問題社員を「懲戒解雇にしてスッキリさせたい」——そう考える経営者は少なくありません。しかし懲戒解雇は最も重い処分で要件が厳しく、安易に行うと会社側に大きなデメリットが跳ね返ってきます。
本記事では、懲戒解雇が無効になった場合に会社に生じるバックペイ・解決金・残業代・助成金への影響・評判低下などのデメリットと、あわせて知っておくべきメリット、そしてデメリットを最小化する具体策までを、企業側の顧問弁護士の視点で解説します。
あります。最大のリスクは、懲戒解雇が「無効(不当解雇)」と判断された場合に、解雇日から解決までのバックペイ(未払い賃金)、解決金(給与の半年〜1年分が目安)、残業代・遅延損害金・付加金の請求、対応の時間・労力・弁護士費用、評判の低下などを会社が負うことです。「デメリットの多くは、解雇が無効になったときに現実化する」という点を押さえるのが重要です。
この記事のポイント
- 懲戒解雇のデメリットの多くは、解雇が「無効」と判断されたときに会社へ跳ね返る
- 主なデメリットはバックペイ・解決金・残業代・時間/費用・評判低下・離職/採用難の6つ+助成金への影響
- 助成金は「必ず制限される」わけではない。正当な懲戒解雇は原則対象外だが、無効化・退職勧奨への切替えで不支給リスクが生じる
- 会社側のメリット(秩序維持・再発防止)もあるため、両面を理解して判断する
- デメリットは退職勧奨・諭旨解雇・証拠確保・改善機会・弁明で最小化できる
懲戒解雇とは、就業規則で定められた問題行為を行った労働者との雇用契約を、制裁として一方的に終了させる処分です。懲戒処分の中で最も重く、有効と認められるには厳格な要件を満たす必要があります。
懲戒解雇が有効となる主な要件
- 就業規則に懲戒の種類・事由が定められ、周知されていること
- 問題行為が懲戒事由に該当し、客観的に合理的な理由があること
- 処分が重すぎない(社会通念上の相当性)こと
- 本人に弁明の機会を与えるなど適正な手続を踏むこと
解雇する十分な理由がないのに懲戒解雇を下すと、労働契約法16条 労契法16条 により無効(不当解雇)となります。この記事で挙げるデメリットの多くは、懲戒解雇が無効になった場合に会社へ生じるものです。だからこそ「有効に行えるか」の見極めが何より重要です。
懲戒解雇が無効と判断されると、会社側には次のようなデメリットが生じます。まず全体像を一覧で確認しましょう。
| デメリット | 会社が負う具体的な負担 |
|---|---|
| ①バックペイ | 解雇日〜解決までの未払い賃金を一括で支払う |
| ②解決金 | 職場復帰に代えて給与の半年〜1年分が目安の解決金 |
| ③時間・労力・費用 | 交渉・労働審判・訴訟の対応、弁護士費用の負担 |
| ④評判の低下 | SNS・口コミでの悪評拡散、社会的評価の毀損 |
| ⑤離職・採用難 | 在籍社員のモチベ低下、離職の連鎖と採用難 |
| ⑥残業代等の請求 | 未払い残業代+遅延損害金+付加金が表面化 |
①バックペイ(未払い賃金)の負担
解雇が無効になれば雇用契約は存続していたことになり、労働者は「働く意思はあったのに会社の一方的な処分で就労できなかった」といえます。この間の賃金=バックペイを、解雇日から解決までさかのぼって支払う必要があります。争いが長引くほど金額は膨らみます。
②解決金の負担(給与の半年〜1年分が目安)
解雇が無効でも、信頼関係が壊れた職場への復帰は現実的でないことが多く、雇用契約を合意で終了させるための解決金を求められます。金額は給与の半年分〜1年分が一つの目安で、解雇の違法性の程度に応じて上下します。バックペイとは別に生じる点に注意が必要です。
③解決までの時間・労力・弁護士費用
解雇の効力が争われると、解決まで長い時間がかかります。労働審判でも申立てから2〜3か月、事案により6か月ほど、労働訴訟になれば最低でも1年、控訴・上告に至れば2年以上を要します。対応の労力に加え、弁護士費用の負担も生じます。
④評判が落ちる
無茶な理由で解雇を強行すると、解雇された労働者やその関係者がSNS・掲示板で悪評を拡散することがあります。一度発信された悪評は瞬く間に広がり、会社の社会的評価が毀損されるおそれがあります。
⑤社員の離職を招き、採用が難しくなる
