パワハラを繰り返す社員の解雇について弁護士が解説

更新日: 2022.04.24

パワハラを繰り返す社員を懲戒解雇することができるのかについて解説します。まずは、パワハラとはどのような行為を指すのか、解雇とはどのような処分なのかを解説していきます。

パワハラとは

パワハラは、社会的にも定着した用語となっており、皆さんもご存知かと思いますが、その正式名はパワーハラスメントです。

厳しい指導が全てパワハラに該当するわけではありません。その具体的な内容は、パワハラ防止法で規定されています。以下のとおりです。

①職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であること

②業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動であること

③雇用する労働者の就業環境が害されること、または、身体的若しくは精神的な苦痛を与えること

この①から③の全ての要素が認められる言動が職場におけるパワハラとなります。

パワハラを行なった従業員を懲戒解雇等の懲戒処分を行うにあたっては、その従業員が行なった言動がパワハラに該当するのか??という認定はとても重要なプロセスとなります。

パワハラに該当しない、あるいは、パワハラを認定するに足りる客観的な資料がないのに、パワハラを行ったとして懲戒処分をすると、かえって懲戒処分の無効を主張され思わぬ経済的な負担を強いられることもあります。

他方で、適切な指導教育が必要であるにも関わらず、パワハラと言われることを過度に恐れるあまり何も言うことができないとなると、かえって問題社員を放置することにもなりかねません。

以下では、まずパワハラの各要素や行為類型について簡単に解説します。

職場とは?

職場におけるパワハラの職場とは、普段仕事をしている事務所に限らず、懇親会の場、社員寮、通勤途上も、実質上職務の延長と評価できる場合には、職場に含まれます。

労働者とは

対象となる労働者には、正社員だけでなく、パートタイマーなどの非正規社員や直接雇用するわけではない派遣労働者も含まれます。

①について

職場における優越的な関係とは、行為を受ける従業員がその行為者に対して、抵抗や拒絶することのできない蓋然性が高い関係を背景として行われるものをいいます。

例えば、職場の上司と部下の関係だけでなく、部下であっても、その部下が豊富な知識と経験を有しており、その部下の協力なくして業務を円滑に遂行することができない場合には、部下による言動も含まれます。

②について

業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動とは、一般的に考えて、業務とは関係がない、あるいは、業務と関係があってもその態様が行き過ぎているような場合を言います。

この判断にあたっては、指導対象とされる問題行為の内容と程度と指導の手段や目的とを比較して、行き過ぎているか否かを判断します。

また、業務上の必要があったものの、業務とは関係のない誹謗中傷は相当な範囲を超えたものといえます。

さらに、暴行を働くパワハラ行為については、それが正当防衛等に該当しない限り、例外なくパワハラ行為に該当するといえます。

③について

行き過ぎた言動がなされると、労働者が身体的又は精神的に苦痛を受けます。これにより、その就業環境が不快なものとなり、本来の能力を発揮することに重大な悪影響が生じ、労働者が仕事をする上で見過ごせない程の支障が生じることを言います。

この判断にあたっては、当該労働者を基準とするのではなく、社会一般の労働者を基準とします。

解雇できるか

パワハラを行う問題社員を解雇することは許容されるのか、について解説していきます。

解雇とは

解雇とは、会社が従業員に対して、一方的に雇用契約を終了させる処分を言います。

解雇は従業員としての立場を奪う重大な処分となります。そのため、解雇処分が有効となるためには、処分に伴う従業員の不利益を考慮してもなお、やむを得ないと言えるほどの客観的に合理的に理由があることを要します。

解雇には、懲戒解雇、普通解雇、整理解雇などの種類がありますが、パワハラを理由とする解雇の場合、懲戒解雇による解雇となることが多いでしょう。懲戒解雇は、従業員が企業秩序に抵触する場合、つまり、就業規則に定められた懲戒事由に当てはまる行為を認められる場合に制裁罰として行う解雇です。

