募集株式の発行とは?中小企業経営者が知るべき資金調達の進め方と注意点

公開日: 2025.10.24
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中小企業にとって、資金調達は経営を左右する重要な要素です。事業拡大や設備投資には資金が必要ですが、十分な自己資金がない場合、外部からの資金調達を検討する必要があります。

資金調達の方法はいくつかありますが、その一つが募集株式の発行です。これは、会社が新たに株式を発行し、投資家等から資金を募集する方法です。しかし、株式の発行は、株主構成や経営への影響も伴うため、慎重に進める必要があります。

本記事では、中小企業の経営者に向けて、募集株式の発行の基本的な知識から、具体的な手続き、注意点までをわかりやすく解説します。

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募集株式の発行(増資)とは?事業拡大のための新たな資金調達手段

資金調達の課題を抱える経営者にとって、「募集株式の発行」、すなわち増資は有力な選択肢の一つです。

以下では、この募集株式の発行について、その基本的な仕組みから、企業にとってのメリット・デメリット、具体的な手続きの流れまでをわかりやすく解説していきます。

そもそも募集株式の発行とは何かをわかりやすく解説

「募集株式の発行」とは、企業が事業に必要な資金を調達するために、新たに株式を発行し、その株式を投資家等に購入(引き受け)してもらう一連の手続きです。この方法は一般的に「増資」と呼ばれ、企業の自己資本を強化する代表的な手段の一つとされています。

この資金調達の大きな特徴は、銀行からの融資や社債発行といった「負債」とは性質が異なる点です。融資が返済義務を伴う「借り入れ」であるのに対し、募集株式の発行によって得られた資金は、返済の義務がない「自己資本」として扱われます。これにより、企業の財務体質が強化され、安定した経営基盤の構築に貢献するとともに、金融機関などからの対外的な信用力向上にもつながるでしょう。

どのような場面で活用される資金調達方法なのか

募集株式の発行は、企業の成長ステージや経営戦略に応じて多様な場面で活用されます。

まず、新規事業の立ち上げや既存事業の拡大、生産性向上のための大規模な設備投資など、多額の資金が必要な際に有効な手段です。

次に、財務体質の改善を目指す場合にも利用されます。特に、借入金の返済資金を調達し、自己資本比率を高めることで、企業の安定性を向上させたい場合に効果的でしょう。

さらに、金融機関からの融資が難しい企業や、返済義務のない資金を調達して将来の資金繰り負担を軽減したいと考える企業にとって、募集株式の発行は重要な選択肢となります。自己資本を充実させることで、長期的な視点での事業成長を支える基盤を構築することができます。

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意思決定の前に確認!募集株式発行による資金調達のメリット・デメリット

募集株式の発行は、企業の成長を後押しする有効な資金調達手段の一つです。しかし、その意思決定にあたっては、メリットとデメリットの両面を深く理解し、慎重に進めることが不可欠です。

以下の項目では、募集株式の発行を通じて得られる具体的なメリットと、押さえておくべき注意点やリスクについて、それぞれ詳しく解説します。

知っておきたい3つのメリット

募集株式の発行による資金調達は、企業に複数のメリットをもたらします。ここでは、特に重要な3つのメリットについて詳しく見ていきましょう。

以下に、募集株式の発行による主なメリットをまとめました。

メリット詳細
返済義務のない資金調達借入とは異なり、元本や利息の返済が不要な自己資本を調達できます。
財務体質の強化自己資本比率の改善を通じて、企業の財務基盤と社会的信用力を高めます。
事業協力者の獲得資金提供者から、技術や販路、経営ノウハウなどの協力を得られる可能性があります。

一つ目のメリットは、返済義務のない「自己資本」を調達できる点です。金融機関からの借入は元本と利息の返済義務を伴いますが、募集株式の発行で得た資金は「自己資本」となるため、返済の必要がありません。これにより、月々の返済や金利負担に追われることなく、長期的な設備投資や研究開発に資金を投じることが可能となります。事業計画に基づいた自由な資金活用ができる点は大きな利点です。

二つ目のメリットは、財務体質の強化とそれに伴う社会的信用の向上です。自己資本が増加すると、企業の自己資本比率が改善され、財務基盤が安定します。この自己資本比率の向上は、金融機関や取引先からの評価を高め、社会的信用力の向上につながるでしょう。

そして三つ目のメリットは、資金面だけでなく、事業上のパートナーを得られる可能性です。特に第三者割当増資の場合、引受先となる企業が持つ技術、販路、経営ノウハウなどを活用できることもあります。これにより、自社の事業に新たなシナジーが生まれ、事業成長を加速させるケースも少なくありません。

