家賃滞納者の夜逃げにどう対処する?強制執行までの流れと費用を徹底解説

更新日: 2026.08.06
企業法務/賃貸・建物明渡し

結論から。借主(入居者)が家賃を滞納したまま夜逃げしても、大家が勝手に鍵を交換したり、部屋の荷物を運び出して処分したりすることはできません(自力救済の禁止)。これをやると、逆に借主から損害賠償を請求されるおそれがあります。明渡しを実現するには、契約の解除 → 建物明渡請求訴訟 → 強制執行という法的手続をとる必要があります。焦らず、正しい順序で進めることが大切です。

夜逃げされたら、勝手に部屋を片付けていいですか?

いいえ、できません。借主が置いていった家財の所有権は借主にあり、大家が無断で立ち入って撤去・処分すると不法行為になり、損害賠償や刑事責任(住居侵入罪など)のリスクがあります。契約書に「滞納したら勝手に立ち入ってよい」と書いても、その条項は公序良俗違反で無効です。必ず法的手続で進めます。

まずやってはいけないこと(自力救済の禁止)

気持ちは分かりますが、次の行為はすべてNGです。日本の法律は、権利があっても自分の実力で実現する「自力救済」を原則として禁じています。

大家がやってはいけないこと

・借主に無断で鍵を交換する/室内に立ち入る
・室内の家財を運び出す・処分する・捨てる
・借主の荷物を勝手に倉庫へ移す
これらは不法行為となり、借主から損害賠償を請求された裁判例があります。契約書に自力救済を認める条項を入れても無効とされています(東京地裁 平成18年5月30日判決)。

夜逃げされたときの対応の流れ

行方不明の借主への対応は、次の順序で進めます。連絡が取れないため、多くは裁判手続が必要になります。

  1. 本当に行方不明か調査する:電気・ガスの使用状況、郵便物、連帯保証人・緊急連絡先・親族への連絡、室内の様子などを確認する。生活を再開できる状態なら「夜逃げ」と決めつけない。
  2. 契約を解除する:長期の家賃滞納を理由に、催告のうえ契約を解除する。連絡が取れない場合は「公示による意思表示」などを使う(後述)。
  3. 建物明渡請求訴訟を起こす:解除だけでは明渡しは実現しないため、訴訟で明渡しを命じる判決を得る(滞納賃料の請求も併せて行う)。
  4. 強制執行を申し立てる:確定判決をもとに、執行官による明渡しの強制執行(催告→断行→搬出)を行う。
  5. 残置物を処理する:強制執行の中で搬出・保管・売却する。勝手な処分は不可(後述)。
  6. 未払い家賃を回収する:連帯保証人・家賃保証会社・敷金充当・動産執行などで回収する。

契約を解除する(無断退去でも自動終了しない)

借主が黙って出て行っても、賃貸借契約は自動的には終わりません。「行方不明であること」自体は解除の理由にならないため、長期の家賃滞納(信頼関係の破壊)を理由に解除します。一般に、3か月程度以上の滞納が信頼関係破壊の一つの目安とされています(最終的な判断は事案によります)。実務では、催告と契約解除の通知を1通の内容証明郵便にまとめて送ることが多くあります。

連絡が取れないときの「公示による意思表示」

解除の通知は相手に到達して初めて効力が生じます(民法97条1項)。行方不明だと通知が届かないため、「公示による意思表示」(民法98条)を使います。物件所在地を管轄する簡易裁判所に申し立て、解除通知を裁判所の掲示場に掲示し官報に掲載すると、掲示(官報掲載)から2週間の経過で相手に到達したものとみなされます。あわせて、明渡訴訟の訴状に解除の意思表示を記載し、訴訟上の公示送達で進める方法もよく使われます。

解除通知を送る前提として、内容証明郵便が「あて所に尋ねあたりません」で返送されたことや、ライフラインが長期間使われていないことなどが、所在不明の疎明資料になります。内容証明郵便の書き方・出し方はこちらもご参照ください。

建物明渡請求訴訟と強制執行

契約を解除しても、それだけで部屋を明け渡させることはできません。別途建物明渡請求訴訟を起こし、明渡しを命じる判決(確定判決)を得たうえで、強制執行を申し立てます。所在不明のケースでは交渉ができないため、はじめから裁判手続になるのが通常です。強制執行では、執行官が現地で執行催告を行い、約1か月後の断行日に室内へ立ち入って残置物を搬出し、明渡しを実現します。

借主が外国人・死亡している場合は要注意

借主が帰国した外国人の場合は公示送達が使えず海外送達が必要になるなど、手続が複雑になります。借主が死亡していた場合は、相続人を調査して全員に通知する必要があり、相続人がいなければ相続財産清算人の選任を申し立てます。判断が難しいケースは早めに弁護士へご相談ください。

残された家財(残置物)はどうする?

