労働審判が会社に与えるダメージの本質は、「原則3回以内の期日で終わる」というスピードにあります(労働審判法15条2項)。申立てから第1回期日まではおおむね40日以内で、しかも第1回で心証がほぼ固まるのが実務です。通常訴訟のように主張を小出しにする余裕がなく、第1回までに証拠を揃えられるかどうかで結論が決まります。ダメージを抑える鍵は、①申立書が届いたら直ちに弁護士へ相談 ②答弁書と証拠を期限内に完全な形で提出 ③解決水準を早期に見極めて調停をまとめること。審判に異議を申し立てれば通常訴訟へ移行しますが、時間も費用も一気に膨らみます。
この記事のポイント
- 労働審判は原則3回以内の期日で終わる。申立てから第1回までおおむね40日以内
- 第1回期日で心証がほぼ固まるため、そこまでに証拠を揃えられるかが勝負
- 答弁書の提出期限は第1回期日の1〜2週間前。準備期間は実質的に短い
- ダメージを抑える鍵は「直ちに相談・完全な答弁書・早期の解決水準の見極め」
- 審判に異議を申し立てると通常訴訟へ移行し、時間も費用も一気に膨らむ
- 多くの事件は調停(話し合い)で終了する。金銭解決の水準を早く読むことが重要
「労働審判を起こされると会社にはどのようなダメージがあるのだろうか」
「労働審判って、対応の負担はどれくらいあるのだろうか」
と気になりませんか。
結論から申し上げますと、労働審判が起こると業務に集中できないというダメージの他に、会社が社員ともめ事を起こしているという悪い評判が立つなど、会社の経営全般に悪影響を及ぼすことになります。
労働審判による会社のダメージを少しでも抑えるためには、事前の準備が必要です。準備を行うにあたっても、弁護士に相談するなどして労働紛争が生じないように計画的に進めていくことが大切です。
今回は、労働審判による負担を抑えるための対策8選について解説します。
労働審判によるダメージとは
労働審判による影響として、経済的な負担や対応にかかる時間的な負担、社会的な評価の悪化、そして従業員の離職が挙げられます。
具体的なコストとしては、弁護士費用などの金銭的な負担がありますが、それはコストの一部分に過ぎません。労力がコスト以上にかかります。
労働審判に対応する際には、弁護士に全行程を任せることは難しいです。受任してもらってからも、労働審判で話す内容の打ち合わせや書面の調整などで時間がかかることが一般的です。
また、弁護士を探す時間もかかります。顧問弁護士がいる場合は迅速に対応できますが、新たに弁護士を探す場合は、事件の概要を分かりやすく社内でまとめてから弁護士に伝える必要があります。また、会社が訴えられたという噂が広まると、コンプライアンスに厳しい取引先からの叱責を受けることや、従業員のモチベーションが低下する可能性があります。
労働審判とは
労働審判とは、労働者と事業主の間で起こった労働関係の問題を解決する手続きです。
この手続きは非公開で行われ、労働審判官(裁判官)と専門的な労働審判員からなる委員会が関与します。労働審判員は雇用関係における知識と経験を持ち、公正な立場で審理と判断に携わります。
労働審判では迅速かつ適正な解決を目指し、訴訟手続きとは異なり素早い対応が期待されます。
専門的な労働審判員による審査によって、公正な判断が行われる点も労働審判の特徴です。
ただし、注意点として、労働審判で問題が解決しない場合は裁判に移行し、本格的な裁判が始まることになります。
解決までの期間と回数
労働審判は3回以内の期日で審理を終えることが原則とされ、これにより迅速な解決が期待されます。裁判所の情報によると、平成18年から令和4年までの統計では、労働審判の平均審理期間は81.2日であり、66.9%の事件が申立てから3か月以内に終了していることが確認されています。
一般的な民事訴訟よりも早期決着を目指した制度であり、短い期間での紛争解決が見込める制度です。
参考:裁判所 労働審判手続
労働審判による経済的なダメージ
労働審判による経済的なダメージは、以下の通りです。
- 解雇無効のケース
- 残業代請求のケース
- 弁護士費用の負担
それぞれについて解説します。
解雇無効のケース
労働審判による経済的な影響として、解雇が無効と判断されるケースがあります。この場合、経営者には「バックペイ」として支払いが命じられることになります。
バックペイは解決までの給与
バックペイとは、従業員を解雇した日から労働審判の決定が出るまでの月数分の給与支払いをすることです。例えば、月給20万円の従業員を解雇し、労働審判の決着までに3ヶ月が経過していた場合、60万円の支払いが求められます。
労働審判が短期で終結すれば経済的な負担は大きくなりませんが、解雇してから労働審判の申立てまでに2〜3か月を要し、申立てから解決までに6か月近くを要することもあります。その場合には、支払うべきバックペイは大きくなります。
解決金を支払うことも
解決金とは、労働契約を合意解約するための対価です。
