降格処分とは?違法となる要件・給与の引下げ・通知書の書き方を弁護士が解説

更新日: 2026.07.19

降格(こうかく)とは、社員の役職・職位や、職能資格・等級を引き下げる処分をいいます。降格には、就業規則の懲戒規定に基づく「懲戒処分としての降格」と、会社の人事権に基づく「人事権行使としての降格(降職)」の2種類があり、有効となる要件がまったく異なります。降格に伴って給与が下がることも多いため、根拠や相当性を欠くと違法・無効となり、賃金の支払いを求められるおそれがあります。

降格処分は、給与額の引下げを伴うことが多いため、賃金の減額を伴う降格処分は安易に行うべきではありません。

本記事では、降格処分が有効となる条件を、2つの類型の違いと裁判例を紹介しながら解説します。あわせて、降格で給与をどこまで下げられるか、社員から拒否・不服・違法を主張されたときの対応、通知書の書き方までを整理します。

この記事のポイント

  • 降格には「懲戒処分としての降格」と「人事権行使としての降格(降職)」があり、根拠も有効要件も異なる
  • 懲戒処分としての降格は、就業規則の定め・周知・懲戒事由該当性・権利濫用でないこと・適正な手続きが必要
  • 人事権行使としての降格(役職・職位、資格・等級の引下げ)も、就業規則の根拠や人事権の濫用にあたらないことが必要
  • 降格に伴う賃金減額には目安があり、賃金テーブル(賃金規程)の有無が有効・無効の分かれ目になりやすい
  • 妊娠・出産・育児休業を理由とする降格は、原則として法令違反となり無効
  • 降格を拒否・不服とされる場面に備え、口頭ではなく通知書を交付し、根拠・内容を明確にすることが重要
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降格処分とは

「降格」とは、社員の役職・職位を引き下げたり、職能資格制度上の資格・等級を引き下げたりする処分をいいます。より正確には、職位や役職を解き又は引き下げる処分を「降職(こうしょく)」、職能資格制度上の資格や職務等級・役割等級制度上の等級を低下させることを「降格」と呼び分けることがあります。実務では、役職を引き下げる降職も含めて広く「降格」と呼ばれています。

降格には、懲戒処分としての降格と人事権行使としての降格があり、それぞれ異なる性質の処分であるため、処分を行うにあたっての注意点も異なります。

賃金が資格や等級と連動している場合には、降格処分に伴って賃金額も引き下げられるのが一般的です。なお、降職・降格に伴って賃金が下がる場合でも、これは制裁として賃金を差し引く「減給」(労働基準法91条の上限規制を受ける)とは区別されます。また、一定期間で終了する出勤停止処分と比べても、地位や賃金が継続的に引き下げられる降格は、より重い処分と位置づけられます。

懲戒処分の降格と人事権行使の降格との違い

人事権としての降格は、懲戒処分ではなく、使用者に与えられた人事権を根拠とします。社員の能力不足や配置上の問題として行われることが一般的です。

能力不足や問題行為のある社員への対応を放置すると、より深刻なトラブルに発展することがあります。詳しくは問題社員の放置は組織崩壊のサイン!人事担当者が知るべきリスクと法的対応ステップで詳しく解説しています。

懲戒処分とは、問題行為を行なった社員に対する制裁です。他方で、降格人事は、制裁ではなくあくまでも会社の人事権の一環として行うものです。誰を役職につけるかは会社の経営判断であるという考え方から、人事異動(人事権行使)としての降格は、懲戒処分としての降格よりも訴訟で違法と判断されるリスクが低いとされており、懲戒処分の降格よりも広い裁量の下で認められています。

比較項目 懲戒処分としての降格 人事異動(人事権)としての降格
意味 問題行動(セクハラ・パワハラ・社内規則違反など)に対する制裁として行う 能力面などから役職に不適任となった場合に、人事上の措置として役職から外す
基本的な考え方 懲戒処分のルールが適用され、違反すれば処分が無効になる 誰を役職につけるかは会社の判断で、原則として会社が自由に行える
実施の時期 人事異動の時期にとらわれず、いつでも実施できる 他の社員の人事異動とあわせて行うのが原則
無効・違法となる主な場合 就業規則の根拠がない/証拠不十分/弁明の機会がない/過去の行為の蒸し返し/過去の対応との不公平/規律違反に比べ重すぎる 正当な権利行使(有給取得等)を理由とする/2段階以上の極端な降格/妊娠・出産・育児を契機とする/賃金減額が著しい/役職給だけでなく基本給も減額する

