減給処分とは?労働基準法の限度額・計算例と違法になる場合を弁護士が解説

更新日: 2026.07.19

減給処分とは、問題行為をした社員への制裁として、本来支払うべき賃金の一部を差し引く懲戒処分です(「減俸」と呼ばれることもあります)。労働基準法91条により上限が定められており、1回の問題行為につき平均賃金の1日分の半額まで、複数回でも一賃金支払期の賃金総額の10分の1までしか減給できません。この上限を超える減給や、就業規則の根拠なく行う減給は違法です。

問題社員に対して行う懲戒処分の1つに減給処分がある。減給処分とは、その名のとおり、従業員の給与を減額させる懲戒処分です。しかし、減給処分にも一定の制約があります。

本記事では、減給処分にはどのような制約があり、どれ程度まで賃金を減額できるのでしょうか。また処分時には何に注意すべきでしょうか。今回は、減給処分の基本から限度額、注意点を詳しく解説します。

この記事でわかること

  • 減給処分の意味と、労働基準法91条による上限額(具体的な計算例つき)
  • 減給処分を適法に行うための条件と手続き
  • 限度額を超えて賃金を減額したい場合に取り得る方法

減給処分とは

会社の就業規則や法律に違反する行動をした従業員への懲戒処分の一つが減給処分です。これは、従業員の給与や賞与を減額する処分を意味します。

減給処分は、労働基準法で定められた一定の範囲内で行わなければならず、会社は減給の限度や手続きを十分理解し適切に処置を執る必要があります。

「減俸」との関係

「減俸(げんぽう)」という言葉が使われることもありますが、俸給(給与)を減じるという意味で、懲戒処分の文脈では減給と同じ処分を指すのが一般的です。会社によって就業規則上の名称が異なるだけですので、自社の規定でどの名称・どの内容が定められているかを確認してください。

なお、不祥事の際に報道される「役員の月額報酬30%減俸(3か月)」のようなものは、労働契約ではなく委任契約に基づく役員報酬の自主返上であり、労働基準法の適用がないため、本記事で解説する減給処分とは別の話です。

「懲戒処分としての減給」と「その他の賃金減額」は別物

実務で混同されやすいのが、制裁として行う懲戒処分としての減給と、降格に伴う賃金の変動や本人の合意による賃金の引き下げといった懲戒処分ではない賃金減額の区別です。本記事で解説する労働基準法91条の上限は、前者の懲戒処分としての減給に適用されるルールです。

一方、懲戒処分によらずに賃金額そのものを引き下げること(労働条件の不利益変更)は、91条の上限の問題ではなく、原則として本人の自由な意思に基づく同意が必要になります。同意なく給料を下げた場合の問題は、給料の減額を拒否!企業が取るべき正しい対応と法的注意点を弁護士が解説をご参照ください。

逆に、次のようなものは91条の「減給」には当たりません。①遅刻・早退・欠勤について、実際に働かなかった時間分の賃金を差し引くこと(ノーワーク・ノーペイの原則による控除であり制裁ではありません)、②問題行為が人事考課に反映されて賞与や昇給額が下がること、③懲戒処分として昇給を停止・延期すること。これらは制裁としての減給ではないため、91条の上限の制約を受けません。

減給を含む懲戒処分の全体像(7種類の重さの序列・処分が有効となる条件・進め方の流れ)は、懲戒処分とは?種類・重さの一覧と流れ・厳重注意との違いで体系的に解説しています。

減給処分の限度額

労働基準法は、減給処分に関して具体的な限度額を定めており、これを守らなければ法令に違反する懲戒処分とされます。減給の限度額をしっかりと理解し、公正な人事管理を行うことは企業にとっても非常に重要です。

1回の減給処分は1日分の給与の半額

1回の減給処分においては、労働基準法に基づき、「平均賃金の1日分の半額」を上限とすることが定められています。もしもこの限度を超える減給を実施した場合、労働者から不当な懲戒処分であるとの訴えを起こされる恐れがあります。また、1回の非違行為に対して減給を行う際には、その程度が明確であること、公平性が確保されていることが求められます。この限度額の背景には、労働者の生活の保障と、企業側の懲戒権の乱用を防ぐための考えがあるのです。

