残業代請求された場合の検討すべき点5つ|無視せずに適切な対応と反論を

「残業代請求を受けたのだけれど、どうすれば良いのだろうか」

「残業代請求を受けたけれど、放置しても問題ないのだろうか」 

と気になりませんか。

結論から言えば、残業代請求を受けた場合には、放置せずに反論をするなど、対処をする必要性があります。ただし、的確な対応をしなければ、その回答によってより不利な状況に追い込まれる可能性もあります。 

今回は、残業代請求を受けたときの対応について解説いたします。

残業代請求を受けた時の対応

会社にある日突然、従業員や、従業員の代理人(弁護士)から社長や人事あてに内容証明郵便が届き、その内容が残業を請求する趣旨であった場合、必ず中身を精査して下さい。

理由として、請求された全額を支払う必要性があるのかどうかはこの段階では分からないためです。精査をしてから反論をするか、受け入れるかを決めるようにしましょう。また、精査にかかる時間などを考え、「貴殿の請求された残業代について、会社にて精査するため、しばしお待ちください」といった返答をするようにしましょう。

なお、内容証明郵便の名前が従業員本人のものだからといって油断する経営者が多いですが、一般的に内容証明郵便を書けるほどの法律的な知識を持っている人は少なく、その内容証明そのものは弁護士が書いていて、本人が弁護士の代わりに郵送しているだけという可能性もあります。内容証明が届いた時点で緊張感を持ってください。

未払い残業代とは何か?

未払い残業代とは、労働者が所定労働時間外に労働させられながら、所定の賃金や割増賃金を支払われない状況を指します。

これは労働基準法に違反し、労働者の権利を侵害する行為です。残業代を支払わずにいると、法定刑として6か月以下の懲役又は30万円以下の罰金が科されるおそれがあります(労基法119条)。

労働基準法第37条では、法定時間外労働に対する割増賃金の支払いについて規定されています。具体的には、所定労働時間外の労働については時間単価の25%以上の割増賃金を支払うことが求められています。また、休日や深夜における労働に対しても、より高い割増賃金を支払うことが規定されています。

未払い残業代を請求された時の検討するべき点

未払い残業代を請求されたときの検討するべき点は、以下の通りです。

・労働者の主張する労働時間が間違っている

・未払い残業代の消滅時効が完成している

・残業を禁止又は許可制にしていた

・管理監督者である

・固定残業代を支給しているため未払いがない

・みなし労働時間制を採用していた

それぞれについて解説します。

労働者の主張する労働時間が間違っている

労働者の主張する労働時間が正確かどうかを検証する必要があります。

なぜなら、主張されている時間が本当に残業時間に該当するのか、またその残業が指揮命令下で行われたのかについて、労使双方の意見が異なることが一般的だからです。例えば、会社の指揮命令下にない状況での服装の着替え時間や、従業員が管理監督者の許可なしに行った残業時間が含まれている可能性もあります。

未払い残業代の消滅時効が完成している

未払い残業代の消滅時効が完成している期間も含めて請求されている可能性があります。

残業代の請求期間は3年です。ただし、2020年3月以前に支払われるべきであった賃金に関しては、2年で消滅時効が完成します。3年間で現在は運用されていますが、いずれ5年になる可能性があります。請求された残業代が、すでに時効になっている部分については支払う必要性がありません。

注意点として、時効期間が過ぎれば当然に消滅時効により消えるものではありません。事業者側が時効の援用をしてはじめて時効により消滅します。

残業を禁止又は許可制にしていた

会社が残業を禁止するか、許可制にしていた場合、残業代を支給しなくても良い可能性があります。

なぜなら、残業を禁止している条件下で行われた残業や、許可の下で行われていなかった時間は残業時間として認めなくても良い可能性があるからです。例えば、会社として、「定時を過ぎたら一般社員は管理監督者に仕事を振って帰宅して良いよ」という体制にしていたにも関わらず、勝手に残業していたケースです。