実務ポイント役職者を降格させたい場面では、懲戒処分としての降格ではなく、人事異動(人事権の行使)としての降格として実施するほうが、違法と判断されるリスクを抑えられます。問題行動に対する制裁が必要な場合でも、懲戒処分は出勤停止までにとどめ、役職を外すこと自体は人事異動として行う、という整理が有効なケースが多くあります。

降格に伴う給与の引下げと減給の違い

減給は、労働者に対して支払う給与から一定額を差し引く懲戒処分の一つです。

減給できる範囲にも制限があり、いくらでも減給できるわけではありません。減給の額が平均賃金の1日分の半額を超え、総額が一回の賃金の総額の10分の1を超えてはいけないと定められています(労働基準法91条)。

これに対し、降格に伴う賃金の引下げは、降格によって役職や職位・等級が引き下げられることに伴い、これに紐づく賃金も引き下げられるものです。そのため、減給とは性質が異なり、上記の労働基準法91条のルール(減給の制裁の上限)は降格の場合には適用されないと解されています。減給処分そのものの上限については、減給処分とは?労基法91条の上限・計算例で詳しく解説しています。

なお、「降給(こうきゅう)」と「減給」は混同されがちですが、意味が異なります。減給は制裁として賃金を差し引く懲戒処分を指すのに対し、降給は降格などに伴って賃金額そのものが下がることを指す一般的な言葉です。降格による賃金の引下げは、懲戒としての減給ではなく降給にあたるため、労基法91条の上限規制の対象外になる、と整理すると分かりやすいでしょう。

降格で給与はどこまで下げられるか

降格に伴う賃金の引下げは、前述のとおり労働基準法91条(減給の制裁の上限)の適用を受けません。もっとも、「上限がない=いくらでも下げてよい」という意味ではありません。引下げ幅が大きすぎると、人事権の濫用や処分の相当性を欠くものとして、降格そのものや賃金減額が無効と判断されるリスクが高まります。

賃金テーブル(賃金規程)の有無が分かれ目

賃金を引き下げるうえで最も重要なのが、降格・降給の根拠が就業規則(賃金規程)に具体的に定められているかです。資格・等級と賃金の対応関係(いわゆる賃金テーブル)が定められ、降格事由や降給の幅が明確になっていれば、賃金減額の根拠として説明しやすくなります。逆に「降格・降給があり得る」と定めるだけでは足りないと判断された裁判例があります(アーク証券事件・東京地決平成8年12月11日、CFJ合同会社事件・大阪地判平成25年2月1日)。

減額幅の目安

減額幅について法律上の数値基準はありませんが、実務上は、月額賃金の1〜2割程度までを一つの目安とし、これを大きく超える場合は激変緩和の配慮が必要と考えられています。実際、5ランクダウンで年収が約1,150万円から約690万円へと4割超も減額された事案では、「過大に過ぎる」として賃金減額が無効と判断されています(スリムビューティーハウス事件・東京地判平成20年2月29日)。

激変緩和措置

減額幅が大きくなる場合は、一定期間は従前の賃金との差額を調整給として支給し、段階的に引き下げるなどの激変緩和措置をとることで、処分の相当性が認められやすくなります。賃金減額の限度や具体的な計算の考え方は、減給処分とは?労基法91条の上限・計算例もあわせてご確認ください。

※ 1〜2割という数値は法定の基準ではなく、あくまで実務上の目安です。適正な減額幅は、降格の理由・等級差・賃金規程の内容によって個別に判断されます。
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懲戒処分としての降格処分を行う際の注意点

懲戒処分としての降格処分を行う場合には、その他の懲戒処分と同様に、一定のルールに沿って行う必要があります。

  • ①就業規則に定められていること
  • ②就業規則が周知されていること
  • ③就業規則に規定された懲戒事由に該当する事実があること
  • ④懲戒権の濫用にあたらないこと
  • ⑤手続きを踏むこと

