やる気のない社員の解雇は可能?法的リスクを避けるための正しい手順と対応策を解説

更新日: 2026.08.09
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問題社員対応

「やる気のない社員をどう指導すればいいのか」「改善が見込めないので辞めてもらいたいが、どう進めれば安全か」——経営者の方から、こうしたご相談を数多くいただきます。結論から言えば、「やる気がない」という理由だけで解雇すると、不当解雇と判断されるリスクが高いのが実情です。一方で、放置すれば職場全体に悪影響が広がります。本記事では、実際の裁判例をふまえ、違法な解雇を避けながら円満に解決へ導くための具体的な手順を整理します。

結論:「やる気がない」だけを理由にした解雇は原則できない

!この記事の結論

「やる気がない」「態度が悪い」といった主観的で抽象的な評価だけを根拠に社員を解雇すると、後に不当解雇(解雇無効)と判断される可能性が高いといえます。安全に雇用を終了するには、①会社が求める仕事の内容と水準をはっきり示し、②客観的な記録を残しながら改善指導を尽くし、③それでも改善しない場合に懲戒や退職勧奨へ進む、という順序を丁寧にたどることが欠かせません。多くのケースでは、いきなりの解雇ではなく「合意による退職」を目標に据えるほうが、紛争リスクを抑えられます。

やる気の低下は、規模を問わず多くの企業が直面する悩みです。とはいえ、解雇は社員の生活の土台を奪う最も重い措置であり、法律は労働者を手厚く保護しています。感情に任せて解雇に踏み切ると、かえって会社が大きな金銭的・時間的負担を背負うことになりかねません。まずは「なぜ、やる気がないだけでは解雇できないのか」という法律上の理由から確認していきましょう。

なぜ違法になるのか——解雇権濫用法理と2つの裁判例

「解雇権濫用法理」——解雇には厳しい2つの条件がある

会社が持つ解雇の権利には、法律上の歯止めがかけられています。労働契約法16条は、解雇について「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、権利の濫用として無効になる」と定めています。つまり、有効な解雇と認められるには、次の2つの条件をともに満たす必要があります。

要件意味するところ
客観的に合理的な理由解雇の根拠となる事実が、主観的な印象ではなく、誰が見ても確かめられる客観的な事実に裏づけられていること。
社会通念上の相当性その解雇が、社会の常識に照らして重すぎない処分といえること。改善の機会を与えたか、より軽い手段を尽くしたかも問われる。

「やる気がない」という言葉は、本人の内面に関わる主観的な評価であり、数値や事実として測ることが困難です。そのため、この理由だけで「客観的に合理的な理由」を証明するのは極めて難しく、具体的な根拠を欠くとして解雇が無効になりやすいのです。裁判所が実際にどのような判断をしているのか、代表的な2件を見てみましょう。

§裁判例① 高知放送事件(最高裁 昭和52年1月31日判決)

解雇権濫用法理を確立したリーディングケースです。放送事故(寝過ごしによる放送の空白)を起こしたアナウンサーの解雇について、最高裁は、普通解雇の事由があっても、具体的な事情のもとで解雇が著しく不合理で社会通念上相当と認められないときは、解雇権の濫用として無効になると判示しました。過失によるものであったこと、より軽い処分の余地があったことなどを重視した判断です。「事由があること」と「解雇が相当であること」は別問題だ、という原則がここにあります。

§裁判例② セガ・エンタープライゼス事件(東京地裁 平成11年10月15日決定)

「労働能率が劣り、向上の見込みがない」ことを理由とした解雇が争われた事案です。裁判所は、平均的な水準に達していないというだけでは足りず、「著しく」能率が劣り、かつ向上の見込みがない場合でなければ解雇は認められないとし、さらに教育・指導による改善の機会を与えることが必要だとして解雇を無効としました。成績が芳しくない・意欲が低いという評価だけでは、解雇の理由として弱いことを示す判断です。

!裁判例が示す教訓

いずれの事案でも、「問題社員だから解雇できる」という会社側の感覚と、裁判所の判断には大きな隔たりがありました。共通するのは、①客観的な事実の積み上げ、②指導・改善の機会の付与、③配置転換など解雇を避ける努力——この3点を欠くと解雇は無効になりやすいということです。逆に言えば、この3点を丁寧に踏むことが、後の紛争を防ぐ最大の備えになります。

やる気のない社員を「放置」する3つの経営リスク

「解雇が難しいなら、しばらく様子を見よう」と放置してしまうと、別の問題が静かに広がります。やる気の低い社員を漫然と放置することには、主に次の3つのリスクがあります。

