名義株とは?解消方法や放置することのリスクを弁護士が解説

更新日: 2025.12.22

会社の設立時や増資の際に、名義を借りて株式を発行することがあります。これがいわゆる「名義株」です。株主名簿上の株主と実際の保有者が異なる状態は、様々な法的なリスクをはらんでいます。

そこで本記事では、名義株とは何か、なぜ発生するのか、放置するとどのようなリスクがあるのかを解説します。

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名義株の基本を解説

名義株は、事業承継やM&A、会社運営などに様々な問題を引き起こします。そこで、まずは、名義株とはどのような株式を指すのか、また、名義株であるのかを判断するポイントを解説していきます。

名義株とは

「名義株」とは、他人から名義を借りて株式の引き受けと払い込みがした結果、株主名簿に記載された株主と実際の株式の保有者が異なる株式を指します。

会社法では、株式会社に株主名簿の作成を義務付けており、原則としてこの名簿に記載された名義株主が株主として扱われ、議決権などの権利を行使できると定められています(会社法第121条)。そのため、会社は、株主名簿上の株主を株主として扱えば問題はありません。

ただ、株主名簿が作成されていない、あるいは、作成されていても不十分である場合には、株主名簿の確定的効力が生じないため、実質的な株主に権利行使させる必要が生じるため問題が生じるおそれがあります。

名義株が発生してしまう主な原因

名義株が発生する背景には、歴史的な経緯や個々の事情など、いくつかの主な原因があります。

まず、旧商法下の規制が関係するケースです。平成2年の商法改正前の旧商法165条では「株式会社ノ設立二ハ7人以上ノ発起人アルコトヲ要ス」と定められており、株式会社設立には発起人が最低7人必要であり、その上、発起人は設立時発行株式を1株以上引き受けなければならないとされていました。この発起人の要件を満たすために、親族や知人に名義だけを借りて株主になってもらうことが珍しくありませんでした。

夫婦間や親子間で財産管理を委託し、その委託した財産をもって受託者が自身の名義で株式の保有することで名義株が生じることもあります。また、自身の財産を分散させるために、配偶者や親族の名義を借りて株式を保有することで名義株が生じることもあります。

さらに、株式の譲渡が会社の承認の下で行われたにもかかわらず、株主名簿の書き換えを行われずに放置されたことで名義株が生じることがあります。一方で、譲渡制限株式を取締役会等の承認を得ることなく名義変更を行っている場合にも名義株の問題が生じる可能性があります。

名義株かどうかを判断する基準

名義株であるかどうかを判断する上で最も重要なのは、実質的に株式の引き受けをした人(実質上の引受人)といえるか否かという点です。(最判昭和42年11月17日)。

実質上の引受人といえるか否かは、以下の事情を踏まえて判断していきます。

名義株であるかの判断基準

  • 株式の取得資金の負担者
  • 覚書や合意書等の書面の有無や内容
  • 名義人となっている人との関係性や合意内容
  • 株式取得の目的や経緯
  • 名義借りの理由や経緯
  • 配当金の受領の有無
  • 株主総会の議決権の行使の有無

上記の事情の中でも株式の取得資金の出所が最も重要な事情となりますので、過去の帳簿書類や通帳履歴等で資金の出所を調査することが必要となります。また、過去の株主総会の議事録を根拠に株主権の行使しているかを調査することも重要となります。

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名義株を放置することで起こりうる3つの重大リスク

名義株を放置していると、たとえ現在経営に支障がなくても、将来的には深刻な経営トラブルを引き起こすリスクが潜んでいます。

以下の項目では、名義株を放置した場合に具体的にどのようなリスクが発生するのか、特に注意すべき3つの重大なケースについて詳しく解説していきます。

リスク1:事業承継がスムーズに進まない

名義株を放置していると、事業承継を進める上で法務面だけでなく税務面の問題を引き起こします。

事業承継は、会社の株式を経営者から後継者に対して移転させることで事業の承継をすることが一般的です。事業承継を成功させるためには、会社の経営を掌握できるだけの株式を有効に移転させる必要がありますが、承継させる株式の中に名義株が含まれていると、安定した経営を実現させることができません。仮に、名義株であることを立証できたとしても、取得時効の条件を満たす場合には、名義貸人に株式が帰属することになるため、後継者に対して有効に株式を移転させることができなくなります。

