就業規則の変更手順とは?不利益変更の注意点を弁護士が解説

更新日: 2026.07.06

「就業規則を変更したいが、どのような手順を踏めばよいのか分からない」「賃金や手当を見直したいが、従業員から反発されないか不安」——就業規則の変更を検討する経営者の方から、このようなご相談を数多くいただきます。就業規則の変更には法律で定められた手続きがあり、特に労働条件を従業員に不利益に変更する場合には、慎重な対応が求められます。

本記事では、就業規則がそもそも果たす役割から、就業規則がない場合のリスク、変更時にチェックすべきポイント、変更の具体的な手続き、そして不利益変更が認められるための要件まで、企業側の労務問題を数多く取り扱う弁護士が分かりやすく解説します。

就業規則の機能・役割

就業規則とは

就業規則とは、労働条件(給与の内容、労働時間、退職金など)や労働者が遵守しなければならない職場内のルールなどをまとめたものです。

雇用契約書で就業規則よりも低い条件が記載されていたとしても就業規則の内容が優先され、雇用契約書に漏れがある労働条件についても就業規則によって補充されます。そのため、就業規則は使用者にも労働者にも非常に重要な役割を果たすものといえます。

就業規則の作成プロセス

常時10人以上の従業員を使用する使用者は、就業規則を作成する義務を負っています。従業員数が10人に達しない企業であっても、就業規則を作成しないことによる様々なデメリットを考えると、作成しておくことをおすすめします。

就業規則を作成するにあたっては、労働組合又は過半数の従業員を代表する者の意見を聴取しなければなりません。その上で、所轄の労働基準監督署長に届け出なければならないとされています。就業規則を変更する場合も、同様の手続きが必要となります。

ただし、労働基準監督署への届出がなかったとしても、それだけで就業規則が無効となるわけではありません。むしろ、就業規則が従業員に周知されているか否かがポイントになります(労働基準法106条1項)。

就業規則の周知は、以下の方法により行います(労働基準法施行規則52条の2)。

  1. 就業規則を常時各作業場の見やすい場所へ掲示し、又は備え付けること
  2. 書面を労働者に交付すること
  3. 磁気テープ、磁気ディスクその他これらに準ずる物に記録し、かつ、各作業場に労働者が当該記録の内容を常時確認できる機器を設置すること

実務上のポイント
就業規則はかなりのページ数にわたることも多いため、書面よりもCD-Rなどのデータ形式で交付した方が便利な場合もあります。


就業規則がない場合に生じる4つのリスク

常時10人以上の労働者を雇用する場合には就業規則の作成義務がありますが、10人を下回る場合には法的な作成義務はありません。しかし、作成義務がない事業所であっても、就業規則を作成しておかないと、以下のような様々なリスクが生じます。「何か問題が起こってから、就業規則を作っておけば良かった」と後悔される経営者の声もよく耳にします。

1. 懲戒処分ができない

就業規則がないと、以下のような問題社員を懲戒できません。

  • 遅刻や早退を繰り返す社員
  • 無断欠勤を繰り返す社員
  • パワハラやセクハラ等を行う社員
  • 強制わいせつ等の犯罪行為に及んだ社員
  • 会社の備品やお金を横領する社員
  • 会社の機密情報を漏洩させる社員

このような問題社員に対して、戒告から解雇までの各懲戒処分を行うには、就業規則において懲戒の対象となる行為とこれに対応する処分内容を具体的に規定しなければなりません。懲戒処分ができないと、問題社員を放置することになり、会社内の秩序を乱すだけでなく、人材の流出や被害者からの損害賠償請求を受けるリスクもあります。

特に、セクハラやパワハラなどのハラスメント行為を放置してしまうと、加害従業員だけでなく、その従業員を雇用する会社も使用者責任として加害従業員と連帯して損害賠償責任を負う事態も生じますから、問題社員への適切な対応は非常に重要です。

2. 有給休暇の計画的付与ができない

会社は、区分に関係なく、一定の要件を満たす労働者に対して年次有給休暇を与えなければなりません(労働基準法39条)。しかし、就業規則がなければ、有給休暇の計画的付与をすることができません。そうなると、繁忙期に休まれたり、有給取得者が短期間に集中したりして、業務に支障が生じる可能性があります。

