アルバイトも正社員と同じように労働者です。そのため、解雇とするべき理由があればアルバイトを解雇することはできます。
しかし、アルバイトは正社員ではない以上、容易に解雇することができると勘違いしている経営者がとても多いです。
アルバイトという立場を理由に正社員よりも解雇の要件は若干緩やかになる余地はありますが、解雇が労働者の立場を奪う重大な処分である以上、アルバイトの解雇処分は非常にハードルが高いです。
安易に解雇をすると、思いもしない経済的な負担を強いられるリスクがあります。
本記事では、アルバイトの解雇について弁護士が解説します。
アルバイトの問題行為
まずは、経営者がアルバイトのクビを検討したくなるアルバイトの問題行為を挙げていきましょう。
遅刻や欠勤が多い
予定していたシフトに遅刻したり欠勤を繰り返すことです。アルバイトを含む労働者は、予め決められた時刻に出社し就労する義務を負っています。そのため、正当な理由なく遅刻や欠勤をすることは、労働者の基本的な義務に反する問題行為といえます。
態度が悪い
上司やお客さんに対する態度が悪かったり、勤務中に私語やスマホをずっとみていてきちんと業務を行っていないといった勤務態度の不良です。勤務態度の不良は、事後的に証明することが難しいことが多いため、あらかじめ書面による注意指導を行なったり、業務日報の作成を命じるなどして対応する必要があります。
対人関係でトラブルが起きる
上司やアルバイトの同僚との間で性格のそりが合わなかったり、男女関係のもつれなどトラブルが起きることもあります。協調性の欠如についても、主観的な事情ですので、客観的な資料として残すように心がけましょう。また、協調性を欠く理由が何なのかを適切に把握しておくことも重要です。上司や正社員による嫌がらせやハラスメントが原因である場合には、会社には、まずハラスメント等を改善する対応が求められます。
病気や健康状態が原因
病気や健康状態が原因で、アルバイトを継続することが難しくなった場合です。
病気により労働を提供できなくなれば、労働契約の債務不履行ですから、労働契約を解除できそうにも思います。ただ、休職制度を採用している場合には、まずは休職の利用を促し、復職できなければ自然退職または解雇といったプロセスを踏むべきでしょう。
バイトテロや暴力・破損・不正行為がある場合
いわゆるバイトテロと呼ばれる、アルバイトによるいたずらや、設備・機器の破損、商品や現金の持ち出しなどの不正行為を行った場合です。
会社に及ぼすが影響が非常に大きくなる可能性があるため、使用者としては懲戒解雇等を行うなど、毅然とした対応が必要でしょう。
経営不振によるリストラ(整理解雇)
会社が経営不振となり、人員削減の必要が生じた場合には、アルバイト従業員を整理解雇することがあります。ただ、整理解雇も無制限ではなく、解雇回避のための努力を尽くすなどの要件を満たすことが必要となります。
アルバイトを解雇するためには
解雇は、使用者が一方的に労働契約を終了させて、労働者としての身分を奪う重たい処分です。
そのため、解雇が有効となるためには、客観的に見て合理的な解雇理由があり、社会通念上相当といえること、つまり、世間の常識から見て重過ぎないことが必要です。
アルバイトやパートタイマー労働者も正社員と同じように労働者であることに変わりはありません。アルバイトだから解雇しやすいわけではありません。
早計な解雇処分は避けて頂き、退職勧奨の上、合意退職するように努めます。合意退職時には、合意書を必ず作成します。
有期契約である場合
アルバイトの雇用契約が契約期間の定めのある有期契約である場合には、解雇処分はさらにハードルが高くなります。
有期契約において、契約期間中の解雇はやむを得ない事情がなければ認められません。
整理解雇の場合
整理解雇は、労働者側に問題がある場合の解雇とは異なり、使用者側の事情による解雇です。そのため、普通解雇よりも整理解雇については、条件が厳しいものになっています。
人員削減の必要性があること
解雇回避措置
人選の合理性
手続きの妥当性