解雇処分が無効となれば、労働者は復職することができます。しかし、企業側は、一度解雇処分とした労働者の復職を望みません。そこで、雇用契約を合意解約して復職を回避するために解決金を支払うことがあります。
ただ、労働審判では解決金の名目が支払われるケースはあまりなく、バックペイの支払いのみで合意解約していることが多い傾向にあります。ただし、解雇の違法性が顕著であれば労働契約を合意解約するためにバックペイとは別に解決金の支払いを求められることもあります。
残業代請求のケース
残業代請求のケースでは、残業代に加えて遅延損害金の支払いを命じられます。
労使双方でどこまでを残業と認めるかで争うことになります。裁判官が悪質と判断した場合には、付加金の支払いが命じられる可能性がありますが、これは裁判になったときのみです。労働審判が不調に終わった場合は裁判に移行する点に注意が必要です。
弁護士費用の負担
労働審判においては、弁護士費用が発生します。
請求金額や難易度に応じて、着手金などが変動します。労働審判の申立書が入った封筒が届いたら、慌てずにまず自分で中身をよく確認してください。
内容を把握しないまま弁護士事務所に向かうと、相談中に何度も社内へ確認の電話をすることになり、効率よく法律相談ができない可能性があります。
ある程度、この労働審判はなぜ申し立てられたのかという事件経緯や、関わった人物などから話を聞いて社内で先にまとめておいた方がスムーズです。準備が整ったら、早急に弁護士へ相談しましょう。
労働審判の対応に伴うダメージ
労働審判による影響として、業務の円滑な進行が妨げられることがあります。
相手方の提出書類に対する反論を整理するなど、事務処理作業が発生するからです。
また、労働審判では社長や事件の詳細を把握している役員の出席が求められます。口頭で進行するため、弁護士との十分な打ち合わせが必要です。
従業員のモチベーションの低下によるダメージ
従業員のモチベーション低下による、以下のダメージが想定されます。
- 評判の悪化
- 社員の離職と採用の困難
- 社員の業務負荷の増大によるモチベーションの低下
それぞれについて解説します。
評判の悪化
労働審判を受けることで、評判が損なわれるおそれがあります。完全に噂を絶つことは難しいからです。
社員は会社で起こった事件に興味が強く、その伝達力は高いと考えましょう。社員に労働審判を起こされたことは社内であっという間に広がります。
また、現代ではSNSが発達しており、情報が簡単に拡散されるため、労働審判に関する情報が急速に広まることがあります。
社員の離職と採用の困難
労働審判が発生すると、社員の離職や採用の困難といった問題が生じる可能性があります。
労働審判が行われると、従業員は組織内で不安や疑念を抱くことがあります。これがモチベーションの低下や離職の要因となることがあります。
また、労働審判は雇用主のブランドにも悪影響を及ぼす可能性があります。悪い噂が立つと、優秀な人材が会社に応募してこなくなる可能性もあるのです。
社員の業務負荷の増大によるモチベーションの低下
労働審判により、社員の業務負荷が増加することがあります。その結果、モチベーションが低下することもあります。
例えば、労働審判に関連する文書作成や法的な対応など、審判に関わる業務が発生します。
特に解雇事件では上司やその同僚に労働審判を起こした社員についての情報を聞くことになります。
これにより、通常の業務に加えて負担が増え、社員は業務量の増加にストレスを感じる可能性があります。
解雇の問題でダメージを抑えるための対策
解雇の問題でダメージを抑えるための対策は、以下の通りです。
- 退職勧奨をする
- 教育や改善の機会を与える
- 弁明の機会を与える
- 別の処分(配置転換や降格)を検討する
それぞれについて解説します。
退職勧奨をする
従業員を解雇するのではなく、可能な限り、退職勧奨で合意退職に持ち込む努力をしましょう。解雇と比較すると退職届を書いてもらえる方法であり、法的リスクが格段に下がります。具体的には、退職金の上乗せなど、従業員が当面生活に困らない金銭を保証することです。出来る限り穏やかに退職してもらうことを心に留めましょう。
教育や改善の機会を与える
従業員をいきなり解雇するのではなく、教育や改善の機会を必ず与えましょう。理由として、解雇を回避するために努力を尽くさなければ、本当にその解雇は妥当かという議論になった際に、正当性が認められにくくなるからです。必ず仕事で戦力になるための機会を与えることが重要です。
弁明の機会を与える
社員を懲戒解雇する前に、弁明の機会を必ず与えるようにして下さい。なぜなら、弁明の機会も与えずに一方的に処分を与えると、それは本当に妥当な理由で解雇したのかの客観性の担保ができていないのではないかと疑われることになるからです。必ず従業員に弁明の機会を与えてください。
別の処分(配置転換や降格)を検討する