会社の評価が下がると在籍社員のモチベーションが低下し、新たな採用も難しくなります。人材補充ができず1人あたりの業務負荷が増える——こうした負の循環で既存社員の離職を招くおそれがあります。
⑥残業代・遅延損害金・付加金の請求を受ける
解雇無効を争う過程で、それまで放置されていた未払い残業代の問題が表に出ることがよくあります。会社は残業代だけでなく遅延損害金、さらに裁判所の命令によっては付加金まで負担することがあり、経済的負担は大きくなります。
※ 進め方が悪質だと評価される場合には、解雇が無効になるだけでなく、不法行為(民法709条)として慰謝料の支払いまで命じられることがあります。もっとも、解雇が無効になれば当然に慰謝料が発生するわけではなく、会社側の故意・過失などが問われます。
「懲戒解雇をすると助成金が使えなくなる」とよく言われますが、これは正確ではありません。ここは誤解が多いので、企業側の視点で整理します。
◯原則:影響しない
- 多くの雇用関係助成金は「事業主都合の解雇」があると不支給
- ただし労働者の責めに帰すべき重大な理由による解雇(正当な懲戒解雇)は、この「事業主都合の解雇」から除外される
- したがって、正当な懲戒解雇そのものは不支給事由にならないのが原則
!例外:影響する
- 懲戒解雇が無効と判断され、実質「事業主都合の解雇」と扱われた場合
- 円満解決のため退職勧奨・合意退職に切り替えた場合(事業主都合扱い)
- この場合、前後6か月に1人でも事業主都合の解雇があると不支給となる助成金が多い
つまり助成金のデメリットは、「懲戒解雇をしたから」ではなく「解雇が無効となった場合や主として普通解雇をした、退職勧奨により退職した」ことで顕在化します。裏を返せば、要件を満たした正当な懲戒解雇であれば、助成金への影響は限定的です。
助成金は種類ごとに要件が細かく異なり、対象期間や人数要件も個別に定められています。解雇の前に、申請中・申請予定の助成金の要件を必ず確認してください。判断に迷う場合は社会保険労務士・弁護士にご相談ください。
※ 「事業主都合の解雇」があると不支給となり得る主な助成金:雇用調整助成金、産業雇用安定助成金、労働移動支援助成金、中途採用等支援助成金、特定求職者雇用開発助成金、トライアル雇用助成金、地域雇用開発助成金、キャリアアップ助成金、人材開発支援助成金 など。要件・対象期間は各助成金の最新の支給要領でご確認ください。
デメリットばかりが強調されがちですが、正当な懲戒解雇には会社側のメリットもあります。両面を理解したうえで判断することが大切です。
懲戒解雇の会社側メリット
- 退職金の支払いを免れ得る:規程と重大な背信があれば、退職金の全部・一部を不支給にできる
- 一方的に労働契約を終了できる:解雇に値する懲戒事由があれば、労働者の承諾なく契約を終了できる
- 企業内の秩序を維持できる:問題行為への会社の姿勢を社内に示し、再発を防止する
- 他の社員のモチベーション・就労環境を守れる:パワハラ・セクハラ・横領などの抑止につながる
ただし、こうした利点が現実になるのは、あくまでその懲戒解雇が有効と認められたときだけです。懲戒解雇は普通解雇に比べて有効性のハードルが高く、退職金を払わずに済むという利点の裏には、常に「無効になったら一気に負担が跳ね返る」という表裏の関係があります。普通解雇と並べて整理すると、この構図がよく分かります。
| 解雇の種類 | 会社にとっての利点 | 会社にとっての弱点 |
|---|---|---|
| 懲戒解雇 | 退職金の不支給を狙える | 有効と認められるハードルが高い(無効リスク大) |
| 普通解雇 | 相対的に有効と認められやすい | 退職金は原則として支払う |
対応が過度に厳しすぎると、解雇が無効になったり職場環境がかえって悪化することもあります。メリットを享受できるのは「有効な懲戒解雇」に限られる点に注意してください。「退職金カットは取りたい、けれど無効リスクは負いたくない」——この相反する要請をどう両立させるかが実務の悩みどころで、その一つの解が次章で扱う予備的普通解雇です。
懲戒解雇が無効になることで生じるデメリットは、進め方次第で大きく減らせます。
デメリットを軽減する進め方
- まず退職勧奨を検討する:自主退職に促す。退職勧奨による退職は解雇ではないため、解雇無効の負担が生じない(※行き過ぎると「退職強要」となり無効・違法のリスク)