リスク職場に起きること
① 周囲の士気の低下まじめに働く社員が「やらない人が得をする」と感じ、チーム全体のモチベーションと生産性が落ちていく。
② 優秀な人材の流出不公平感に耐えかねた中核人材が離職し、採用・育成コストが膨らむ。
③ 会社の信用の毀損本人の会社批判や不満がSNS等で広がり、取引先や求職者からの評価に影響することがある。

つまり、解雇に踏み切るリスクと同じくらい、「何もしない」ことのリスクも大きいのです。放置でも即解雇でもなく、段階を踏んで改善に取り組み、記録を残すという中間の道こそが、経営者にとって最も現実的な選択肢になります。

やる気のない社員によく見られる特徴

対応の前提として、「やる気がない」と感じる社員に共通しがちな行動を整理しておきます。感覚的な評価を、具体的な事実に落とし込むための手がかりになります。

指示されたこと以上には動かない

明確な指示がなければ自分から動かず、与えられた仕事を最小限こなすだけで、業務改善の工夫や周囲への協力には消極的な傾向があります。

仕事への責任感が乏しい

納期や約束を守らない、報告・連絡・相談を怠る、ミスの原因を他人や環境のせいにする——こうした行動が積み重なり、基本的な職責が果たされないことがあります。

会社や上司への批判が目立つ

成果が出ない原因を会社の方針や上司のマネジメントに求め、不満や愚痴を繰り返します。こうした言動は周囲に伝染し、職場全体の空気を重くする要因になります。

ポイント:印象を「事実」に置き換える

「やる気がない」で止めず、いつ・どの業務で・何が・どう問題だったかを、日時と具体的な言動、それによって生じた業務上の不都合まで書き留めておきましょう。この事実の記録が、後の指導や、万一の紛争における会社側の正当性を支えます。

解雇の前に踏むべき正しい手順【5ステップ】

裁判例が示すとおり、解雇を有効にするカギは「会社が改善のために手を尽くした」という客観的な事実の積み重ねにあります。感覚的な「やる気がない」で終わらせず、具体的な問題行動を記録し、指導と改善の機会を重ねていく——この地道なプロセスこそが、後の紛争への最大の備えになります。以下の順序で進めます。

問題行動を客観的な事実として記録する

まず、主観的な評価ではなく、いつ・どの業務で・何が問題だったかを事実として記録します。納期遅れ、指示違反、取引先からの苦情など、後日の指導や紛争で根拠となる事実を、日報・報告書・メール等の形で残していきます。

面談で具体的に改善指導し、指導記録を残す

集めた事実にもとづいて面談を行い、「どの行動が・なぜ問題で・どう改善してほしいか」を具体的に伝えます。抽象的な非難は避け、達成可能な改善目標を設定。面談の日時・内容・本人の反応・合意事項まで記録に残します。

本人の適性を踏まえ、配置転換や業務変更を検討する

指導しても改善が乏しい場合でも、いきなり解雇ではなく、受け入れ可能な部署・業務がないかを検討します。自主退職に追い込む目的の“追い出し部屋”のような配置は、違法と評価されるため避けてください。

就業規則にもとづき、段階的に懲戒処分を行う

それでも改善しない場合は、戒告・けん責といった軽い処分から段階的に進めます。いきなり懲戒解雇に飛ぶと権利濫用と判断されやすいため注意が必要です。弁明の機会を与えるなど、所定の手続きも守ります。

雇用の継続が難しければ、退職勧奨(合意退職)を検討する

ここまでのプロセスを尽くしてもなお改善が見込めない場合に、退職勧奨による合意退職を検討します。一方的な解雇の前に、双方が納得できる形での解決を目指すのが、リスクの少ない進め方です(次章で詳述)。

業務日報を活用して仕事ぶりを「見える化」する

在宅勤務や外回りが多いなど、上司が働きぶりを直接把握しにくい場合には、業務日報が有効な手段になります。その日に取り組んだ業務を、取り組んだ時間帯や対応した相手方(取引先・部署など)がわかる形で具体的に記載し、毎日提出してもらう運用にします。指導担当者はその内容にコメントを返し、記載が曖昧な点は放置せず確認します。

こうした業務日報の運用には、①実際の業務の遂行状況を客観的に把握できる、②日々の指導の材料になる、③「会社は改善のために働きかけていた」ことを示す記録として後日役立つ——という3つの利点があります。なお、特定の社員にだけ日報を求める場合は、嫌がらせと受け取られないよう、業務把握という正当な目的にもとづいて運用することが大切です。

記録は「5W1H」で残す

指導・面談の記録は、日時・場所・同席者・指導内容・本人の反応・合意した改善目標まで残しましょう。「いつ、どこで、誰が、何を、なぜ、どのように」を意識した記録が、後日の説明力を大きく高めます。

