うつ病の社員を解雇処分とできるか?うつ病社員の対応を解説

公開日: 2023.05.25

社員がうつ病になってしまい仕事ができる状態じゃない・・・。

会社の経営者であればそのような経験をして悩んだことがあるかもしれません。

その場合、仕事をしてもらうことができない以上、従業員として雇い続けることはコストがかかるだけなので、退職をしてもらいたいと考える場合が多いでしょう。

しかし、日本の労働法制では従業員を解雇することには非常に高いハードルがあります。

社員がうつ病になってしまった場合でも、いきなり解雇をするのではなく、慎重に対応を検討して動くことが重要です。

本記事では、社員がうつ病になった場合の対応について解説をします。

うつ病を理由に解雇できるのか

解雇をするためには、解雇とすることのできる十分な理由があることを要します。

多くの会社では、「精神または身体の障害により業務に堪えられないとき」を解雇事由としているので、社員がうつ病となって仕事ができない状況であれば、正当な解雇理由があるとして、これに基づいて解雇できるように考えがちです。

しかしながら、これだけで解雇をすることは危険です。

休職させずに解雇はできない

多くの会社では、私傷病休職制度を設けています。

休職制度があるにもかかわらず、休職をさせずに直ちに解雇することは無効となる可能性が高いです。

私傷病休職制度とは

私傷病休職制度は、私傷病、つまり業務によらない怪我や病気により業務を行うことができない場合に、一定期間休職させ、休職期間中に復職できるまで回復した場合には復職させ、そこまで回復できなかった場合には、当然に退職とする(自然退職)、または、解雇とするものです。

休職の目的は解雇の猶予

一定期間の休職期間をさせることにより解雇の猶予期間を設け、その間に復職を目指して回復をさせることを目的とする制度です。

まずは休職命令で休職させる

休職制度を設けている場合、私傷病を理由にいきなり解雇をすることは認められず、まずは休職をさせることが求められます。

休職をさせないで、うつ病となったことを理由にいきなり解雇をしてしまうと、正当な解雇理由がないとして原則として解雇は無効となってしまうのです。

ただし、およそ回復可能性が無いほどに重篤な病状である場合には、休職させることなく直ちに解雇とすることも許容される余地はあります。

病歴を詐称していても解雇は難しい

うつ病は、一度発症して症状が落ち着いても再度発症することがあります。

前職でうつ病を発症して、転職先に雇用された社員が再度うつ病を発症してしまうこともあります。

この場合に、採用時に健康状態や既往歴の申告を求めたのに対して、過去のうつ病発症を申告しなかったことを理由に解雇をすることはできないと考えるべきでしょう。

うつ病を過去に発症していたからといって、業務をすることができないとは考えにくいですし、必ず再発するものでもないからです。

ただ、重度の精神疾患により入社当初から欠勤を繰り返し十分な労務提供ができない場合には、解雇することも検討すべきでしょう。

うつ病を理由に解雇する場合の注意点

私傷病休職制度を利用して休職をさせたうえで、休職期間が満了したことを理由に安易に自然退職とすることは控えるべきです。

配置転換も含めた復職ができないかを十分に精査する必要があります。

就業規則に規定されていること

まず、私傷病休職制度を導入するためには、就業規則にこれを定める必要があります。

またその中で、休職期間が満了してもなお復職ができない場合、当然に退職とする旨を定めましょう。

満了時に復職できないこと

復職できない場合には、休職期間満了を理由に自然退職または解雇とすることができます。

しかし、安易に復職できないと判断することは控えなければなりません。

休職期間満了時の復職の可否が最も大きな対立点になるため慎重な対応が必要です。

主治医の意見聴取

上記の私傷病休職制度を利用して休職をさせたうえで、休職期間が満了する際には、医師による診断結果を確認しましょう。主治医の診断書を鵜呑みにするのではなく、主治医に問い合わせをして、治療経過や復職の可能性等を聞き取りをする必要があるでしょう。

配置転換の可能性

職種や業務内容が限定されていない場合には、配転可能性も検討しなければなりません。

その際、もともと行っていた業務を行うことは難しくても、配置転換や職種の変更によって復職をすることができるかどうかも検討をする必要があります。

配置転換・職種変更をすれば復職が可能なのであれば、解雇をしても無効となってしまう可能性が高いと考えられます。

東海旅客鉄道事件(大阪地判平成11年10月4日)

休職前の業務について労務の提供が十分にはできないとしても, 別業務を配置することは可能であり、復職不可の判断が誤っているとしました。

キャノンソフト情報システム事件(大阪地判平成20年1月25日)

