能力不足の社員への退職勧奨は違法?適法に進める手順と注意点を解説

公開日: 2025.11.20

社員の能力不足を理由に、その社員に対して退職勧奨を実施することがあります。しかし、退職勧奨は、ともすれば違法行為とみなされる可能性もあり、企業側は慎重な対応が求められます。

そこで本記事では、退職勧奨がどのような場合に違法となるのか、また、適法に退職勧奨を進めるためにはどのような手順を踏むべきかについて解説します。

初回相談30分無料

無料相談
ご予約はこちら

【電話相談受付中】

受付時間 9:00〜22:00

【来所不要・土日祝も対応】

電話・LINE・ウェブでの相談可能です
1人で悩まずに弁護士に相談ください

退職勧奨とは?解雇との違い

社員のパフォーマンス低下に直面した際、企業にとって退職勧奨は有効な解決策の一つとなり得ます。以下では、この退職勧奨とは何か、解雇とはどう違うのかを解説します。

退職勧奨はあくまで「お願い」

退職勧奨とは、会社が従業員に対し、自主的な退職を促す行為を指します。「退職勧告」と呼ばれることもありますが、これはあくまで会社からのお願いであり、従業員に法的な強制力はありません。したがって、従業員には退職勧奨に応じる義務も、その場で回答する義務もありません。

会社が退職勧奨を行うのは、従業員の自由な意思決定に基づいた合意を形成するためです。そのため、会社側が社員の退職を望んでいても、従業員が応じない限り、一方的に退職を強要することはできません。もし、会社が執拗な働きかけをしたり、退職を拒否できないような状況を作り出したりすれば、それは違法な「退職強要」と見なされる可能性があります。

解雇との違いは「合意」の有無

退職勧奨と解雇の決定的な違いは、労働者の合意が必要かどうかです。退職勧奨は、会社が従業員に退職を促す事実上の行為であり、あくまでも従業員自身の自発的な意思に基づいた合意を得て、労働契約を終了させることを目指します。双方の合意が成立すれば、その退職は合意退職として成立します。

一方、解雇は会社からの一方的な意思表示によって労働契約を解除する行為であり、従業員の合意は不要です。会社は客観的に合理的な理由と社会通念上の相当性がある場合に限り、解雇を行うことができますが、解雇処分が有効となるためにはこの厳格な条件を満たさなければなりません。このように、退職勧奨が双方の合意による契約解除であるのに対し、解雇は会社による一方的な契約解除であり、法的な意味合いが大きく異なります。

項目退職勧奨(合意退職)解雇
契約終了の形式労働者と会社の双方の「合意」会社からの一方的な意思表示
労働者の合意必要不要
法的性質双方の合意による契約解除会社による一方的な契約解除
要件労働者の自発的な意思に基づいた合意客観的に合理的な理由と社会通念上の相当性
スマート顧問

能力不足を理由とする退職勧奨をする際の注意点

従業員の能力不足を理由とする退職勧奨は、企業が円滑な事業運営を図る上での自由な行為であり、解雇のような厳格な要件は求められません。しかし、退職勧奨を成功させるためには、あらかじめ企業として尽くすべき事柄があります。もし、尽くすべき対応が不十分なまま退職勧奨を進めたり、社会通念上許容される範囲を超えて執拗に退職を迫ったりすれば、それは「退職強要」と見なされ、違法となる可能性があります。

以下の項目では、企業が退職勧奨の前に果たすべき具体的な義務や、違法と判断される可能性のある行為について詳しく解説します。

業務改善計画を退職勧奨前に実施する

能力不足を理由とした退職勧奨を行うにあたっては、業務改善プログラムを実践することが大切です。

能力不足を理由とした退職勧奨には、法的な要件はないため、原則自由に行うことができます。しかし、何らのプロセスを経ることなく、会社側の主観的な判断のみで能力不足を理由とする退職勧奨を実施しても、社員から強い反発を受けるだけです。退職勧奨が執拗に行われれば、ハラスメントであるとの主張がなされるリスクもあります。具体的には、以下の取り組みが挙げられます。

