社員の解雇に必要な要件について弁護士が解説

更新日: 2026.08.05
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まず結論
① すべての解雇に共通する2つの要件
解雇には「客観的に合理的な理由」と「社会通念上の相当性」が必要です。これを欠くと解雇権の濫用として無効になります(労働契約法16条)。
② 解雇の種類ごとに要件が異なる
解雇は「普通解雇」「懲戒解雇」「整理解雇」の3種類。とくに整理解雇には4つの要件、懲戒解雇には就業規則の根拠と重大な非違行為が求められます。
③ 手続きのルールを守る
原則として30日前の解雇予告または予告手当が必要(労働基準法20条)。業務災害の療養中や産前産後は解雇が制限されます(同19条)。

「問題のある社員を解雇したい」と考えても、日本の労働法では解雇のハードルは高く設定されています。要件を満たさない解雇は「不当解雇」として無効となり、会社は多額の金銭的負担を負うおそれがあります。本記事では、社員を解雇できる条件(要件)を、解雇の種類ごと・手続きごとに、弁護士がわかりやすく解説します。

解雇とは?3つの種類

解雇とは、会社(使用者)が一方的に労働契約を終了させることをいいます。従業員の合意による退職や、契約期間満了による雇止めとは区別されます。解雇は、その原因が労働者側の事情によるもの(普通解雇・懲戒解雇)か、会社側の事情によるもの(整理解雇)かで、大きく次の3種類に分けられます。

種類原因主な要件
普通解雇
労働者側の事情
能力不足・勤務成績不良・傷病など、労働契約を続けられない事情がある場合 就業規則の解雇事由に該当+労契法16条の2要件
懲戒解雇
労働者側の事情
重大な企業秩序違反(横領・重大な経歴詐称・長期無断欠勤など)に対する制裁 就業規則の根拠規定・周知+事由該当+相当性(最も厳格)
整理解雇
会社側の事情
経営悪化による人員削減(労働者に落ち度はない) 整理解雇の4要件(4要素)
普通解雇と懲戒解雇は法的性質が異なる
普通解雇は民法627条1項に基づく「解約の申入れ」であるのに対し、懲戒解雇は企業秩序違反に対する「懲戒権の行使(制裁)」です。両者は本質的に異なり、有効となる要件も別々に判断されます。会社が「懲戒解雇」として通知した場合、当然に普通解雇として扱われるわけではない点に注意が必要です。

すべての解雇に共通する要件(労働契約法16条)

種類を問わず、あらゆる解雇に共通して求められるのが、解雇権濫用法理です。労働契約法16条は次のように定めています。

労働契約法16条
解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。

つまり、解雇が有効と認められるには、次の2つをともに満たす必要があります。

① 客観的に合理的な理由

解雇に値する具体的な事実が客観的に存在することです。単に「気に入らない」「なんとなく能力が低い」といった主観では足りず、勤務成績・非違行為・経営状況などの事実に裏づけられている必要があります。

② 社会通念上の相当性

その理由に照らして、解雇という最も重い措置が相当といえるかどうかです。指導・教育・配置転換・懲戒処分といった、より軽い手段で対応できるのであれば、いきなりの解雇は相当性を欠くと判断されやすくなります。

判例日本食塩製造事件(最判昭和50年4月25日)

解雇には客観的に合理的な理由と社会的相当性が必要であり、これを欠く解雇は権利の濫用として無効になるという「解雇権濫用法理」を確立した最高裁判決です。この考え方が後に労働契約法16条として明文化されました。

判例高知放送事件(最判昭和52年1月31日)

宿直勤務のアナウンサーが2週間のうちに2回寝過ごして放送事故を起こした事案で、就業規則上の解雇事由に該当しても、諸事情を考慮すると解雇は相当性を欠くとして、解雇を無効としました。解雇の理由となる事実があっても、解雇という重い措置の相当性が厳しく判断されることを示す代表例です。

普通解雇の要件

普通解雇は、能力不足・勤務成績不良・協調性の欠如・傷病による労務不能など、労働者側の事情により労働契約を続けることが難しい場合の解雇です。

普通解雇が認められるためのポイント

  • 就業規則に定められた解雇事由に該当すること
  • その事由が客観的な事実で裏づけられていること(労契法16条)
  • 指導・教育・配置転換など、解雇を回避する努力を尽くしたこと
  • 改善の機会を与えたにもかかわらず改善が見込めないこと
注意
能力不足を理由とする解雇は、会社が改善指導を十分に行ったかが厳しく問われます。一度の失敗や短期間の成績不良だけでは、正当な解雇理由として認められにくい傾向があります。