①就業規則の定め

懲戒処分として降格をする場合には、就業規則に懲戒処分の対象となる懲戒事由と懲戒処分として降格処分が定められていることが必要です。

そのため、労働者による行為後に作成された就業規則に基づく懲戒処分は許されません。

②就業規則が周知されていること

就業規則が作成され、これが労働基準監督署に届出されていたとしても、労働者に周知されていなければ就業規則は効力を生じません。

就業規則の写しを社員に交付したり、誰でも手に取れる場所で保管し、保管場所を社員に対して周知させておくことが必要です。

③懲戒事由に該当すること

社員の問題行為が懲戒事由に該当することが必要です。

懲戒事由に該当するというためには、社員の問題行為の存在が客観的な証拠等から認定できることが必要です。主観的に問題行為が存在するだけでは不十分です。懲戒処分をした後に発覚・認識した事情をもって懲戒事由を補完させることはできません。

④懲戒権の濫用に当たらないこと

労働契約法15条に、労働者に対する懲戒処分は、客観的に合理的な理由と社会通念上相当であることが必要と定められています。

社員の問題行為が懲戒事由に該当するだけでなく、これを理由に降格処分とすることが社会通念上相当と言えることが必要です。下記の事情を考慮して降格処分が重すぎないことが求められます。

  • (1) 行為の動機、態様及び結果
  • (2) 故意又は過失の度合い
  • (3) 行為を行った職員の地位や責任の程度
  • (4) 他の職員に与える影響
  • (5) 過去の処分歴
  • (6) 普段の就労態度

(労働契約法)第15条 使用者が労働者を懲戒することができる場合において、当該懲戒が、当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、当該懲戒は、無効とする。

⑤手続きを踏むこと

懲戒処分は社員に対する不利益な処分です。特に降格処分は、賃金の引き下げを伴うのが一般的であり、一回きりのその他の懲戒処分と比べれば重大な処分です。

そのため、降格の懲戒処分を行う場合には、社員本人に対して弁明の機会を与えるなどして、手続きを適正に行うように努めます。

弁明の機会の付与に関する具体的な手順や注意点については、弁明の機会の付与とは?懲戒処分で必須?企業が知るべき手順と注意点をご参照ください。

裁判例:懲戒処分としての降格が有効と認められた事例

セクハラを理由とする准教授への降格(東京高判令元年6月26日)

女子大学院生をマンションの一室に招き、大学教授が一晩滞在し、女子学生の胸を触るなどの行為に及び、後日教授がメールを繰り返し送信し、食事に誘った行為について、5年間の准教授への降格処分が有効であると認められた事例。

役職や職位を引き下げる降格(降職)

人事権の一環として、役職や職位を引き下げる降格(降職)が有効となるためには、以下の条件を満たすことが必要です。

  • ①就業規則の根拠規定または労働者本人の同意
  • ②人事権の濫用にあたらないこと

①就業規則の定め

人事権の行使としての降格(降職)は、会社の裁量により行うことができます。

そのため、役職・職位を引き下げる降職については、本来は就業規則上の根拠や労働者の同意は必要ないと考えられています。ただし、労働契約上、特定の役職・職位に就くことが労働条件として限定されている場合には、会社が一方的に降職させることはできません。

また、降格、特に賃金の引き下げを伴う降格は、労働者に大きな不利益を与えます。そのため、たとえ人事権行使といえども、就業規則に根拠となる規定を設けておくほうが、後の紛争を避けるうえで安全です。

②人事権の濫用に当たらないこと

人事権の行使も無制限ではありません。役職・職位を引き下げる降職が人事権の濫用にあたらないかは、裁判例上、次の4つの事情を総合して判断されると説明されています(上州屋事件・東京地判平成11年10月29日、医療法人財団東京厚生会(大森記念病院)事件・東京地判平成9年11月18日など)。

  • ① 使用者側における業務上・組織上の必要性の有無及びその程度
  • ② 能力・適性の欠如等の労働者側の帰責性の有無及びその程度
  • ③ 労働者の受ける不利益の性質及びその程度
  • ④ 当該企業における昇進・昇格の運用状況

降格に伴い役職手当等が剥奪される場合には、その不利益の程度も降格の有効性を判断する材料となります。正当な人事権に基づく降職であれば、たとえば部長から課長への降職で管理職手当が減っても、賃金の不利益変更そのものが問題になるわけではなく、人事権の行使が正当であったかどうかが問われることになります。