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募集株式発行の押さえておくべき注意点とリスク

募集株式の発行は企業の成長を促す有効な手段ですが、そのメリットと同時に、慎重に検討すべき注意点や潜在的なリスクも存在します。

これらを十分に理解しないまま進めると、後々大きな問題に発展する可能性があるため、意思決定の前にしっかりと把握しておくことが重要です。

経営権の希薄化

新たに株式を発行すると、既存株主の持株比率が低下し、会社の重要な意思決定における影響力が減少する可能性があります。例えば、役員選任の普通決議や定款変更といった特別決議(3分の2以上の賛成が必要)を、単独で行えなくなる事態も起こり得ます。

一株あたりの株価の低下

1株あたりの価値が下がる「株式の希薄化」も重要なリスクの一つです。

発行済株式総数が増加すると、1株あたりの利益や資産価値が相対的に低下し、既存株主にとって不利益となる場合があります。これにより、株価にマイナスの影響を与える可能性も考慮に入れる必要があります。

手続きの複雑さとコスト

会社法で定められた手続きが複雑で、時間とコストがかかる点も注意すべきです。具体的には、株主総会での特別決議、株式の申し込みと引受、出資金の払い込み、変更登記申請など、専門的な知識を要する手続きが多く、司法書士などの専門家への報酬も発生します。

これらのリスクを十分に理解し、適切な対策を講じることが成功の鍵となります。

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自社に合うのはどっち?募集株式の発行方法2つのパターン

募集株式の発行は、新たに発行する株式を「誰に」割り当てるかによって、主に「株主割当増資」と「第三者割当増資」の2つのパターンに分けられます。

どちらの方法が自社に適しているかは、資金調達の目的や規模、既存株主との関係性、将来的な経営権の安定性など、企業の状況によって異なります。以下では、これら2つの増資方法について詳しく解説し、自社にとって最適な選択ができるよう具体的な情報を提供します。

既存株主に割り当てる「株主割当増資」

株主割当増資は、既存の株主に対し、その持株数に応じた新株引受権(新株を引き受ける権利)を与えて行う増資手法です。

この方法の主な利点は、既存株主の持株比率が変動しないため、会社の経営支配権の構造を維持しつつ資金を調達できることです。これにより、安定した経営体制を保ちながら、事業に必要な資金を確保することが可能になります。さらに、新たな引受先を探す手間が省けるため、既存株主の理解が得られれば、比較的スムーズに手続きを進められるというメリットもあります。

一方で、注意すべき点として、資金調達額が既存株主の資金力に依存するという側面が挙げられます。既存株主の出資能力によっては、期待する資金が集まらない可能性も考慮に入れる必要があります。

特定の第三者に割り当てる「第三者割当増資」

第三者割当増資は、既存株主であるかどうかにかかわらず、特定の第三者(取引先企業、金融機関、役職員、特定の投資家など)を選定し、新株の引受権を付与することで増資を行う手法です。この方法は、単に資金を調達するだけでなく、経営戦略上の目的で活用されることが多くあります。

第三者割当増資には、以下のメリットとデメリットが存在します。

【メリット】

・既存株主以外からも広く資金を調達できる

・特定の相手との協力関係を構築できる

【デメリット】

・新株発行により既存株主の持株比率が低下し、経営への影響力が弱まる(株式の希薄化)リスクがある

特に、既存株主にとって不利な金額で株式を発行する「有利発行」に該当する場合、株主総会の特別決議においてその理由を具体的に説明する必要があるなど、株主保護の観点から、より慎重な手続きが求められます。

【5ステップで完了】非公開会社における募集株式発行の具体的な手続きフロー

募集株式の発行は、会社法に定められた手続きに従って進める必要があります。単に資金を払い込むだけでは効力が発生せず、適切なプロセスを踏まなければ法的なトラブルにつながる可能性があります。以下では、株式の譲渡制限をしている「非公開会社」が募集株式の発行を行う際の具体的な手続きを、5つのステップに分けて解説します。

ステップ1:募集内容の決定(株主総会での特別決議)

募集株式の発行において、最初に決定すべきは「募集事項」です。これは、会社法第199条1項で定められた、新株発行に関する重要な情報を決定するプロセスを指します。具体的に決定すべき項目は多岐にわたります。

募集事項として決定すべき項目は以下の通りです。

  • 募集株式の種類および数
  • 募集株式の払込金額、またはその算定方法
  • 金銭以外の財産を出資の目的とする場合、その財産の内容および価額
  • 金銭の払込期日、または財産の給付期日(期間)
  • 増加する資本金および資本準備金の額に関する事項

これらの募集事項を決定するには、原則として「株主総会の特別決議」を経る必要があります。特別決議は、会社の重要事項を決定するために設けられた制度です。これは、議決権を行使できる株主の議決権の過半数を有する株主が出席し、出席した株主の議決権の3分の2以上の賛成をもって成立します。このように厳格な要件が課されるのは、募集株式の発行が既存株主の持株比率や1株あたりの価値に影響を与えるためです。既存株主の利益を保護し、経営の安定性を保つために、慎重な意思決定が求められます。

