社員が無断欠勤し、連絡が取れない状況は、企業にとって緊急事態です。安否を気遣いつつ、業務への影響を最小限に抑える必要があります。
しかし、安易に解雇処分をしてしまうと、法的リスクを招く可能性も否定できません。
本記事では、突然連絡が途絶えた社員への対応について、具体的な手順を解説します。
社員が音信不通となる8つの理由
社員から突然連絡が途絶え、音信不通となる事態の背景には、多様な要因が考えられます。
音信不通となる理由に応じた適切な対応が企業には求められます。そこで、考えられる原因を多角的に把握することが極めて重要です。
事件・事故・病気による欠勤
社員が突然音信不通になった際、まず懸念されるのは、予期せぬ事態に巻き込まれている可能性です。具体的には、以下のような状況が考えられます。
- 通勤途中での交通事故
- 予期せぬ犯罪被害
- 急病による意識不明
このような事態に陥った場合、社員自身が会社へ連絡することは非常に困難になります。
こうした状況を踏まえ、企業は無断欠勤を安易に「怠慢」と判断するのではなく、社員の安否確認を最優先に考える必要があります。企業には労働契約法に基づく安全配慮義務が課せられています。そのため、緊急時にはこの義務の一環として社員の安否確認を行うことが求められます。したがって、まずは社員の安否確認と状況把握に努めることが、企業として果たすべき重要な役割の一つです。
精神的な不調による欠勤
現代社会では、うつ病や適応障害などの精神疾患が原因で、会社への出社や連絡が難しくなるケースが増えています。
社員のメンタルヘルスの問題は、本人にとって他人とのコミュニケーション自体が大きな精神的負担となることがあります。そのため、電話に出たりメールを返信したりする気力さえ失われ、会社への連絡が困難になるケースも少なくありません。
企業側としては、メンタル不調を抱える社員に対して、安易に懲戒処分などを行うのではなく、産業医や専門家への相談も視野に入れ、より慎重な対応が求められます。
ハラスメントによる欠勤
社員が無断欠勤し、音信不通となる背景には、職場環境への深刻な不満やハラスメントが潜んでいることが少なくありません。特に、人間関係のトラブルは大きなストレス源です。具体的には、以下の例が挙げられます。
- いじめ
- 仲間外れ
- 業務上必要な情報共有からの意図的な排除(「連絡外し」)
これらが続くことで、被害者が体調不良に陥る事例も珍しくありません。また、長時間労働や過度な業務負荷が心身を疲弊させ、出社が困難になる場合もあります。
このような状況下では、会社への出社はおろか、連絡を取ることさえも大きな心理的負担となることがあります。
ハラスメントが原因で無断欠勤に至った場合、安全配慮義務を負う会社が不法行為責任を問われる可能性があり、重大な労務トラブルに発展するリスクを抱えます。
退職の意思を固めている
社員が無断欠勤に至る理由の一つに、すでに退職の意思を固めているものの、それを直接会社に伝えることをためらっているケースが挙げられます。
退職を申し出る際の心理的ハードルの高さや、上司からの引き止めに遭うことへの懸念から、意図的に連絡を絶ってしまう心理が背景にあると考えられます。近年では、このような背景から退職代行サービスを利用するケースも増えています。
会社としては、社員が退職届を提出せずに無断欠勤を続ける場合には、普通解雇処分を付すことを検討することになります。
警察沙汰のトラブルに巻き込まれた
社員が音信不通となる原因の一つに、本人が警察沙汰のトラブルに巻き込まれている可能性が考えられます。具体的には、事件の加害者として逮捕・勾留されている場合が挙げられます。逮捕・勾留中は、スマートフォンや携帯電話が押収され、外部との連絡が物理的に制限されます。警察や親族から会社宛に連絡が入ることもありますが、中には、そのような連絡がないこともあるため、音信不通となるケースもあります。
携帯電話の故障・紛失など通信トラブル
携帯電話が故障したり紛失してしまったことで音信不通に至るケースも発生します。
これらの状況では、社員本人が会社に連絡しようとしても、物理的に連絡手段がないため、結果として無断欠勤のような形になってしまうことがあります。
このようなケースでは、社員に会社を休む悪意がないことが大半です。企業側としては、安易に無断欠勤と決めつけず、まずは冷静に事実確認を進めることが重要なポイントです。
会社の処分に対する反発
会社の転勤や配置転換などの業務命令に対する強い不満や反発心から無断欠勤に及んでいることがあります。特に、事前の十分な説明やヒアリングをすることなく一方的に決定された辞令は、社員に不信感を抱かせ、出社する意欲を失わせる要因となります。
このような状況では、社員は納得できない命令に対する抵抗感や将来への失望感から、会社との連絡を絶ってしまう心理状態に陥ることがあります。
