やる気のない社員の解雇は可能?法的リスクを避けるための正しい手順と対応策を解説

更新日: 2026.09.24
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企業法務/人事労務・解雇

「やる気がない」という理由だけで社員を解雇すると、不当解雇(解雇無効)と判断されるリスクが高いのが実情です。主観的・抽象的な評価は、解雇に必要な「客観的に合理的な理由」を満たしにくいためです。

一方で放置すれば、周囲の士気低下・優秀人材の流出・信用毀損という経営リスクが広がります。答えは「放置」でも「即解雇」でもなく、①求める水準を示す→②記録を残して改善指導→③合意退職を目指す、という順序です。裁判例をふまえ、違法な解雇を避けて円満に解決へ導く手順を、企業経営者の視点で弁護士が解説します。

まず結論

やる気のない社員を、いきなり解雇できますか?

原則としてできません。解雇には「客観的に合理的な理由」と「社会通念上の相当性」が必要です(労働契約法16条)。「やる気がない」という主観的評価だけでは合理的理由を証明しにくく、改善指導を尽くさない解雇は不当解雇として無効になり、多額のバックペイ・解決金負担が生じ得ます。

では、どう進めれば安全ですか?

「順序」を丁寧に踏むことです。①会社が求める仕事の内容と水準を明示し、②業務日報や面談で客観的な記録を残しながら改善指導を尽くし、③それでも改善しなければ段階的な懲戒や退職勧奨による「合意退職」を目指します。いきなりの解雇より、合意退職のほうが紛争リスクを大きく抑えられます。

この記事の根拠となる主な条文・裁判例
  • 労働契約法16条(解雇権濫用法理)/8条(労働条件の変更には合意が必要)
  • 労働基準法20条(解雇予告・予告手当)/22条(解雇理由証明書の交付義務)
  • 高知放送事件(最判昭52・1・31)/セガ・エンタープライゼス事件(東京地決平11・10・15)

結論:「やる気がない」だけを理由にした解雇は原則できない

「やる気がない」「態度が悪い」といった主観的で抽象的な評価だけを根拠に社員を解雇すると、後に不当解雇(解雇無効)と判断される可能性が高いといえます。安全に雇用を終了するには、①会社が求める仕事の内容と水準をはっきり示し、②客観的な記録を残しながら改善指導を尽くし、③それでも改善しない場合に懲戒や退職勧奨へ進む、という順序を丁寧にたどることが欠かせません。多くのケースでは、いきなりの解雇ではなく「合意による退職」を目標に据えるほうが、紛争リスクを抑えられます。

やる気の低下は、規模を問わず多くの企業が直面する悩みです。とはいえ、解雇は社員の生活の土台を奪う最も重い措置であり、法律は労働者を手厚く保護しています。感情に任せて解雇に踏み切ると、かえって会社が大きな金銭的・時間的負担を背負うことになりかねません。

なぜ違法になるのか——解雇権濫用法理と2つの裁判例

「解雇権濫用法理」——解雇には厳しい2つの条件がある

会社が持つ解雇の権利には、法律上の歯止めがかけられています。労働契約法16条は、解雇について「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、権利の濫用として無効になる」と定めています。有効な解雇と認められるには、次の2つの条件をともに満たす必要があります。

要件意味するところ
客観的に合理的な理由解雇の根拠となる事実が、主観的な印象ではなく、誰が見ても確かめられる客観的な事実に裏づけられていること。
社会通念上の相当性その解雇が、社会の常識に照らして重すぎない処分といえること。改善の機会を与えたか、より軽い手段を尽くしたかも問われる。

「やる気がない」という言葉は、本人の内面に関わる主観的な評価であり、数値や事実として測ることが困難です。そのため、この理由だけで「客観的に合理的な理由」を証明するのは極めて難しく、具体的な根拠を欠くとして解雇が無効になりやすいのです。裁判所が実際にどう判断しているのか、代表的な2件を見てみましょう。