誤解が多いのは、「半額以内なら何日でも減給できる」わけではない点です。この上限は1つの問題行為に対する減給の総額が平均賃金の半日分以内でなければならないという意味です。例えば「反省を促すために5日間給料を半額にする」という処分は、合計すると半日分を大きく超えるため認められません。

1か月の減給の上限は給与の10分の1

減給処分をする場合、1か月の減給の上限が給与の10分の1までに制限されています。

例えば、1か月中に、複数回の問題行為を理由に2回以上の減給処分をする場合、減給額の合計が給与の10分の1を超えて減給処分を行うことはできません。1か月の給与とは、基本給だけでなく、定期的に支払われる手当ても含む賃金総額を指しています。

なお、複数の問題行為により減給すべき総額が10分の1を超えてしまう場合、超えた部分の減給が一切できなくなるわけではなく、翌期以降の賃金支払期に繰り越して減給するのが行政解釈上の取り扱いです。この運用を円滑に行うため、就業規則の減給規定に「10分の1を超える部分は翌月以降の賃金から減ずる」旨をあらかじめ明記しておくことをおすすめします。

平均賃金の計算方法

1回あたりの減給額の上限は、平均賃金の半分です。この平均賃金の計算方法は、労働基準法で定められています。

すなわち、3か月間でその労働者に対し支払われた賃金の総額を、その期間の総日数(労働日数ではない)で割った金額をいいます。起算点は、減給処分を本人に通知した日の直前の賃金締切日から遡った3か月間です。賃金総額には、基本給のほか通勤手当・住宅手当・家族手当など定期的に支払われる手当も含まれます(結婚祝金などの臨時の賃金や、3か月を超える期間ごとに支払われる賞与は含まれません)。

ただし、平均賃金が低い場合には、最低保障額が平均賃金となることがあります。勤務日数が少ないアルバイトやパートタイマーなど、総支給額を総日数で割った金額が最低保障額を下回る場合には、最低保障額が平均賃金となります。最低保障額は、3か月間の総支給額をその期間の労働日数で割った金額の60%をいいます。

減給処分をする場合には、平均賃金を正しく計算することが求められます。

計算例: 月給30万円の社員を減給処分する場合
直近3か月の賃金総額90万円(30万円×3か月)
その期間の総日数(暦日)92日の場合
平均賃金(90万円÷92日)約9,783円
1回の減給の上限(平均賃金の半額)約4,891円
1か月の減給の上限(賃金総額の10分の1)3万円

このように、減給処分で差し引ける金額は一般にイメージされるよりも小さく、月給30万円の社員でも1回の問題行為につき5,000円弱が上限です。「1か月給料を2割カット」のような減給は、懲戒処分としては明確に違法となります。

賞与も減給の対象となる

賞与は賃金の一部とみなされるため、減給の懲戒処分として賞与の減額も可能です。

ただし、ここで注意すべき点は、賞与に対する減給処分も労働基準法91条の適用を受けるということです。すなわち、問題行為1回に対する減給額は平均賃金の1日分の半額を超えてはならず、複数の減給処分をする場合にも1賃金支払期における賃金の総額の10分の1を超えることはできません。このようにして、労働者の生活が過度に損なわれないよう、法律による保護が図られているのです。

上限を超えた減給は「無効+罰金」のダブルリスク

労働基準法91条の上限を超えた減給処分は、その処分自体が無効となるだけでなく、30万円以下の罰金の対象にもなります(労働基準法120条1号)。実際の裁判例でも、遅刻や無断欠勤を理由に「減給10分の1」として月約3万円を差し引いた処分について、平均賃金の半日分を超えていることは明らかであるとして、91条違反により無効と判断された例があります(日光産業ほか1社事件・大阪地裁平成22年判決参照)。

なお、「公務員が不祥事で減給10分の1(3か月)」といった報道の印象から、民間でも同程度の減給ができると誤解されがちですが、公務員の減給は人事院規則等の別ルールに基づくものです。労働基準法が適用される民間の従業員には、本記事で解説した91条の厳しい上限が適用されます。

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減給処分をする場合の注意点

会社が従業員に対して減給処分を検討する場合、正当な理由があり、かつ適切な手続きを踏む必要があります。減給処分は従業員の生活に大きな影響を及ぼすものですから、慎重な手続きが求められます。