単純な寝坊や連絡ミス
社員からの連絡が途絶える原因として、単純な寝坊やが考えられます。例えば、目覚ましアラームのかけ忘れによる寝坊、スマートフォンの不具合、あるいは急な体調不良により会社へ連絡する余裕が一時的になかったといったケースが挙げられます。
これらは、誰にでも起こりうる失態であり、直ちに深刻な事態と判断すべきではありません。しかし、このような寝坊や連絡ミスが繰り返し発生するようであれば、厳重注意や戒告等の懲戒処分を行うことも検討します。

連絡不能な社員への安否確認4ステップ
社員からの連絡が途絶えた場合、企業が最優先すべきは、懲戒処分を検討することではなく、本人の安否確認です。
以下の項目では、連絡が取れない社員の安否を適切に確認するための具体的な手順を、4つのステップに分けて詳しく解説します。
ステップ1:電話・メールなどで本人に連絡を試みる
社員が突然無断欠勤した場合、まず本人への連絡を試みましょう。まずは、本人の携帯電話に複数回連絡してみます。電話に出ない場合は、メールや社内チャットツールなど、記録が残る連絡手段も活用しましょう。これらの記録は、その後の対応を進める上での客観的な証拠となります。
連絡を取る際は、以下の点に留意してください。
- 社員の安否確認が最優先の目的です。
- 叱責するような口調は避けましょう。
- 社員の体調や状況を心配している旨を伝えることが大切です。
まずは本人の安全を最優先に考え、落ち着いた態度で接しましょう。
ステップ2:身元保証人や緊急連絡先へ状況を確認する
本人への電話やメールでの連絡を複数回試みても応答がない場合、次のステップとして、入社時に提出された身元保証書や名簿を確認し、記載されている緊急連絡先へ連絡を試みてください。これは、社員の安否確認を進める上で非常に重要な手段です。
連絡時には、まず会社の正式名称と担当者名を名乗ったうえで、あくまで安否確認が目的であることを明確に伝えてください。そして、社員の状況について何か心当たりのないかを穏便に尋ねることが大切です。もし、緊急連絡先からも社員本人との連絡が取れない場合は、次のステップとして自宅訪問の検討に進みます。
ステップ3:自宅訪問を行う場合の注意点と進め方
電話や緊急連絡先への連絡でも社員の安否が確認できない場合、自宅訪問を行います。この訪問は、あくまで社員の安全を確認することが目的であり、決して出社を強要するものではありません。
まずは、インターホンを鳴らした上で在室しているかを確認します。応答がなければ、郵便受けの状態を外観から確認します。近隣に迷惑がかからない範囲で声掛けもします。それでも、応答がなかったとしても、無断で自宅内に立ち入ることは、住居侵入になり得ますので控えましょう。
ステップ4:事件性が疑われる場合は警察への相談を検討する
電話や緊急連絡先への連絡、自宅訪問など、これまでの安否確認を試みても社員と一切連絡が取れず、安否が全く確認できない場合、警察への相談を検討しましょう。特に、自宅訪問時に応答がなく、郵便物が溜まっているなど、明らかに異常な状況が確認される場合は、事件、事故、急病などに巻き込まれた可能性も考慮する必要があります。
警察への相談では、社員の安否確認が最優先の目的であることを明確に伝える必要があります。 相談する際は、社員の住所地を管轄する最寄りの警察署に連絡しましょう。
連絡が取れない状態が続く場合の法的手続き
社員の安否確認を尽くしたにもかかわらず、本人との連絡が全く取れない状況が続くと、企業は退職や解雇といった法的な手続きの検討を始めることになります。しかし、このプロセスを性急に進めることは、後々「不当解雇」として訴えられる大きなリスクを伴うため、極めて慎重な対応が不可欠です。
以下の項目では、連絡が取れない社員への法的な対応手順と、その際に企業が負うべき責任について具体的に解説します。
まずは就業規則の退職・解雇に関する項目を確認
社員の安否確認を尽くしても連絡が取れない状況が続く場合、企業は退職や解雇といった法的手続きの検討に進むことになります。これらの手続きを進める前に、まず自社の就業規則を確認することが極めて重要です。
| 項目 | 内容 |
| 退職に関する規定 | 自己都合退職、自然退職などの条件 |
| 懲戒事由 | 懲戒処分に該当する具体的な事由と程度 |
| 解雇事由 | 普通解雇、懲戒解雇などの条件と手続き |
就業規則に「正当な理由なく、欠勤が14日以上に及び、出勤の督促に応じない、または連絡が取れないときは懲戒解雇とする」といった具体的な規定が記載されているか確認してください。
もし、就業規則にこれらの明確な定めがない場合には、懲戒解雇を行うことができませんので普通解雇を検討することになります。
