懲戒処分とは、会社の服務規律や業務命令に違反した労働者に科す制裁罰です。就業規則に根拠と周知がなければ無効となり、処分が重すぎても懲戒権の濫用(労働契約法15条)として無効になります。「厳重注意」は、就業規則に懲戒処分として定めがない限り、法的な懲戒処分ではありません。
懲戒処分と厳重注意の違い、7種類の懲戒処分とレベル、有効と認められるための5つの原則、進め方と通知書・社内公表の注意点まで、企業経営者の視点で弁護士が解説します。
厳重注意は懲戒処分ですか?
原則として懲戒処分ではありません。就業規則に「懲戒処分の種類」として明記されていれば法的な懲戒処分になりますが、記載がなければ事実上の注意・指導にとどまります。
懲戒処分をするのに最低限必要なことは?
就業規則の定め・周知と、対象労働者への弁明の機会の付与です。就業規則を労働基準監督署に届け出ているだけでは足りず、労働者に周知されていなければ懲戒の根拠になりません(フジ興産事件)。
処分の重さはどう決めればよいですか?
非違行為の性質・態様、情状、先例との均衡を考慮し、行為の程度に見合った処分を選びます。重すぎる処分は懲戒権の濫用(労働契約法15条)として無効になります。
- 懲戒処分の根拠=就業規則の定め(労働基準法89条9号)。懲戒権の濫用=労働契約法15条(客観的合理的理由と社会通念上の相当性を欠くと無効)。減給の制裁の上限=労働基準法91条。
- 就業規則は周知されて初めて拘束力を持つ(フジ興産事件・最判平15.10.10)。懲戒当時に認識していなかった非違行為を後から処分理由に追加できない(山口観光事件・最判平8.9.26)。
懲戒処分とは何か
懲戒処分の意味
懲戒処分とは、会社の服務規律や業務命令などに違反した労働者に対して科される制裁罰をいいます。懲戒処分の具体的な内容は法律に定められていないため、会社が懲戒処分を行うには根拠となる規定が必要です。多くの会社では就業規則に懲戒の根拠規定や種類を定めており、これが根拠規定となります。懲戒処分は従業員への不利益処分であるため、不相当な処分を科すと懲戒権の濫用として違法・無効と判断されるリスクがあります。
懲戒処分の目的
懲戒処分は、問題行動を起こした労働者に制裁を与えることで企業秩序を維持し、円滑な企業活動を行うという目的があります。処分を受けた労働者が態度を改め、周囲の労働者に対しても厳正に対処する姿勢を示すことで、企業秩序の維持につながります。
懲戒処分と厳重注意との違い
懲戒処分と似たものに「厳重注意」があります。厳重注意は通常、懲戒処分にはあたらず、懲戒処分を行う前段階で行うものという位置付けです。
厳重注意とは?懲戒処分に該当するのか
「厳重注意」は、単なる口頭での注意・指導よりも重い意味合いを持つ、企業が従業員に行う措置です。就業規則違反や職務上の軽微な問題があった場合に、改善を促し反省を求めることを目的とし、改善意見書等の書面の提出を求めることもあります。
この厳重注意が法的な懲戒処分に該当するかは、就業規則に「懲戒処分の種類」として明記されているか否かで判断が分かれます。明記されていれば法的な懲戒処分として位置づけられ、記載がなければ業務上の「事実上の注意・指導」にとどまります。
混同しやすい「戒告」「譴責」との違い
「戒告(かいこく)」と「譴責(けんせき)」は、いずれも就業規則に基づく懲戒処分です。戒告は口頭または書面で反省を促す比較的軽い処分、譴責は戒告より重く、一般に始末書の提出を求めて反省・再発防止を誓約させます。始末書の提出を求めるか否かが両者を区別する大きな点です。これに対し「厳重注意」は、就業規則に懲戒処分として明記されていない限り、懲戒処分ではない点が決定的な違いです。
| 区別 | 位置づけ | 始末書 |
|---|---|---|
| 厳重注意 | 原則、事実上の注意・指導(就業規則に明記があれば懲戒) | 改善意見書等を求めることあり |
| 戒告 | 懲戒処分(最も軽い) | 原則求めない |
| 譴責 | 懲戒処分(戒告より重い) | 求める |
懲戒処分の種類とレベル
懲戒処分には、処分のレベル(重さ)が異なる主に7種類があります。処分の程度が軽いものから順に整理します。
| 種類 | 内容 | 重さ |
|---|---|---|
| ①戒告 | 労働者の将来を戒める処分 | 軽 |
| ②譴責 | 始末書を提出させ反省・再発防止を誓約させる | ↓ |
| ③減給 | 制裁として賃金を差し引く(労基法91条の上限あり) | ↓ |
