仕事中に寝る社員は解雇できる?会社側が知るべき法的リスクと対応方法

更新日: 2025.11.30

社員が仕事中寝る行為は、その他の社員の士気を低下させるなど企業秩序を乱すだけでなく、業務効率の低下にも繋がります。しかし、安易な解雇は法的リスクを伴います。就業規則に違反した場合でも、社員を直ちに解雇できるとは限りません。

本記事では、仕事中の居眠りを理由とした解雇について、法的リスクと適切な対応手順を解説します。企業が取るべき対策を理解し、適切な対応を行いましょう。

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居眠りでいきなり「解雇」は危険

仕事中に居眠りを繰り返す社員がいる状況は、多くの企業にとって頭を悩ませる問題です。居眠りが職場に与える悪影響は多岐にわたります。

  • 業務効率の著しい低下
  • 周囲の社員のモチベーション低下、真面目に働く社員の負担が増える
  • 職場全体の生産性の悪化
  • 運転や精密機械操作のミスによる事故
  • 顧客対応の過誤による顧客からの信頼失墜

こうした問題に直面した際、感情的に「居眠りをする社員をすぐに解雇したい」と考えてしまうかもしれません。しかし、安易な解雇は法的リスクを伴うことを認識しておくべきです。労働者の雇用は法律によって手厚く保護されており、居眠りという行為があったとしても、一回きりの居眠りのみを理由に社員を解雇することは、不当解雇となる可能性が高いです。

まずは、居眠りの背景にある原因を調査した上で、その原因に応じて段階的な注意指導、懲戒処分の検討、そして最終手段としての解雇を検討することになります。以下では、これらプロセスを踏まえた実践的なアプローチを網羅的にご紹介します。

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解雇を検討する前に確認すべき居眠りの3つの原因

仕事中に居眠りをする社員への対応を検討する際、その行為を直ちに解雇の理由とすることは避けるべきです。

重要なのは、まずその居眠りの背景にある原因を特定することです。原因が分からなければ、適切な対応策を講じることは困難だからです。

以下では、居眠りの原因を大きく以下の3つのパターンに分類し、それぞれの状況に応じた具体的な対応策を次項で詳しく解説していきます。

原因1:本人の勤務態度や私生活に問題がある場合

社員の居眠りの原因として、まず本人の勤務態度や私生活に問題がある場合が考えられます。具体的には、以下のような要因による睡眠不足が挙げられます。

  • 夜更かし
  • 趣味の没頭
  • 深夜にわたるスマートフォンやPCでの動画視聴やゲーム
  • 副業

自己管理の不足により十分な睡眠が取れていない場合、勤務中の集中力低下や居眠りにつながることがあります。

また、業務に対するモチベーションの低下や仕事内容への不満が原因で、日中の緊張感が低下して、その結果居眠りに至るケースも少なくありません。

これらの原因を特定するためには、まずは本人との定期的な面談を通じて、生活習慣や仕事に対する思い、抱えている不満などをヒアリングすることが第一歩となります。ただし、プライベートな問題に過度に踏み込んだり、感情的に問い詰めたりすることは、ハラスメントと受け取られるおそれがあるため注意が必要です。

原因2:病気の可能性が疑われる場合(睡眠時無呼吸症候群など)

社員の居眠りが、本人の意思とは無関係に、深刻な病気によるものである可能性も考えられます。特に、睡眠時無呼吸症候群やうつ病などの精神疾患といった病気は日中の強い眠気を引き起こし、集中力や判断力の低下に直結する可能性があります。

このような状況において、企業としてまず行うべきは、本人との丁寧な面談を通じて健康状態を詳しく聞き取ることです。企業が負う「安全配慮義務」の観点からも、産業医や専門医の受診を促す必要があります。

病気が原因であると判明した場合、会社は治療への配慮や業務内容の調整を行うべきです。症状によっては、休職を打診することも検討するべきです。このようなプロセスを経ることもなく、一方的に解雇を進めることは、不当解雇と判断され無効となるリスクが非常に高いため、慎重な対応が求められます。

原因3:長時間労働など会社の労働環境に問題がある場合

社員が仕事中に居眠りをする原因として、会社の労働環境に根本的な問題があるケースも少なくありません。例えば、長時間労働の常態化や過度な業務負荷、休憩時間の不足などが挙げられます。このような状況が続けば、社員の心身に過度な疲労が蓄積し、日中に強い眠気を引き起こしてしまう可能性が高まります。

業務過多は、集中力低下や居眠りといった問題だけでなく、業務上のミス増加、頭痛や不眠などの体調不良、うつ病などの精神的な不調などの問題も引き起こすリスクがあります。

会社が、労働環境を適切に整備することなく解雇に踏み切った場合、不当解雇と判断されるリスクは高まります。社員個人の問題と捉える前に、まずは会社として労働時間の実態を正確に把握し、業務量の見直し、インターバルの確保などの職場環境の改善に努めることが重要です。