また、退職勧奨に応じないことの制裁として降格をする場合、不当な動機や目的に基づくものとして、無効になる可能性があります。退職勧奨がどのような場合に違法となるかについては、退職勧奨が違法になるケースとは?適法に進める手順と注意点を、能力不足を理由とする場合の注意点は能力不足の社員への退職勧奨は違法?適法に進める手順と注意点を解説で詳しく解説しています。

ブランドダイアログ事件(東京地判平24・8・28)

役職手当5万円の減額を伴う降格を無効と判断した事例。

ブーランジェリーエリックカイザージャポン事件(東京地判平26・1・14)

剥奪される職務手当と職能給の合計額が22万2000円に上るというだけで裁量を逸脱したとはいえないとする事例。

アメリカンスクール事件(東京地判平13・8・31)

施設管理部長地位を利用して私利を図りリベート分の代金上乗せ分の損害を使用者に与えたことなどを理由とする降格(2ランク降格、月額賃金が約4万円低下)を有効としました。

スリムビューティーハウス事件(東京地判平20・2・29)

複数の従業員から言動について不満が寄せられていた社員を5ランクダウンの降格処分、降格にともなう賃金減額(年俸1,150万円から690万円)が行われた事案において、減額基準の客観性合理性が明らかでないこと、年俸の4割を超える金額にわたる減額であって極端であることを理由に、本件降格にともなう減額としては過大に過ぎるとして無効と判断されました。

資格・等級の引下げによる降格

会社が、賃金制度において職能資格制度や職務等級制度・役割等級制度を採用している場合に、資格や等級を引き下げる降格を行うことができます。もっとも、資格・等級の引下げも自由に行えるわけではなく、どの制度の等級を引き下げるかによって、就業規則の根拠が必要かどうかや、濫用審査の厳しさが変わってきます

職能資格(属人給)の引下げ ― 就業規則の根拠が必要

職能資格制度は、社員が身につけた業務遂行能力に着目して等級を定めるものです。いったん身につけた能力は簡単には失われない(陳腐化しない)と考えられるため、資格を引き下げるには、就業規則に降格・降給の根拠となる規定があることが必要とされています。具体的な降格事由、降格の幅、減額する賃金の幅などが規定されていることが求められ、単に「降格・降給があり得る」と定めるだけでは不十分です(チェースマンハッタン銀行事件・東京地判平成6年9月14日、アーク証券事件・東京地決平成8年12月11日、小坂ふくし会事件・秋田地大館支判平成12年7月18日など)。その上で、人事権の行使が濫用でないかが厳格に審査されます。

アーク証券事件(東京地決平8・12・11)

就業規則等における職能資格制度の定めにおいて、資格等級の見直しによる降格・降給の可能性が予定され、使用者にその権限が根拠付けられていることが必要である、と判断しました。

CFJ合同会社事件(大阪地判平25・2・1)

給与規程において「基本給(部長職以上は月例給)は、JobGrade別に月額で定める。」と定めるだけでは足りず、具体的な金額やその幅、適用基準を明らかにすべきである、と判断しました。

職務等級・役割等級(属仕事給)の引下げ ― ガイドライン等でも足りる

これに対し、職務等級制度・役割等級制度は、社員が現に担っている職務や役割に着目して等級を定めるものです。担う職務や役割が変われば等級が変わるのは制度上当然であるため、就業規則ではなく「手引き」や「ガイドライン」等に根拠があれば降格の権限が認められると解されています。この場合の等級の引下げは、当該制度の枠組み(規定)の中での人事評価の手続と決定権に基づいて行われる限り、使用者の裁量的判断に委ねられます(コナミデジタルエンタテイメント事件・東京高判平成23年12月27日、L産業事件・東京地判平成27年10月30日など)。

いずれの場合も、資格や等級の引き下げは賃金の減額に直結し労働者の不利益が大きいため、根拠規定の有無と減額幅の相当性が慎重に判断されます。

降格の種類と有効要件の比較

ここまで解説した降格の根拠と有効要件を表にまとめます。まず、懲戒処分としての降格と人事権行使としての降格に大きく分かれ、後者はさらに「役職・職位の引下げ(降職)」「職務等級・役割等級の引下げ」「職能資格の引下げ」で就業規則の要否と濫用審査の厳しさが異なります。

