業務上のミスやトラブルが発生した際、企業が社員に対して、始末書や顛末書の提出を求めることがあります。しかし、この2つの書類、名前は似ているものの、その目的と役割は大きく違います。
そこで本記事では、顛末書と始末書について、5つの重要なポイントに絞って徹底比較します。それぞれの書類がどのような状況で必要になるのか、書き方のポイントと合わせて分かりやすく解説します。
顛末書の目的や利用されるケース
顛末書(てんまつしょ)とは、業務上で発生したミス、トラブル、不祥事など、一連の出来事の経緯、つまり「一部始終」を会社に報告する正式な書類です。
以下では、顛末書の役割や作成するシーンを解説します。
顛末書の目的とは?
顛末書の目的は、発生した問題やトラブルの「一部始終」、すなわち顛末を会社や上長に対して正確に報告することです。この報告書を通じて、企業は事態を詳細に把握し、社員に対する処分や処遇を検討することになります。
記載内容には、個人の主観や感情を記載することなく、淡々と客観的な事実のみを時系列に沿って記述することが求められます。
始末書が反省や謝罪の意を示すことを主目的とするのに対し、顛末書はあくまで事実に基づいた報告に徹する文書であるという点が、両者の明確な違いといえるでしょう。
提出を求める場面の具体例
顛末書を求める具体的な場面は多岐にわたります。以下に、顛末書が求められる主な具体例を挙げます。まずは、セクハラやパワハラ等のハラスメントの被害報告を受けた場合に、行為者に対して、事案の経緯を報告させるために顛末書の作成を求めることがあります。その他に、労災事故、システム障害の発生、顧客からのクレーム、取引先への納品トラブル及びその他業務上の事故が発生した場合に、顛末書を提出させることがあります。
いずれのケースにおいても、顛末書の目的は個人の責任追及にとどまらず、問題の発生原因や事の経緯を客観的に把握することに主眼が置かれます。
始末書の目的と顛末書との違い
始末書(しまつしょ)とは、従業員が、業務上のミスや不始末、あるいは就業規則に違反する行為を行った際に、会社へ謝罪と反省の意を表し、同様の事態を二度と起こさないと誓約するために、譴責処分の一環として提出する書類です。以下では、始末書の目的や顛末書との違いを解説します。
始末書の目的とは
始末書は、業務上のミスやトラブル、あるいは就業規則に違反する行為を起こした従業員が、自らの非を認め、会社に対し反省と謝罪の意を表明するための文書です。この書類は、当事者が問題の経緯を振り返り、自身の責任を再認識する機会を提供します。
顛末書との違い
顛末書が客観的な事実の報告であるのに対し、始末書は単なる謝罪に留まらず、同様の事態を二度と起こさないという具体的な再発防止策を記述し、その誓約を会社に提出する目的も担っています。
顛末書・始末書の書き方と基本の構成
顛末書と始末書は、それぞれ異なる目的を持つ書類ですが、トラブルの状況を正確に伝えるための基本的な構成要素は共通しています。
顛末書の書き方とテンプレート
顛末書を作成する際は、客観的な事実のみを簡潔に記述することが重要です。個人的な憶測や感情は一切交えず、5W1H(いつ、どこで、誰が、何を、どのように、なぜ)に沿って、時系列で正確に報告しましょう。

始末書の書き方とテンプレート
始末書は、自らの過ちを認め、会社へ謝罪と反省の意を表し、再発防止を約束するために提出する重要な書類です。客観的な事実報告を主とする顛末書とは異なり、始末書には当事者による謝罪と再発防止の誓約が不可欠です。


顛末書・始末書の提出を求める際の注意点
顛末書や始末書の提出は、企業がトラブルの原因を究明し、再発防止策を講じる上で有効な手段です。しかし、その提出要求の方法を誤ると、従業員との間に新たな労務トラブルを招く可能性も否定できません。以下の項目では、企業が陥りやすい問題とその対処法として、以下の点について解説します。
提出を強制できるのか?
顛末書は、業務上で発生した事実関係を客観的に報告する書類であるため、その提出を業務命令として命じることは認められています。従業員が正当な理由なく顛末書の提出を拒否した場合、業務命令違反に該当する可能性があり、これを理由に懲戒処分を下すことも検討されます。
一方、始末書の提出を求める際には、慎重な対応が求められます。始末書は反省や謝罪といった個人の内心にまで立ち入るため、その提出を強制することは、思想・良心の自由(憲法19条)を制約することになります。そのため、懲戒処分の場面であっても始末書の提出を強制することはできず、始末書の提出拒否を理由に新たに懲戒処分を行うことも認められていません。
提出を拒否された際の対応
従業員が顛末書や始末書の提出を拒否した際、企業は段階的な対応が必要です。
まず、提出を拒否する理由を聞き取ります。書類の目的への理解不足や事実認識の食い違いなど、提出拒否の理由を見極めることから始めます。
次に、書類提出の必要性を改めて丁寧に説明します。書類の種類ごとの目的と、提出が求められる背景を理解してもらうよう努めましょう。
これらのプロセスを経ても提出が拒否される場合、特に顛末書に関しては、業務命令違反となる可能性を冷静に伝えることが必要です。顛末書の提出は業務命令として有効であるため、その提出拒否を理由に懲戒処分を行うことは可能です。
他方で、譴責処分の一環として始末書の提出を求めたところ、始末書の提出を拒否する場合に、労働者の思想・良心の自由の観点から、別の懲戒処分を行うことは控えるべきです。ただし、労働者が始末書の提出を拒否した事情を記録化した上で、将来の懲戒処分を行う際の情状として考慮することは認められます。
提出された書類のチェックポイントと保管方法
提出された顛末書や始末書は、単に受け取るだけでなく、その内容を適切に確認し、管理することが重要です。
まず、書類を確認する際の必須チェック項目を挙げます。顛末書は客観的な事実報告が中心ですが、始末書は反省と謝罪の意思も含まれるため、それぞれ以下の点に着目しましょう。
- 事実関係の正確性:発生日時、場所、経緯、関係者など、5W1Hが正確かつ客観的に記載されているか。
- 発生原因の具体性:問題の発生原因まで掘り下げて分析されているか、曖昧な表現ではなく、具体的な要因が特定されているか。
- 再発防止策の具体性:再発予防のための具体的な対策が提示されているか、抽象的な内容に留まっていないか。
- 謝罪・反省の意思(始末書の場合):自身の過ちを認め、会社や関係者への誠実な謝罪と反省の意が明確に表現されているか。
- 形式面の不備:宛名、提出日、提出者の所属・氏名、署名捺印など、形式的な不備がないか。
もし内容に不備があった場合は、再提出を求めることが必要です。この際、パワハラと受け取られないよう、再提出が必要となる理由を丁寧に伝えることが重要です。
まとめ:顛末書と始末書の違いを理解し、トラブルの再発防止に繋げよう
この記事では、ビジネスで起こりうるトラブルやミスに対し、顛末書と始末書それぞれの目的、提出が求められるケース、具体的な書き方、そして活用における注意点について詳しく解説しました。
客観的な事実報告が中心である顛末書と、個人の反省と謝罪、そして誓約が中心である始末書では、その性質と役割が大きく異なります。企業としては、問題が発生した際に、その原因や影響の程度、そして目的(事実確認か、本人の反省促進か)を正確に見極め、適切な書類を選択し、提出を求めることが極めて重要です。


