残業を拒否する社員に対する対応とは?拒否できる正当な理由を解説

公開日: 2025.12.31

社員に対して残業を命じたにもかかわらず、社員が残業を拒否する場合、企業としてはどのように対応するべきか。残業の拒否を理由に懲戒処分をすることも検討するべきですが、残業命令が適法でない場合や残業の拒否に正当な理由がある場合にまで、懲戒処分をすると、その懲戒処分が違法・無効となってしまうかもしれません。

この記事では、残業を拒否する社員の対応や社員が残業を拒否できる正当な理由について解説します。

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残業を命じるための法的要件

会社が従業員に残業を命じることは、基本的に「業務命令」の一環です。しかし、企業は無制限に残業を命じられるわけではありません。

企業が適法に残業を命じるために必要となる具体的な要件を解説します。

「36協定」の締結と届出はされていること

残業命令を適法に行うためには、36協定を締結していることが必要であり、かつ、その36協定の範囲を超えないことが条件となります。

すなわち、企業が従業員に対し、法定労働時間である1日8時間、週40時間を超える残業を命じる場合、「36協定(サブロク協定)」の締結と届出が法的に必要不可欠です。

36協定を締結するには、まず「労働者の過半数で組織する労働組合」がある場合はその労働組合と、もし労働組合がない場合は「労働者の過半数を代表する者」を選出し、会社との間で書面による協定を締結する必要があります。 そして、締結された36協定は、所轄の労働基準監督署長に届け出て初めて法的な効力が生じます。

36協定が未締結であったり、届け出がされていない場合、企業が従業員に残業を命じることは違法となり、従業員はその命令を拒否する正当な理由を持つことになります。

就業規則や雇用契約書に時間外労働の根拠があるか

企業が従業員に残業を命じるには、労働契約上の根拠が必要です。具体的には、就業規則や雇用契約書に「業務上の必要がある場合には、所定労働時間を超えて労働を命じることがある」といった内容の条項が明記されている必要があります。

このような規定が労働契約として存在して初めて、企業からの残業命令は正当な業務命令として効力を持ちます。もし、就業規則や雇用契約書に時間外労働に関する明確な定めがない場合、企業は従業員に時間外労働を強制できません。このような状況で従業員が残業を拒否したとしても、これは労働契約上の義務違反とならないため、従業員は正当な理由として拒否できることを理解しておきましょう。

法律で定められた残業時間の上限を超えていないか

企業が36協定を締結し、就業規則などに時間外労働の根拠があっても、無制限に残業を命じられるわけではありません。労働基準法では、時間外労働の上限について「原則として月45時間、年360時間」と定めています。この原則的な上限を超えて残業を命じることは、労働基準法第36条に違反する行為であり、企業は6か月以下の懲役または30万円以下の罰金の対象となります。

ただし、臨時的な特別な事情がある場合に限り、「特別条項付き36協定」を締結することで、この原則的な上限を超えた時間外労働も認められます。しかし、この特別条項を適用した場合でも、以下の法律上の上限を超過することはできません。

時間外労働の上限規制

  • 時間外労働が年720時間以内
  • 時間外労働と休日労働の合計が月100時間未満
  • 時間外労働と休日労働の合計について2~6か月の平均が80時間以内
  • 月45時間を超える時間外労働は年6か月まで

これらの上限を超えた残業命令は違法であり、従業員は正当な理由として拒否できます。自社の残業時間がこれらの上限を超えていないか、定期的に確認することが重要です。

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残業を拒否できる正当な理由とは?

企業が従業員に残業を命じるための法的要件について解説しました。しかし、これらの要件をすべて満たしている場合であっても、従業員が常に残業命令に応じる義務があるわけではありません。従業員側に「正当な理由」がある場合、残業を拒否することが法的に認められます。

体調不良など健康上の問題がある場合

従業員の体調不良は、残業を拒否する正当な理由として認められます。発熱、頭痛、めまいといった症状に加え、持病の悪化もこれに該当します。

企業が体調不良を訴える従業員に残業を強制すると、労働契約法第5条に定められた「安全配慮義務」に違反する可能性があります。 

企業は、必要に応じて診断書の提出を求めることもできますが、まずは従業員の健康を最優先し、無理強いしない姿勢が重要です。

ただし、社員が残業拒否の理由とする体調不良が具体性を欠いたり、虚偽である場合には、当然ながら正当な理由には当たりません。

妊娠中・産後1年未満の従業員である場合

妊娠中または出産後1年を経過しない女性従業員(以下「妊産婦」)は、労働基準法に基づき、残業を拒否することができます。

労働基準法第66条第2項には、妊産婦から請求があった場合、企業は時間外労働、休日労働、深夜業をさせてはならないと明確に定められています。そのため、従業員からの請求があれば、企業は原則としてこれを拒否できませんし、不利益な取り扱いをすることも禁じられています。

もし企業が妊産婦である従業員からの請求を無視して残業を命じた場合、労働基準法違反となり、罰則の対象となる可能性があります。 

育児や介護など家庭の事情を抱えている場合

育児や介護といった家庭の事情を抱える従業員には、育児・介護休業法によって、残業を拒否する正当な権利が認められています。

具体的には、小学校就学前の子を養育する従業員から請求があった場合、事業主は所定外労働、つまり残業を命じることはできません。これを「残業免除」と呼び、この権利は法律によって明確に保障されています。同様に、要介護状態(負傷、疾病または身体上もしくは精神上の障害により、2週間以上の期間にわたり常時介護を必要とする状態)にある家族を介護する従業員が申し出た場合も、育児の場合と同様に「残業免除」が適用されます。