解雇回避の措置が十分に行われていることを前提として、正社員とアルバイト店員を区別して、アルバイトを優先的に整理解雇の対象とすることには、一定程度の合理性が認められます(東京地判平23.2.7)
個別の問題行為の対応
解雇処分が有効となるためには、厳しい条件を満たすことを要します。
個々の問題行為に応じた対応を解説します。
遅刻や無断欠勤
遅刻や欠勤を繰り返す場合でも、いきなり解雇することは控えるべきです。不当解雇となる可能性が高いです。
まずは、口頭による厳重注意を行なった上で、改善されない場合には、戒告→譴責→減給→出勤停止といったように順を追って懲戒処分を行います。並行して、定期的な面談や業務日報を行い、勤怠不良の改善を図ります。
それでもなお、遅刻・欠勤を繰り返すのであれば、退職勧奨を行います。退職勧奨でも退職を受け入れない場合に、ようやく解雇処分を行います。
勤務態度不良
勤務態度が悪いというだけで簡単に解雇はできません。勤務態度の悪さは、非常に主観的な理由であり、裁判官などの第三者からでは確認することが容易ではありません。そのため、勤務態度の不良を裏付ける客観的な資料、例えば、懲戒処分の通知書、業務日報、定期面談の記録、顧客からのクレーム履歴を残しておきます。
また、会社の業務に支障を生じさせる勤務態度の不良があれば、順を追って懲戒処分を行います。改善の見込みが無ければ退職勧奨の上、解雇処分を行います。
病気や健康状態の不良
アルバイトが精神疾患や怪我等で出勤できない場合、直ちに解雇するのは控えます。
まずは、専門医の受診を促し診断書を提出させます。
その上で、会社の就業規則において、休職制度を設けている場合には、まずは私傷病休職の利用を打診するべきです。
休職期間満了時に復職できなければ、自然退職か解雇処分とします。休職期間が残っている場合には、残りの休職期間の利用を促します。
注意すべきは、アルバイトの病気が業務に起因する労働災害である場合です。労災であれば、療養期間中とその後30日間においては、労働者を解雇できません。
バイトテロ
バイトテロを行うアルバイトは、解雇処分とするべきでしょう。
バイトテロは、アルバイトが商品に指を入れる、舐める、ゴキブリをフライヤーで揚げるなどの悪ふざけをしている様子を撮影して、これをSNSを通じて拡散させる行為です。
SNSによる拡散によって、バイト先の信用が大きく毀損され、その事業に多大な影響を及ぼします。時にニュースで報道される事態にも発展します。
解雇と損害賠償
バイトテロは、会社に及ぼす影響が大きく、甚大な損害を生じさせるものですから、解雇処分とするべきでしょう。また、会社が損害を受けた場合には、アルバイトに対する損害賠償の請求も行います。
ただ、バイトテロの程度が軽微で、SNSで発信されていない悪ふざけであれば、解雇よりも軽微な処分を検討します。
解雇するための手続き
解雇するべき十分な理由がある場合でも、十分な手続きを踏む必要があります。
言い分を述べる機会を与える
解雇処分は重大な処分です。そのため、解雇をするにあたって、従業員に対して、解雇処分とする旨を告知した上で、言い分を述べる機会(告知・聴聞)を与える必要があります。
就業規則において、告知聴聞に関する規定がなかったとしても、処分の重大さを踏まえて行う必要があります。
解雇予告の必要性と手続き
解雇が認められるとしても、原則として解雇は30日前に予告しないといけないことになっています。
解雇予告は解雇予告通知書という書面で通知されることが一般的です。
30日前までに解雇予告がなされず、30日より短い期間で解雇された場合、次で見る解雇予告手当が支払われなければなりません。
解雇予告手当の計算方法
解雇予告手当は、30日に足りない日数分支払われる必要があります。
解雇予告手当の額は、過去3か月分の平均賃金に短くなった日数を乗じた額です。
出勤日数が少ない場合の解雇予告手当
ただし、週1日の勤務など、出勤日数が少ないと1日あたりの賃金は少なくなってしまいます。