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「解雇」より「合意退職」を目指すべき理由

指導を尽くしても改善せず、雇用の継続が難しいと判断する場面は現実にあります。それでも、いきなり普通解雇を選ぶと、前述の裁判例のように「改善機会の付与や解雇回避の努力が不十分」として無効とされ、長い裁判の末に敗訴するリスクが残ります。そこで実務で目標に据えたいのが、一方的な解雇ではなく双方の合意による退職です。

合意退職なら、後から無効を争われにくい

解雇は会社の一方的な意思表示であるため、後から「不当解雇だ」と効力を争われる余地が残ります。一方、本人が納得して退職に合意すれば、原則として後から蒸し返されにくく、バックペイなどの経済的リスクも避けられます。会社にとっても本人にとっても、円満に区切りをつけられる点で現実的な選択肢です。

退職勧奨は「解雇を避ける努力」の一環でもある

裁判所は、解雇の有効性を判断する際に「会社が解雇を避けるための努力を尽くしたか」を重視します。改善指導を重ねたうえで、いきなり解雇するのではなく退職勧奨による話し合いを試みたという経過は、仮に最終的に解雇へ進む場合でも、会社側の対応の相当性を支える事情になり得ます。

合意をまとめる際の条件

合意退職を目指す場合は、退職金の上乗せ、再就職支援、有給休暇の消化、退職日までの出勤免除など、本人にとって前向きになれる条件を用意して話し合うと、合意に至りやすくなります。具体的な金額・条件は事案によって大きく異なるため、提示の前に弁護士へご相談ください。

退職勧奨の進め方と、退職強要にしないための注意点

退職勧奨は、あくまで社員に自主的な退職を促す「お願い」であり、社員にはこれに応じる義務はありません。会社が一方的に退職を強制することは許されず、言葉づかいや態度には細心の注意が必要です。

!「退職強要」と判断されないために
  • 執拗に面談を繰り返す、長時間にわたって説得する、威圧的な言動をとる——これらは退職強要とみなされ、違法となるリスクがあります。
  • 本人が明確に退職を拒否した場合は、それ以上の勧奨を続けるべきではありません。継続すればパワーハラスメントと評価される可能性が高まります。
  • 退職はあくまで本人の自由な意思にもとづくべきもので、退職届の提出を強要することは避けてください。
  • 面談ではその場で即決を迫らず、本人が十分に検討する時間を確保します。

提示する条件としては、退職金の上乗せ、再就職支援、有給休暇の消化、退職日までの出勤免除などが考えられます。従業員にとって有利な条件を検討し、冷静に提示することが、円満な合意への近道です。

どうしても普通解雇する場合の手続き

指導も退職勧奨も尽くしたうえで、やむを得ず普通解雇を選ぶ場合は、法律上の手続きを正確に踏む必要があります。

30日前の解雇予告、または解雇予告手当の支払い

30日前に予告しない、または予告期間が30日に満たない場合は、その不足日数分の「解雇予告手当」を支払わなければなりません。

解雇理由証明書の準備と交付

労働基準法22条にもとづき、労働者から請求があれば、会社は解雇理由証明書を遅滞なく交付する義務があります。この書面は解雇の正当性を争う際の重要な証拠になるため、これまでの指導記録と矛盾がないよう、事実にもとづいて正確に記載します。

感情ではなく、客観的事実にもとづいて通知する

解雇を通知する面談では、失望や怒りといった感情的な言葉は控え、解雇通知書に解雇理由を具体的に記載して交付します。冷静で事実に即した対応が、後の労働審判や訴訟でのリスクを下げます。

!不当解雇と判断された場合の会社の負担

解雇が無効とされると、会社は解雇期間中の賃金(バックペイ)をさかのぼって支払う必要が生じます。裁判が長期化すれば金額は大きく膨らみ、退職を前提とした解決金や慰謝料が加わることもあります。加えて、対応にかかる時間・労力、企業イメージへの影響も無視できません。だからこそ、解雇の前段階での備えが重要になります。

弁護士に相談するメリットとタイミング

問題社員への対応は、労働問題に詳しい弁護士に相談することで、法的リスクを抑えながら進められます。主なメリットは次の3点です。

  • 法的リスクの客観的な評価:いまの対応が法的に妥当か、不当解雇のリスクをどう避けるか、証拠の残し方まで具体的な助言を得られます。
  • 手順と交渉の設計:改善指導・退職勧奨・解雇それぞれの進め方や、本人との交渉方法について適切な指導を受けられます。代理人として交渉を任せることも可能です。
  • 訴訟リスクへの備え:労働審判や訴訟に発展した場合も、経過を把握した弁護士が一貫してサポートします。
相談のベストタイミング