問題行為の調査を行う

従業員に対する懲戒処分を行う前には、問題行為が実際に起こったかどうかを十分に調査する必要があります。この調査過程で、客観的な証拠や証言を集めることが求められます。証拠が不十分な場合や偏見に基づく決定を行うと、減給処分が無効と判断される可能性があります。

従って、客観的な証拠を収集したり、目撃した社員の聴き取りなど、問題行為の調査を計画的に行うことが大切です。

就業規則で減給処分の定めがあること

減給処分を行うためには、就業規則にその旨の定めが必要です。

就業規則には、どのような行為が処分の対象になるのか(懲戒事由)、懲戒処分の種類やその内容が明記されていることが必要です。また、就業規則は労働基準監督署への届け出をするだけでなく、その内容を従業員に周知する必要があります。

問題行為に対して減給が重すぎないこと

減給処分を行う際は、その重さが問題行為に見合ったものであることが必要です。たとえ、懲戒事由となる問題行為が認められるとしても、重過ぎる処分は、不当な処分として無効になる恐れがあります。また、過度な処分は、従業員のモチベーションの低下を招く原因にもなりかねません。

そのため、問題行為の悪質さに加えて、同じような過去の事例や本人の反省の有無等を参考にしながら、慎重に処分の程度を検討することが重要です。

就業規則で定めたプロセスを行う

従業員に対して懲戒処分を行う場合には、就業規則で定められたプロセスを遵守する必要があります。就業規則において、賞罰委員会の開催や弁明の機会を与えるなどの手続きが定められている場合、これらを怠ると処分が無効となる可能性があります。公正な手続きを行うことで、従業員の理解を得やすくし、後々のトラブルを未然に防ぐ効果が期待できます。

弁明の機会の与え方や弁明書の書式については、弁明の機会の付与とは?懲戒処分で必須?企業が知るべき手順と注意点で詳しく解説しています。

減給処分通知書を交付する 減給の懲戒処分通知書の書式・ひな形

減給処分を行う際は、文書で従業員に通知するようにします。

減給の懲戒処分通知書には、処分の理由、減給額、適用する就業規則の条項、効力発生日などの必要事項を記載し、書面にて従業員本人へ正式に交付します。通知書を交付する際には、通知書の写しを取った上で、その写しに受領した旨の署名捺印を社員にしてもらうようにします。

限度額を超えて賃金を減額するための手続き

経営者が減給処分を行う際、従業員に対して労働基準法で定められた上限を超えて減給することはできません。

ただ、減給処分の限度額を超える賃金の減額が認められることもあります。

従業員と合意をする

従業員と合意をして、賃金の減額をする場合があります。

しかし、賃金額は、労働者にとって非常に重要な労働条件であり、賃金の減額は労働者に大きな不利益をもたらします。そのため、従業員との合意による賃金の減額は、従業員の自由な意思に基づくことが必要です。

自由な意思といえるかは、次の事情を踏まえて総合的に判断されます。

  • 賃金額の減額の程度や期間
  • 説明会や個別面談の実施の有無
  • 賃金減額の理由や経緯
  • 代償措置の有無

判例上、既に発生した賃金の放棄が有効となるのは、労働者の自由な意思に基づくと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在する場合に限られます。黙示の同意(何も言わなかったから同意したはず、という扱い)が認められることは容易ではないため、賃金の減額や返上を伴う場面では、経緯の説明を尽くしたうえで必ず書面による明示の同意を取得してください。

降格処分に伴う減給

賃金減額の1つの形態として降格処分が考えられます。

降格処分とは、職格や役職を下げることで、それに伴って賃金が減少することがあります。降格は人事権の範囲内で行われることもあれば、懲戒処分の一環として行うこともあります。

賃金が、職位や業務に連動して定められている場合、降格処分による職位や業務の変更がされることで、その結果として賃金が減額することがあります。

降格処分による賃金の減額は、減給処分のように1回きりではなく、継続的に行われる点で異なります。行政解釈上も、降格による職務の変更に伴って賃金が下がることは職務変更の当然の結果であり、91条の制限には抵触しないとされています。ただし、職位・業務と賃金が連動していない場合には、降格処分をしたとしても、当然に賃金を減額させることはできません。降格に伴う賃金減額のルール(賃金テーブル等)が制度としてあるかどうかが分かれ目です。また、裁判例の傾向としては、減額幅が大きすぎる降格減給(数割に及ぶもの)は無効とされやすく、1〜2割程度を目安に、必要に応じて調整給などの激変緩和措置を講じることが有効性を高めます。降格が違法となる場合や進め方は、降格処分とは?降格人事が違法となる場合や通知の方法で詳しく解説しています。