- 諭旨解雇を挟む:一定期間内の自主退職を勧告し、応じなければ懲戒解雇とする処分。懲戒解雇より一段軽く、争いになりにくい
- 懲戒事由を裏づける証拠を確保する:始末書・調査報告・メール・勤怠記録など、事実を証明できる資料を揃える
- 改善・教育の機会を十分に与える:注意指導を段階的に行い、それでも改まらなかった経緯を残す
- 弁明の機会を与える:本人に言い分を聞く手続を踏み、適正手続を確保する
弁護士からのワンポイント
もっとも効果的なデメリット対策は、処分を下す前に「この懲戒解雇は有効か」を弁護士に確認することです。証拠・手続・処分の重さを事前にチェックすれば、無効リスクとそれに伴う金銭負担を大きく減らせます。退職勧奨に切り替える場合の助成金への影響もあわせて確認しましょう。
関連:失業保険(重責解雇)の扱いは「懲戒解雇と失業保険」、不当解雇のリスク全般は「不当解雇とは?」、解雇予告手当(懲戒解雇でも除外認定がなければ必要)は「解雇予告手当とは?」、懲戒処分の種類は「懲戒処分とは」、副業を理由とする解雇・懲戒処分は「副業を理由に解雇・懲戒処分できる?」で解説しています。
ここまで見てきたとおり、会社の痛手が最も大きくなるのは、懲戒解雇が無効と判断され、働いていない期間の賃金(バックペイ)まで会社が負う場面です。この一点に的を絞った備えとして実務で使われるのが、懲戒解雇を告げると同時に「もし無効なら普通解雇として扱う」という二段目の意思表示も添えておく方法です。正式には「懲戒解雇兼予備的普通解雇」と呼ばれます。
なぜ効くのか|退職金カットは狙いつつ、無効の穴を埋める
ねらいは二つの両立です。まず懲戒解雇として通知することで、退職金を支払わずに済むという会社側の利点を確保します。そのうえで、万一その懲戒解雇が裁判で覆っても、同時に告げておいた普通解雇が生き残れば、そこで雇用契約は終了していたことになり、バックペイの膨張を止められます。普通解雇のほうが有効と認められやすいことを利用した、いわば「本命+保険」の組み立てです。保険である普通解雇が表に出るのは、懲戒解雇が無効になったときだけです。
最大のポイント|二つの解雇に「時間差を作らない」
この手法で最も注意すべきは、懲戒解雇と普通解雇のあいだに時間の空白を作らないことです。先に懲戒解雇だけを打ち、しばらく経ってから普通解雇を持ち出すと、その空白期間分のバックペイは避けられません。実際、懲戒解雇のおよそ1年1か月後にようやく普通解雇を主張した事案(Y不動産事件・広島高判平成29年7月14日 労判1170号5頁)では、普通解雇そのものは有効とされながら、空白期間に対応する約420万円の支払いが会社に残りました。最初の通知の段階で両方をまとめて示しておくことが、費用対効果の分かれ目になります。
通知書の組み立て(記載イメージ)
懲戒解雇兼予備的普通解雇 通知書
令和○年○月○日
○○ ○○ 殿
株式会社○○
代表取締役 ○○ ○○
1 懲戒解雇の通知
貴殿の下記の行為は、就業規則第○条○号の懲戒事由に当たります。よって当社は、同規則第○条に基づき、本日付で貴殿を懲戒解雇します。なお、これに先立ち弁明の機会を設けましたが、貴殿からのお申し出はありませんでした。
対象行為:令和○年○月から令和○年○月にかけて、(問題行為の具体的な内容)を行ったこと。
2 予備的な普通解雇の通知
前項の行為は、就業規則第○条○号の普通解雇事由にも当たります。そこで、予備的に、同条に基づき、本日付で貴殿を普通解雇します。
※ あくまで組み立てのイメージです。条項番号・対象事実は事案ごとに異なります。実際の文面は、公表前に弁護士の確認を受けてください。
予備の普通解雇を「効かせる」ための勘どころ
通知書づくりで押さえたい5点
- 解雇の理由は初回の通知で出し切る:懲戒解雇では、通知書に挙げなかった事実を後の裁判で解雇理由として持ち出すことが基本的にできません。思い当たる問題行為は、この一通に漏れなく書き込みます
- 「指導の履歴」を証拠として残す:予備の普通解雇を確実に生かすには、能力・適格性の不足やハラスメントについて、いつ・何を注意し本人がどう反応したかを時系列でまとめ、通知書に添えておくと有効です