また、会社は年次有給休暇を10日以上有する従業員に、年5日の年次有給休暇を取得させなければなりません(有給休暇の取得義務)。この取得義務を果たすために有給休暇の時季指定をすることがありますが、時季指定を行うには対象労働者の範囲や方法等を就業規則に規定する必要があります。

3. 遅刻・早退・欠勤時の控除計算ができない

従業員が遅刻や早退、欠勤をした場合、その時間分の仕事をしていない以上、給与を控除する必要があります(欠勤控除)。しかし、就業規則がなければ欠勤控除のルールが定まらず、控除額の根拠を示せなくなってしまう可能性があり、従業員とのトラブルを招きます。

4. 助成金の受給要件を満たさない

助成金の申請において、就業規則の作成や変更が受給要件となっていることもあります。就業規則の作成が受給要件となっている主な助成金は以下の通りです。

  • キャリアアップ助成金
  • 人材開発支援助成金
  • 人材確保等支援助成金
  • 両立支援等助成金
  • 働き方改革推進支援助成金

ただし、就業規則が作成されているだけでは不十分です。就業規則の内容が各助成金の受給要件に適合したものとなっていない場合には、助成金の受給が認められないこともあります。助成金を申請する際には、就業規則の作成だけでなく、その内容のチェックが必須となります。


就業規則変更時にチェックすべきポイント

就業規則の変更を検討する際には、将来の労務問題を予防する観点から、以下の項目を分野別にチェックすることが多くあります。自社の就業規則が最新の実務や法令に対応できているか、カテゴリごとに確認してみましょう。

総則

  • 社員の定義、区分は規定されているか

採用

  • 試用期間は設けられているか
  • 試用期間を延長・短縮できる旨の記載はあるか
  • 試用期間中又は試用期間終了時に、一定の理由に基づき本採用を拒否できる旨の記載はあるか

休職

  • 休職期間について、勤続年数に応じた差異はあるか
  • 休職期間を延長する場合があることや、休職事由に関する医師等の証明書の提出を規定しているか
  • 休職期間は給与を支払わない旨の規定はあるか
  • 休職期間を勤続年数に加算しない旨の記載はあるか
  • 休職期間満了による自然退職の記載はあるか

退職

  • 定年年齢は65歳以上となっているか
  • 退職時の貸与物品・金品等の返還義務の記載はあるか
  • 退職時の給与支払方法を規定しているか
  • 退職時の引き継ぎ義務の履行を規定しているか

服務規律

  • 競業避止義務の内容がある程度限定されているか
  • セクハラやパワハラ等のハラスメントに関する規定はあるか

労働時間

  • 欠勤、遅刻、早退時の対応方法について規定されているか
  • 始業時刻、終業時刻の記載はあるか
  • 休憩時間の記載はあるか
  • 就業規則に時間外・休日労働をさせる旨の規定があるか
  • 時間外等労働をする場合の手続きを規定しているか
  • 労使協定(36協定)の締結の有無

休暇

  • 年次有給休暇の取得手続きが規定されているか
  • 年次有給休暇に関する時季指定の記載はあるか
  • 有給休暇の計画的付与の記載はあるか
  • 産前産後休業、生理休暇、育児休業について、給与支給の有無に関する規定はあるか
  • 育児・介護休業に関する規定はあるか

懲戒

  • 懲戒処分の内容(譴責、減給、出勤停止、降級、諭旨退職、懲戒解雇など)が漏らすことなく規定されているか
  • 懲戒事由が具体的に規定されているか
  • 懲戒事由に包括的条項の定めはあるか
  • 解雇について、対象となる具体的な事由を列記しているか
  • 解雇事由に関する包括条項はあるか