出勤停止による賃金減額のケース

出勤停止が出された場合も、その停止期間中の賃金は支給されません。

出勤停止は従業員に非違行為があった際に行われる懲戒処分の一形態です。出勤停止処分をするためには、就業規則でその処分内容や期間が明確に定められている必要があります。

出勤停止中、労働者は労働を提供しないため、使用者はその対価である賃金を支払う必要はありません。しかし、出勤停止期間を終え、労働者が出勤を再開すれば従前とおり賃金を支払うことになります。出勤停止の条件や期間の目安は、出勤停止処分とは?出勤停止をするための3つの条件で詳しく解説しています。

よくある質問

Q. 減給処分に社員の同意は必要ですか?

懲戒処分としての減給は、就業規則に根拠規定があれば本人の同意なく行えます。ただし労働基準法91条の上限を守る必要があります。一方、懲戒処分によらない賃金額そのものの引き下げ(労働条件の不利益変更)は、原則として本人の自由な意思に基づく同意が必要です。

Q. 減給できる金額の上限はいくらですか?

労働基準法91条により、1回の問題行為につき平均賃金の1日分の半額まで、複数の問題行為があっても一賃金支払期の賃金総額の10分の1までに制限されています。月給30万円の社員であれば、1回あたり約5,000円、1か月合計でも3万円が上限の目安です。

Q. 減給処分はいつまで続けられますか?

減給は1回の問題行為に対する一時的な制裁であり、同じ行為を理由に半額以内の減給を何日も続けることはできません(1つの行為に対する減給総額が平均賃金の半日分以内である必要があります)。なお、複数の問題行為で総額が月10分の1を超える場合は、超過分を翌期に繰り越して減給します。長期的に賃金を変更したい場合は、降格や本人の同意による賃金の見直しなど、別の制度の検討が必要です。

Q. 減給と減俸は違うものですか?

実質的に同じ処分を指すのが一般的です。「減俸」は俸給(給与)を減じるという意味で、会社によって就業規則上の名称が異なるだけです。いずれの名称でも、懲戒処分として行う場合は労働基準法91条の上限が適用されます。

減給処分をする際には弁護士に相談をすること

給与は労働者の生活を支える重要な労働条件であるため、減給処分を行うと、労働者から強い反発を受けることもよくあります。

従って、減給処分を実施する場合には、慎重な手続きを踏むことが必要です。これは当然ながら、従業員の権利を侵害しないためだけでなく、会社側が労働紛争に巻き込まれるリスクを避けるためでもあります。そこで、減給処分を含む懲戒処分をする際には、弁護士に相談・委任することを検討してください。

労働基準法に沿った減給処分を実施できる

弁護士からの法的なアドバイスを受けることで、減給処分が労働基準法に違反していないかどうかの確認ができます。労基法に違反する減給処分は、無効となるだけでなく、法人としての信頼を損なうリスクにもなり得ます。弁護士に相談・委任することで、労基法を遵守しながら、適切に問題社員の対応を行うことができます。

減給処分の正当性を判断できる

弁護士に委任することで、減給処分を下すだけの理由や相当性があるかを判断することができます。

専門家である弁護士を通じて、減給処分とする問題行為を客観的に認定できるのか、認定できる場合に、それが就業規則の懲戒事由に該当し、減給処分に値するのかを精査することができます。十分な検討をせずに勢いで減給処分を行うと、会社側には労働紛争に巻き込まれるなどのリスクを招きます。あらかじめ弁護士に相談すれば、会社側が過剰な処分をしてしまった場合の紛争リスクを未然に防ぐことも可能です。

労働紛争の対応を一任できる

減給処分をした後、従業員側から異議が出されたり、労働審判を含めた労働紛争に発展した場合、弁護士が会社側の代理人として、労働者側との折衝や裁判手続きを適切に行います。

従業員との労働紛争は、会社側に多くの負担を生じさせます。対立関係にある従業員との交渉による精神的な負担も招きます。弁護士に一任すれば、会社の負担を軽減させることができます。

減給処分の設計を、企業側専門の弁護士がサポートします

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