定年後の高齢者の再雇用問題について弁護士が解説

更新日: 2022.03.30

定年後再雇用制度とは?

はじめに


2020年3月31日に高年齢者雇用安定法が改正され、2021年4月1日に施行されました。この改正により、企業は、65歳までの雇用確保義務に加え、70歳までの就業確保措置を講じる努力義務を負うことになります。以下では、高年齢者雇用安定法の内容や高年齢者の雇用にあたっての注意点等について解説します。

改正前の内容

高年齢者雇用安定法が改正される前にも、高年齢者の労働者について雇用確保のために以下のような規定がされていました。

①60歳未満の定年禁止

全ての会社が定年制を設ける必要はありませんが、定年制を設ける場合には、その定年年齢は60歳以上とすることを要し、これを下回る年齢は設定できません。

②65歳までの雇用確保措置

定年年齢を65歳未満に定めている場合には、高年齢者の雇用を確保するために、以下のいずれかの措置を講じることを要します。

❶65歳までの定年引き上げ

❷定年制の廃止

❸65歳までの継続雇用制度(再雇用制度・勤務延長制度等)を導入


この内、多くの企業が継続雇用制度を採用しています。

再雇用制度

再雇用制度とは60歳の定年により一旦退職し、再度雇用契約を結ぶ制度です。正社員として雇用することもできますが、パートタイマーや契約社員として契約することもできます。

勤続延長制度

勤務延長制度とは定年年齢に達しても退職せずにそのまま勤務を続けるものです。先程の再雇用制度とは異なり、雇用契約は継続する以上、契約形態を変更することはできません。

改正後の内容


改正前、企業は雇用確保措置を講じる義務を負っていましたが、令和3年4月から施行された改正法によって、70歳までの就業確保措置を講じる努力義務を負うことになりました。努力義務ですから、会社は積極的に努力することが求められますが、法的拘束力まではないため、これを守らなかったとしても罰則等はありません。 

① 70歳までの定年引き上げ ② 定年制の廃止 ③ 70歳までの継続雇用制度(再雇用制度・勤務延長制度)の導入 ④ 70歳まで継続的に業務委託契約を締結する制度の導入 ⑤ 70歳まで継続的に以下の事業に従事できる制度の導入 a.事業主が自ら実施する社会貢献事業 b.事業主が委託、出資(資金提供)等する団体が行う社会貢献事業

改正の背景


定年年齢を70歳に引き上げるなど、高年齢者雇用安定法を改正させる理由は、労働力不足と社会保障制度の維持にあります。

少子高齢化による労働力の不足

厚生労働省が2021年2月に公表した「人口動態統計」によると、出生数は 84 万 835 人で、前年と比較して2 万 4404 人も減少し、人口 動態調査を開始して以来最少値となりました。

参照 令和2年版 厚生労働白書



また、日本における2021年10月1日時点の生産年齢人口(15~64歳)は7450万4千人で,前年同月に比べ58万4千人減少している一方で、65歳以上人口は3621万4千人で,前年同月に比べ18万8千人増加しています。

参照 令和2年版高齢社会白書



今後も生産年齢人口の減少は続く見込みとされており、労働力不足が深刻なものになることが予想されます。このような状況を打開するため、70歳までの雇用を確保することで生産年齢人口の範囲を拡大させ労働力不足を解消させようとするのが、高年齢者雇用安定法を改正させた目的の一つです。

社会保障制度の維持


先程解説しましたように、少々高齢化に伴う生産年齢人口の減少により、社会保障制度を維持することが困難になります。
高齢者1人に対して生産年齢人口が何人で支えているかをみてみると、高齢者1人を支える生産年齢人口の人数は、1960年では11.2人でしたが、少子高齢化により、2014年では2.4人となりました。つまり、現代では、老人1人を現役世代の2人が支えている状況となっており、現状が継続した場合、近い将来、高齢者1人を1人の現役世代で支えることになります。
これはすなわち、現役世代の保険料負担が増加することを意味します。

そこで、定年年齢を70歳まで引き上げることで生産年齢人口の範囲を広げて、現役世代の保険料負担を分散させることが期待されます。加えて、高年齢者が働くことによって健康維持が期待され、これによって高齢者の医療費を抑制されます。現に、都道府県別の65歳以上就業率(2000年)と1人当たり後期高齢者医療費(2010年度)の関係をみた分析結果によると、高年齢者の就業率が高い都道府県は医療費が低くなる傾向があったようです。

定年年齢の引き上げについて

定年年齢の引き上げによるメリットとデメリット

少子高齢化による高年齢者の雇用維持の社会的要請が強まっていますので、定年年齢の引き上げはこのような社会的な要請に応じることができます。また、経験豊富な高年齢者が、そのノウハウを用いて会社の事業に貢献することができるだけでなく、そのノウハウや経験を若年者に承継させることができます。
他方で、人件費の増大により会社の負担は増えます。また、高年齢者の労働者が増えることによる労働者の健康管理にこれまで以上の配慮が必要となります。

賃金体系の見直し


定年年齢を60歳から65歳あるいはそれ以上に引き上げたにも関わらず、給与体系の見直しをせずに従前の体系をそのまま引き継いでしまうと、会社の人件費負担が増大してしまいます。そこで、会社の人件費を抑制するとともに、高年齢者の雇用を促進させるため、以下の方法を採用することを検討します。
①60歳を過ぎた高年齢労働者を対象とした、別の賃金体系を構築する
②50歳以降の賃金の昇給額を抑制するとともに、役職定年等を設けて役職の手当の見直しを行う