- 言い分を聴いた事実を書き込む:弁明の場を設けた経緯を残しておくと、手続の適正さを外から示せ、普通解雇の有効性を裏づける材料にもなります
- 諭旨解雇のときも保険をかける:退職に応じなければ懲戒解雇に移す諭旨解雇も、性質は懲戒解雇に近く無効化のリスクを抱えます。この場合も予備の普通解雇を添えておくと安全です
- 経営事情が絡むなら整理解雇も重ねる:本人側の問題行為に加えて業績悪化という会社側の事情もあるなら、人的な理由による普通解雇と、経済的な理由による整理解雇を予備として並べる組み立ても考えられます(日本電産トーソク事件・東京地判令和2年2月19日など)
見落としやすい3つの落とし穴にも注意してください。
①通知書に書いていないと、後からでは通りにくい——「懲戒解雇の中に普通解雇の意思も含まれていた」という後付けの理屈は、裁判官の受け止め次第で認められないことがあります。最初の一通で予備的普通解雇をはっきり示しておくのが安全です。
②予備の普通解雇も万能ではない——普通解雇として有効といえる理由と証拠(勤務成績の不良や改善見込みのなさなど)が揃っていなければ、二段目もろとも無効になり得ます。
③解雇予告手当の扱いを先に決める——「懲戒解雇なら予告手当は不要」とは限りません。労働基準監督署の除外認定を受けるのか、予告手当を支払うのかを、通知の前に整理しておきます。
弁護士からのワンポイント
予備的普通解雇は無効リスクへの備えとして有効ですが、効き目は「何を書くか・いつ出すか・証拠が揃っているか」でほぼ決まります。通知文の組み立てを一度弁護士に点検してもらうだけでも、取りこぼしは大きく減らせます。
懲戒解雇の会社側の最大のデメリットは何ですか?
懲戒解雇が「無効(不当解雇)」と判断されることです。無効になると、解雇日から解決までのバックペイ、給与半年〜1年分が目安の解決金、残業代・遅延損害金・付加金の請求、対応の時間・労力・弁護士費用、評判の低下といった負担が一度に会社へ生じます。
懲戒解雇をすると助成金は必ず使えなくなりますか?
いいえ。多くの助成金は「事業主都合の解雇」があると不支給になりますが、労働者の責めに帰すべき重大な理由による正当な懲戒解雇は、この「事業主都合の解雇」から除外されるのが原則です。ただし、解雇が無効と判断された場合や、退職勧奨・合意退職に切り替えた場合は事業主都合扱いとなり、前後6か月に1人でも該当すると不支給になる助成金が多いため、事前確認が必要です。
懲戒解雇に会社側のメリットはありますか?
あります。解雇に値する懲戒事由があれば一方的に契約を終了でき、問題行為への姿勢を社内に示して企業秩序を維持し、他の社員のモチベーションや就労環境を守る効果があります。ただしメリットを得られるのは有効な懲戒解雇に限られます。
解決金やバックペイはどのくらいの金額になりますか?
バックペイは解雇日から解決までの賃金相当額で、争いが長引くほど増えます。解決金は給与の半年分〜1年分が一つの目安で、解雇の違法性の程度に応じて決まります。両者は別に生じます。
デメリットを減らすにはどうすればよいですか?
いきなり懲戒解雇とせず、退職勧奨や諭旨解雇を検討し、懲戒事由の証拠を確保し、改善・教育の機会と弁明の機会を与えることが有効です。最も確実なのは、処分前に懲戒解雇が有効かを弁護士に確認することです。
懲戒解雇が無効になったときのバックペイを避ける方法はありますか?
有効な備えの一つが、懲戒解雇と同じタイミングで「もし無効なら普通解雇として扱う」という予備の意思表示もあわせて出しておく方法です。懲戒解雇が覆っても、予備の普通解雇が有効なら賃金の遡り支払いを抑えられます。鍵は、二つの解雇に時間差を作らないことと、対象行為・弁明の実施・指導の経過を通知書にきちんと残すことです。
懲戒解雇のデメリットが不安なら、処分前に弁護士へ
懲戒解雇は、無効となれば会社に大きな金銭的・時間的負担が生じます。処分を下す前に「この解雇は有効か」「退職勧奨に切り替えるべきか」「助成金への影響は」を確認するだけで、リスクは大きく減らせます。難波みなみ法律事務所は企業側の顧問弁護士として、懲戒解雇の可否判断から進め方までサポートします。
初回相談30分無料|お問い合わせはこちら※本記事は一般的な法令・実務に基づく解説です。助成金の支給要件・対象期間は各助成金の最新の支給要領、個別事案の判断は弁護士にご確認ください。