また、税務面においても、経営承継円滑化法でも、名義株が含まれていると、事業承継税制の条件を満たさず、多額の税負担が生じるおそれがあります。事業承継税制では、非上場株式の贈与税・相続税の納税を猶予した上で、その納税を免除する制度ですが、先代経営者等及び後継者等が発行済み株式数の50%超を所有していることが必要です。しかし、名義株が含まれていることで、この税制の要件を満たさないために、事業承継税制の適用を受けられなくなるリスクがあります。

リスク2:相続発生時にトラブルに発展する

名義株を放置したまま相続が発生すると、事態は一層複雑さを増します。

名義株主が亡くなった場合、その名義株は名義株主の相続財産となり、相続人に承継されてしまうリスクが生じます。名義貸人である被相続人が死亡すると、名義貸人に対して名義株が発生した原因や経緯を確認したり、名義株解消の協力を求めることができなくなります。一方、実質株主が亡くなった場合も同様に、その相続人が名義株の存在を証明することが非常に困難になる可能性があります。

その上、名義貸人の相続人が名義株の存在を把握して、これを相続財産として遺産分割する場合に、実質上の引受人が名義株であることの証明ができなければ、株式の所有権を失う事態になります。さらに、相続人から名義株の買取りを求められて、多額の買取資金を工面する必要も生じるおそれがあります。

リスク3:企業統治(ガバナンス)が難しくなる

名義株を放置する最大の危険の一つは、株主総会の決議が違法となるリスクです。

株主名簿が整備されている企業であれば、株主名簿の確定的効力により、株主名簿の記載にしたがった対応をすれば問題ありません。ただし、会社が株主名簿上の株主が権利者でないことを知り、または、重過失により知らなかった場合には、株主総会決議に瑕疵を帯びる可能性もあります。

一方、株主名簿がないケースも珍しくありません。株主名簿がなければ、株式を実際に保有している人に株主権を行使してもらう必要があります。しかし、名義株であるにも関わらず名義貸人が議決権を行使していると、株主総会決議に瑕疵があることになり、事後的に取り消されたり不存在となるリスクがあります。また、現経営陣が適法な株主総会決議により選任されていないとして、取締役職務執行停止の仮処分や株主総会開催禁止の仮処分等の法的措置を講じられる可能性もあります。

このように、名義株があると、株主総会決議の効力が不安定となり、企業統治が難しくなるリスクが生じます。

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【ケース別】名義株問題を解決するための具体的なステップ

名義株の解消を目指す際には、名義株主との関係性や協力の度合いによって、そのアプローチは大きく異なります。

以下の項目では、名義株を解消するための具体的な手続きのステップを、3つの主要なケースに分けて解説します。

名義株主と合意できる場合の手続き

名義株主と合意できる場合の名義株の解消方法は、両者間の合意に基づいた手続きです。

まずは、名義株の真の所有者に名義を戻すために株主名簿を変更する方法です。株主名簿が作成されている場合には、名義人と真の所有者が共同して名義書き換えを行う必要があります。この場合には、名義貸人から実質の所有者に対する贈与課税を避けるためにも、名義貸人が名義株であることを認め、株主としての権利を保有していないことを認める確認書を作成します。確認書には、募集株式の申し込みを実際に行ったのは誰か、定款の署名を実際にしたのは誰か、取得代金等の経済的な負担をしたのは誰であるかを明示しておくことが大切です。

確認書の作成と名義書き換えが無償で実施できることが理想ですが、名義貸人やその相続人が協力に躊躇しているような場合には、名義変更料の名目でいくらかの対価を支払うこともあります。また、名義株であることを立証できるだけの十分な資料を提示できない場合には、株式の買戻しを行う必要があります。この場合には、株式の評価額をいくらにするのかが問題となります。

株主権確認訴訟を提起する

名義株の解消に関する協議が困難な状況では、裁判所を介した法的手続きによる解決を検討することになります。

具体的には、株主権確認請求訴訟を提起し、名義株の実質株主であることを主張立証した上で、株主名簿の書換えを認める確定判決等を得て、株主名簿の書換えを行います。株主権確認訴訟では、名義株の買取費用を負担する必要がない点でメリットはありますが、弁護士費用等の負担が生じたり、裁判上の和解に際して解決金を支払うことも少なくありません。さらには、名義株であることを立証できるだけの証拠を提出できなければ敗訴してしまうリスクはあります。

強制的に買い取る方法

名義貸人との合意ができない場合には、強制的に排除するスクイーズアウトにより名義株主のの同意を得ることなく強制的に名義株を買い取る方法が考えられます。

株式併合

まずは、株式併合を用いた手法が挙げられます。株式併合により、名義株を1株未満の端株とすることで、端株となった名義株を強制的に買い取ることが可能になります。株式併合を行うためには、株主総会の特別決議による賛成を得る必要があります。また、名義株を買い取るための資金を準備する必要が生じます。