また、管理監督者が残業を許可せずに、定時になったら帰れと言っているにも関わらず会社に残っていたという場合は、残業が認められません。ただし、適切に社内で許可制度が運用されておらず、上司が部下に許可を出す際の記録がない状態の場合、会社が残業の許可制度に関しては形骸化しており、機能していなかったという反論を受ける可能性があることに注意して下さい。

管理監督者である

管理監督者であることを理由に、残業代を支払う必要性がないことがあります。

管理監督者は一般社員と異なり、深夜残業手当以外を支払う必要性がないからです。つまり、時間外の残業代を支払う必要がありません。例えば、会社で大きな人事権限をもっている人事課長や総務課長などを指します。

一律で課長職以上に残業代を支給しなくてよいかと言えばそうではなく、出退勤の自由(フレックスタイムによって自分で勤怠を決めて良いなど)、経営に深く関与している、労務管理をしている、待遇が一般社員(係長級以下)よりも良いという条件があります。何をもって管理監督者であると言えるのかについては様々な要件があります。

固定残業代を支給しているため未払いがない

固定残業代を支給しているため、未払いが存在しないという反論をすることも考えられます。例えば、月の固定残業代が30時間であり、社員は25時間しか残業をしていなかったというケースです。

ただし、厳密に勤怠を調べられた時に、固定残業代よりも多く残業していた事実があれば、それは支払い対象になります。また、基本給と明確に区分されていない場合や、基本給を小さくして、固定残業代を大きくするような場合には、無効になる可能性があります。

みなし労働時間制を採用していた

みなし労働時間制を採用していたため、残業代を支給しないという反論をすることも考えられます。

みなし労働時間制度とは、使用者の指揮監督が及ばず労働時間の算定が困難な業務に適用される制度で、労使協定により予め決められた労働時間を実際の労働時間とみなします。

労働基準法の規制は適用されます。労働時間が法定労働時間を超える場合は、36協定締結や割増賃金の支払いが必要です。例えば、事業場外での労働や外勤営業社員の業務など、指揮監督が及ばない場合や、新技術の研究開発、事業の運営に関する企画・立案の業務など、労働者の裁量が大きい業務、専門業務型裁量労働や企画業務型裁量労働などの専門的な業務が含まれます。つまり、専門性の低い業務や勤怠管理が困難というほどの事情がない限りは、みなし労働時間制は否定されてしまう可能性があるということです。

残業代請求の対応時のポイント

残業代請求の対応時のポイントは、以下の通りです。

・残業代請求を無視しない

・労働基準監督署から調査に対して誠実に対応する

・反論するべき点があるかを検討する

・支払うべき残業代を計算する

・労働者に対して回答し交渉する

それぞれについて解説します。

残業代請求を無視しない

残業代請求を無視しないことは最も重要です。

なぜなら、何らかの対応をしなければ、労働基準監督署への申告などがなされ、会社に労働基準監督署からの臨検(監督官が突然会社に捜査に来ること)や監査が来る可能性があるためです。

さらに、裁判に発展する可能性もあります。何の反応もしなければ内容証明の送り主は、次の行動に出るということです。内容証明送付段階ではまだ話し合いの余地が残っているということもあるのです。裁判になってしまうかどうかはこのタイミングでの行動で変わるということです。

労働基準監督署の調査に対して誠実に対応する

労働基準監督署からの調査には誠実に対応することを心がけましょう。なぜなら、労基署の監督官は労働問題に関しては、警察と同じく逮捕や書類送検をすることができる権限を持っている司法警察職員だからです。

意識していない経営者の方もいますが、警察官に捜査に入られているのと同じような状態だと認識してください。誠実に対応し、こちら側の正当性を主張する必要性があります。

反論するべき点があるかを検討する

反論するべき点があるかどうかを検討してください。

例えば、残業時間や労働内容が正確に記録されているかを確認し、不当な請求がないかを検証します。労働時間の記録が不十分な場合には、その点を反論のポイントとします。また、残業が適切かつ合理的な理由に基づいて行われたかを評価し、不当な残業代請求である場合には、その理由を反論として提示します。

ただし、注意点として、あまりにも相手をないがしろにするような反論をすると怒りを買い、起こさなくても良いような労働紛争を起こしてしまう可能性がある点に注意してください。

