欠勤を繰り返す社員がいると、「いっそ解雇できないのか」と考えたくなります。しかし、欠勤を理由とする解雇はハードルが高く、進め方を誤ると不当解雇として高額の金銭負担を負うおそれがあります。実務では、段階的な指導 → 退職勧奨 →(応じない場合の)解雇という順序と、退職勧奨を「退職強要」にしないための線引きが重要になります。
本記事では、欠勤が多い社員への対応フローを示したうえで、①解雇できる/できないの判断、②「何日・何回」で問題になるのかの目安、③退職勧奨を適法に進める方法(裁判例に基づく違法性の判断基準)、④無断欠勤・自然退職の扱い、⑤私傷病・メンタル不調時の休職対応、までを、企業側の視点で弁護士がわかりやすく解説します。
欠勤を理由とする解雇は不可能ではありませんが、労働契約法16条により、①改善に向けた注意指導、②相当といえる欠勤の程度・頻度、③解雇回避努力(配置転換・退職勧奨など)を尽くしていなければ、「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当でない」=無効(不当解雇)と判断されやすいのが実情です。したがって、まずは段階的対応と退職勧奨を尽くし、解雇は最終手段と位置づけるのが安全です。
1欠勤が多い社員への対応の全体像(対応フロー)
欠勤が続く社員への対応は、いきなり解雇や退職勧奨に進むのではなく、事実の把握から段階的に進めるのが原則です。全体像は次のとおりです。
体調不良・メンタル不調が原因の欠勤は、上記フローとは別に、まず休職制度の適用を検討します(第8章参照)。安易に懲戒・解雇に進むと、安全配慮義務違反や不当解雇のリスクが高まります。
2対応の前にまず確認すべき3つのこと
退職勧奨や解雇に進む前に、まずは客観的な事実確認を徹底します。ここを飛ばすと、後の対応の正当性が揺らぎます。
① 欠勤の理由と状況を正確に把握する
体調不良・家庭の事情・無断欠勤など、背景によって取るべき対応は大きく異なります。憶測で判断せず、本人からヒアリングし、欠勤が始まった時期・頻度・期間・連絡の有無・理由を整理します。私傷病が疑われる場合は、就業規則に基づき診断書の提出を求めることも検討します。
② 就業規則上の根拠を確認する
退職勧奨自体に就業規則の定めは不要ですが、懲戒・解雇を行うには根拠規定が必要です。欠勤時の連絡義務、懲戒事由、休職制度、無断欠勤が一定期間続いた場合の自然退職(後述)、普通解雇事由などを確認します。
③ 面談記録・勤怠記録を客観的な証拠として残す
後日の「言った・言わない」やパワハラ主張を避けるため、タイムカード等の勤怠データと面談記録(日時・出席者・指導内容・本人の弁明)を時系列で残します。感情的な表現は避け、事実のみを客観的に記載します。可能なら本人に内容を確認させ、署名を得ると証拠の信用性が高まります。
3退職勧奨・解雇の前に踏むべき段階的な指導プロセス
欠勤が続いても、いきなり退職勧奨・解雇に進むのは避けるべきです。改善の機会を与えた事実が、後の対応の適法性を支えます。
ステップ1:原因のヒアリングと改善に向けた口頭指導
面談の場を設け、威圧的な態度を避けて欠勤の理由を丁寧にヒアリングします。頭ごなしに叱責せず、改善を求めるとともに、業務量の調整・配置転換の検討など、会社として協力できる姿勢も示します。話し合った内容は必ず記録に残します。
ステップ2:改善が見られない場合の書面による注意・警告
口頭指導で改善しない場合、書面で注意・警告を行います。具体的な欠勤日数・過去の指導歴・勤怠不良の事実を明記し、求める改善内容と、改善なき場合は懲戒・解雇の対象となり得ることを記載します。書面は面談で手渡し、受領の署名を得るか、拒否時は内容証明郵便の送付を検討します。
注意指導を書面で複数回行い、問題(欠勤・勤怠不良)を客観的な証拠として残すことは、後で退職勧奨を成功させ、また万一解雇に至った場合の有効性を支える決定的な材料になります(第5・6章参照)。
ステップ3:懲戒処分(譴責・減給など)の検討
書面警告後も改善しない場合、懲戒処分を検討します。いきなり減給・出勤停止といった重い処分ではなく、まず譴責・戒告など軽めの処分から始めるのが原則です。処分の重さは、欠勤の頻度・業務への影響・本人の反省・過去の処分歴などを総合的に考慮し、社会通念上相当と認められる範囲で決定します。
4欠勤が「何日・何回」続くと解雇・退職勧奨の対象になるのか(目安と裁判例)
「何日欠勤したら解雇できるか」を知りたい方は多いですが、一律の日数基準は法律上ありません。裁判所は、日数だけでなく、次のような要素を総合して判断します。
| 要素 | 見られるポイント |
|---|---|
| 欠勤の頻度・期間 | 長期間にわたり頻繁か。出勤率が著しく低いか(例:出勤率8割を下回る状態が継続、など) |
| 正当な理由の有無 | 無断欠勤か、私傷病など正当な理由があるか。連絡の有無 |