継続雇用の注意点

継続雇用の対象者


継続雇用において希望者全員を対象とする必要があるのでしょうか?
回答は原則として希望者全員を対象とすることを要します。ただ、例外的に、就業規則に定める解雇事由又は退職事由に該当する場合には、継続雇用しないことができます。なお、解雇事由等に該当する場合には、継続雇用の対象から除外することをあらかじめ就業規則に規定しておくことを要します。

労働者の待遇について


勤務延長の場合、従前の労働条件が、引き継がれます。そのため、企業の人件費負担を軽減させるため、役職定年などにより55歳以降の給与を下方修正しておきます。この点は、定年年齢の引き上げと同様です。

他方で、再雇用制度の場合、新たに雇用契約を締結しますから、雇用形態、契約期間、賃金額、労働時間などの労働条件を決めることを要します。再雇用した場合の契約期間については、法令上特段の制約はありませんが、1年の有期雇用とし、65歳に達するまで有期雇用の更新を続けることが一般的です。

高年齢雇用継続給付


高年齢者の雇用の継続や再就職を進めるための給付が高年齢雇用継続給付です。
この給付には、高年齢雇用継続基本給付金と高年齢再就職給付金です。同一の企業による再雇用された場合には、高年齢雇用継続基本給付金が支給されます。
先程解説したように、高年齢者の再雇用時には、従前よりも労働条件が低下することが一般的です。しかし、定年時の給与額と比べて再雇用後の賃金額が大幅に低下してしまうと、労働者の生活を困難とさせてしまいます。具体的には、60歳に到達する日の前日における給与月額の75%を下回る場合には、実際に支払われる賃金の最大15%の給付金が支給されます。なお、令和7年4月以降、給付金の金額が縮小されます。

無期転換ルールについて


無期転換ルールとは、同一の企業との間で、有期労働契約が更新され続けて、通算5年を超えたときに、労働者の申込みによって雇用契約を有期契約を無期契約に転換できるルールです。労働者から無期転換の申込みを受けた場合、会社側はこれを拒否することはできず、この申し込みを承諾したものとみなされます。
ただ、この無期転換ルールにも例外があります。60歳以上の定年後に有期契約により継続雇用されている場合には、無期転換ルールによる転換申込みはできないという特例が定められています。この特例を利用する場合、雇用管理措置の計画を策定し、これを都道府県労働局長の認定を受けることを要しますので注意してください。

助成金の活用


助成金を活用することで、高年齢者の継続雇用等に伴い生じる人件費負担を軽減させ、法令に沿った高年齢者の雇用確保措置を実現させることが可能となります。

65歳超雇用推進助成金

65歳超雇用推進助成金には3つのコースがあります。
1 65歳超継続雇用促進コース
2 高年齢者評価制度等雇用管理改善コース
3 高年齢者無期雇用転換コース

それぞれのコースは雇用管理制度等を構築させ、高年齢者が安心して就労できるようにすることで、高年齢者の雇用継続を促進するものです。以下65歳超継続雇用促進コースについて概要を取り上げます。

65歳超継続雇用促進コース


主要な要件
⑴制度の実施
令和4年4月1日以降に、
A. 65歳以上への定年引上げ
B. 定年の定めの廃止
C. 希望 者全員を対象とする66歳以上の継続雇用制度の導入
D. 他社による継続雇用制度の導入
のいずれかを実施したこと

⑵制度を規定した際に経費を要した事業主であること
⑶制度を規定した労働協約または就業規則を整備している事業主であること。
これらの要件が主要な支給要件ですが、これらの他にも支給要件を規定されておりますので注意してください。

支給額
支給要件を満たす場合に支給される助成金の金額は、会社が採用した制度の内容に応じて個別に定められています。

参照 厚労省令和4年度65歳超雇用推進助成金のご案内




申請受付期間
先程の支給要件で記載しましたA~Dの措置を実施した月の翌月から4か月以内の各月月初から5開庁日までに支給申請書に必要な書類を添えて、 (独)高齢・障害・求職者雇用支援機構に支給申請することを要します。令和4年度より申請受付期間が変更されましたのでご注意ください。


特定求職者雇用開発助成金(生涯現役コース)


先程の65歳超雇用推進助成金とは別に、特定求職者雇用開発助成金も、高年齢者の高年齢者の雇用を促進させる助成金の一つです。
この助成金は、雇入れの時点で、満年齢が65歳以上の離職者を、ハローワーク等の紹介を通じて1年以上継続して雇用することが確実な労働者として雇い入れる事業主に対して助成されるものです。

特定求職者雇用開発助成金の支給要件
この助成金を受給できるための要件は以下のとおりです。
① 雇用保険の適用事業者であること
②ハローワークあるいは民間の職業紹介事業者等の紹介により、雇用保険の高年齢被保険者(65歳以上の雇用保険加入者)として雇い入れること
③1年以上雇用することが確実であると認められること、つまり、無期の雇用契約または雇用期間を1年以上と定めた有期雇用契約を締結することを要します。

この他にも細かい要件が規定されていますので、以下のURLでご確認ください。特に、雇入れ前後6か月の期間において、会社都合による離職者がいる場合には、要件を満たしませんので留意を要します。この会社都合による離職には、退職勧奨による離職も含みます。

https://www.mhlw.go.jp/content/000553246.pdf

支給額
対象労働者の1週間の所定労働時間に応じて、以下の金額が、6ヶ月の支給対象期ごとに支給されます。

参照 厚労省特定求職者雇用開発助成金(生涯現役コース)のご案内

最後に


高年齢者の雇用維持は、社会的要請に応えるだけでなく、人材不足の解消や豊富なノウハウの活用を期待できます。
また、助成金や給付金により、会社の負担増を抑制する各種制度も整備されていますので、これらを活用しながら、高年齢者の雇用確保を検討して下さい。
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