支払うべき残業代を計算する

支払うべき残業代が本当はいくらだったのかを正確に計算するようにしましょう。

社内の総務人事や残業代請求をしてきた一般社員の直属の上司と勤怠をチェックして、記録を確認していきます。その上で、会社として支払うべき妥当な金額を出してください。

注意点として、会社側で確認がしっかりと把握出来ているデータ以外のあやふやな部分は相手方と話し合うようにして下さい。曖昧な部分を会社が断定して出すと、裁判で一気に印象が悪くなります。

労働者に対して回答し交渉する

労働者に対して、残業代に関する回答をして交渉をしましょう。様々な交渉方法があります。

相手方の主張する勤怠とこちら側の主張する勤怠を出し合い、最終的に1枚にまとめて、合意的な範囲で決めるという方法があり、これがシンプルです。

労働者側の主張とこちら側の主張が合っているところは残業代を支払います。一方で、ある程度の金額を提示して、会社として出せる金額はこれで一杯だから、和解しようともちかけて和解書を書いてもらうことも手です。

残業代請求を放置した時のリスク

残業代請求を放置した時のリスクは、以下の通りです。

・遅延損害金がかかる

・労働審判の申立てをうける

・労働訴訟を提起される

・付加金がかかる

・会社の評判が悪くなる

それぞれについて解説します。

遅延損害金がかかる

残業代請求を放置するリスクは遅延損害金にあります。残業代は、不払いが発生した時点から、年利3%の遅延損害金がかかります。また、退職後の従業員に対しては、14.6%の遅延損害金がかかります。一般的な金利よりも高い金利が付くと考えるようにしましょう。

労働審判の申立てをうける

残業代請求を放置すると、労働審判を起こされる可能性があります。労働審判は3回の裁判期日で労働問題を決着させるための制度であり、比較的簡単に制度を活用できる点が特徴です。

労働審判の申立てをされてから初回期日までの時間的な余裕がないため、かなりタイトな期間で準備する必要があります。

労働訴訟を提起される

残業代請求を放置することにより、労働訴訟を起こされる可能性があります。

理由として、放置したことにより従業員の怒りに火をつけ、話し合いの余地がないと判断される可能性があるからです。もともと内容証明などで警告してくる、ということは裁判で勝てるだけの何らかの証拠を有している可能性もあり、その段階で弁護士が受任している可能性が高いのです。それを無視すれば裁判になることも必然と言えます。

付加金がかかる

付加金の支払いは、労働基準法の規定に違反した雇用主に対して、労働者が請求することができます。

裁判所は、雇用主が労働基準法の規定に違反して未払いの賃金がある場合、その未払い金額と同額の付加金を支払うよう命じることができます。付加金を支払うように命じられるかどうかは、経営者の悪質さや不誠実さなどによって裁判官が判断します。

労働者が労働基準法に違反した残業代や賃金の支払いを求め、それを裁判官が認めた場合に、その未払い残業代と同額の付加金を支払うよう命じられる可能性があるのです。本来支払うべき残業代の2倍を支払うことになるということです。

会社の評判が悪くなる

残業代の請求を放置することは、会社の評判に悪影響を及ぼす可能性があります。なぜなら、労働者たちの間で会社の評判が悪化すると、その情報が外部にも広まり、会社の社会的信用が低下してしまうからです。このような状況は、採用活動や顧客からの信頼にも悪影響を及ぼす可能性があります。特にSNSで情報が拡散される時代であり、様々なところに残業未払いの情報が拡散され、共有されると考えましょう。

残業代の請求を受ければ弁護士に相談を

労働者から残業代請求を受ければ無視することなく適切に対処するべきです。しかし、労働者の請求に対して安易に反論することは控えるべきです。例えば、消滅時効にかかっている部分があるにもかかわらず、それを見落として交渉してしまうと、以後消滅時効の主張ができなくなる可能性もあります。反論するとしても計画的に行うべきです。

労働者から残業代請求を受ければ、まずは弁護士に相談をすることがおすすめです。