高知放送事件(最判 昭52・1・31)解雇権濫用法理を確立したリーディングケースです。放送事故(寝過ごしによる放送の空白)を起こしたアナウンサーの解雇について、最高裁は、普通解雇の事由があっても、具体的な事情のもとで解雇が著しく不合理で社会通念上相当と認められないときは、解雇権の濫用として無効になると判示しました。過失によるものであったこと、より軽い処分の余地があったことなどを重視した判断です。「事由があること」と「解雇が相当であること」は別問題だ、という原則がここにあります。
セガ・エンタープライゼス事件(東京地決 平11・10・15)「労働能率が劣り、向上の見込みがない」ことを理由とした解雇が争われた事案です。裁判所は、平均的な水準に達していないというだけでは足りず、「著しく」能率が劣り、かつ向上の見込みがない場合でなければ解雇は認められないとし、さらに教育・指導による改善の機会を与えることが必要だとして解雇を無効としました。成績が芳しくない・意欲が低いという評価だけでは、解雇の理由として弱いことを示す判断です。

いずれの事案でも、「問題社員だから解雇できる」という会社側の感覚と裁判所の判断には大きな隔たりがありました。共通するのは、①客観的な事実の積み上げ、②指導・改善の機会の付与、③配置転換など解雇を避ける努力——この3点を欠くと解雇は無効になりやすいということです。

やる気のない社員を「放置」する3つの経営リスク

「様子を見よう」と放置してしまうと、別の問題が静かに広がります。やる気の低い社員を漫然と放置することには、主に次の3つのリスクがあります。

リスク職場に起きること
① 周囲の士気の低下まじめに働く社員が「やらない人が得をする」と感じ、チーム全体のモチベーションと生産性が落ちていく。
② 優秀な人材の流出不公平感に耐えかねた中核人材が離職し、採用・育成コストが膨らむ。
③ 会社の信用の毀損本人の会社批判や不満がSNS等で広がり、取引先や求職者からの評価に影響することがある。

つまり、解雇に踏み切るリスクと同じくらい、「何もしない」ことのリスクも大きいのです。放置でも即解雇でもなく、段階を踏んで改善に取り組み、記録を残すという中間の道こそが、経営者にとって最も現実的な選択肢になります。

やる気のない社員によく見られる特徴

対応の前提として、「やる気がない」と感じる社員に共通しがちな行動を整理しておきます。感覚的な評価を、具体的な事実に落とし込むための手がかりになります。

  • 明確な指示がなければ自分から動かず、与えられた仕事を最小限こなすだけで、業務改善の工夫や周囲への協力に消極的
  • 納期や約束を守らない、報告・連絡・相談を怠る、ミスの原因を他人や環境のせいにする
  • 成果が出ない原因を会社の方針や上司のマネジメントに求め、不満や愚痴を繰り返し、周囲の空気を重くする
ポイント:「やる気がない」で止めず、いつ・どの業務で・何が・どう問題だったかを、日時と具体的な言動、それによって生じた業務上の不都合まで書き留めておきましょう。この事実の記録が、後の指導や、万一の紛争における会社側の正当性を支えます。

解雇の前に踏むべき正しい手順【5ステップ】

裁判例が示すとおり、解雇を有効にするカギは「会社が改善のために手を尽くした」という客観的な事実の積み重ねにあります。感覚的な「やる気がない」で終わらせず、以下の順序で進めます。

  1. ① 問題行動を「事実」として記録する主観的な評価ではなく、いつ・どの業務で・何が問題だったかを事実として記録します。納期遅れ、指示違反、取引先からの苦情など、後日の根拠となる事実を、日報・報告書・メール等の形で残します。
  2. ② 面談で具体的に改善指導する集めた事実にもとづいて面談し、「どの行動が・なぜ問題で・どう改善してほしいか」を具体的に伝えます。抽象的な非難は避け、達成可能な改善目標を設定。面談の日時・内容・本人の反応・合意事項まで記録に残します。
  3. ③ 配置転換を検討する指導しても改善が乏しい場合でも、いきなり解雇ではなく、受け入れ可能な部署・業務がないかを検討します。自主退職に追い込む目的の”追い出し部屋”のような配置は違法と評価されるため避けます。
  4. ④ 段階的に懲戒処分を行うそれでも改善しない場合は、戒告・けん責といった軽い処分から段階的に進めます。いきなり懲戒解雇に飛ぶと権利濫用と判断されやすいため、弁明の機会を与えるなど所定の手続きも守ります。
  5. ⑤ 退職勧奨による合意退職を検討するここまでのプロセスを尽くしてもなお改善が見込めない場合に、退職勧奨による合意退職を検討します。一方的な解雇の前に、双方が納得できる形での解決を目指すのがリスクの少ない進め方です。
業務日報の活用(在宅勤務・外回りが多い場合に有効):その日に取り組んだ業務を、時間帯や対応相手(取引先・部署など)がわかる形で具体的に記載し、毎日提出してもらいます。指導担当者はコメントを返し、曖昧な点は確認します。①遂行状況を客観的に把握できる、②日々の指導材料になる、③「会社は改善のために働きかけていた」ことを示す記録として後日役立つ——という利点があります。特定の社員にだけ求める場合は、嫌がらせと受け取られないよう、業務把握という正当な目的にもとづいて運用します。