対象者の選定を行う

直近の営業成績やその他の業績が一定水準よりも低い社員を選定した上で、対象となった社員に対して、面談を通じて業務改善計画の対象となったことやその理由を説明します。

目標の設定を行う

対象社員と相談しながら、成果目標を設定します。例えば、同職種の社員の平均値を基に経験年数等の要素を踏まえて目標値を決めていきます。

定期的なフィードバックを行う

成果目標を設定すれば、目標値の進捗具合を確認するために定期的に面談を実施します。業務改善計画の期間に応じて数週間に1度の頻度で面談を行います。目標値への到達度が低い場合には、低い理由を探究し、どのようにすれば改善できるのかを考えていき、改善策を練っていきます。ここでは、あくまでも会社側が一方的に提示するのではなく、対象社員に主体的に取り組ませることが大切です。

業務内容の変更や配置転換を試みる

業務改善計画の計画期間を終えると、設定した目標値の達成度を確認します。仮に、業務改善が認められる場合には、無事業務改善プログラムを終え、通常通り就労してもらうことになります。他方で、業務改善が認められない場合には、達成具合に応じて、再度業務改善を図ることもあれば、業務内容の変更や配置転換を打診することもあります。さらに、業務改善の達成度が低い場合には、退職勧奨を検討していきます。

能力不足を示す客観的な記録・証拠を準備しておく

能力不足を理由とする退職勧奨を円滑に進め、後のトラブルを回避するためには、主観的な評価ではなく、客観的な事実に基づいた証拠の準備が必要です。これらの証拠資料が乏しい状況で退職勧奨を実施すると、社員の納得を得られにくく、結果として退職勧奨が失敗に終わるリスクがあります。

そこで、社員の能力不足が著しいこと、また、会社として改善の機会を十分に与えてきたことを証明する資料を多角的に収集しましょう。例えば、以下のような証拠資料が挙げられます。

・人事評価表、目標管理シート
・営業成績
・面談記録
・業務日報
・作成資料のミス等に対する指導履歴

「退職強要」とならないための注意点

適法な退職勧奨と判断されるには、会社が「お願い」という姿勢を保ち、従業員の自由な意思決定を尊重することが大前提です。もし、社会通念上許容される範囲を超えた言動があった場合、「退職強要」として違法と判断される可能性があります。

例えば、面談時に大声を出したり、机を叩いたりして威圧する行為は、従業員に強い心理的圧力を与えるものです。「退職しないなら解雇する」といった脅迫的な発言も、従業員の自由な意思形成を妨げる違法行為と見なされかねません。

次に、本人が退職を拒否しているにもかかわらず、執拗に面談を繰り返す行為も問題視されます。以下のような働きかけは、従業員を精神的に追い詰めるものとして違法と判断される可能性があります。

  • 短期間に何度も面談を呼び出すこと
  • 長時間の面談を行うこと

さらに、他の社員がいる前で退職を勧めたり、能力不足を侮辱的に罵倒したりするなど、本人の名誉やプライバシーを侵害する行為は、パワーハラスメントにも該当し、違法な退職強要と見なされるケースがあります。

最後に、退職届の提出をその場で強要したり、サインするまで部屋から出さないといった行為は、社員の自由な意思決定を著しく侵害するものです。

初回相談30分無料

無料相談
ご予約はこちら

【電話相談受付中】

受付時間 9:00〜22:00

【来所不要・土日祝も対応】

電話・LINE・ウェブでの相談可能です
1人で悩まずに弁護士に相談ください

【4ステップ】能力不足の社員へ退職勧奨を行う具体的な手順

能力不足の社員に対する退職勧奨は、進め方によっては違法な「退職強要」とみなされ、思わぬトラブルを招くリスクがあります。企業と社員の双方が円満な合意退職に至るためには、法的なリスクを避け、慎重かつ適切な手順を踏むことが不可欠です。

ステップ1:退職勧奨のロールプレイをする

退職勧奨に応じてもらうためには、事前の準備が重要です。具体的には、退職勧奨の基本的な流れを理解し、スムーズに退職勧奨を進めるために、退職勧奨のロールプレイを行います。

まずは、退職勧奨時のシナリオを準備します。シナリオを基に、実際にロールプレイを実施します。ロールプレイを通じて、質問内容や質問方法に問題点が見つかれば改善するとともに、想定していなかった社員からの質問や回答が見つかれば、その対応も検討します。

