取締役の特別利害関係とは何か?該当するケースや違反した場合の効力を弁護士が解説

公開日: 2025.12.15

取締役が決議事項について特別な利害関係がある場合、その取締役はその決議に参加することができません。この取締役の特別利害関係という概念は、会社法上の重要な概念ですが、具体的にどのようなケースが該当し、違反するとどうなるのかを正確に理解していないことも少なくありません。

本記事では、特別利害関係に該当するケースを具体的に解説するとともに、違反した場合の効力についても、弁護士がわかりやすく解説します。

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取締役の「特別利害関係」とは?

会社法第369条第2項により、決議事項について特別の利害関係を有する取締役は、その議案の議決への参加ができませんが、その意義は法律上定められていません。以下では、取締役の特別利害関係の意義や目的などの基本事項を解説します。

特別利害関係の判断基準

会社法第369条第2項には、「取締役会の決議について特別の利害関係を有する取締役は、議決に加わることができない」と定められています。「特別の利害関係」とは、取締役が会社に対して負っている忠実義務(会社法355条)に違反するおそれのある、会社の利益と衝突する取締役の個人的な利害関係をいいます。

会社法は、特別利害関係の対象を網羅的に定めているわけではありません。そのため、個別の事案ごとに、その決議が「会社の利益を害するおそれがあるか」という実質的な観点から判断されます。  

なぜ取締役会で議決権が制限されるのか?

取締役が自己の利益を優先し、会社に不利益な判断を行うことを防ぐことで、取締役会の意思決定の公正さを確保することを目的としています。

取締役会で特定の取締役の議決権が制限される趣旨は、会社の利益を不当に害することを防ぐという明確な目的です。利益相反する状況で特別利害関係を持つ取締役が議決に参加すると、自己の利益を優先し、会社にとって不利な意思決定がなされるリスクが高まります。そのため、会社法第369条第2項に基づき、特別利害関係を持つ取締役は議決から除外されます。

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特別利害関係取締役に該当する具体例

特別利害関係に該当するケースが網羅的に法律で定められているわけではありません。そこで、特別利害関係に「該当すると判断されやすいケース」と「該当しないと判断されやすいケース」に分けて解説します。

特別利害関係が認められるケース

取締役が会社の意思決定において特別利害関係を有すると判断され、会社法第369条第2項により議決権が制限される主なケースは以下の通りです。

会社と取締役の直接取引(利益相反取引)

取締役が会社に高額な個人所有不動産を売却したり、会社から金銭を借り入れたりするなどの取引は、利益相反取引と呼ばれており、取締役会の承認を得る必要があります。この取締役会の承認決議において、当該取締役は、特別利害関係取締役として決議に参加することができません。

競業取引の承認

取締役自身が企業の競合事業を行うことの承認を求める議案について承認を求める場合には、当該取締役と会社は特別利害関係に該当します。そのため、競業取引の承認決議において、当該取締役は決議に参加することができません。

取締役の責任免除

特定の取締役の会社に対する損害賠償責任を免除する議案では、責任を免除される取締役本人は特別利害関係者となります。

代表取締役の解職

代表取締役の解職議案において、解職対象の取締役が特別利害関係者と判断されます(最高裁昭和44年3月28日)。

取締役・会社間の訴えにおける会社代表者の選任

取締役会設置会社が取締役に対して、又は、取締役が取締役会設置会社に対して訴えを提起する場合、取締役会は会社を代表する者を選定することができます(会社法364条)。この場合、当該取締役は、会社代表者を選定する決議に参加することはできません。

譲渡制限株式の譲渡承認

譲渡制限株式を発行する会社は、取締役会設置会社であれば、その譲渡承認は原則として取締役会が行います。

譲渡制限株式の譲渡人または譲受人が取締役である場合、その取締役は、その譲渡承認決議について特別利害関係を有すると解されます。この点については諸説あります。

取締役を引受人とする第三者割当て

会社が第三者割当ての新株発行を行う場合、その新株を取締役が引き受けるときは、当該取締役は、募集事項の決定に関する取締役会決議について特別の利害関係を有します。

なお、取締役と会社との間の第三者割当引受契約の締結については、改めて利益相反取引にかかる承認決議までは必要がないものと解されます(東京地裁判決平成26年6月26日)。

該当しないと判断されるケース

特別利害関係に該当しない具体的な例としては、代表取締役の選定に関する決議が挙げられます。

また、取締役の報酬額の決定をする取締役会決議についても、報酬を受ける取締役は特別利害関係取締役には当たらないと考えられています(名古屋高裁金沢支部昭和29年11月22日)。

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特別利害関係取締役が取締役会で受ける制限と取るべき行動

実際に特別な利害関係を持つ取締役は、取締役会でどのような制限を受けるのでしょうか。以下、制限の具体的な内容と、取締役が果たすべき適切な行動について詳しく解説します。

議決権は行使できない【定足数からも除外】

会社法第369条第2項により、特別利害関係を有する取締役は、当該議案の決議に参加できず、議決権を行使できません。

特別利害関係を有する取締役は、議決権行使の制限だけでなく、取締役会決議の「定足数」からも除外されます。取締役会の決議は、取締役の過半数(定足数)の取締役の参加が必要とされます。そのため、取締役が5名である場合、特別利害関係の取締役を除いた4名のうち過半数にあたる3名の出席で定足数を満たすことになります。

審議への参加や意見を述べることは可能か

会社法第369条第2項は、特別の利害関係を有する取締役が当該議案の「議決に加わること」を禁じていますが、「審議」への参加までを制限するものではありません。現に、競業取引や利益相反取引の承認決議においては、取引を行おうとする取締役は、取引にかかる重要な事実を開示して説明する義務を負うとされています(会社356条1項,365条1項)。

そこで、取締役会の承認の下で、特別な利害関係を持つ取締役に取締役会に出席させた上で、意見を述べさせることができます。ただし、取締役会から退席を求められれば、特別利害関係取締役は、その指示に従う必要があります。また、特別利害関係取締役であっても、取締役会の招集通知を発送する必要があります。

議長を務めることはできるのか?