「解雇」より「合意退職」を目指すべき理由

指導を尽くしても改善せず、雇用の継続が難しいと判断する場面は現実にあります。それでも、いきなり普通解雇を選ぶと、前述の裁判例のように「改善機会の付与や解雇回避の努力が不十分」として無効とされ、長い裁判の末に敗訴するリスクが残ります。そこで実務で目標に据えたいのが、一方的な解雇ではなく双方の合意による退職です。

合意退職なら、後から無効を争われにくい

解雇は会社の一方的な意思表示であるため、後から「不当解雇だ」と効力を争われる余地が残ります。一方、本人が納得して退職に合意すれば、原則として後から蒸し返されにくく、バックペイなどの経済的リスクも避けられます。会社にとっても本人にとっても、円満に区切りをつけられる現実的な選択肢です。

退職勧奨は「解雇を避ける努力」の一環でもある

裁判所は、解雇の有効性を判断する際に「会社が解雇を避けるための努力を尽くしたか」を重視します。改善指導を重ねたうえで、いきなり解雇するのではなく退職勧奨による話し合いを試みたという経過は、仮に最終的に解雇へ進む場合でも、会社側の対応の相当性を支える事情になり得ます。合意退職を目指す場合は、退職金の上乗せ、再就職支援、有給休暇の消化、退職日までの出勤免除など、本人が前向きになれる条件を用意して話し合うと、合意に至りやすくなります。

退職勧奨の進め方と、退職強要にしないための注意点

退職勧奨は、あくまで社員に自主的な退職を促す「お願い」であり、社員にこれに応じる義務はありません。会社が一方的に退職を強制することは許されず、言葉づかいや態度には細心の注意が必要です。次のような進め方は「退職強要」として違法(パワハラ・不法行為)となるリスクがあります。

  • 執拗に面談を繰り返す、長時間にわたって説得する、威圧的な言動をとる
  • 本人が明確に退職を拒否したのに、なお勧奨を続ける
  • 退職届の提出を強要する/その場で即決を迫る
望ましい進め方:本人が十分に検討する時間を確保し、冷静に話し合います。提示する条件としては、退職金の上乗せ、再就職支援、有給休暇の消化、退職日までの出勤免除などが考えられます。従業員にとって有利な条件を検討し、冷静に提示することが、円満な合意への近道です。

どうしても普通解雇する場合の手続き

指導も退職勧奨も尽くしたうえで、やむを得ず普通解雇を選ぶ場合は、法律上の手続きを正確に踏む必要があります。

  • 解雇予告・予告手当(労基法20条):30日前に予告しない、または予告期間が30日に満たない場合は、その不足日数分の「解雇予告手当」を支払います。
  • 解雇理由証明書の交付(労基法22条):労働者から請求があれば遅滞なく交付する義務があります。これまでの指導記録と矛盾がないよう、事実にもとづいて正確に記載します。
  • 解雇通知の場面:感情的な言葉は控え、解雇通知書に解雇理由を具体的に記載して交付します。冷静で事実に即した対応が、後の労働審判・訴訟のリスクを下げます。
解雇が無効とされたときのリスク:会社は解雇期間中の賃金(バックペイ)をさかのぼって支払う必要が生じます。裁判が長期化すれば金額は大きく膨らみ、退職を前提とした解決金や慰謝料が加わることもあります。加えて、対応にかかる時間・労力、企業イメージへの影響も無視できません。だからこそ、解雇の前段階での備えが重要です。

弁護士に相談するメリットとタイミング

問題社員への対応は、労働問題に詳しい弁護士に相談することで、法的リスクを抑えながら進められます。主なメリットは次の3点です。

  • 法的リスクの客観的な評価:いまの対応が法的に妥当か、不当解雇のリスクをどう避けるか、証拠の残し方まで具体的な助言を得られます。
  • 手順と交渉の設計:改善指導・退職勧奨・解雇それぞれの進め方や、本人との交渉方法について指導を受けられます。代理人として交渉を任せることも可能です。
  • 訴訟リスクへの備え:労働審判や訴訟に発展した場合も、経過を把握した弁護士が一貫してサポートします。

