特別利害関係取締役(特別利害関係人)」です。
「その議案で会社と個人の利益がぶつかり、公正な議決を期待しにくい取締役」が特別利害関係取締役です。だからこそ、その議案の議決からは外れることになります(会社法369条2項)。
2なぜ特別利害関係取締役は議決に加われないのか
取締役は、会社に対して善管注意義務(会社法330条・民法644条)と忠実義務(会社法355条)を負い、会社のために職務を行う立場にあります。ある議案について個人的な利害を持つ取締役が議決に加わると、自己の利益を優先して会社に不利益な判断がなされるおそれがあります。
そこで会社法は、取締役会決議の公正を確保するため、特別の利害関係を有する取締役をあらかじめ議決から除外することにしました。会社の利益を不当に害することを防ぐという、明確な目的に基づく制度です。
3会社法369条(1項〜3項)をわかりやすく解説新設
特別利害関係取締役のルールは、会社法369条に置かれています。1項〜3項を順に押さえると全体像がつかめます。
- 1項(決議の要件):取締役会の決議は、議決に加わることができる取締役の過半数が出席し、その過半数をもって行う(定款で加重可能)。=定足数と決議要件。
- 2項(特別利害関係の排除):決議について特別の利害関係を有する取締役は、議決に加わることができない。
- 3項(議事録):取締役会の議事については、法務省令に従い議事録を作成し、出席取締役・監査役が署名または記名押印する。
これは、①その議案で議決権を行使できないだけでなく、②定足数を数える基準(1項の「議決に加わることができる取締役」)からも除外されることを意味します。たとえば取締役5名のうち1名が特別利害関係人なら、残る4名を基準に過半数(3名)の出席・賛成で決議します。
4特別利害関係取締役に該当する具体例/該当しないケース新設(一覧表)
特別利害関係にあたるかは条文に列挙されておらず、「その決議で会社の利益を害するおそれがあるか」という観点から個別に判断されます。代表的な整理は次のとおりです。
| 判定 | 議案・場面 | 根拠・ポイント |
|---|---|---|
| 該当 | 利益相反取引(直接・間接取引)の承認 | 当該取締役(会社法356条1項2号・3号、365条) |
| 該当 | 競業取引の承認 | 当該取締役(会社法356条1項1号、365条) |
| 該当 | 取締役の責任の一部免除の決議 | 免除を受ける取締役(会社法426条) |
| 該当 | 会社・取締役間の訴訟の会社代表者の選任 | 当事者となる取締役(会社法364条) |
| 該当 | 代表取締役の解職 | 解職の対象となる代表取締役(最判昭44.3.28) |
| 非該当 | 代表取締役の選定 | 候補者である取締役(業務執行の決定への参加) |
| 非該当 | 取締役の報酬額を決定する決議 | 報酬を受ける取締役(名古屋高裁金沢支部 昭29.11.22) |
同じ代表取締役でも、解職の対象=該当、選定の候補者=非該当と、扱いが逆になります。実務で最も間違えやすい点です。
5特別利害関係取締役が取締役会で受ける制限
議決権は行使できない(定足数からも除外)
特別利害関係取締役は、その議案の議決権を行使できず、定足数の計算からも除かれます。「賛成・反対のカウントに入らない」だけでなく、そもそも出席者の頭数にも数えられないという意味です。
審議への参加・意見陳述・議長
通説・実務は、決議の公正を確保する趣旨から、特別利害関係取締役は審議の段階から排除され、議長も務められないと解しています(議長として承認決議を主導したケースで決議を無効とした裁判例=東京高判平8.2.8ほか)。もっとも、意見陳述権については肯定説もあり、実務では、必要に応じて事実関係の説明を求めたうえで退席させる等の運用が取られます。なお、招集通知自体は当該取締役にも発する必要があります。また、別の(利害関係のない)議案の審議・議決には参加できます。

6決議に加わってしまった場合の効力とリスク
特別利害関係取締役が誤って議決に加わった場合、その決議の効力が問題になります。裁判例は、当該取締役を除外してもなお決議の成立に必要な多数が存在するときは、決議は有効と解しています(最判平28.1.22民集70巻1号84頁ほか、同旨・最判昭54.2.23)。ただし「除いても結論が変わらない」場合に限られ、実務上は慎重な対応が必要です。
特別利害関係取締役が自己の利益を優先して決議を強行し会社に損害が生じた場合、会社法423条1項に基づく任務懈怠責任を負う可能性があります。他の取締役も監視義務違反を問われ得ます。会社が責任追及をしない場合、株主が株主代表訴訟(会社法847条)を提起することもあります。
7取締役会と株主総会の「特別利害関係」の違い新設(比較表)
「特別利害関係人」は取締役会と株主総会の両方に登場しますが、効果が大きく異なります。ここが実務で混同しやすいポイントです。
| 取締役会 | 株主総会 | |
|---|---|---|
| 根拠 | 会社法369条2項 | 会社法831条1項3号 |
| 議決権の行使 | できない(議決から排除) | できる(排除されない) |
| 定足数 | 数から除外される | 算入される |
| 問題となる効果 | 加われば手続違反(原則は除外して有効性を判断) | 特別利害関係人が議決権を行使し「著しく不当な決議」がされたとき、決議取消しの訴えの対象になる |
取締役会は「そもそも議決に加われない」、株主総会は「議決権は行使できるが、著しく不当な決議になると取消事由になる」。制度の設計が逆になっている点を押さえてください。
8実務で押さえておきたい注意点
議事録への正しい記載
特別利害関係取締役がいる場合、議事録にはその事実を明確に記載します。会社法施行規則101条3項5号は、決議を要する事項について特別の利害関係を有する取締役があるときはその氏名を記載するよう求めています。実務では、①特別利害関係取締役の氏名、②当該取締役が議決に参加しなかった旨、③(退席させた場合は)退席の事実、などを議事録に残します。
判断に迷ったら早めに専門家へ
特別利害関係の有無は個別性が高く、誤ると決議のやり直しや責任問題に発展します。少しでも疑いがある議案は、事前に法務・弁護士へ相談し、除外・退席の運用と議事録の記載を固めておくのが安全です。