パワハラを行う社員を解雇できるか

パワハラを行う従業員は懲戒解雇することができるのか?という問いに対しては、ケースバイケースです。

先程解説したように解雇処分は、従業員の地位を奪う最終的な処分で、従業員に対する影響はとても大きいものです。そのため、解雇が有効となるためには、このような影響もやむを得ないと言える程度に、客観的に合理的な理由と解雇処分をすることが相当といえることを要します。

そのため、パワハラの中でも極めて悪質と評価できる場合に限り、懲戒解雇をすることができると考えるべきでしょう。

パワハラの累計別の検討

これまでに処分歴がないケース

【事案】

業務上の些細なミスをしてしまった部下に対して、当初は業務上のミスに対して注意指導するつもりが、次第にヒートアップしていき部下の人格を誹謗中傷するような言動に及んでしまった。しかし、行為者である上司は、これまでパワハラも含め懲戒処分や注意指導を受けた履歴がなかった。この場合に、この上司を解雇できるか?

【考え方】

業務上のミスに対する指導それ自体は必要なものですが、業務とは関係のない人格非難に及んでしまった点についてはパワハラに該当すると考えるべきです。

しかし、これまで処分歴がないこと、今回のパワハラ行為によって部下に対して及ぼした影響がそれ程深刻ではないのであれば、解雇処分は不均衡な処分といえるでしょう。

この場合には、譴責等の懲戒処分も検討しますが、部下の管理に関する教育研修を先行して行うことが適切です。

なお、パワハラ行為の内容が部下に対する暴行や傷害といった、刑事事件となりうるような、深刻な結果を招いている事案であれば、これまでの処分歴がなかったとしても解雇が有効となる可能性は高いでしょう。

部下が非違行為を行っていた場合

【事案】

正当な理由もなく、不正経理を行っている従業員に対して是正を求めたにも関わらず、いつまで経っても改善しようとせず、必要とされる業務日報の作成指示にも応じない部下に対して、度々厳しく注意指導を行い、会議の場で『会社を辞めても楽にはならないぞ』と発言した。

【考え方】

不正経理に及んだ経緯が、達成困難な過剰なノルマを達成するためにやむ無く行ったというもので、ノルマの不達成の場合に課せられる不利益が小さくない場合(降格や配置転換)、たとえ部下の非違行為があったとしても、繰り返して厳しく指導を継続させることはパワハラに該当する可能性があります。

ただ、部下の非違行為があることや業務に関係する指導であることを踏まえると解雇処分に付すことは慎重であるべきです。

日常で部下との信頼関係が築けているのか、指導後に部下の心理的負担を和らげる対応をしているのか等の事情を考慮しながら、譴責等の軽い懲戒処分をした上で、部下管理の教育指導に注力することが望ましいです。

繰り返しパワハラ行為を行っている場合

【事案】

これまでもパワハラ行為を繰り返して行い、その都度、注意指導、戒告や減給、出勤停止といった、段階を踏んだ懲戒処分を行なってきたにも関わらず、行為者側に改善の気配がなく、パワハラを繰り返している。

【考え方】

行為を受けた従業員に対する影響や他の従業員の就労環境への影響も踏まえたうえで、行為者に改善の見込みがないのであれば、パワハラを理由とした解雇も有効となる可能性があります。

ただ、このようなパワハラを繰り返している事案であっても、これまでの処分対象となってきた各パワハラ行為の内容がそれほど重大ではない場合には、上記のような事実経過を辿っていたとしても懲戒解雇が無効となる余地は十分にあります。

そこで、懲戒解雇をする前に、退職勧奨を行い、行為者の自発的な意思により離職してもらうように促すのが妥当です。

まとめ

以上のとおり、たとえ従業員がパワハラを行ったとしても、余程のケースではない限り解雇は控えるべきと言えます。解雇処分は最終手段となりますので、パワハラ防止するための防止措置を適切に実施することが重要となります。

解雇が無効となる場合の不利益

早まって解雇処分をしてしまった場合、会社はどのような負担を負うのか?