その上で、面談回数を少なくするためにも、会社が対象社員に対して提示する数パターンの退職条件をあらかじめ検討しておくことも必要です。

また、退職勧奨時に言ってはいけない言葉やしてはいけない態度をしっかりと共有しておきます。例えば、解雇やクビといった直接的な言動、退職勧奨に応じなければ左遷させるなどの退職を強要するような言動、差別的・感情的な言動などは控えるべきです。

ステップ2:面談の場を設定し、退職を打診する

面談の際は、社員のプライバシーを尊重することが不可欠です。他の社員に気づかれないよう、静かでプライバシーが確保された会議室や応接室を選びましょう。面談に参加する会社側の担当者は、人事担当者と直属の上司など2名程度が望ましいでしょう。人数が多すぎると、社員に心理的な圧迫を与え、退職強要と見なされるリスクが高まります。

面談では、準備した客観的な業務評価や指導記録といった事実、先行して実施した業務改善プログラムの結果等に基づき、期待されるパフォーマンスに達していない点を冷静に伝えます。その際には、一方的に通知するだけでなく、社員の意見や言い分にも真摯に耳を傾ける姿勢が重要です。加えて、今後のキャリアを真剣に考えた上での提案であるというニュアンスで打診しましょう。

また、その場で結論を急がせることは避け、社員に十分に考える時間を与えることを明確に伝えるべきです。

ステップ3:退職に向けた条件を提示し、交渉する

退職勧奨の面談で退職を打診した後、社員が退職を受け入れやすくするための具体的な退職条件を提示し、交渉を進める段階に入ります。この段階では、社員が安心して次のキャリアに進めるよう、会社として最大限の配慮を示すことが重要です。

提示する条件として、例えば次のようなものが挙げられます。

退職条件

  • 退職加算金や特別退職金:通常の退職金に加え、割増金や特別退職金を提示するのが一般的です。
  • 再就職支援:会社の費用負担で人材紹介会社の再就職支援サービスを提供します。
  • 会社都合退職扱い:自己都合ではなく、会社都合退職とすることで、失業保険の給付期間や金額の面で社員が有利になるよう配慮します。
  • 有給休暇の買い取り:未消化の有給休暇を買い取ります。
  • 特別有休の付与:特別有給を付与し、転職活動をしやすいように会社に所属したままにします。

これらの条件を提示する際は、社員に即決を迫らず、一旦持ち帰って家族や信頼できる人に相談する時間を与えることが大切です。交渉の過程や最終的な合意内容は、後々のトラブルを防ぐためにも、必ず書面で明確に記録を残しておきましょう。

ステップ4:退職合意書を取り交わし、退職手続きを進める

社員が退職に同意したら、将来のトラブルを防ぐためにも、口頭だけでなく書面で「退職合意書」を取り交わすことが重要です。退職合意書は、退職日、退職金、秘密保持義務などの条件を明確にし、法的な拘束力を持たせることで、会社と従業員間の誤解を防ぎ、円満な退職を実現するために役立ちます。

合意書を締結する際には、社員が内容を十分に検討できるよう時間を与え、その場での署名を強要しないよう細心の注意を払う必要があります。社員が内容を十分に理解し、納得した上で署名することで、後日の紛争回避につながります。

社員が退職勧奨を拒否した場合の対応方法

社員には、退職勧奨に応じる義務はなく、これを拒否する権利が認められています。拒否されたからといって、執拗に退職を迫ったり、嫌がらせを行ったりする行為は、「退職強要」と見なされ、違法となるリスクがあるため、十分な注意が必要です。

以下では、社員が退職勧奨を拒否した場合の具体的な対応策を詳しく解説していきます。

配置転換や業務内容の見直しを検討する

社員が退職勧奨を拒否した場合、会社はまず雇用継続の努力として、現在の部署や職務が本人の適性と合致していない可能性を検討する必要があります。

他の部署で能力を発揮できる場所がないかを探ることは、企業全体の適材適所の人材配置を促進し、組織の活性化にも寄与します。配置転換が困難な場合でも、現在の部署内で業務内容を見直すという選択肢もあります。

「追い出し部屋」と揶揄されるような、社員を退職に追い込む違法な目的で行われていると見なされることのないよう、業務上の必要性と合理性を確保し、社員に著しい不利益を与えないよう、細心の注意を払うことが重要です。

