「後継者に経営権を集中させたいが、他の相続人との公平も保ちたい」「資金調達をしたいが、経営の主導権は手放したくない」——こうした場面で活用されるのが議決権制限株式です。種類株式の一つで、使い方を誤ると既存株主とのトラブルや、想定外の株式評価につながることもあります。
本記事では、議決権制限株式の意味、完全無議決権株式との違い、会社法が定める発行上限(2分の1のルール)、メリット・デメリット、事業承継での活用パターンと手続、株式評価の注意点まで、企業側の弁護士がわかりやすく解説します。
議決権制限株式とは、株主総会での議決権の全部または一部が制限された種類株式です(会社法108条1項3号)。議決権を一切持たない完全無議決権株式と、特定の事項についてのみ議決権を持つ一部制限株式があります。経営の主導権を保ちながら資金調達をしたい場合や、後継者に経営権を集中させる事業承継で活用されます。ただし、公開会社では発行できる数に上限(発行済株式総数の2分の1)があります。
この記事のポイント
- 議決権制限株式は、議決権が全部または一部制限された種類株式(会社法108条1項3号)
- 完全無議決権株式と一部制限株式の2タイプがある
- 公開会社は、議決権制限株式を発行済株式総数の2分の1以下に抑える必要がある(会社法115条)。非公開会社は制限なし
- 経営権を維持したまま資金調達・事業承継・相続対策に使える一方、株価評価や既存株主への説明に注意
- 発行には定款変更(株主総会の特別決議)が必要
会社の所有者である株主は、経営に関する重要事項を決定する「議決権」を持つのが原則です。議決権制限株式とは、その名のとおり、株主総会での議決権が「全部」または「一部」に制限された種類の株式で、株主が経営に与える影響力を限定する目的で発行されます。何ら制限のない通常の株式は「完全議決権株式(普通株式)」と呼ばれます。
| 種類 | 内容 |
|---|---|
| 完全無議決権株式 | すべての議案について議決権を行使できない株式。株主総会の議決に一切関与しない |
| 一部制限株式 | 特定の事項(例:取締役の選任など)についてのみ議決権を持つ/持たない株式。制限する事項を定款で定める |
| 完全議決権株式 (普通株式) | 議決権に制限のない通常の株式 |
※ 議決権制限株式は「種類株式」の一種です。実務では、議決権を制限する代わりに剰余金の配当を優先する(配当優先・無議決権株式)など、他の種類株式の内容と組み合わせて設計することが多くあります。なお、発行するすべての株式を議決権制限株式にすることはできません(会社法107条1項参照。誰かが議決権を持つ必要があるため)。
議決権制限株式を発行する際、公開会社には会社法上の重要な上限があります。会社法115条により、公開会社は、議決権制限株式が発行済株式総数の2分の1を超えたときは、直ちに2分の1以下にするための必要な措置をとらなければならないとされています。実質的に、発行できるのは2分の1までということです。
| 会社の種類 | 発行の上限 | 根拠・趣旨 |
|---|---|---|
| 公開会社 | 発行済株式総数の2分の1まで | 会社法115条。株主による経営監視機能の維持(株主総会の形骸化防止) |
| 非公開会社 (全株式に譲渡制限) | 上限なし(2分の1超も可) | 115条は適用されない。柔軟な資本政策・事業承継が可能 |
非公開会社(発行するすべての株式に譲渡制限が付いている株式会社)には、この2分の1ルールは適用されません。そのため、中小企業の事業承継では、非公開会社であることを活かして柔軟に設計できるのが実務上のポイントです。
◯メリット
- 経営権を維持したまま資金調達ができる(議決権比率の低下を防ぐ)
- 事業承継・相続対策に活用できる(後継者に議決権を集中)
- 配当優先などと組み合わせ、相続人間の公平を図りやすい
△デメリット・注意点
- 議決権がないため、出資者に敬遠され資金調達がしにくいことがある
- 株式の価値評価が複雑になりやすい
- 発行に定款変更(特別決議)・既存株主への説明が必要
とくに事業承継では、後継者に議決権のある普通株式を集中させ、他の相続人には議決権制限株式(配当優先付き)を承継させることで、経営権の分散を防ぎつつ、相続財産の公平にも配慮できます。無議決権株式は評価額が相対的に低くなる傾向があり、相続税負担の軽減につながる場合もあります。
議決権制限株式は、新規に発行するだけでなく、既存の普通株式を変更する形でも導入できます。事業承継では、主に次のようなパターンが用いられます。
議決権制限株式を用いた事業承継の主なパターン
- ①定款を変更して発行の枠を設ける:議決権を制限する種類株式の内容を定款に定める(すべての出発点)
- ②株主全員に無償割当てする:既存株主の持株数に応じて割り当てる
- ③後継者以外に新規発行する:後継者に普通株式、他の相続人に議決権制限株式を割り当てる
- ④発行済みの普通株式の一部を変更する:一部を議決権制限株式に転換する