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居眠り社員に解雇を言い渡すまでの5つのステップ

社員が繰り返し居眠りをする状況は、企業運営上、看過できない問題です。しかし、問題行動があったとしても、直ちに解雇を言い渡すことは、法的に無効とされる可能性が極めて高いことを認識しておくべきです。居眠りをする社員の解雇を進めるにあたっては、以下で解説する5つのステップを順を追って実行することが重要となります。

【ステップ1】客観的な証拠を記録・収集する

居眠りをする社員への対応において、まず取り組むべきは、客観的な事実に基づき証拠を記録・収集することです。感情や主観に流されることなく、冷静に状況を把握することが不可欠となります。

居眠りの証拠を確保する上で、具体的に記録すべき項目は以下の通りです。

  • 日時と場所:いつ、どこで居眠り行為があったか
  • 頻度と居眠りの時間:どれくらいの頻度で、どのくらいの時間居眠りしていたか
  • 居眠り時の状況:会議中、自席での作業中、休憩時間外など、具体的な場面
  • 業務への具体的な影響:作業の遅延、ミスの発生、周囲の業務への支障など

これらの証拠の収集方法としては、上司等の管理者による詳細なメモや日報の作成が有効です。また、監視カメラの映像や、複数の同僚からの客観的な証言なども、事実を補強する資料になり得ます。

大阪地裁平成8年11月1日

社員の勤務不良の態度の期間が少なくとも10ヶ月程度の長期間に及んでいること、居眠りを故意に行っていたこと、上司の注意に耳を貸そうとしなかったこと、会社の注文主から度々クレームを受け、当該社員の出入り禁止の通告がされたこと等に照らせば、解雇が解雇権濫用であると認めるべき事情もないとして、解雇処分は有効となりました。

【ステップ2】まずは口頭で注意し、改善指導を行う

居眠りをしている社員への最初の対応は、感情的にならず、客観的な事実(日時、頻度、状況など)に基づき、本人と面談を実施することから始めます。この際、プライバシーに配慮した場所を選び、人前での叱責は避けるようにしましょう。

面談では一方的に注意するのではなく、「なぜ居眠りをしてしまうのか」を丁寧にヒアリングすることに重点を置きます。居眠りには先ほど解説したように様々な要因が考えられるため、その要因に応じた適切な対応が求められるからです。

ヒアリング内容を踏まえ、社員本人と共に具体的な改善策を考えましょう。「あなたはダメだ」「君は怠け者だ。」といった人格否定ではなく、客観的な事実とこれによる悪影響を指摘することが大切です。

口頭での注意指導であっても、その内容は必ず記録に残すようにしましょう。これは将来的に解雇等の次のステップに進む際の重要な証拠となるため、指導記録を作成して保存しておきましょう。

【ステップ3】書面による注意指導と懲戒処分を検討する

口頭での注意指導を重ねても改善が見られない場合、次の段階として、問題の重大性を社員本人に認識させ、客観的な記録を残すためにも、書面による注意指導へ移行します。 

書面による厳重注意をした後も改善が見られない場合は、就業規則に明記されている懲戒処分を検討します。通常は、戒告や譴責等の比較的軽めの処分を行い、それでもなお改善されなければ、減給や降格、出勤停止などの処分を段階的に行います。なお、懲戒処分を行う際は、処分の種類と懲戒事由が就業規則に明確に記載されていることが要件となりますので、事前に必ず確認してください。

【ステップ4】改善が見られない場合は退職勧奨も選択肢に

懲戒処分を経てもなお社員の居眠りが改善されない場合、最終手段である解雇を検討する前に、「退職勧奨」を一つの選択肢として考慮できます。

退職勧奨とは、会社が従業員に対し、合意に基づいた退職を促す行為を指します。これは、会社の一方的な意思表示である解雇とは異なり、従業員の自由な意思に基づいた退職を求めるものです。

退職勧奨を進める上で最も重要なのは、従業員の意思を尊重することです。執拗な面談を繰り返したり、「すぐに解雇できる」といった威圧的な発言をしたりする行為は、退職強要とされるリスクがあります。

退職勧奨に応じてもらうには、従業員にとって退職がメリットとなるような条件を提示することが有効です。例えば、通常の退職金に加えて「割増退職金」を支給するなどが考えられます。その他にも未消化の有給休暇の買取り、退職日までの労働義務の免除なども、退職勧奨を促すための選択肢の一つとなります。

【ステップ5】最終手段として普通解雇の手続きを進める

退職勧奨を行なっても、問題社員がこれに応じない場合、最終手段として解雇の手続きを検討することになります。以下に、解雇処分をする際の法的手続きの要点をまとめます。

  • 解雇予告:解雇日の少なくとも30日前までに本人に予告する必要があります。
  • 解雇予告手当:解雇予告がない場合、または予告期間が30日に満たない場合は、30日分以上の平均賃金に相当する解雇予告手当を支払わなければなりません。不足日数分の手当を支払う義務が生じます。
  • 解雇予告手当の免除:労働者の責に帰すべき重大な事由による解雇の場合に限り、労働基準監督署長の認定を受けることで、解雇予告手当の支払いが免除されることがあります。
  • 解雇理由証明書:従業員から請求があった場合には、解雇の理由を明記した解雇理由証明書を交付する義務があります(労働基準法第22条)。
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仕事中の居眠りを理由とした解雇は法的に認められるのか?