無効な解雇をしてしまったとしても、その対象となった従業員から、解雇無効の主張がなされなければ、会社には解雇処分による負担は生じません。

しかし、解雇を受けた従業員が会社に対して、解雇無効を主張してきた場合、解雇をしてから解決するまでの期間の給与相当額(バックペイ)を支払う必要があります。また、解雇の無効は、解雇処分がなされてからも従業員としての地位にあることを意味します。つまり、解雇した従業員が復職することを意味します。しかし、会社としては復職を回避したいと考えることが多く、そのために、先程のバックペイとは別に解決金を支払うことがあります。

このほかにも、解雇処分をきっかけに残業代の請求を受けることもあります。

このような経済的な負担の他にも、SNSなどを通じた会社の信用毀損のリスクもあります。

パワハラを繰り返す社員に対する指導

先程解説したように、パワハラ社員に対して、いきなら解雇することは控えるべきですが、他方で、これを放置することはパワハラを受けている社員だけでなく、その他の社員の就労環境を悪くさせ、会社全体の生産性を低下させますから、適切な指導や教育は必須です。

そこで、パワハラ社員に対する適切な指導等を実現させるため、パワハラの被害申告を受けてから、行為者に対する指導教育に至るまでのプロセスについて解説していきます。

アンケートや相談窓口の設置

パワハラ行為は職場内で公然となされるケースもあれば、秘密裏に当事者間のみで行われるケースもあります。例えば、事務所内で部下を怒鳴りつけたり、暴力を振るうといった行為であれば、行為を受けた本人だけでなく、他の従業員も含めてパワハラの現場を見聞きしています。しかし、パワハラが公然と行われていても、他の従業員だけでなく被害者本人も、復讐や嫌がらせを恐れて、相談窓口や担当部門に被害申告をできずにいることはよくあります。

そのため、パワハラ行為が蔓延しているにもかかわらず、会社の人事部や上層部がこれを認識できず、結果的にパワハラを放置することになります。

このような事態を避けるため、相談窓口を設置して、平時から相談窓口の情報に加えて、被害申告をしても不利益な扱いにならないことをアナウンスするべきです。

さらに、定期的に従業員に対してアンケートを実施することで、パワハラ行為の実態調査を行い、パワハラ被害を見逃さないようにします。

パワハラ行為の調査

アンケートや被害者等の関係者からの情報提供を端緒に、パワハラ行為の調査を開始します。

まずは、パワハラ行為の被害申告をした被害者から具体的な内容について聞き取りをします。被害者がありのままを話せるように、相談の最初の段階で、プライバシーを保護すること、不利益な取扱をしないことを告知します。加えて、行為者からの報復がされないように適切な措置を講じることも告知します。その上で、パワハラ行為の具体的な内容を聞き取ります。相談者が主張するパワハラを裏付ける客観的な資料の有無を確認し、これがある場合にはその資料を確認し、主張するパワハラの内容と整合するかを精査します。

パワハラ行為の事実をある程度認定できる場合、パワハラ行為を見聞きしている従業員がいれば、行為者本人からの聴き取りの前に他の関係者からの聴き取りを先行します。パワハラの当事者ではない従業員であれば、公平な立場から事情を話してもらえると期待できるからです。

行為者本人からの聴き取り

被害申告をした従業員のプライバシーに十分に配慮しながら、先行して行った調査結果を踏まえた聴取調査を行います。さらに、被害者等に対する報復を防ぐため、行為者に対して相談者の探索や報復をした場合に厳しい処罰を行うことを告知します。

行為者本人から事情を聴き取る際の注意点です。面談時の同席人数は1人あるいは2人に留めておきます。必要以上の人数を同席させると、圧迫的な面談となり、かえって面談がパワハラと主張されるリスクがあります。

また、行為者の精神的なプレッシャーを和らげるため、面談の担当者のうち1人は行為者とは異性の方を同席させるようにしましょう。

さらに、面談時における発言も要注意です。感情が高ぶるあまり、厳しい発言をしてしまうと、かえってパワハラと指摘されるリスクがあります。面談時には、行為者は秘密録音している可能性がありますので、録音されていると思って言動には十分に注意をします。