- ⑤全部取得条項付種類株式を利用する:株主総会の特別決議で会社が既存株式の全部を取得できる種類株式(会社法108条1項7号)。株主本人の同意がなくても取得でき、少数株主に散逸した株式を集約して経営権を再編できる
よく用いられる設計例
- 後継者に普通株式・他の相続人に無議決権株式:後継者に議決権を集中させ、他の相続人には配当優先の無議決権株式を承継させる
- オーナーが無議決権株式を保有:現オーナーが配当優先の無議決権株式を持ち、後継者に普通株式を取得させることで、経営権は後継者へ、配当(経済的利益)はオーナーへ、と分けて承継する
発行に必要な手続
いずれのパターンでも、まず定款の変更が必要で、議決権を制限する事項などを定款に定めます(会社法108条2項3号)。定款変更には株主総会の特別決議(議決権の3分の2以上の賛成)が求められ、通常の普通決議よりハードルが高い点に注意が必要です。あわせて、事業承継を円滑に進めるため、種類株式に損害が生じ得る行為について種類株主総会の決議を要しない旨を定款で定めておくこともあります(会社法322条2項)。
議決権制限株式を導入すると、株式の価値評価が複雑になります。相続税・贈与税の場面では、国税庁が公表している「種類株式の評価について」に取扱いの指針が示されています。
- 原則:無議決権株式であっても、議決権の有無にかかわらず、原則として議決権のある株式と同様に評価する。
- 選択による調整:一定の要件を満たす場合、選択により無議決権株式の評価額を5%減額し、その減額分を議決権のある株式の評価額に加算できる。
- 既存株主への説明:発行は既存株主の権利に影響するため、目的・条件を丁寧に説明し、理解と合意を得るプロセスが重要。
※ 具体的な評価額や税務上の取扱いは、事案や最新の通達により異なります。相続税評価は税理士、法務は弁護士にご確認ください。
関連する会社法の実務は、「株券不発行とは」、「募集株式の発行とは」、「取締役の特別利害関係とは」で解説しています。
議決権制限株式とは何ですか?わかりやすく教えてください。
株主総会での議決権が全部または一部制限された種類株式のことです(会社法108条1項3号)。議決権を一切持たない「完全無議決権株式」と、特定の事項だけ議決権を持つ「一部制限株式」があります。経営の主導権を保ちながら資金調達をしたい場合や、後継者に経営権を集中させる事業承継で活用されます。
議決権制限株式は「2分の1まで」しか発行できないのはなぜですか?
公開会社に限り、会社法115条で、議決権制限株式が発行済株式総数の2分の1を超えたときは直ちに2分の1以下にする措置が必要とされているためです。株主による経営の監視機能が失われ、株主総会が形骸化するのを防ぐ趣旨です。なお、全株式に譲渡制限のある非公開会社には、この上限は適用されません。
完全無議決権株式と一部制限株式の違いは何ですか?
完全無議決権株式は、すべての議案について議決権を行使できない株式です。一部制限株式は、特定の事項(例:取締役の選任など)についてのみ議決権を持つ/持たない株式で、制限する事項を定款で定めます。目的に応じてどちらを用いるか設計します。
事業承継にどう活用できますか?
後継者に議決権のある普通株式を集中させ、他の相続人には議決権制限株式(配当優先付きなど)を承継させることで、経営権の分散を防ぎつつ相続財産の公平にも配慮できます。経営を後継者に一本化しながら、他の相続人の経済的な取り分を確保する設計が可能です。
無議決権株式にすると株価(評価額)は下がりますか?
相続税・贈与税の評価では、無議決権株式も原則として議決権のある株式と同様に評価されます。ただし、一定の要件のもと、選択により無議決権株式の評価額を5%減額し、その分を議決権株式に加算する取扱いが認められています(国税庁の指針)。具体的な評価は事案により異なるため、税理士にご確認ください。
議決権制限株式を発行するにはどんな手続が必要ですか?
まず定款を変更して、議決権を制限する種類株式の内容を定める必要があります。定款変更には株主総会の特別決議(議決権の3分の2以上の賛成)が必要です。発行方法(無償割当て・新規発行・既存株式の変更など)によって手続が異なるため、既存株主への説明とあわせて慎重に進めることが大切です。
議決権制限株式・事業承継の設計は弁護士に相談を
議決権制限株式を用いた事業承継や資本政策は、定款変更・特別決議・株式評価・既存株主への対応など、法務と税務が複雑に絡みます。設計を誤ると、想定外の株式評価や株主間のトラブルにつながりかねません。難波みなみ法律事務所は、企業側の顧問弁護士として、種類株式の設計から事業承継スキームの構築までサポートします。まずはご相談ください。
初回相談30分無料|お問い合わせはこちら※本記事は一般的な会社法・税務の解説です。具体的な株式設計・評価・手続は、個別の事情や最新の法令・通達により異なります。実際の対応は弁護士・税理士にご確認ください。