ステップ2:株式の申し込みと引受

ステップ1で募集事項が決定された後、会社は株式の引受けを希望する人に対し、これらの募集事項を通知し、申し込みを募ります。

株式の引受けを希望する方は、通知された募集事項を承認し、会社に対し①その氏名または名称および住所および②引き受けようとする募集株式の数を記載した書面を会社に交付します。

会社は、申込者の中から「誰に」「何株」を割り当てるかを決定します。これを割当の決定と呼び、募集株式が譲渡制限株式である場合には、割当の決定は定款に別段の定めがある場合を除き、株主総会の特別決議(取締役会設置会社にあっては,取締役会決議)による必要があります。

割当の決定後、その結果を引受人に通知します。なお、申込者全員が募集株式の総数を引き受ける旨の「総数引受契約」を会社と締結する場合は、申し込みや割当決定の手続きを省略できます。

ステップ3:出資の履行

募集株式の引受人は、会社が定めた払込期日(または払込期間内)までに、指定された銀行口座へ出資金の全額を払い込む必要があります。もし払込期日までに全額の払い込みがなされなかった場合、その引受人は株主となる権利を失うため、期日を厳守する必要があります。

ステップ4:効力発生と株主名簿の更新

「ステップ3:出資の履行」が完了すると、募集株式の「効力発生」と「株主名簿の更新」という次の段階に進みます。

募集株式の引受人が株主となる時期については、①払込みの期日を定めた場合にはその期日、また、②払込みの期間を定めた場合には出資の履行をした日に募集株式の株主となります。

また、会社は募集株式を発行した場合には、以下の株主名簿記載事項を株主名簿に記載、記録しなければなりません。

  • 株主の氏名または名称
  • 株主の住所
  • 株主が有する株式の種類および数
  • 各株主が株式を取得した日付
  • (株券発行会社の場合)株券の番号

ステップ5:法務局への変更登記申請

募集株式の発行により増資が行われ、効力が発生した場合は、その変更内容を法務局に登記申請する必要があります。

この登記申請は、株式発行の効力発生日(払込期日)から2週間以内に行う義務があります。

登記すべき事項は、資本金の額、発行済株式総数及び変更年月日ですが、自己株式のみを交付した場合には、登記すべき事項に変更は生じないとされています。

募集株式発行に関するよくある疑問Q&A

募集株式の発行は、企業の成長に不可欠な資金調達手段の一つですが、その手続きは複雑であり、多くの経営者が疑問や不安を抱えることがあります。以下の項目では、募集株式の発行手続きにおいて、多くの方が抱きがちな具体的な疑問点にQ&A形式で回答します。

発行可能株式総数が足りない場合はどうすればいい?

募集株式の数は発行可能株式総数の範囲内であることが必要とされ、これを超える募集株式の発行は無効原因となります。そのため、定款に記載された発行可能株式総数が不足している場合には、まず定款の変更手続きが必要です。

この定款変更には、株主総会の特別決議による承認を得ることが原則です(会社法第466条、第309条第2項第11号)。定款変更は、会社の根幹に関わる重要な決定であるため、より厳格な要件が定められているものです。

募集株式の発行に関する株主総会決議と、発行可能株式総数増加のための定款変更に関する株主総会決議は、同じ株主総会で同時に行うことができます。これにより、株主総会の招集や開催にかかる手間を省き、手続きを効率的に進めることが可能です。

株主から反対された場合は手続きを進められない?

募集株式の発行は、企業の重要な経営判断であるため、原則として株主総会における特別決議が求められます。

この特別決議の要件を満たしている場合、一部の株主が反対意見を表明していたとしても、法的には手続きを進めることが可能です。すなわち、反対票が全体の3分の1未満であれば、法的な問題は発生しません。

たとえ法的に問題がない状況であっても、手続きを強行すれば既存株主との関係が悪化し、将来の経営に悪影響を及ぼすリスクがあります。そのため、募集株式発行の事業計画や資金使途について丁寧に説明し、株主の理解と協力を得ることが望ましいと言えるでしょう。

募集株式の発行の相談は難波みなみ法律事務所へ

本記事では、募集株式の発行について、その基本的な仕組みから、企業にとってのメリット・デメリット、具体的な手続きの流れ、そしてよくある疑問点までを詳しく解説しました。この資金調達手段は、企業の成長戦略を実現する上で強力な選択肢となり得ます。

ただ、募集株式の発行手続きは、会社法に則った複雑なプロセスを伴います。しかし、法令の手続きに違反すると、募集株式の発行の差し止めを受けたり、無効になる可能性があります。そのため、自社のみで手続きを進めると、予期せぬトラブルや遅延のリスクが生じる可能性があります。そこで、弁護士などの専門家には、募集株式の発行を具体的に検討し始めた初期段階で相談し、適切なアドバイスを得ながら進めることが、円滑かつ確実な資金調達を実現する上で非常に重要です。

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