出社を促す督促状を内容証明郵便で送付する
就業規則を確認した結果、無断欠勤が続く社員への対応が必要となった場合、企業は出社を促す通知書を内容証明郵便で送付することが重要です。普通郵便でも送付できますが、会社が正式に出社を督促したという意思表示とその証拠を残す目的から、内容証明郵便の利用が一般的で効果的です。
この督促状には、以下の具体的な項目を記載します。
- 無断欠勤が続いている事実:いつからいつまで無断欠勤が続いていることを記載します。
- 就業規則に基づく処分の警告:就業規則に基づき解雇となる可能性がある旨を警告します。
督促状の文面は、明確かつ簡潔に記述し、感情的な表現は避けてください。さらに、内容証明郵便を送る際には、配達証明を付けるようにします。これにより、相手が通知書を実際に受け取った事実が郵便局によって証明されます。この手続きは、企業が適切な対応をとった証拠を確保するために不可欠です。
「自然退職」として処理するための要件
音信不通となった社員を解雇処分とするためには、その社員に対して解雇処分の通知をする必要がありますが、所在不明であるために解雇通知が届かない事態が生じる可能性があります。このような事態に備えるため、就業規則上に自然退職の規定を設けておくことが有用です。具体的には、「無断欠勤を続けその期間が30日を超え、なお出勤の督促に応じないときは退職したものとみなす」という内容の規定を設けます。
ただ、常に自然退職による退職が有効となるわけではありません。会社としては、無断欠勤に至っている事情を十分に調査をする必要があります。ハラスメントや犯罪被害を受けていることが欠勤の理由となっている場合には、自然退職扱いとすることは控える必要もあります。また、精神疾患により出勤できない事情がある場合には、一旦休職してもらうなどの配慮も必要になるでしょう。本人に就労の意思がないことが客観的に明白であり、やむを得ない事情がないと判断できる場合に限り、自然退職として処理することが可能となります。
解雇を行う場合の正しい手順と法的リスク
自然退職の規定がない場合などには、無断欠勤をする社員に対して解雇処分を行うことを検討します。
解雇をするための条件
解雇処分をするためには、解雇とする合理的な理由が客観的に認められて、解雇処分が社会通念上重すぎないことが必要です。
無断欠勤が14日以上続き、欠勤の事情がやむを得ないものではない限り、解雇処分は有効になるのが通常です。他方で、対象社員が、犯罪被害やハラスメントの被害を受けている場合に解雇処分をすることは控えるべきです。まずは、ハラスメントに関する調査を行った上で、ハラスメントの事実を確認できるのであれば、ハラスメント加害者への処分やハラスメントの予防策を講じるなど出社できる環境を整備することが先決です。
万が一、やむを得ない事情があるにも関わらず解雇に踏み切ると不当解雇として解雇が無効になるリスクがあります。解雇が無効と判断された場合、企業は解雇期間中の賃金(バックペイ)の支払いを命じられるなど、重大な責任を負うことになります。
解雇通知の送付方法
解雇処分をするためには、解雇通知書を社員に対して送付する必要があります。しかし、所在不明であれば通知書を送付できない事態が生じ得ます。その場合には、社員が行方不明でその所在を知ることができない場合には、公示送達という方法で解雇の意思表示をすることとなります。しかし、公示送達は、裁判所に申立てをし、対象者が「行方不明」であることが認められると、裁判所が裁判所内の掲示板に書面を掲示し、掲示されたことを官報に掲載する方法で行われた後、2週間の期間が経過すれば、解雇の通知が相手方に到達したものとみなされます。ただ、公示送達の手続は裁判所の手続きとなるため、手間を要します。
そこで、懲戒解雇通知書を、居住地として届出されている住所、または、身元保証人に対し送付することで、便宜上解雇の意思表示をしたと扱いをすることも考えられます。
まとめ:冷静かつ適切な手順で対応し、労務トラブルを防ごう
社員の無断欠勤は、業務の停滞、他の社員への負担増加、ひいては企業イメージの悪化にもつながりかねない、企業にとって重大な問題です。しかし、この問題に感情的に対処するのではなく、本記事で解説する一連のステップを冷静かつ適切に進めることが、法的リスクを回避し、企業と社員双方を守る上で不可欠です。
また、大切なのは、無断欠勤を未然に防ぐための予防策です。日頃からの密なコミュニケーションを通じて社員の悩みや不満を早期に察知し、メンタルヘルス不調のサインを見逃さない体制を構築すること、また社員が気軽に相談できる窓口を設置・周知することが重要です。
本記事でご紹介した各ポイントを参考に、適切な対応とより良い職場環境づくりに継続的に取り組んでいきましょう。