| ④出勤停止 | 労働契約を維持しつつ一定期間就労を禁止(無給・1週間〜1か月程度) | ↓ |
| ⑤降格 | 職位・役職・職能資格等を引き下げる(手当減額を伴い減給より重い) | ↓ |
| ⑥諭旨解雇 | 懲戒解雇相当の非違行為に対し退職届の提出を求める(退職扱い) | ↓ |
| ⑦懲戒解雇 | 重大な企業秩序違反による一方的な契約終了(最も重い。退職金の減額・不支給等を伴うことも) | 重 |
懲戒解雇・諭旨解雇・整理解雇の違い
懲戒解雇と諭旨解雇は、いずれも懲戒処分として行われる点で共通しますが、懲戒解雇は解雇扱い、諭旨解雇は退職扱いとなる違いがあります。これに対し整理解雇は、経営悪化など会社側の都合により行われる解雇で、労働者には一切問題がない状況でなされる点が異なります。
懲戒処分が有効と認められるための5つの原則
懲戒処分は会社が従業員に科す制裁で、刑罰に近い性質を持つため、刑罰の考え方(罪刑法定主義)と同じような制約が働きます。実務では次の5つが枠組みになります。
| 原則 | 内容 | 根拠 |
|---|---|---|
| ①就業規則の定めと周知 | あらかじめ就業規則に懲戒の種別と事由を定め、労働者に周知していること | 労基法89条9号/フジ興産事件 |
| ②不遡及の原則 | 規定が設けられる前の行為に、後から定めた懲戒事由をさかのぼって適用できない | 罪刑法定主義の派生 |
| ③二重処分の禁止 | 同一の事案について2回懲戒処分を行うことは許されない(一事不再理) | 罪刑法定主義の派生 |
| ④平等取扱いの原則 | 同じ行為には同種・同程度の処分。同種事案では過去の先例が尊重される | ― |
| ⑤相当性 | 客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当と認められない場合は権利濫用として無効 | 労働契約法15条 |
【要注意】就業規則は「届け出た」だけでは足りない
使用者が労働者を懲戒するには、あらかじめ就業規則において懲戒の種別及び事由を定めておくことを要し、就業規則が法的規範としての性質を有するものとして拘束力を生ずるためには、その内容を適用を受ける事業場の労働者に周知させる手続が採られていることを要する
この事件では、労働者代表の同意を得て就業規則を作成し労働基準監督署長に届け出ていたにもかかわらず、それだけでは足りず「労働者に周知させる手続が採られていたか」を別途認定する必要があるとされました。就業規則が金庫や書棚に保管されているだけでは懲戒の根拠として機能しないおそれがあります。配布・掲示・社内システムでの常時閲覧など、周知の状態を懲戒の前に確認してください。
後から判明した非違行為を、処分理由に追加できるか
懲戒当時に使用者が認識していなかった非違行為は、特段の事情のない限り、当該懲戒の理由とされたものではないことが明らかであるから、その存在をもって当該懲戒の有効性を根拠付けることはできない
処分後に別の不正が見つかっても、処分当時に認識していなかった非違行為を後から理由に加えて処分を正当化することはできません。ただし、処分当時に認識していた非違行為であれば、告知した理由と実質的に同一・同種・密接関連のものとして有効性を根拠づけられる場合があります。
懲戒処分の進め方
- ① 処分対象の事実確認非違行為・問題行動の事実関係を、客観的な証拠から明確にしておく。
- ② 弁明の機会の付与対象労働者の言い分を聞く機会を設ける。怠ると裁判で無効と判断される可能性がある。
- ③ 懲戒処分の種類の検討非違行為の程度に見合った種類を選ぶ。重すぎる処分は無効リスクが高い。
- ④ 懲戒処分通知書の交付処分の内容と理由を記載した通知書を交付する。
社内での懲戒処分の公表と名誉毀損
再発防止の観点から社内公表を検討する企業もありますが、特定の労働者が懲戒処分を受けた事実の公表は、その労働者の社会的評価を低下させるおそれがあり名誉毀損に該当する可能性があります。公表する際は、処分対象者個人を特定できない形にするなどの工夫が必要です。
厳重注意を行う場合の注意点
厳重注意が従業員に与える影響は、それが就業規則上の「懲戒処分」として行われたのか、単なる「業務上の注意・指導」なのかで大きく異なります。いずれの場合も、それ自体に直接的な減給などの金銭的ペナルティは伴いませんが、人事記録として保管され、将来より重い処分を受ける際の一要素となる可能性があります。
給与や賞与(ボーナス)は減額される?