社員の職種や業務内容の特定はなく、復職当初は開発部門で従前のように就労することが困難であれば、しばらくは負担軽減措置をとるなどの配慮をすることも不可能ではないし、サポート部門に社員を配置することも可能であったはずであると判断しました。

リハビリ勤務

リハビリ勤務とは、復職をスムーズに実現させるため、復職に先立ち、①模擬出勤②通勤訓練③試し出勤等を行うことをいいます。

就業規則等でリハビリ勤務を規定している場合に、リハビリ勤務を実施せずに復職不可と判断して解雇とすると、不当解雇になる可能性が高いでしょう。

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000055195_00005.html

 

休職期間が残っていれば再休職を

休職期間の満了時において、就業規則で認められた休職期間が残っている場合に、解雇または自然退職とすると無効となる可能性があります。

ただし、再度の休職をしても、復職できる余地がないことが明らかであれば、再休職させずに解雇とすることができます。

うつ病の原因が業務上でないこと

業務に起因しない私傷病の場合には、上記のとおり、休職を経ることにより、回復を待たず解雇をすることができる可能性があります。

しかし、傷病が業務に起因する業務上の傷病である場合は、療養のために要する休業の期間とその後30日間はそもそも解雇をすることができません(労働基準法第19条第1項)。

これは、上述した②法律により解雇が制限される場面に該当しないこと、という要件でいう解雇が制限される場面です。

したがって、業務上の傷病である場合は私傷病休職制度を利用して退職させることはできません。

 休職制度がない場合

休職制度がない場合でも、社員のうつ病を理由に直ちに解雇処分とするべきではないでしょう。

確かに、うつ病によりパフォーマンスが十分ではないのであれば、雇用契約の債務不履行とも捉えることができます。

しかし、解雇処分は社員に対して重大な処分ですから、解雇処分は慎重に進めなければなりません。

休職制度がなかったとしても、企業規模や病状を踏まえて、私傷病欠勤で数ヶ月間療養してもらいます。療養期間を経ても復職できない場合には、欠勤していることを解雇理由として普通解雇により対処するほかありません。ただ、解雇処分とすることで、かえって精神疾患の病状が深刻となることは回避しなければなりません。そこで、解雇処分とするのではなく、退職勧奨を行い、できるだけ社員の精神的な負担を抑えるように努めるべきでしょう。

 うつ病の社員を放置することのリスク

社員がうつ病を発症してしまった場合でも、業務を継続してもらわないと会社の事業がうまく回らないので、やむを得ず継続して働いてもらっている・・・ということもあるかもしれません。

しかし、うつ病を抱えたまま仕事を継続させることにはリスクがあります。

損害賠償を受けるリスク

うつ病を発症している状態で仕事をさせることは、本人にとって非常に負担となります。

そのまま仕事を継続してしまうと、うつ病が重症化したり、他の精神病も併発したり、最悪の場合は自殺をしてしまう可能性まであります。

このような結果となってしまった場合、会社がうつ病の発症を認識しながら仕事を継続させたことが会社の安全配慮義務違反として、本人や家族から損害賠償請求をされる可能性があります。

本人がうつ病の発症を申し出たり、上司などからうつ病の疑いの報告を受けた場合には、本人のためにも、医師の診断書を確認したうえで休職をすることを勧めるとよいでしょう。

業務効率が低下する

うつ病の症状が深刻になることで、他の社員とのコミュニケーションが円滑に進まなくなる可能性があります。

また、うつ病の影響によりパフォーマンスが低下し、その分、他の社員の業務負担が増額するかもしれません。

このような悪循環で、全社的に業務効率が悪くなる可能性があります。

社員のモチベーションを悪化させる

うつ病の社員を適切な治療をさせることなく就労させ続けると、他の社員のモチベーションを低下させるかもしれません。

コミュニケーションの悪化や業務効率の悪化により、その他の社員のモチベーションが低下する可能性があります。

会社が適切な対応をせずに放置すると、社員の離職を招き、さらに業務効率の悪化も招きます。

うつ病の社員の対応方法

うつ病を患う社員に対する対応は解雇や自然退職だけではありません。

いくつかの選択肢をご紹介します。

休職命令を行う

まずは、上述した私傷病休職制度を利用して休職期間満了で自然退職とすることを検討しましょう。

休職期間中に回復して復職が可能となれば、復職してもらいまた業務の戦力として活躍してもらうこともできます。

退職勧奨を試みる

休職期間満了まで待つ余裕がない場合や満了時の方針について本人の意向と合わずもめてしまうような場合もあるでしょう。

そのような場合には、退職勧奨をすることも考えられます。

退職勧奨とは、合意により退職をすることを促すことです。あくまで本人の退職の意思を必要とするので、強制的に退職させることはできませんが、本人とじっくり話し合ったうえで円満に解決できる余地があるため、後々争いとなるリスクを下げることができます。