これらの権利は、従業員からの正式な請求があった場合、企業は原則として拒否できません。従業員が育児や介護を理由に残業を拒否したとしても、そのことを理由に不利益な扱いをすることは認められていません。 

そもそも残業命令の根拠がない・上限を超えている場合

企業が適法に残業を命じるには「36協定の締結と届出」および「就業規則や雇用契約書に残業に関する定め」が必要です。これらの要件が満たされていない場合、残業命令は法的根拠を失い、従業員には従う義務がありません。さらに、労働基準法で定められた残業時間の上限を超過した残業命令も、正当な理由として拒否できます。

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正当な理由なく残業を拒否された場合の段階的対応フロー

従業員が正当な理由なく残業命令を拒否した場合、企業は感情的にならず、冷静に段階的な手順を踏むことが重要です。誤った対応は、思わぬ労使トラブルへ発展したり、企業の法的リスクを高めたりする可能性があります。以下の項目では、正当な理由なく残業を拒否された際の具体的なステップを解説します。

ステップ1:まずは理由をヒアリングし、業務の必要性を丁寧に説明する

正当な理由なく残業を拒否する従業員に対しては、まず感情的にならず、その理由を丁寧にヒアリングすることから始めるべきです。高圧的な態度や一方的な命令は、従業員のさらなる反発を招き、問題を複雑化させるおそれがあるため、避けるようにしてください。

残業を拒否する理由を把握した上で、なぜその残業が必要なのか、そして、なぜ当該従業員に依頼したいのかを、具体的に説明するようにしましょう。

ステップ2:説得に応じない場合は業務命令として明確に指示を出す

ステップ1での対話を通じて問題が解決しない場合、企業は次の段階として、「業務命令」として残業を指示する必要があります。業務命令とは、従業員との雇用契約に基づき会社が持つ指揮命令権の行使であり、原則として従業員にはこれに従う義務が生じます。

事後のトラブルを避けるためにも、口頭だけでなく、書面など記録に残る形で指示を出すのが望ましいでしょう。業務命令を出す際には、「いつからいつまで、どのような業務を、なぜ行う必要があるのか」といった具体的な内容を明確に伝えることが重要です。万が一、正当な理由なくこの業務命令に従わない場合は、会社の就業規則に基づき、懲戒処分の対象となる可能性があることも冷静に伝える必要があります。

ステップ3:業務命令違反に対する厳重注意と懲戒処分の検討

残業命令に正当な理由なく従業員が従わない場合、企業は業務命令違反として懲戒処分を検討する段階に進みます。しかし、安易な懲戒処分は不当処分などの法的リスクを高める可能性があるため、慎重な手続きが不可欠です。

懲戒処分を行う前に、文書による厳重注意を行うべきです。それでもなお、改善されることなく業務命令に違反する状況が続けば、戒告やけん責といった軽めの懲戒処分から発動させましょう。

なお、懲戒処分を行う際は、必ず就業規則上の根拠規定を確認し、違反行為の程度に見合った処分を選択することが重要です。

ステップ4:退職勧奨や解雇処分の検討

厳重注意や軽度の懲戒処分を経てもなお、正当な理由なく業務命令である残業を繰り返し拒否し続ける場合、企業は最終手段として解雇処分を検討・実施する段階に進みます。

解雇処分は従業員にとって最も不利益な処分であり、残業拒否のみを理由にして解雇処分とすることは極めて困難です。解雇処分が無効となると、企業は様々な負担を強いられることになります。例えば、解雇から解決時までの給与相当額(バックペイ)に加えて解決金や慰謝料等の金銭的な負担が生じることがあります。

そこで、残業拒否を繰り返す問題社員がいたとしても、安易に解雇処分とするのではなく、まずは合意退職を目指すべく退職勧奨を試みるべきです。

退職勧奨はあくまでも社員の自発的な意思による退職である以上、退職強要とならないように十分に注意を払う必要があります。

大阪地裁平成10年3月25日

新型車両導入に伴う教育訓練を目的とした時間外労働命令を拒否したことを理由に戒告又は訓告の処分をした事案において、労働者が拒否をした理由に正当性がないのも、訓練が高度な必要性があったこと、大多数の対象者が訓練を受講したことなどを理由に戒告の懲戒処分は有効と判断されました。

浦和地裁平成10年10月2日

残業命令違反や協調性の欠如等を理由に懲戒解雇とした事案です。裁判所は、明白な残業命令拒否の事実が認められることなどから、対象社員は十分戒められるべきであるが、譴責ないし減給処分といったより軽度の懲戒処分によって是正が可能であると思われるところ、本件懲戒解雇に至るまで、先行する懲戒処分が全くなかったことなどの状況に鑑みれば、本件懲戒解雇は、懲戒権の濫用として無効というべきであると判断しました。

まとめ:一方的な命令はNG!対話を通じて健全な労使関係を築こう

もし残業拒否が発生した場合、企業側が一方的に命令を下したり、性急に処分を検討したりすることは控えるべきです。特に、安易に解雇処分を行うことは厳禁です。まずは従業員の言い分に耳を傾け、丁寧に事情をヒアリングし、業務の必要性について相互理解を深める「対話」を重ねることが最も重要です。従業員の状況を理解しようとする姿勢は、会社への信頼感を醸成し、良好な労使関係を築く上で不可欠です。

また、長期的な視点に立ち、残業を前提としない業務体制や、多様な働き方を尊重する職場環境を構築することが、残業拒否の発生自体を抑制する最も効果的なアプローチです。 

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