裁量労働制とは|専門業務型・企画業務型の違いと2024年改正(本人同意)を弁護士が解説

更新日: 2026.10.29
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企業法務・労務管理

「裁量労働制にすれば残業代を払わなくてよい」――これは大きな誤解です。裁量労働制は労働時間を実際に測らず、あらかじめ定めた時間働いたとみなす制度ですが、割増賃金の支払い義務そのものは消えません。さらに2024年4月の改正で、専門業務型にも「本人の同意」が必要になるなど、導入・運用のルールが大きく変わりました。本記事では、専門業務型と企画業務型の違い、2024年改正の要点、導入手続と企業が陥りやすい落とし穴を、企業法務に携わる弁護士がわかりやすく解説します。

まず結論

Q. 専門業務型と企画業務型は何が違う?

対象業務と導入手続が違います。専門業務型は研究開発や弁護士など法令で定める20業務が対象で、労使協定+労基署届出で導入します。企画業務型は事業運営の企画・立案・調査・分析業務が対象で、労使委員会の決議が必要です。

Q. 2024年4月の改正で何が変わった?

専門業務型でも「本人の同意」が必須になりました。同意しない人への不利益取扱いの禁止、同意の撤回手続、記録の保存も新たに必要です。対象業務にM&Aアドバイザー業務も加わりました。

Q. 裁量労働制なら残業代はゼロでよい?

いいえ。みなし労働時間が1日8時間を超える設定なら残業代が発生し、深夜(22時〜翌5時)労働と休日労働の割増賃金は別途支払いが必要です。「裁量労働=残業代ゼロ」は誤りです。

裁量労働制とは|「みなし労働時間制」の一種

裁量労働制とは、業務の性質上、仕事の進め方や時間配分を労働者本人の裁量に委ねる必要がある業務について、実際の労働時間にかかわらず、労使であらかじめ定めた時間(みなし労働時間)を働いたものとみなす制度です。たとえばみなし労働時間を「1日8時間」と定めれば、実際に6時間でも10時間でも、8時間働いたものとして賃金計算します。

対象者が自分のペースで働けるというメリットがある一方、時間ではなく成果で評価される働き方であるため、長時間労働や健康障害を招きやすく、法律は導入できる業務と手続を厳格に限定しています。裁量労働制には、専門業務型(労働基準法38条の3)と企画業務型(同38条の4)の2種類があります。

専門業務型と企画業務型の違い【比較表】

項目専門業務型裁量労働制企画業務型裁量労働制
根拠条文労基法38条の3労基法38条の4
対象業務法令で定める20業務(研究開発、弁護士、公認会計士、デザイナー、システムコンサルタント等)事業運営に関する企画・立案・調査・分析の業務(4要件を満たすもの)
導入手続労使協定を締結し労基署へ届出労使委員会を設置し、委員の5分の4以上の多数で決議して届出
本人同意2024年4月から必要(従来は不要)従来から必要
定期報告原則不要(記録の保存は必要)必要(初回は決議の始期から6か月以内、その後1年以内ごと)
向いている企業専門職を抱える企業(IT・士業・研究・メディア等)本社の企画部門など中枢部門を持つ企業

専門業務型の対象20業務(2024年にM&Aアドバイザー業務が追加)

専門業務型は、厚生労働大臣が告示で定めた業務にしか適用できません。2024年4月に「M&Aアドバイザー業務」が追加され、対象は20業務になりました。主な業務は次のとおりです。

  • 新商品・新技術の研究開発、人文・自然科学の研究
  • 情報処理システムの分析・設計(システムコンサルタント含む)
  • 新聞・出版の取材・編集、放送番組制作の取材・編集
  • 衣服・室内装飾・工業製品・広告等の新たなデザインの考案
  • 放送番組・映画等のプロデューサー、ディレクター
  • コピーライター、インテリアコーディネーター、ゲーム用ソフトウェアの創作
  • 証券アナリスト、金融工学を用いた金融商品の開発
  • 大学での教授研究(主として研究に従事する者)
  • 公認会計士、弁護士、建築士、不動産鑑定士、弁理士、税理士、中小企業診断士
  • M&Aアドバイザー業務(2024年4月1日追加)=銀行・証券会社における顧客の合併・買収(M&A)に関する調査・分析と、これに基づく考案・助言の業務。M&A仲介会社の業務やM&A関連業務一般は対象外です。