ただし、うつ病を抱えている社員に対して退職勧奨をすることは、本人としては相当の心理的負担を招くため、これによって病状が悪化したといわれないよう話の持っていき方については慎重に検討しましょう。

試用期間を利用する

うつ病を発症したのが採用後間もない試用期間中であれば、本採用拒否をすることも考えられます。

ただし、試用期間といっても、会社側が自由に本採用拒否をしてよいわけではありません。

その際も正当な理由がなければなりません。一般的な解雇よりは広く認められる可能性がありますが、正当な理由があるといえるかどうかは慎重に検討しましょう。

有期雇用と雇止め

有期雇用の社員、いわゆる契約社員がうつ病となってしまった場合には有期雇用期間の満了をもって有期雇用を終了させる雇い止めをすることが考えられます。

雇い止めは、本来的には解雇とは異なるものであるため、会社の判断により行うことができるものです。

しかし、有期雇用契約の更新を何度も繰り返し、通常の正社員と同様に、期間の定めのない雇用契約といえる場合等には、雇止めも、実質的に解雇と同じと考えられることがあります。

この場合には、解雇に関する厳しい制限が適用されることになります。

したがって、上記のような事情がある場合は、雇い止めも慎重に検討しましょう。

休職制度による自然退職の流れ

最後に、休職制度を利用した自然退職の流れを改めて確認しておきましょう。

診断書の提出

会社が精神疾患の状態について直接判断することはできませんので、必ず医師の診断を確認する必要があります。

本人に医師の診断書を提出させるためには就業規則に診断書の提出が必要であることを定めておく必要があります。また、会社の指定する医師の診断を受けることを要件とする場合にも、その内容を就業規則に定めておきましょう。

休職命令を出す

診断書に基づいて休職をさせることが必要であると判断できる場合は、休職命令を発します。

明示的な休職命令がないと、自然退職を争われた場合に無効となる可能性があるので注意しましょう。

通常は、提出された医師の診断書の療養期間を踏まえて休職期間を設定します。

その上で、休職中の給与や休職期間の満了時の取扱いを記載した休職命令書を社員に対して交付します。

満了時の診断書の再提出

休職期間が満了する際には、診断書を再度提出させましょう。

診断書に基づき、復職が可能かどうかを判断することになります。

自然退職・解雇を書面で通知する

休職期間を経ても、他の職種も含めて復職できない場合には、その社員を解雇するか、自然退職とします。

口頭でも通知することはできますが、通知の内容が正確に伝わらなかったり、事後的に言った言わないの争いを引き起こすことにもなります。

そのため、自然退職、解雇のいずれであっても書面で通知をするべきです。

休職期間の満了に伴う自然退職

自然退職であれば、休職期間の満了をもって自然退職扱いとなることを通知します。

当社は貴殿に対して、就業規則第○条○項に該当する休職事由があることから、休職を命じておりました。

しかし、休職期間満了時において、主治医の聴き取りや診断書を踏まえると、貴殿の健康状態は回復せず、その他の職務も含め職場に復帰できる見込みはありません。

よって、就業規則第○条に基づき、休職期間満了日である令和○年○月○日限りで、自然退職となる旨を通知致します。

休職期間の満了に伴う解雇の場合

解雇処分であれば、休職期間の満了をもって解雇とすることを通知します。

(略)

よって、就業規則第○条に基づき、解雇する旨を通知いたします。

退職勧奨する

もし復職ができないとは判断できない場合には、自然退職または解雇とすることはできません。

この場合、会社としても復職を望む場合であればそのまま復職させて改めて活躍を期待すればよいですが、そうでない場合は退職勧奨を検討しましょう。

その際、退職勧奨が原因でうつ病が再発したということにならないよう、慎重な対応を検討する必要があることはすでに述べたとおりです。

うつ病の社員の対応は弁護士に相談を

 企業は、社員に対して安全配慮義務を負っています。

適切な対応を取らなければ、安全配慮義務違反を理由に、社員から損害賠償を求められるかもしれません。

かといって、拙速な対応は、不当解雇となる可能性が高く、予期しない負担を招きます。

うつ病の社員の対応は弁護士に相談しましょう。