懲戒処分の選択

パワハラの調査の結果、パワハラの内容や結果が深刻なものである場合や暴行・脅迫のような刑法犯にあたるような場合には、懲戒解雇や退職勧奨を行います。

パワハラの事実を認定できるとしても、その程度が軽微である場合には、譴責等の懲戒処分とした上で、部下管理の教育研修を実施します。

何度かパワハラを行った履歴がある場合には、譴責よりも重い減給や降格処分を検討します。

部下に対する厳しい指導はあったものの、部下に問題行為があるような場合には、パワハラには該当しない、仮にパワハラに該当したとしても、権利侵害の程度は小さいとして注意指導に留めるべきでしょう。

会社が対応すべきパワハラ防止措置とは

改正労働施策総合推進法30条の2第1項(パワハラ防止法)により、会社は、パワハラを防止するための雇用管理上の措置を講じる義務を負います。

令和4年4月以降、中小企業もこの義務を負うことになります。

中小企業も含め従業員を使用する会社では、以下のようなパワハラ防止措置を講じる義務を負います。

①事業主の方針等の明確化及びその周知・啓発

②相談に応じ、適切に対応するために必要な体制

③職場におけるパワーハラスメントに係る事後の迅速かつ適切な対応

詳しい内容につきましては、こちらのコラムをご覧ください。

①事業主の方針等の明確化及びその周知・啓発

会社は、パワハラを防止するために、以下の内容を周知しなければなりません。

周知する内容

・パワハラを禁じる方針

・どのような行為がパワハラに該当するのか、その発生原因や背景

・パワハラを行った社員に対して厳しい処分を行うとの方針

・どのような行為に対してどのような懲戒処分を受けるのか

そして、パワハラの方針を以下の方法で従業員に対して周知させます。

周知の方法

・就業規則等にパワハラに関する規定を設けて、従業員に交付する

・パンフレットやホームページにパワハラに関する方針を明記し、これらを社員に交付する

・パワハラをテーマとした教育研修を実施する

②相談に応じ、適切に対応するために必要な体制について

パワハラの相談窓口を設置し、これを社員全員に対して告知します。告知に際しては、相談窓口への相談により不利益な取り扱いをしないことや行為者からの報復を防止するための具体的な措置を講じることもアナウンスしましょう。

相談窓口の設置に際しては、相談担当者を決める必要があります。相談窓口の公正さを保つため、担当者は社内の利害関係が少ない従業員や社外の専門家とするようにします。

その上で、パワハラの相談に関する社内の制度を構築します。

また、パワハラの事実を速やかに把握するためにも、相談窓口とは別にアンケートや管理職に対するチェックリストの交付を実施するようにします。

③職場におけるパワーハラスメントに係る事後の迅速かつ適切な対応

パワハラの被害申告から懲戒処分までの流れ

この点については、先ほど解説したように、以下の流れでパワハラ被害の対応を実施します。

1⃣ 相談窓口やアンケートを通じた被害申告

2⃣ 被害者とされる従業員からの聴き取りと客観的資料の確認

3⃣ 利害のない第三者がいる場合には、その第三者からの聴き取り

4⃣ 行為者本人からの聴き取り

5⃣ 調査資料を踏まえた事実認定

6⃣ 認定されるパワハラ行為に対する懲戒処分の選択やその他の対応

再発防止対策

パワハラ行為者に対する処分等を実施してからも、引き続き再発防止のための具体的な対応が必要となります。

例えば、

パワハラを行った行為者にパワハラをテーマとした社外研修も含め研修を受講してもらい、これに対するレポートを提出するように求める

行為者や被害者との定期的な面談を行なったり、アンケートの実施やチェックリストの交付をすることで、パワハラ被害を未然に防ぐ

部下やその他従業員とのコミュニケーション能力・部下に対する指導管理能力があることを管理職登用の必須の条件とする

最後に

中小企業にもパワハラの防止措置を講じる義務が課されます。パワハラを防止することは従業員の就労環境を整え、会社の生産性を向上させる点でも非常に有効な対策となります。しかし、パワハラを行う従業員に対して、懲戒解雇に付すなど厳しい対応をし過ぎると、かえって会社に対して様々な負担を強いることになります。

パワハラに対する対応や防止策についてお悩みがあれば、是非ご相談下さい。

相談料30分無料、時間無制限の顧問プランも用意していますので、お気軽にご相談下さい。