賃金

  • 時間外割増賃金に関する記載はあるか
  • 固定残業代の具体的な内容が規定されているか
  • 固定残業代の超過分を支払う旨の規定はあるか

退職金

  • 懲戒解雇時には、退職金の全部又は一部を不支給とする記載はあるか

就業規則の変更手続き4ステップ

就業規則の変更をせずに放置してしまうと、その間に生じた問題行為に適切な対応ができなかったり、法令改正に対応しないまま違法な規定が残ってしまうこともあります。特に、以下のようなケースでは就業規則の見直しが必要となることが多いです。

  • 就業規則を過去に作成してからそのまま放置している場合
  • 労働法令の改正があった場合
  • 経営状況が悪化している場合

そのため、就業規則の定期的なチェックを行い、変更の必要が見つかれば、以下の手続きに沿って変更しなければなりません。就業規則の変更手続きは、作成手続きと同様です。

①変更する条項案の策定

就業規則のチェックを行い、法令に抵触したり内容が不十分な規定があれば、適切な内容に変更するための変更案を作成します。特に助成金の申請をする際には、その助成金の受給要件に適合した就業規則が必要となるため、内容がこの受給要件を満たさないものであれば、申請時までに必ず就業規則の変更を行う必要があります。なお、会社組織であれば取締役会の決議を経る必要があります。

②就業規則変更届等の作成

就業規則変更届の様式は任意です。厚生労働省のウェブサイトで公開されている様式を使用しても、自社で準備しても構いません。変更届に就業規則の新旧を対照する一覧表を盛り込むこともありますが、大部になることも多いため、変更届とは別途で新旧対照表を添付することが多く見られます。

③意見書の取り付け

就業規則の作成時と同様、労働組合又は過半数の労働者を代表する者の意見書を取り付けなければなりません。

注意点:この代表者は、工場長や部長などの管理監督者はなれませんし、会社代表者の意向に沿って選出された者であってはなりません。代表者の選出方法は、投票や挙手のほか、労働者の話し合いや持ち回り決議などでも行えますが、派遣労働者なども含めた全労働者が手続きに参加できるようにする必要があります。会社は、労働者が過半数代表者であることなどを理由に、労働条件について不利益な取り扱いをしてはいけません。

なお、就業規則の変更が労働者の労働条件を不利益に変更するような場合、たとえ過半数代表者の同意を得ていたとしても、原則として各労働者から個別の合意を得なければなりません(ただし、後述する不利益変更の要件を満たす場合はこの限りではありません)。

④社内へ周知

就業規則の変更後は、これを従業員に周知させます。周知方法としては、書面やそのデータを交付する方法のほか、保管場所を通知する方法もあります。毎月の給与明細に就業規則の保管場所を付記しておき、いつでも閲覧できる状態にしておく方法もおすすめです。


就業規則の不利益変更とは

就業規則の不利益変更としてよくある例には、以下のようなものがあります。

  • 給与の引き下げ
  • 年功序列型から成果主義への移行
  • 手当の減額や廃止
  • 労働時間の伸長
  • 年間休日の変更や削減
  • 福利厚生の廃止や減額

先述の通り、就業規則を労働者に不利益に変更する場合、労働者の個別の同意があれば別ですが、同意がない場合には当然に労働者を契約内容として拘束させることはできません。ただし、就業規則の変更について合理性が認められる場合には、例外的に労働者の同意がなかったとしても、労働者を拘束することができます。

このことを条文化したものが労働契約法10条です。

使用者が就業規則の変更により労働条件を変更する場合において、変更後の就業規則を労働者に周知させ、かつ、就業規則の変更が、労働者の受ける不利益の程度、労働条件の変更の必要性、変更後の就業規則の内容の相当性、労働組合等との交渉の状況その他の就業規則の変更に係る事情に照らして合理的なものであるときは、労働契約の内容である労働条件は、当該変更後の就業規則に定めるところによるものとする。

労働契約法10条

少々長い条文ですが、労働者の不利益の程度、変更する必要性の程度、代償措置等、変更に至る交渉経過等を踏まえ、就業規則の変更の合理性を判断することになります。以下、これらのうち重要な要素について解説します。

判断要素①:不利益の程度

就業規則変更に伴う不利益それ自体については広く認められており、不利益性自体が否定されることはほとんどありません。不利益の程度についても、一部分のみを見るのではなく、全体的・実質的にみることが重要となります。