厳重注意を直接の理由として給与を減額する「減給」の制裁を科すことはできません(減給は労基法91条の厳しい上限を受ける重い懲戒処分です)。一方、賞与は勤務態度・業績等を総合評価して決まるため、厳重注意の事実が人事評価でマイナス要素として考慮され、結果として賞与や昇給に影響する可能性はあります。
退職金への影響
厳重注意が直接の原因で退職金が減額・不支給になることは基本的にありません。ただし、厳重注意が人事評価に影響し基本給や役職が変動した場合、退職金の算定基礎額が変わり間接的に減額される可能性は考えられます。
従業員への弁明の機会は必要か
就業規則に規定された懲戒処分として行う場合は、弁明の機会の付与が重要で、これを怠ると処分が無効となるリスクがあります。一方、業務上の注意・指導として厳重注意を行う場合は、法律上、弁明の機会の付与は必須ではありません。
懲戒処分と退職金・失業保険の関係
就業規則に、懲戒解雇となった労働者の退職金を支払わない・減額する定めがある場合、退職金の減額・不支給が認められます。もっとも、退職金には賃金の後払い的性格や功労報償的性格があるため無制限ではなく、これまでの勤続の功を抹消・減殺するほどの著しい背信行為があった場合に限られます。また、懲戒解雇された労働者も失業保険の基本手当を受けられますが、自己都合退職と同様に扱われ、会社都合の場合に比べ給付日数などで不利になります。
自治体や学校での懲戒処分
懲戒処分は民間企業だけでなく、自治体や学校でも行われます。学校教育法11条は校長・教員が教育上必要なとき児童・生徒・学生に懲戒を加えられると定め、同施行規則26条2項は処分として退学・停学・訓告の3種類を定めています。公務員については、国家公務員法82条1項・地方公務員法29条1項が戒告・減給・停職・免職の懲戒処分を定めています。
よくある質問(FAQ)
懲戒処分のご相談は難波みなみ法律事務所へ
懲戒処分は、就業規則の根拠・周知、処分の相当性、手続きを一つでも誤ると無効となり、賃金の遡及払いや紛争に発展します。処分の可否判断、種類の選択、就業規則の整備、通知書の作成まで、中小企業法務を得意とする弁護士が企業側の立場で支援します。大阪・なんば/心斎橋の難波みなみ法律事務所へ。初回相談30分無料・来所不要・zoom/電話対応。
※本記事は一般的な解説であり、個別の事案では懲戒処分の有効性は具体的な事情により異なります。処分の可否・種類の選択、就業規則の整備、弁明の機会や通知書の運用については、監修弁護士(難波みなみ法律事務所 代表弁護士 南 宜孝/大阪弁護士会)にご相談ください。
解雇そのものの判断(普通解雇・整理解雇・解雇理由証明書・撤回など)は 社員の解雇に必要な要件【解雇の総合ガイド】 で解説しています。