解雇予告手当は、労働者の生活を保障することが趣旨なので、日給制、時給制、請負制の労働者を対象として最低保証額が決められています。
すなわち、平均賃金の額は、次の計算式により算出された額が最低保証額とされています。
3か月の賃金総額÷3か月の労働日数×0.6
これにより、出勤日数が少なくても、一定の解雇予告手当の支給を受けることができます。
解雇予告手当に違反する場合
解雇予告手当は、労働基準法で定められた使用者の義務です。
そのため、使用者が解雇予告手当を払うべきであるのに、これを払わない場合には、6か月以下の懲役または30万円以下の罰金刑の刑事罰を科される可能性があります。
有期契約労働者の解雇
有期契約のうち、3回以上契約が更新されている場合や1年を超えて継続勤務している場合、期間満了をもって契約を終了とするためには、30日前までにそのことを通知しないといけないことにはなっています。
しかし、解雇予告手当の支給は必要とされていません。
ただし、契約期間中に解雇するのであれば通常通り解雇予告手当の支給が必要です。
不当解雇による不利益
十分な理由もなく解雇をしたり、適切なプロセスを経ずに解雇をすると、たとえアルバイト社員であっても、不当解雇となります。
不当解雇となれば、使用者側には、様々な負担が生じます。このような負担を回避するためにも、拙速な解雇は控えなければなりません。
バックペイ(解雇以降の給与)を支払う
解雇が不当解雇となると、解雇日から解決時までの給与を支払わなければなりません。
解雇が無効となれば、アルバイトとの雇用契約は終了していないことになります。
労働者は出勤できていませんが、それは不当解雇が原因となっています。
使用者側の責任で出勤したくても出勤できない状況を作っていれば、使用者は労働者に対して給与を支払う義務を負います。
解雇日から解決までの期間が長ければ長いほど、使用者側の負担は大きくなります。
解決金を支払う
解雇が不当解雇となり無効となれば、解雇をした労働者は復職することになります。使用者は、一度解雇をした労働者が復職できるように就労環境は整備しなければなりません。
しかし、解雇をした労働者と使用者との信頼関係はかなり崩れているのが通常です。
そのため、事実上、解雇をした労働者を復職させることは困難です。そこで、労働契約を合意により終了させるため、解決金を支払わなければならないことがあります。
解決金の金額は、ケースバイケースですが、給与半年分から1年分となります。
風評被害
不当解雇により、労働者がSNSや掲示板に会社の悪評を拡散させることがあります。これにより、会社の社会的な評価を毀損されるおそれがあります。取引先との関係性が悪化したり、新規開拓が困難になる可能性があります。さらに、新しい人材の確保も困難になるリスクもあります。
従業員の離職
会社の風評被害に伴い、在職している社員のモチベーションを低下させ、従業員の離職を招きます。新規の人材を確保できなければ、既存の社員の負担が増加していきます。これにより、さらに社員のモチベーションが下がり、さらなる離職を引き起こします。
失業手当の受給条件
アルバイトであっても、以下の条件を満たす場合には、雇用保険に加入しなければなりません。
1週間で20時間以上の所定労働時間の者
31日以上の雇用期間が見込める者
学生ではないこと
解雇等の会社都合離職の場合、退職日以前の1年間で、雇用保険の被保険者期間が通算6か月以上ある場合、アルバイト社員は失業給付金を受け取ることができます。
解雇の中でも重責解雇に当たる場合には、自己都合退職に区分されるため、退職日以前の2年間で、雇用保険の被保険者期間が通算12か月以上ある場合、失業手当を受けられます。
アルバイトの解雇問題は弁護士に相談を
アルバイトは容易に解雇できると勘違いして、十分に精査することなく解雇をしがちです。
昨今は、スマホ一台で労働法関連の情報を即時に容易に得ることができます。
解雇処分後にアルバイトの代理人弁護士から通知が送られてくることもよくあります。
解雇処分を行う前にまずは弁護士に相談するなどして慎重に対応することが求められます。