理想は、改善指導で効果が出ない段階や、退職勧奨・解雇を実行する前です。解雇後に問題が表面化してから相談すると、打てる手が限られてしまうことがあります。「そろそろ動くべきか」と迷った時点が、相談の好機です。

よくある質問(FAQ)

やる気のない社員を、いきなり解雇することはできますか?
「やる気がない」という主観的な理由だけでの解雇は、不当解雇と判断される可能性が高く、おすすめできません。まずは会社が求める水準を明確に示し、記録を残しながら改善指導を尽くすことが前提になります。
本人に「パワハラだ」と言われるのが心配です。どう進めればよいですか?
正当な業務上の指導であれば、ただちにパワハラになるわけではありません。人格を否定する言葉や過度な叱責を避け、事実にもとづいて必要な範囲で指導し、その記録を残すことが大切です。適正な指導とハラスメントの線引きに迷う場合は、早めに弁護士にご相談ください。
改善指導をしても変わりません。どのくらい続ければよいですか?
一律の期間はありませんが、一定期間ごとに面談で達成度を確認し、記録を残しながら継続することが大切です。効果が感じられない時期があっても、状況に応じて指導方法を見直しつつ続けることが、後の正当性の裏づけになります。
退職勧奨を拒否されたら、どうすればよいですか?
本人が明確に拒否した場合は、それ以上勧奨を続けるべきではありません。執拗な説得は退職強要・パワハラと評価されるおそれがあります。改善指導や懲戒手続きなど、別の適切なプロセスに立ち返って検討します。
解決までにどのくらいの期間がかかりますか?
事案により異なりますが、丁寧な事前準備を経て指導を継続し、数か月で退職の合意に至る例もあります。見通しは状況によって変わるため、詳しくは面談でご説明します。

まとめ:放置でも即解雇でもなく、「順序」で解決する

「やる気がない」という理由だけで社員を解雇すると、不当解雇として無効になり、バックペイなどの経済的負担や信用の毀損を招くおそれがあります。一方で、モチベーションの低い社員を放置することも、他の社員の士気を下げ、優秀な人材の流出につながります。

だからこそ、会社が求める業務の内容と水準を明確にし、業務日報や定期面談で客観的に指導を積み重ね、改善が見られなければ懲戒処分、そして合意による退職を目指す——この順序を丁寧に踏むことが、リスクを抑えた解決の王道です。各プロセスを適切に進めるためにも、できるだけ早い段階で弁護士に相談することをご検討ください。

※本記事について
本記事は一般的な情報提供を目的としたもので、個別の事案に対する法的助言ではありません。記載内容は公開時点の法令・裁判例にもとづいており、実際の対応にあたっては具体的な事情により結論が異なる場合があります。見通しや結果を保証するものではありません。個別のご事情については弁護士にご相談ください。本記事は弁護士 南 宜孝が監修しています。
参考裁判例:高知放送事件(最高裁 昭和52年1月31日判決)/セガ・エンタープライゼス事件(東京地裁 平成11年10月15日決定)
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「やる気のない社員」を放置するとどのような経営リスクが生じますか?

やる気のない社員を放置することで、①周囲の士気低下と優秀な人材の離職リスク、②業務遂行の停滞と生産性の低下、③「不公平な処遇」と受け取られることによる社内秩序の乱れ、といった経営上のリスクが生じます。放置し続けると事後の対応が難しくなるため、早期に事実の記録と指導を開始することが望ましいといえます。

能力不足を理由に、正社員から契約社員やパートへ雇用形態を変更することは可能ですか?

雇用形態の変更は労働条件の重大な変更に該当するため、原則として労働者本人の同意が必要です(労働契約法8条)。会社が一方的に雇用形態を変更することは「不利益変更」として無効となる可能性が高く、実務上は本人との話し合いのうえ、変更後の労働条件を明記した書面を作成して合意を得るのが基本です。合意なく降格・雇用形態変更を強行すると、慰謝料請求や地位確認訴訟のリスクが生じます。

「能力不足」を理由とする退職勧奨や解雇では、どのような証拠が必要になりますか?

「能力不足」を根拠とする場合、①業務日報や日々の業務記録、業務遂行上の具体的な問題事例(いつ・何が・どのような支障を生んだか)を時系列で示す書面、②改善指導の記録(面談議事録・指導書・改善計画書)、③改善のために提供した機会(配置転換・研修・OJT等)の記録、④それでも改善に至らなかった経過の記録、が主な証拠となります。「主観的にやる気が感じられない」といった評価だけでは、後日の労働審判・訴訟で会社側の主張を裏付けることが困難です。

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