指導・研修を継続し、改善の機会を与える

退職勧奨を拒否された場合、業務改善プログラムやその他の指導・研修を試みます。具体的な能力や不足点を再度明確にした上で、目標設定の見直し、OJTの強化、外部研修への参加推奨など、具体的な指導・研修計画を策定し、実行すべきです。業務改善計画の策定やその遂行については、先ほど解説したとおりです。

最終手段としての「普通解雇」の有効性とリスク

退職勧奨に応じず、指導や配置転換など、会社があらゆる手段を尽くしてもなお能力改善が見られない場合の最終手段として、「普通解雇」が考えられます。

しかし、能力不足を理由とする普通解雇は、法的に有効と認められるためのハードルが極めて高いことを理解しておく必要があります。

単に「能力不足」と判断するだけでは不十分で、その不足が著しく、かつ改善の見込みがないことを客観的な証拠に基づき示す必要があります。

十分な解雇理由がないにもかかわらず、普通解雇に踏み切った場合、会社は以下のような大きなリスクを負うことになります。

  • 社員から不当解雇として労働審判や訴訟を起こされる法的リスク
  • 敗訴した場合の多大な金銭的・時間的コスト
  • 企業イメージの著しい悪化

解雇はあくまで最終手段であり、実行する前には必ず労務問題に詳しい弁護士などの専門家に相談し、これまでの指導記録や客観的証拠をもとに、法的な妥当性を慎重に検討することが不可欠です。

能力不足による退職勧奨に関するよくある疑問

以下の項目では、皆様が特に判断に迷われがちな具体的な疑問点に焦点を当て、Q&A形式で分かりやすく解説いたします。

Q.試用期間中の社員にも退職勧奨は可能ですか?

試用期間中の社員への退職勧奨は可能です。退職勧奨は、会社から社員への「退職のお願い」であり、社員の合意を前提とするため、法的に問題はありません。

しかし、その進め方には、本採用済みの社員に対する場合と同様に細心の注意が必要です。

試用期間満了時の「本採用拒否」は、労働契約法第16条に定められる「解雇」に類似するものです。そのため、安易な本採用拒否による法的トラブルを避けるには、合意による退職を目指す退職勧奨が有効な手段となります。

Q.退職理由は「会社都合」「自己都合」のどちらになりますか?

退職勧奨に応じて退職した場合の理由は、原則として「会社都合」となります。これは、会社からの働きかけによって雇用契約が終了するためです。失業保険(雇用保険の基本手当)の受給において、従業員にとって大きなメリットがあります。会社都合退職の場合、給付制限期間がなく、最短7日間の待機期間で失業保険を受給できます。

Q.退職勧奨を拒否された後、降格や減給はできますか?

退職勧奨を拒否したことを理由とする報復的な降格や減給は認められません。仮に、報復的な処分ではなかったとしても、退職勧奨が失敗に終わった直後に降格や配置転換を行うと、退職に追い込むことを目的と認定され易いため注意が必要です。

他方で、退職勧奨とは別に、客観的な能力評価に基づき、降格や配置転換の必要性が十分に認められるのであれば、就業規則上の根拠に沿って降格や配置転換を行うことは可能です。

まとめ|円満な解決を目指すなら労務問題に詳しい専門家へ相談を

本記事では、能力不足の社員に対する退職勧奨について、その適法な進め方や注意点、そして起こりうるリスクを詳しく解説しました。能力不足を理由とする退職勧奨は、適切な手順と細心の注意を払うことで適法に行えます。しかし、その過程で一歩間違えれば「退職強要」と見なされ、違法と判断される大きなリスクが常に伴うことを留意すべきです。

企業と従業員の双方にとって円満な解決を目指すためには、感情論ではなく、客観的な事実に基づいた対応が不可欠です。合意をゴールとし、誠実な姿勢で話し合いを進めることが、後のトラブルを未然に防ぐ上で極めて重要です。

退職勧奨の進め方や法的な判断に少しでも不安を感じる場合は、自己判断で進めるべきではありません。労務問題に精通した弁護士へ速やかに相談することを強く推奨します。

「問題社員」カテゴリーのピックアップコラム

「労働紛争」カテゴリーのピックアップコラム

「顧問弁護士」カテゴリーのピックアップコラム

「債権回収」カテゴリーのピックアップコラム

「契約書・就業規則」カテゴリーのピックアップコラム

「残業代請求」カテゴリーのピックアップコラム