降格の種類 就業規則等の要否(根拠) 濫用審査・主な有効要件
懲戒処分としての降格 就業規則上の懲戒規定が必要 就業規則の定め・周知、懲戒事由該当性、権利濫用にあたらないこと、適正な手続き(弁明の機会の付与等)
役職・職位の引下げ(降職) 就業規則等は不要(ただし労働契約上、役職・職位が限定されている場合は不可) 大幅な裁量。業務上の必要性・労働者側の帰責性・不利益の程度・昇進昇格の運用状況の4要素で濫用を判断
職務等級・役割等級の引下げ 就業規則ではなくガイドライン等でも足りる 当該制度の枠組みの中での人事評価の手続と決定権に委ねられる
職能資格の引下げ 就業規則の根拠が必要 厳格な審査(減額幅の相当性・根拠規定の具体性が問われる)

不利益取扱いにならないように

妊娠出産、育児を理由に、社員を降格させると法令違反となり無効となります。

男女雇用機会均等法9条3項では、「妊娠・出産等を理由とする不利益取扱いの禁止」が定められています。育児・介護休業法においても、「育児休業等を理由とする不利益取扱いの禁止」が定められています。妊娠出産、育児休業等が終わってから1年以内に降格などの不利益な取扱いをすると、原則として法令違反になります。

ここで注意したいのは、育児休業そのものだけでなく、育児を理由とする早退や欠勤を理由に役職を外す降格も、不利益取扱いに該当し違法・無効となり得るという点です。たとえば、育児による早退・欠勤が目立つ主任について主任の役職を外そうとする場合、その早退・欠勤が育児に必要な範囲内である限り、育児・介護休業法が禁止する不利益取扱いに該当する可能性が高く、人事権の範囲外の違法・無効な降格と判断されるおそれがあります。

業務上の必要がある場合

降格が妊娠出産等の不利益取扱いに形式上該当したとしても、業務上の必要から行われたもので、社員が受ける不利益を上回る事情が認められる場合には、例外的に法令違反とはなりません。

例えば、経営悪化による組織再編や妊娠出産前の能力不足を理由とする場合が、これにあたる可能性があります。

社員本人の同意がある場合

たとえ不利益な取扱いであったとしても、降格について社員本人の同意があった場合には、例外的に法令違反となりません。

しかし、社員本人が形式的に同意さえすれば十分というわけではありません。会社が社員に対して、説明の機会を複数回設けて、降格に伴う不利益を具体的に説明する、質問を受け付ける、回答までの期間の猶予を設ける、書面による同意を求めるといった慎重なプロセスを経ていなければ、不利益取扱いについて同意をしたと認められることはありません。

降格を拒否された・不服や退職を主張されたときの対応

降格を告げられた社員は、「降格を拒否できるのか」「給料はどこまで下がるのか」「違法ではないか」といった疑問を持ち、不服を申し立てたり、退職を口にしたりすることがあります。会社としては、こうした反応をあらかじめ想定して備えておくことが大切です。

降格を社員が拒否できるか

就業規則に根拠があり、人事権の濫用にあたらない有効な降格であれば、社員が拒否しても降格の効力は生じます。もっとも、本人の同意を根拠とする降格の場合は、同意がなければ降格できません。会社としては、その降格が「就業規則の根拠に基づくもの」なのか「本人の同意を前提とするもの」なのかを、事前に整理しておく必要があります。

降格処分に不服・違法を主張されたときは

社員から「不当な降格だ」「違法だ」と主張された場合、争点になるのは、降格の根拠の有無と、処分の相当性(人事権の濫用・懲戒権の濫用にあたらないか)です。あらかじめ、①就業規則の根拠、②降格の理由となる事実の客観的な証拠、③本人への説明・弁明の機会、④賃金減額の幅の相当性を書面で残しておけば、紛争になった際にも会社の判断の正当性を説明しやすくなります。

反対に、これらの裏付けが不十分なまま降格を強行すると、降格が無効となり、引き下げた賃金の差額をさかのぼって支払う義務が生じるおそれがあります。

降格処分の後の退職・退職勧奨

降格をきっかけに社員が自ら退職を申し出ることもあれば、会社が改善の見込みがないと判断して退職勧奨を検討することもあります。退職勧奨は懲戒処分ではないため、降格処分の後に行うこと自体は問題ありません。ただし、降格を退職に追い込むための手段として使うこと(実質的な退職強要)は違法と評価されるリスクがあります。退職勧奨に応じないことへの制裁として降格すると、その降格自体が不当な動機に基づくものとして無効になり得る点にも注意が必要です。適法な進め方は退職勧奨とは?退職勧奨の注意点を弁護士が解説しますをご参照ください。