一度や二度の居眠りといった事実のみで従業員を直ちに解雇することは、法的に「解雇権の濫用」と判断され、解雇が無効となるリスクが非常に高いといえます。 

以下では、解雇が法的に認められるための具体的な要件や、懲戒解雇と普通解雇の違いについて詳しく解説します。

解雇が有効となるためには

労働契約法第16条では、解雇は「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする」と明確に定められており、これを「解雇権濫用の法理」と呼びます。

解雇権濫用の法理により、会社が従業員を解雇するためには、「客観的に合理的な理由」と「社会通念上の相当性」という二つの要件をいずれも満たす必要があります。

「客観的に合理的な理由」とは、雇用契約の継続を期待することができないほど重大な事由を指します。第三者が見ても「やむを得ない」と納得できるような、解雇の根拠となる事実が客観的に存在することが必要です。

一方、「社会通念上の相当性」は、その事実に対して解雇という処分が重すぎないかという観点から判断するものです。注意指導の経緯や本人の反省度合い、他の従業員との公平性、処分歴の有無や程度、解雇手続の相当性といった諸事情を総合的に考慮し、解雇の有効性が判断されます。

居眠りで解雇するためには

まず、居眠りを理由に解雇するためには、居眠りが解雇事由に該当する必要があります。そのため、居眠りの原因が健康上の理由ではなく、その他の合理的な理由もない場合であることが必要です。例えば、居眠りが常態化した残業により帰宅時間が遅くなり睡眠時間を確保できていないために生じている場合には、解雇処分ではなく業務量の調整や勤務間インターバルを確保するなどの対応が先決です。

また、居眠りを理由に解雇する場合には、それを理由に解雇することが社会通念から見て重すぎないことが必要です。そのため、就業中の居眠りを改善するために注意指導を重ねてきたり、業務改善のための定期面談、段階的な懲戒処分を踏むなど、解雇を回避するための努力を尽くしていることが必要です。

東京地裁昭和57年11月19日

就業時間外にキャバレーに無断で兼業・副業を行ったことを理由とする解雇の有効性が争われた事案で、裁判所は、二重就職の影響によるものか否かは明らかではないが、就業時間中居眠りが多く、残業を嫌忌する等の就業態度がみられることなどから、解雇が権利濫用により無効であるとは認めることができないと判断しました。

懲戒解雇と普通解雇の違い

解雇には、大きく分けて「普通解雇」と「懲戒解雇」の2種類があり、その性質や適用される要件は大きく異なります。

普通解雇は、労働者の能力不足、勤務態度不良、私傷病による就労不能など、労働契約の継続が困難であると判断された場合に適用されます。

これに対し、懲戒解雇は、横領、経歴詐称、重大な業務命令違反といった企業の秩序を著しく乱す行為に対するペナルティとして行われる、最も重い処分です。

項目普通解雇懲戒解雇
性質労働契約の継続が困難な場合企業秩序を乱したことへの懲戒
解雇予告原則として30日前予告、または解雇予告手当が必要労働基準監督署長の認定があれば予告・手当が不要な場合あり
退職金就業規則に基づき通常支給就業規則に基づき不支給または減額の可能性あり

まとめ:居眠り社員への対応は慎重な手順が不可欠、困ったら弁護士へ相談を

本記事で解説した通り、社員の仕事中の居眠りを理由とした安易な解雇は、法的に無効と判断されるリスクが極めて高いことをご理解いただけたと思います。万一、不当解雇と認定された場合、企業は多額の損害賠償や未払賃金の請求を受ける可能性があります。さらに、解雇した元従業員の復職を余儀なくされることもあり、企業の評判にも深刻な悪影響を生じかねません。

こうした事態を避けるためには、居眠り問題の解決に向けた一連の対応が不可欠です。これらの段階を一つひとつ丁寧に進め、指導の過程や改善の状況を客観的な記録として残しておくことが重要です。万が一、解雇の有効性が争われる事態に発展した場合、会社の対応の正当性を証明する上で極めて重要な意味を持ちます。

企業の担当者だけで判断し、対応を進めることが難しいと感じる場合や、不当解雇などの法的トラブルを確実に避けたいと考える場合は、早期に弁護士や社会保険労務士といった労働問題の専門家へ相談することを強くお勧めします。専門家は、個別の状況に応じた的確なアドバイスを提供し、法的に問題のない手続きを踏むためのサポートをしてくれます。これにより、企業は安心して問題解決に取り組むことができ、将来的なリスクを大幅に軽減できるでしょう。

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