| 改善指導・処分歴 | 注意指導・懲戒を十分に行い、改善の機会を与えたか |
| 業務への支障 | 欠勤により業務運営に具体的な支障が生じているか |
| 改善の見込み | 本人に改善の意思がなく、回復・改善が見込めない状況か |
就業規則に「無断欠勤が◯日続いたら解雇」と定めていても、それだけで安全に解雇できるわけではありません。上表の要素を欠くと、安易な解雇は不当解雇と判断されるリスクがあります。日数はあくまで判断材料の一つです。
なお、無断欠勤については、就業規則で「無断欠勤が一定日数(例:14日)継続し、連絡が取れない場合は自然退職(または懲戒解雇)とする」と定めるのが実務上一般的です(第7章で詳述)。

5欠勤社員への退職勧奨を「適法に」進める方法裁判例で解説
退職勧奨とは、使用者が労働者に自発的な退職を促す行為です。法令上の規制は特になく、使用者はいつでも自由に退職勧奨を行うことができ、退職加算金などの提示も必須ではありません。ただし、「退職強要」と評価される進め方をすると、不法行為として損害賠償責任を負うおそれがあります。ここが実務で最も注意すべき点です。
退職勧奨が「違法」になる境界線(リーディングケース)
退職勧奨の違法性については、日本IBM事件の判断基準が広く用いられています。
違法性を判断する6つの考慮要素
裁判例は、次の要素を総合して退職勧奨の適法・違法を判断しています。
| # | 考慮要素 | 注意すべき例 |
|---|---|---|
| ① | 退職勧奨の態様 | 回数・場所・期間・面談時間・勧奨者の人数 |
| ② | 使用者の言動 | 人格否定的な言葉、さらし者にする言動 |
| ③ | 強制の程度 | 退職拒絶の明確な意思表示後も執拗に勧奨を継続 |
| ④ | 不当な権限行使 | 嫌がらせ目的の業務指示・配転など |
| ⑤ | 優遇措置の有無 | 優遇なしで何度も面談すると相当性に疑義 |
| ⑥ | 選定の公平性 | 対象者の選定が不公平(例:年齢基準の男女格差) |
違法・適法を分けたのは「強制の程度」──2つの近時裁判例
労働者にパフォーマンス不良や問題行動がある場合、裁判所は退職勧奨を行うこと自体や、厳しく問題点を指摘することには比較的寛容です。決定的なのは、退職を拒否した後も執拗に迫る/退職願の提出を命令的に強制するといった「強制の程度」です。
安全に退職勧奨を進めるための実務ポイント
- 面談を必要以上に繰り返さない。面談の間隔は目安として1週間に2回程度まで。判断の猶予を与える(最終局面では面談の間を自宅待機とすることも)。
- 面談の目的を毎回変える。同じ目的で繰り返し迫ったと言われないようにする。
- 2対1の面談がベター。使用者側2名(1名は記録係兼監視役)。5対1など多人数は圧迫面談とみなされるおそれ。
- 事実関係をよく確認してから。事実が曖昧なまま断定して強く迫ると、後に誤認が判明した場合に違法リスクが高い。
- 合意退職に固執しない。応じない意思が明確なら手を引き、正面から懲戒・解雇を検討する割り切りも必要。
- 退職願の提出を強制・命令しない。検討する時間を設ける。優遇措置(退職加算金等)はあったほうが円滑で、紛争化リスクも下がる。
「退職勧奨に応じなければ解雇する」と告げること自体は、解雇し得るだけの証拠が揃っているなら問題ありません。しかし、解雇事由が実際には認められないのに解雇できると誤信させて退職させた場合、錯誤(民法95条)や詐欺(民法96条)で退職の意思表示が取り消されるおそれがあります。「示唆するなら、まず証拠を固める」が鉄則です(伊藤忠商事事件・大阪地判令4.9.9等)。
退職条件の提示と退職合意書の締結
退職勧奨に応じてもらうには、退職金の加算・解決金、一定期間の労務免除、未消化有給の買取り、再就職支援などの具体的な退職条件を示すことが有効です(法的義務ではなく、円満な合意退職のための任意の提案)。口頭合意はトラブルのもとになるため、必ず退職合意書を締結します。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 退職の合意 | 退職日を明記し、労使双方の合意を確認 |
| 離職理由 | 会社都合か自己都合かを明確にする |
| 金銭的条件 | 退職金・解決金の有無、金額、支払い期日を記載 |
| 返却物・引継ぎ | 貸与品の返却、業務引継ぎの内容を定める |
| 清算条項 | 合意時点で双方に他の債権債務がないことを確認(未払残業代が別途ある場合は要注意) |
6欠勤を理由とする解雇が認められる要件/認められないケース一覧表
退職勧奨にも応じない場合、最終手段が普通解雇です。ただし、労働契約法16条により、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当と認められない解雇は無効です。欠勤を理由とする解雇では、次の要素を総合的に見て有効性が判断されます。