降格処分の通知書を交付する

降格処分を行う場合には、口頭ではなく書面によって行います。

降格処分は、口頭によっても通知することは可能です。しかし、口頭だけでは、どのような根拠でどのような降格処分をされたかが判然としません。処分後に処分内容を証明することも難しくなります。

そのため、降格処分を行う場合には、通知書(降格辞令・降格理由書を兼ねることもあります)を交付する方法で行います。降格処分が懲戒処分なのか人事権の行使なのかを明確にしたうえで、これに応じた具体的な内容を明記します。

降格処分通知書の記載事項

  • 処分の対象となる社員・交付日
  • 降格の種類(懲戒処分/人事権の行使のいずれか)
  • 降格の理由(懲戒の場合は対象行為を具体的に特定し、該当する就業規則の条文を記載)
  • 変更前後の役職・職位/資格・等級
  • 変更後の賃金(役職手当・基本給等の変更前後の金額)と適用開始日
  • 不服がある場合の申立ての窓口(設けている場合)

懲戒処分であれば、対象行為を具体的に特定した上で、懲戒事由と懲戒処分の就業規則上の根拠を記載します。人事権の行使としての降格処分であれば、人事権の行使としての降格であること、変更前後の役職の内容や変更前後の役職手当の金額を具体的に記載します。交付の際は、通知書の写しに受領の署名をもらい、記録として残しておくとよいでしょう。

就業規則の記載例

降格・降給を有効に行うためには、就業規則(賃金規程)に根拠を置いておくことが重要です。記載例は次のとおりです(あくまで一例です。自社の等級制度に合わせて調整してください)。

(降格・降職)第○条 会社は、業務上の必要がある場合、または社員の勤務成績・能力・勤務態度等が資格等級もしくは役職の基準に満たないと認められる場合、社員の役職・職位または職能資格・等級を引き下げることがある。
2 前項により資格・等級が引き下げられた場合、当該資格・等級に対応する基本給および役職手当に変更する。

降格処分に関するよくある質問

降格処分に伴って給与を下げることは常に可能ですか?

必ずしも自由に下げられるわけではありません。懲戒処分としての降格であれば就業規則の定めや懲戒権の濫用にあたらないこと、人事権行使としての降格であっても人事権の濫用にあたらないことが必要です。特に賃金の減額幅が大きい場合は、無効と判断されるリスクが高まります。

降格と減給はどう違いますか?

減給は制裁として賃金を差し引く懲戒処分で、労基法91条により1回の額・総額に上限があります。これに対し降格に伴う賃金の引下げ(降給)は、役職・等級の変更に伴う結果であり、91条の上限規制の対象外です。ただし、引下げ幅が過大だと人事権・懲戒権の濫用として無効になり得ます。

社員が降格を拒否した場合でも降格できますか?

就業規則に根拠があり、人事権の濫用にあたらない有効な降格であれば、本人が拒否しても効力は生じます。ただし、本人の同意を根拠とする降格の場合は、同意がなければ降格できません。

降格処分は口頭で伝えるだけでも良いですか?

口頭による通知も可能ですが、根拠や内容が不明確になりやすく、後日の証明も難しくなります。トラブルを避けるためにも、懲戒処分か人事権行使かを明確にした上で、具体的な内容を記載した通知書を書面で交付することをおすすめします。

妊娠・出産を理由とした降格は絶対に認められませんか?

原則として法令違反となり無効ですが、業務上の必要性から行われ、労働者が受ける不利益を上回る事情が認められる場合や、労働者本人が適正なプロセスを経て同意している場合には、例外的に有効とされることがあります。

降格処分の問題は弁護士に相談を

降格処分は、賃金の引き下げを伴う重大な処分です。そのため、労働者からの反発も強く出るケースが多くあります。降格処分を行う際には、降格処分を行うに足りる十分な理由があるか、労働者に生じる不利益が過度ではないかを、あらかじめ精査するべきでしょう。

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