会社法には、特別利害関係を有する取締役が議長を務めることを明確に禁止する規定は見当たりません。しかし、取締役会の決議の公正性を著しく損なうおそれがあるため、特別利害関係取締役が議長を務めることは許されないと解されています。

特別利害関係取締役が、利益相反取引の承認決議において、議長として議事の進行をしたケースでは、その承認決議は無効とされています(東京地裁判決平成7年9月20日)。

手続きに違反した場合の決議の効力

もしこれらの会社法の規定に反して、特別利害関係を有する取締役が取締役会の決議に参加してしまった場合、どのような法的リスクが生じるのでしょうか。

取締役会決議の効力はどうなるのか

会社法第369条第2項に反し、特別利害関係を有する取締役が取締役会の議決に参加した場合、その決議の効力が問題となります。

特別利害関係取締役が決議に参加した場合には、取締役会決議は無効となる可能性があります。ただし、特別利害関係を有する取締役が議決に参加したという事実だけで、常に決議が無効になるわけではありません。特別利害関係を持つ取締役を除いたとしても決議要件を充足させる場合には、取締役会決議は無効にならないと解する余地があります。

関与した取締役が問われる可能性のある責任(任務懈怠責任)

特別利害関係を有する取締役が、自己の利益を優先して議決に参加し、会社の利益を損なうような決議を強行した場合、法令に違反すると考えられます。 

法令違反により会社に損害が生じた場合、当該取締役は会社法第423条第1項に基づく「任務懈怠責任」として、会社に対し損害を賠償する責任を負うでしょう。他の取締役についても、監視義務違反として任務懈怠責任を追及される可能性があります。

さらに、会社が損害賠償の追及をしない場合、株主は会社に代わって当該取締役の責任を追及する「株主代表訴訟」(会社法第847条)を提起することもできます。

実務で押さえておきたい3つの注意点

以下では、特定の取締役が議案について特別利害関係を有する場合に特に注意すべきポイントについて解説します。

取締役会議事録への正しい記載方法とは

取締役会で特別利害関係を有する取締役がいる場合、議事録には会社法および会社法施行規則に定められた特別な記載が必要です。会社法施行規則第101条第3項第5号では、決議を要する事項について特別の利害関係を有する取締役がいるときは、当該取締役の氏名を記載するよう義務付けています。

具体的には、以下の内容を議事録に明確に記録する必要があります。

  • 特別利害関係を有する取締役の氏名
  • 当該取締役が議決に参加しなかった旨
  • 当該取締役が議決権を行使しなかった旨
  • 当該取締役が定足数の計算から除外された旨 
  • 当該取締役を取締役会から退席する必要はないことを了承したこと
  • 取締役会の席上で特別利害関係取締役が意見を陳述していること 

議事録の具体的な記載例としては、「取締役〇〇は、本議案につき特別の利害関係を有するため、審議及び決議に参加しなかった。」といった表現が一般的です。また、特別利害関係人であっても、議事録への署名義務があるため、特別利害関係取締役の署名捺印をするようにします。

少しでも疑いがあれば法務部や弁護士へ事前に相談を

取締役の特別利害関係に該当するか否かの判断は、非常に専門的な知識を要し、個別の事案ごとに結論が異なるため、容易ではありません。もし自己判断で特別利害関係に該当しないと判断し、取締役会決議に参加した場合、後日その判断が誤っていたと認定されるリスクがあります。その結果、当該決議が無効となったり、自身が会社法上の任務懈怠責任を問われ、損害賠償を負う事態に発展したりする可能性も否定できません。このような法的リスクは、会社運営に深刻な影響を及ぼすだけでなく、取締役個人の責任も重大です。

そのため、少しでも特別利害関係に該当する可能性があると感じた場合は、取締役会に参加する前に、必ず顧問弁護士等の専門家へ事前に相談することが極めて重要です。

混同しやすい「株主総会」との違い

取締役会の特別利害関係と混同されやすい概念として、株主総会における特別利害関係があります。

取締役会において特別利害関係を有する取締役の議決権行使が認められず、定足数の算定からも除外されます。

一方、株主総会では、特別利害関係を有する株主であっても原則として議決権を行使できます。ただし、特別利害関係株主の議決権行使によって「著しく不当な決議」がなされた場合は、会社法第831条第1項第3号に基づき、当該決議は取り消される可能性があります。

このように、取締役会と株主総会では、特別利害関係の扱いが大きく異なる点を理解することが重要です。

まとめ:特別利害関係を正しく理解し、健全なコーポレートガバナンスを実現しよう

本記事で解説したとおり、特別利害関係に該当するかどうかの判断は、個々のケースによって専門的な知見が求められます。安易な自己判断は、大きなリスクを伴う可能性があります。

もし手続きに違反して取締役会の決議がなされた場合、取締役会決議が無効と判断されるだけでなく、会社法上の任務懈怠責任を問われるリスクがあります。

したがって、取締役会で特別利害関係に関する疑義が生じた際には、議決への参加を見合わせ、速やかに顧問弁護士などの専門家に相談することが極めて重要です。

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