従業員の解雇をする代わりに、配置転換や降格処分など、別の処遇方法を検討しましょう。なぜなら、解雇はほぼ許容されない一方で、配置転換や降格には企業側に一定の裁量権があるからです。日本では従業員を解雇することは殆どできませんが、従業員の人事異動先については企業側が自由に決めることができます。また、降格も給与の引き下げがない場合は、広範な裁量権が認められます。
残業代の問題でダメージを抑えるための対策
残業代の問題でダメージを抑えるための対策は、以下の通りです。
- 残業の許可制
- 業務の効率を改善する
- 固定残業代を導入する
- 残業代をしっかりと支払う
それぞれについて解説します。
残業の許可制
残業を許可制にすることにより、労働審判のリスクを抑えることができます。残業を許可制にすると、会社の把握していない残業が減るからです。
定時になる3時間前までに部下から上司に残業して良いか尋ねる体制を作りましょう。会社に残る理由がない場合は早く家に帰るように伝えてください。
業務の効率を改善する
業務の効率を改善する方法で、残業時間を削減することが重要です。
業務分掌を作成、把握し、優先すべき業務を定時内に終わらせる体制を作りましょう。
優先順位の低い業務での残業を省くことが重要です。短い期間で高い成果を上げる訓練のつもりで、業務効率の改善をしましょう。
固定残業代を導入する
固定残業代を支給することで、裁判移行時の損害を最小限に抑えることができます。
毎月、一定時間の残業代を支払う方法を採用しましょう。1円も残業代を支払っていない状態で訴訟を起こされるよりも、被害は軽減されます。
さらに、全く支払われていない状態よりも訴えられにくいという心理的な効果も期待できます。
残業代をしっかりと支払う
企業側に金銭的な余裕があれば、一番の解決策は、毎月きちんと残業代を支払うことです。
毎月きちんと残業代を支払えば、残業代請求に関するトラブルは起こらないからです。
毎月の残業時間を把握し、給与として支給します。毎月残業代を支払うことで法令を遵守し、法律トラブルの起こらない体制を作りましょう。
労働審判の問題は弁護士に相談を
労働審判では、当事者の出席を求められます。その上、第1回の期日までに、労働者の主張に対する反論を十分に行うことが重要です。いずれについても、弁護士に丸投げすることはできません。弁護士が協力し合いながら進めなければなりません。
裁判所から労働審判の申立書が届いたら放置することなく、速やかに弁護士に相談して適切に進めていきましょう。
まずは、弁護士に速やかに相談しましょう。初回相談30分を無料で実施しています。面談方法は、ご来所、zoom等、お電話による方法でお受けしています。
お気軽にご相談ください。対応地域は、大阪難波(なんば)、大阪市、大阪府全域、奈良県、和歌山県、その他関西エリアとなっています。
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労働審判の会社への影響に関するよくある質問(FAQ)
労働審判はどのくらいで終わりますか?
原則として3回以内の期日で審理を終えると法律で定められており(労働審判法15条2項)、申立てから終了までおおむね3か月から4か月程度です。通常訴訟が1年から2年かかることと比べると、圧倒的に速い手続です。
なぜ会社にとって負担が大きいのですか?
準備期間が極端に短いからです。申立書が届いてから第1回期日までおおむね40日、答弁書の提出期限はその1〜2週間前ですので、実質的な準備期間は1か月程度しかありません。この間に、タイムカード、雇用契約書、就業規則、指導記録などを揃え、法的な主張を組み立てる必要があります。
第1回期日が重要と聞きましたが本当ですか?
本当です。労働審判では第1回期日で当事者双方から事情を聴き、事実関係と争点をほぼ確定させます。ここで裁判官と労働審判員の心証が固まり、以後はその心証を前提に調停が進みます。「次回までに準備します」が通用しない手続だと考えてください。
答弁書には何を書けばよいですか?
認否と反論に加えて、会社側の主張を裏づける証拠をすべて添付してください。解雇事案であれば指導記録と就業規則、残業代事案であればタイムカードと賃金台帳、固定残業代の定めがあればその根拠資料です。後出しは心証を悪くするため、この一通に持てるものを出し切る姿勢が必要です。
審判に納得できない場合はどうなりますか?
審判書の送達を受けた日から2週間以内に異議を申し立てれば、審判は効力を失い、自動的に通常訴訟へ移行します。ただし、そこから改めて1年以上の審理が始まり、弁護士費用も追加で発生します。審判の内容が想定の範囲内であれば、受け入れて早期に終わらせるほうが経済的合理性が高い場面は少なくありません。
どう備えればよいですか?
平時の備えが結果を左右します。①労働時間を客観的な方法で記録する ②就業規則を実態に合わせて整備し周知する ③指導や注意はその都度書面化する ④退職時には合意書を作成する。これらがあれば答弁書は組み立てられますが、なければ第1回期日までに用意することは事実上不可能です。