理想は、改善指導で効果が出ない段階や、退職勧奨・解雇を実行する前です。解雇後に問題が表面化してから相談すると、打てる手が限られてしまうことがあります。「そろそろ動くべきか」と迷った時点が、相談の好機です。

よくある質問(FAQ)

やる気のない社員を、いきなり解雇することはできますか?
原則としてできません。日本の労働法では、解雇には「客観的に合理的な理由」と「社会通念上の相当性」が必要とされます(労働契約法16条)。改善指導を尽くさないまま解雇すると、不当解雇として無効になる可能性が高く、多額のバックペイ・解決金負担が生じます。
本人に「パワハラだ」と言われるのが心配です。どう進めればよいですか?
指導は個別に、事実に基づいて、記録を残しながら行いましょう。大勢の前での叱責や人格否定はパワハラと評価されるおそれがあります。「いつ・何が・どのような支障を生んだか」を具体的に伝え、期待する行動を明確に示すことがポイントです。
改善指導をしても変わりません。どのくらい続ければよいですか?
事案・職種・経験年数により異なりますが、実務上は最低でも数か月〜半年程度の指導期間を設け、改善計画書・面談議事録などの記録を残しておくことが望ましいとされます。単発の指導のみでは、後日「改善機会を与えていない」と評価される可能性があります。
退職勧奨を拒否されたら、どうすればよいですか?
退職勧奨はあくまで任意の合意を目指すもので、拒否された場合に繰り返し強要すると「退職強要」としてパワハラ・不法行為に該当するリスクがあります。断られた場合は一旦引き、改善指導や配置転換など他の選択肢を検討しつつ、条件変更(退職金上乗せ等)で再度提案できないか弁護士と協議するのが実務的です。
解決までにどのくらいの期間がかかりますか?
合意退職で早期に解決できれば数週間〜数か月ですが、労働審判で数か月、訴訟に発展すれば1〜2年以上かかることもあります。早期の合意解決を目指すほど、会社側の負担は少なくなります。
「やる気のない社員」を放置するとどのような経営リスクが生じますか?
やる気のない社員を放置することで、①周囲の士気低下と優秀な人材の離職リスク、②業務遂行の停滞と生産性の低下、③「不公平な処遇」と受け取られることによる社内秩序の乱れ、といった経営上のリスクが生じます。放置し続けると事後の対応が難しくなるため、早期に事実の記録と指導を開始することが望ましいといえます。
能力不足を理由に、正社員から契約社員やパートへ雇用形態を変更することは可能ですか?
雇用形態の変更は労働条件の重大な変更に該当するため、原則として労働者本人の同意が必要です(労働契約法8条)。会社が一方的に雇用形態を変更することは「不利益変更」として無効となる可能性が高く、実務上は本人との話し合いのうえ、変更後の労働条件を明記した書面を作成して合意を得るのが基本です。合意なく降格・雇用形態変更を強行すると、慰謝料請求や地位確認訴訟のリスクが生じます。
「能力不足」を理由とする退職勧奨や解雇では、どのような証拠が必要になりますか?
「能力不足」を根拠とする場合、①業務日報や日々の業務記録、業務遂行上の具体的な問題事例(いつ・何が・どのような支障を生んだか)を時系列で示す書面、②改善指導の記録(面談議事録・指導書・改善計画書)、③改善のために提供した機会(配置転換・研修・OJT等)の記録、④それでも改善に至らなかった経過の記録、が主な証拠となります。「主観的にやる気が感じられない」といった評価だけでは、後日の労働審判・訴訟で会社側の主張を裏付けることが困難です。

やる気のない社員・問題社員への対応は弁護士にご相談ください

「やる気がない」だけの解雇は不当解雇のリスクが高く、放置も経営を蝕みます。記録の残し方から改善指導・退職勧奨・合意退職の設計、やむを得ない場合の解雇手続きまで、企業経営者の立場で弁護士がサポートします。大阪・なんば/心斎橋の難波みなみ法律事務所へ。初回相談30分無料・来所不要・土日祝も対応。

※本記事は一般的な解説であり、個別の事案では判断が具体的な事情により異なります。やる気のない社員・問題社員への対応、退職勧奨・解雇の進め方については、監修弁護士(難波みなみ法律事務所 代表弁護士 南 宜孝/大阪弁護士会)にご相談ください。

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