対象外の業務に適用すると「無効」になります

一般の営業職・事務職・管理職などは専門業務型の対象外です。対象外の業務に裁量労働制を適用しても制度は無効となり、通常の労働時間規制が適用され、未払い残業代を遡って請求されるリスクがあります。

企画業務型の「対象業務4要件」と労使委員会

企画業務型は、本社等の中枢部門で経営の企画立案に携わる労働者が対象です。次の4要件をすべて満たす業務に限られます。

  1. 事業の運営に関する事項についての業務であること
  2. 企画・立案・調査・分析を行う業務であること
  3. 業務の遂行方法を大幅に労働者の裁量に委ねる必要があること
  4. 業務の遂行手段や時間配分について、使用者が具体的な指示をしないこと

導入には、労使同数の委員で構成する労使委員会を設け、委員の5分の4以上の多数による決議が必要です。決議事項には対象業務・対象労働者の範囲・みなし労働時間・本人同意・同意撤回手続・健康福祉確保措置などが含まれます。決議は労基署へ届け出て、定期報告を行います。

2024年4月改正のポイント

2024年4月1日施行の改正(施行通達:令和5年8月2日基発0802第7号)で、両制度の導入・運用ルールが強化されました。既存の労使協定・決議がある企業も、更新時までに新ルールへの対応が必要です。

① 専門業務型に「本人同意」が必須に

従来、専門業務型は本人同意なしで適用できましたが、改正後は労働者ごと・労使協定の有効期間ごとに本人の同意を得なければなりません。あわせて、労使協定に次の事項を定める必要があります。

  • 本人の同意を得ること
  • 同意しなかった労働者に対し、解雇その他の不利益な取扱いをしないこと
  • 同意の撤回の手続(撤回を認めない旨の定めは不可)
  • 同意・撤回に関する記録の保存(有効期間中および満了後5年間。当分の間は3年間)

同意は書面など確実な方法で取得し、制度の概要・適用される賃金評価制度・不同意時の処遇を説明したうえで得ることが求められます。就業規則による包括的な同意は、本人同意にあたりません。

② 企画業務型の決議事項・運営が強化

企画業務型でも、決議事項に同意撤回の手続、賃金・評価制度を変更する場合に労使委員会へ説明すること、同意撤回の記録保存が加わりました。定期報告は「初回=決議の始期から6か月以内に1回、その後1年以内ごとに1回」に整理され、労使委員会は6か月以内ごとに1回開催することが運営規程で求められます。

③ 健康・福祉確保措置の強化

対象者の健康を守るため、使用者は労働時間の状況を客観的な方法で把握し、事業場の対象者全員向けの措置と、個々の労働者の状況に応じた措置の双方から講じることが望ましいとされました。勤務間インターバルの確保、深夜業の回数制限、労働時間の上限設定、年次有給休暇の付与、医師の面接指導などが選択肢です。なお、1週間40時間を超える労働が月80時間を超え、本人が申し出た場合は医師による面接指導が義務です。

【重要】裁量労働制でも残業代・深夜・休日割増は発生する

「裁量労働=残業代ゼロ」は誤りです

裁量労働制は労働時間を「みなす」制度にすぎず、割増賃金の支払い義務まで免除する制度ではありません。次の割増賃金は、裁量労働制でも支払う必要があります。

割増の種類裁量労働制での扱い
時間外(残業)みなし労働時間が法定8時間を超える設定なら、その超過分に25%以上の割増賃金が発生
深夜(22時〜翌5時)実際に深夜労働をすれば25%以上の深夜割増が別途必要
休日(法定休日)法定休日に労働すれば35%以上の休日割増が別途必要