特別支配株主の株式等売渡請求

次に、特別支配株主の株式等売渡請求を用いる方法が挙げられます。

特別支配株主とは、会社の総株主の議決権の90%以上を保有する株主をいいます。特別支配株主は、株主総会を経ることなく、少数株主の同意を得ずに少数株を会社を経ずに直接買い取ることを請求することができます。特別支配株主の売渡請求は、取締役会の承認のみで行うことができるため、株式併合よりも簡便なキャッシュアウトの方法といえます。

全部取得条項付種類株式の活用

名義株の解消のための方法として全部取得条項付種類株式を発行することが考えられます。

全部取得条項付種類株式とは、株主総会の特別決議により、その種類株式の全てを取得することができる株式を指します。株主総会の特別決議で種類株式の発行に関する定款変更を行なった上で、特別決議により普通株式に全部取得条項を付す旨の定めを設けます。これに続いて、株主総会の特別決議で全部取得条項付株式の取得を決議し、名義株の名義貸人に端株を交付した上で、この端株の買取りを行うことで名義貸人を排除します。

ただ、株主総会の特別決議を必要とする点で手続きが煩雑となるため、9割以上の議決権を有しているような場合には、特別支配株主の株式等売渡請求を利用することになります。

相続人等に対する売渡請求

定款に相続等により譲渡制限株式を取得した場合に、その株式を会社に売り渡すよう請求できる旨が定められていれば、相続を機に名義株を強制的に買い取ることが可能となります。

ただ、相続人等に対する売渡請求は株主総会の特別決議により行われますが、売渡請求の対象となる株主は議決権を行使できないため、かえってオーナー株主が排除されるリスクもあるため注意が必要です。

ケース3:名義株主と連絡が取れない・所在不明の場合

名簿上の株主が所在不明となっている場合には、名簿上の株主と協議すらできないため、名義株を解消するために強制的な方法で進めるほかありません。

名義貸与者が長期にわたり所在不明である場合に、以下の要件を満たせば、所在不明者の株式を裁判所の許可を得て会社または経営陣が買取ることが認められています(会社法196条、197条)。

所在不明株主の株式売却許可の要件

  1. 5年以上継続して株主への通知または催告が到達していないこと
  2. 5年以上継続して剰余金の配当を一度も受領していないこと(5年間無配の場合も含みます)
  3. 取締役全員の同意があること
  4. 株式を買取る場合には、取締役会の決議で、買い取る株式の数と対価となる金銭の総額を定めること
  5. 対象株式の株主その他の利害関係人が一定の期間内(3か月以上)に異議を述べることができる旨及びその他法務省令で定める事項を公告し、かつ、対象株式の株主らに各別に催告をしたこと
  6. 売却価格の相当性

ただ、事業承継の必要のある中小企業においては、経営承継円滑化法の要件を満たすことで、上記1と2の「5年」を「1年」に短縮することが認められています。

①経営困難

会社の代表者が年齢、健康状態その他の事情により、継続的かつ安定的に経営を行うことが困難であるため、会社の事業活動の継続に支障が生じている場合であること

②円滑承継困難

一部株主の所在が不明であることにより、その経営を当該代表者以外の者(株式会社事業後継者)に円滑に承継させることが困難であること

まとめ:名義株問題は先送りにせず、専門家と連携して早期解決を

本記事では、株主名簿上の名義人と実際の引受人が異なる「名義株」について、その定義、発生原因、そして放置した場合に生じうる重大なリスクを解説しました。名義株は、会社設立時の発起人数要件や便宜上の名義貸し、あるいは税務対策など、さまざまな背景から発生しますが、このような曖昧な状態を放置すると、様々なリスクを常に抱えることになります。

名義株問題は、時間が経過するにつれて関係者が増えたり、当事者が亡くなったりすることで、解決が非常に困難になる傾向があります。そのため、現在問題が顕在化していないとしても、早期に現状を把握し、対策を講じることが極めて重要です。

名義株の解消のための手続きには専門知識を要し、自己判断で進めると新たなトラブルや予期せぬ税負担を招くおそれがあります。したがって、自社だけで抱え込まず、弁護士に速やかに相談することが不可欠です。専門家と連携することで、自社の状況に合った最適な解決策を見つけ、将来のトラブルを未然に防ぎ、会社の健全な経営基盤を確立できるでしょう。

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