部屋に残された家財の所有権は借主にあります。強制執行で明渡しを実現しても、その場で勝手に処分することはできず、原則として一定期間保管が必要です(民事執行法168条6項)。実務では、明渡しの強制執行に動産執行を併せて申し立て、家財の売却代金から滞納家賃を回収したり、換価価値のないものは搬出・保管後に処分したりします。

契約書に入れておきたい特約

トラブルを避けるため、契約書に「行方不明時の解除」「解除通知の送付先(物件所在地・連帯保証人住所)へのみなし到達」「残置物の所有権放棄・処分」の特約を入れておくと対応がスムーズになります。単身高齢の借主の死亡に備えては、令和3年に国土交通省・法務省が公表した「残置物の処理等に関するモデル契約条項」の活用も有効です。契約解除後に借主が見つかった場合は、残置物の所有権放棄の確認書にサインをもらえば処分でき、費用は敷金から差し引けます。

未払い家賃の回収

夜逃げした借主本人から回収するのは容易ではありませんが、次の方法があります。

方法内容
連帯保証人への請求連帯保証人に滞納家賃と原状回復費用を請求する
家賃保証会社保証会社に加入していれば、立替えを請求できる
敷金の充当預かっている敷金を、滞納家賃・原状回復・残置物処分費用に充当する
動産執行明渡執行と併せて家財を差し押さえ、売却代金から回収する

なお、家賃などの債権には消滅時効があります(権利を行使できると知った時から5年など)。回収は放置せず、早めに手続をとることが重要です。

夜逃げは犯罪?警察は動く?

家賃を滞納して無断で退去する「夜逃げ」は、原則として民事上の問題であり、それ自体で刑事事件になるわけではありません。警察は民事不介入が原則のため、基本的には動きません。むしろ注意すべきは、大家が自力救済(無断の立入り・撤去)に走ると、大家側が住居侵入罪・器物損壊罪などに問われかねない点です。あくまで民事の法的手続で解決を図りましょう。

夜逃げを防ぐための予防策

  • 入居時に家賃保証会社へ加入してもらう
  • 連帯保証人・緊急連絡先・親族の連絡先を確保しておく(所在調査の照会先になる)
  • 契約書に行方不明時の解除条項・送付先みなし到達・残置物の所有権放棄/処分特約を整備する
  • 単身高齢者には「残置物の処理等に関するモデル契約条項」を活用する
  • 滞納が始まったら早めに督促・相談し、長期化させない

よくある質問

借主が夜逃げしたら、大家が勝手に部屋を片付けてもいいですか?
できません。残された家財の所有権は借主にあり、大家が無断で立ち入って撤去・処分すると自力救済として不法行為になり、損害賠償や刑事責任のリスクがあります。契約書に自力救済を認める条項を入れても無効です。契約解除→明渡訴訟→強制執行という法的手続で進めます。
借主と連絡が取れないと、契約は解除できないのですか?
解除通知は相手に到達して効力を生じますが(民法97条1項)、行方不明でも「公示による意思表示」(民法98条)を使えば、裁判所の掲示・官報掲載から2週間の経過で到達したものとみなされ、解除できます。明渡訴訟の訴状に解除の意思表示を記載し、公示送達で進める方法もあります。
部屋に残された家財(残置物)は捨ててもいいですか?
勝手に捨てることはできません。残置物の所有権は借主にあり、明渡しの強制執行の中で搬出・保管・売却する必要があります(民事執行法168条)。動産執行を併せて申し立て、売却代金から滞納家賃を回収する方法もあります。契約書に残置物の処分特約を入れておくと対応が容易になります。
夜逃げした借主に家賃を請求できますか?
連帯保証人への請求、家賃保証会社への立替請求、敷金の充当、明渡執行と併せた動産執行などで回収を図ります。家賃債権には消滅時効(権利を行使できると知った時から5年など)があるため、放置せず早めに手続をとることが重要です。
夜逃げは犯罪ですか?警察は動いてくれますか?
家賃滞納・無断退去は原則として民事上の問題で、それ自体は刑事事件になりません。警察は民事不介入が原則のため基本的に動きません。逆に、大家が無断で立ち入り・撤去をすると大家側が刑事責任を問われかねないため、必ず民事の法的手続で対応してください。
家賃滞納・夜逃げ・建物明渡しは、弁護士にご相談ください

契約解除の通知(公示送達を含む)、建物明渡請求訴訟、強制執行、残置物の処理、連帯保証人への請求まで、貸主・オーナー側の立場でトータルにサポートします。自力救済によるリスクを避け、確実に明渡しを実現します。
初回相談30分無料。まずはお気軽にお問い合わせください。

難波みなみ法律事務所(大阪なんば・心斎橋)/不動産オーナー・企業のための法律相談

本記事は一般的な情報提供であり、個別の事案の法的判断ではありません。解除の可否・手続や残置物の処理は事案ごとに異なります。具体的な対応は弁護士にご相談ください。最終監修:南 宜孝 弁護士(大阪弁護士会)。

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