たとえばみなし労働時間を1日9時間と定めた場合、毎日1時間分の残業代があらかじめ発生します。さらに深夜や休日に働けば、その都度割増が上乗せされます。これらを支払っていないと、未払い賃金として遡って請求される可能性があります。年俸制と組み合わせている場合の注意点は、年俸制でも残業代は発生する|「含む」ための条件もあわせてご覧ください。

不適切な運用のリスク

裁量労働制は「名ばかり」で運用されやすく、トラブルが起きやすい制度です。次のような場合、制度が無効と判断され、通常の労働時間規制のもとで未払い残業代や付加金の支払いを命じられるおそれがあります。

  • 対象業務に該当しない労働者に適用している(営業・一般事務など)
  • 始業・終業時刻や業務量を会社が細かく指示し、実態として裁量がない
  • 2024年4月以降、専門業務型で本人同意を得ていない
  • 労使協定・決議の届出や定期報告を行っていない
  • 健康・福祉確保措置を講じていない

導入・見直しの5ステップ

  1. 対象業務の確認自社の業務が専門業務型20業務、または企画業務型4要件に該当するかを精査します。
  2. 労使協定・労使委員会の整備専門型は労使協定、企画型は労使委員会の決議を作成し、2024年改正の新事項(本人同意・撤回手続・記録保存等)を盛り込みます。
  3. 就業規則・労働契約の整備みなし労働時間、対象業務、同意手続などを就業規則に規定します。
  4. 労基署への届出・本人同意の取得協定届・決議届を所轄労基署に提出し、対象者ごとに書面で同意を得ます。
  5. 運用・健康確保・定期報告労働時間の状況を客観的に把握し、健康福祉確保措置を実施、企画型は定期報告を行います。

既存制度の「棚卸し」をおすすめします

すでに裁量労働制を導入している企業は、2024年改正に対応できているかの点検が必須です。労使協定・決議の内容、本人同意の有無、対象業務の該当性を見直すことで、未払い残業代や制度無効のリスクを未然に防げます。就業規則の見直しについては就業規則を変更すべきケースとは?も参考になります。

よくある質問(FAQ)

裁量労働制にすれば残業代を払わなくてよいですか?

いいえ。みなし労働時間が1日8時間を超える設定なら残業代が発生し、深夜労働と休日労働の割増賃金は別途支払う必要があります。「裁量労働=残業代ゼロ」は誤りです。

営業職に裁量労働制を適用できますか?

通常の営業職は専門業務型の20業務にも企画業務型の4要件にも該当しないため、原則適用できません。社外で労働時間を算定しがたい場合は「事業場外みなし労働時間制」など別の制度を検討します。

2024年4月の改正で既存の制度も対応が必要ですか?

必要です。専門業務型は本人同意・不利益取扱いの禁止・同意撤回手続・記録保存を労使協定に追加し、再届出が必要です。企画業務型も決議事項の追加等に対応します。更新時までに整備してください。

本人が同意しない場合、不利益に扱ってよいですか?

いけません。同意しないことを理由とする解雇・減給・配置転換などの不利益取扱いは禁止されています。不同意者には通常の労働時間制を適用します。

一度同意したら撤回できませんか?

撤回できます。2024年改正で同意の撤回手続を定めることが必須となり、撤回を認めない旨の協定は無効です。撤回後は通常の労働時間制に戻ります。

みなし労働時間は何時間に設定してもよいですか?

業務の実態に見合った時間を設定する必要があります。実際の労働時間と大きくかけ離れた短い時間を設定すると、制度の趣旨に反し、未払い残業代のリスクが生じます。

裁量労働制でも健康管理の義務はありますか?

あります。使用者は労働時間の状況を客観的に把握し、健康・福祉確保措置を講じる義務があります。週40時間超の労働が月80時間を超え、本人が申し出た場合は医師の面接指導が義務です。

※本記事は2026年10月時点の法令・厚生労働省の公表資料に基づく一般的な解説です。個別の制度設計・運用の可否は、就業規則や業務実態により異なります。具体的な事案は弁護士にご相談ください。

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難波みなみ法律事務所(大阪なんば・心斎橋)/代表弁護士・中小企業診断士 南 宜孝

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