例えば、退職金の引き下げがなされているものの、その反面で通常の昇給分を超えて給与の額が増額しているような場合、額面ほどの不利益は受けていないと判断することもできます。また、特定の営業日における労働時間が60分延長されているものの、週休2日制の導入により全体の労働時間が短縮されている場合にも、不利益の程度はそれ程大きくないといえる場合もあるでしょう。

判断要素②:変更する必要性

変更する必要性の程度は、不利益の程度と相関的な関係にあります。そのため、不利益の程度が小さいのであれば変更する必要性はそれ程高度なものが要求されないのに対し、給与や退職金といった労働者にとっての重要な権利に不利益を及ぼす就業規則の変更については、これを我慢できるだけの高度の必要性が求められます。

例えば、赤字経営の下で収支改善を行う必要がある場合に成果主義的な賃金制を導入することに高度の必要性が認められた裁判例や、従業員の高齢化に伴い年功給が高額化するとともに労働生産性の低下と従業員の士気低下を招いていた事案で、年功給を出来高に応じて支給する奨励給に変更することに高度の必要性が認められた裁判例があります。

この変更の必要性は、不利益変更の合理性判断において最も重要な判断要素といえ、変更の必要性を基礎付ける事情をいかに具体的に説明できるかがポイントとなります。会社の経営状況を示す財務諸表に基づく経営指標の分析や、会社が属する業界全体の動向などを踏まえながら、必要性があることを説得的に主張立証することが求められます。

裁判例:第四銀行事件(最高裁 平成9年2月28日判決・一部抜粋)
変更前は定年を55歳とし、定年以降も従前の給与水準で在籍できていたところ、労働組合の同意を得て就業規則を変更し、定年を60歳まで引き上げる一方、55歳以降の賃金は54歳時の賃金よりも引き下げた事案。判決は「定年延長の高度の必要性があったことは、十分にこれを肯定することができる」としつつ、定年延長に伴う人件費の増大や人事の停滞等を抑える経営上の必要性も認め、55歳以降の賃金水準を見直す必要性も高度なものであったと判断しました。

判断要素③:代償措置・経過措置

就業規則の変更により労働者に生じる不利益の程度を緩和させるような代償措置や経過措置を講じている場合、不利益変更の合理性を基礎づける事情となります。


よくある質問

Q1. 就業規則の変更には従業員全員の同意が必要ですか?

労働条件を不利益に変更する場合は、原則として労働者個別の同意が必要です。ただし、変更後の就業規則を周知させ、かつ労働者の受ける不利益の程度や変更の必要性などに照らして変更の内容が合理的と認められる場合には、個別の同意がなくても変更後の就業規則が労働契約の内容となります(労働契約法10条)。

Q2. 就業規則の変更に労働基準監督署への届出は必須ですか?

常時10人以上の労働者を使用する事業場では、就業規則を変更した場合も労働基準監督署長への届出が必要です。もっとも、届出をしていないことが直ちに変更後の就業規則を無効にするわけではなく、従業員への周知がなされているかどうかが有効性の重要なポイントとなります。

Q3. 助成金の申請前に就業規則を変更する必要はありますか?

キャリアアップ助成金など多くの助成金では、就業規則の作成・変更が受給要件となっています。就業規則が作成されているだけでは不十分で、内容が各助成金の受給要件に適合していることが必要です。申請前には、就業規則の内容が要件を満たしているか必ず確認しましょう。


まとめ

就業規則の変更手続きについては、そもそも変更が必要な箇所かどうかについても専門的な判断を要します。特に、就業規則の変更が不利益変更にあたる場合には、労働者の一部から強い反発が生じる可能性もありますので、慎重な対応が必要です。

就業規則を過去に作成してからそのまま放置している場合、労働法令の改正があった場合、経営状況が悪化している場合には、特に就業規則の見直しが必要となります。

就業規則の変更についてお困りの場合には、いつでも弁護士にご相談ください。特に不利益変更を伴うケースでは、対応を誤ると従業員とのトラブルや訴訟リスクにつながります。判断に迷った際は、お早めにご相談いただくことをおすすめします。

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