| 判断要素 | 内容 |
|---|---|
| 欠勤の期間・頻度 | 長期間にわたり頻繁に欠勤しているか |
| 改善指導・処分歴 | 会社が改善指導や懲戒処分を十分に行い、改善の機会を与えたか |
| 業務への支障 | 欠勤によって業務運営に重大な支障が生じているか |
| 改善・回復の見込み | 本人が改善の意思を示さず、改善・回復が見込めない状況か |
| 解雇回避努力 | 配置転換・退職勧奨など、解雇を避ける努力を尽くしたか |
| 判定 | 典型的な場面 |
|---|---|
| 認められやすい | 正当な理由のない欠勤が長期・多数回に及び、書面警告・懲戒を重ねても改善せず、業務に重大な支障が生じている |
| 認められやすい | 無断欠勤が就業規則所定の期間を超えて継続し、連絡も取れない |
| 認められにくい | 改善指導・懲戒を経ずに、いきなり解雇した |
| 認められにくい | 私傷病・メンタル不調による欠勤で、休職制度の適用など回復の機会を与えていない |
7無断欠勤が続く場合の対応(懲戒解雇・自然退職・連絡不能時)
従業員の責任が重い無断欠勤は、正当な理由のある欠勤と比べて厳しい処分が認められやすい傾向にあります。ただし、進め方には注意が必要です。
自然退職(14日ルール)の定め方
就業規則に「無断欠勤が◯日(例:14日)以上継続し、会社の連絡にも応じない場合は自然退職とする」旨を定めておくと、解雇の手続を経ずに労働契約を終了できます。無断で長期に連絡が取れない社員への実務的な備えとして有効です。ただし、日数の合理性や、会社が連絡を尽くした事実が前提となります。
懲戒解雇との違い
無断欠勤が就業規則所定の期間を超え、会社への連絡なく出社の意思が確認できない場合は、労働契約の重大な不履行として懲戒解雇が認められやすくなります。もっとも、懲戒解雇は最も重い処分であり、弁明の機会の付与など手続の適正が求められます。
連絡が取れない場合の手順
- 本人の携帯電話・メールへ複数回連絡し、返信・出社を求める。
- 就業規則の緊急連絡先へ連絡し、状況把握に努める。
- 最終手段として自宅訪問を検討する。
- なお状況が不明なら、内容証明郵便で安否確認・出社を求める通知を送付する。
社員が所在不明のままだと、解雇の意思表示が本人に到達せず効力が生じません。就業規則に自然退職の規定を設けておけば、公示送達などの煩雑な手続を避けられます。

8私傷病・メンタル不調が背景にある場合(まず休職を検討)
体調不良・メンタル不調が原因の欠勤は、解雇・退職勧奨に進む前に、まず休職制度の活用を検討します。安易な対応は安全配慮義務違反や不当解雇のリスクを高めます。
安全配慮義務と「まず休職」の原則
メンタル不調が疑われる社員が欠勤を続ける場合、企業は安全配慮義務を負います。自己判断で病状を決めつけず、本人の同意を得て産業医・専門医との面談を設定し、客観的な診断に基づいて対応します。私傷病が背景にある場合は、まず休職制度を適用し、療養に専念できる環境を整えます。あわせて、業務内容の軽減・短時間勤務・配置転換など「就業上の配慮」も検討します。
休職 → 復職判定 → 休職期間満了時の扱い
休職期間中の療養を経て、主治医・産業医の意見を踏まえて復職の可否を判定します。休職期間が満了してもなお復職が困難と判断される場合に、初めて自然退職または普通解雇を検討することになります。休職期間を経ずに解雇すると、解雇権濫用として無効と判断されるリスクが高くなります。
休職中や療養中の社員に退職勧奨を行うと、「退職に追い込むための圧力」と受け取られ、退職強要・違法と判断されるリスクが高まります。行う場合でも、回復状況に配慮し、強制にならない範囲で慎重に進める必要があります。
9不当解雇と判断された場合の企業側のリスク
解雇が裁判で無効(不当解雇)と判断されると、企業は複数の重大なリスクを負います。
| リスク | 内容・影響 |
|---|---|
| バックペイ | 解雇が無効とされると、解雇時点に遡って未払賃金の支払義務が生じる。裁判の長期化により高額化し、数百万〜1,000万円超となるケースもある |
| 弁護士費用 | 訴訟対応にかかる費用。数十万〜数百万円程度 |
| 慰謝料 | 解雇の態様が悪質と判断された場合に発生し得る |
| レピュテーション | 「不当解雇・ブラック企業」というイメージが定着し、採用難・既存社員の士気低下を招く |
| 復職・関係修復 | 解雇無効で復職が必要になると、悪化した関係の修復が困難で、実務上の負担が大きい |
事実の把握 → 注意指導(記録化)→ 退職勧奨(適法な範囲)→ 解雇、という順序を踏み、各段階の証拠を残すことが、リスクを抑える最善の方法です。判断に迷う場面では、早めに弁護士へ相談してください。