懲戒解雇の要件

懲戒解雇は、従業員の重大な企業秩序違反に対する制裁として行われる、最も重い懲戒処分です。要件は3種類の中で最も厳格です。

懲戒解雇に必要な要件

  • 根拠規定の存在:就業規則に懲戒の種別・事由が明示的に定められていること。懲戒権は、就業規則に懲戒の種別・事由を定めて初めて行使できるとされています
  • 就業規則の周知:その就業規則が、従業員に周知される手続きを経ていること
  • 事由該当:定められた懲戒事由に実際に該当する重大な非違行為があること(横領・背任・重大な経歴詐称・長期の無断欠勤・重大なハラスメントなど)
  • 相当性:懲戒解雇という最も重い処分が、行為の重大性に照らして相当であること(労働契約法15条)
  • 適正手続:弁明の機会の付与など、適正な手続きを経ていること
判例国鉄札幌運転区事件(最判昭和54年10月30日)/フジ興産事件(最判平成15年10月10日)

懲戒権を行使するには、あらかじめ就業規則に懲戒の種別・事由を定めておくことが必要であり(国鉄札幌運転区事件)、その就業規則が法的な拘束力を持つには、内容を従業員に周知する手続きがとられていることを要する(フジ興産事件)とされています。就業規則の整備と周知が懲戒解雇の前提です。

判例ネスレ日本事件(最判平成18年10月6日)

非違行為があっても、懲戒解雇とすることが重きに失し相当性を欠く場合には、懲戒権の濫用として無効になるとされた事例です。懲戒解雇を選ぶには、その重い処分を選択すべき十分な理由が求められます。

懲戒解雇は「切り札」ではない
軽微な違反や、能力不足・協調性の欠如といった事情は、懲戒解雇の理由としては不十分とされることが多いです。また、懲戒処分の時点で会社が把握していなかった非違行為を、後から解雇理由に付け加えることは原則としてできません。安易な懲戒解雇は無効となり、かえって会社の負担が増すおそれがあります。

整理解雇の要件(4要件)

整理解雇は、経営悪化などにより人員削減を行う解雇で、労働者に落ち度がない点が普通解雇・懲戒解雇と大きく異なります。そのため、裁判例では次の「整理解雇の4要件(4要素)」を総合的に検討して有効性を判断します。

要件内容
① 人員削減の必要性経営上、人員削減を行う客観的な必要性があること
② 解雇回避努力義務配置転換・出向・希望退職の募集など、解雇を回避する努力を尽くしたこと
③ 人選の合理性解雇対象者の選定基準が客観的・合理的で、公正に運用されたこと
④ 手続の妥当性労働者・労働組合への十分な説明・協議を行ったこと
判例東洋酸素事件(東京高判昭和54年10月29日)

整理解雇の有効性を判断する枠組みとして、人員削減の必要性・解雇回避努力・人選の合理性・手続の妥当性という考え方を示した代表的な裁判例です。これらを欠く整理解雇は無効と判断されやすくなります。

「4要件」か「4要素」か
かつては上記4つを、いずれか一つでも欠ければ整理解雇は無効となる「要件」ととらえる裁判例が主流でした。近年は、これらを解雇権濫用の判断にあたって総合的に考慮する「4要素」ととらえ、一つが不十分でも他の事情を含めて全体で判断する枠組みが有力になっています。いずれにせよ、4つの観点を丁寧に満たすことが、整理解雇を有効に進めるうえで重要です。

解雇の手続き(解雇予告・解雇理由証明書)

解雇の要件を満たしていても、法律で定められた手続きを踏まなければなりません。

1
解雇予告(労働基準法20条)
従業員を解雇する場合は、少なくとも30日前に予告するか、予告しない場合は平均賃金の30日分以上の「解雇予告手当」を支払う必要があります。予告期間が不足する日数分を手当で補うこともできます。なお、予告も手当もなく即時解雇した場合でも、会社が即時解雇にこだわる趣旨でない限り、通知から30日を経過した時、または予告手当を支払った時に、その時点から解雇の効力が生じると解されています(細谷服装事件・最判昭和35年3月11日)。
2
解雇理由証明書(労働基準法22条)
従業員から請求があれば、解雇の理由を記載した証明書を遅滞なく交付しなければなりません。後の紛争に備え、解雇理由は具体的に整理しておくことが重要です。
3
書面での通知
解雇の意思表示や理由は、口頭ではなく書面で明確に伝えることがトラブル予防につながります。

解雇が制限・禁止される場合(労働基準法19条)

次の期間は、要件を満たしていても解雇が禁止されています(労働基準法19条)。

解雇が禁止される期間可否
業務上の負傷・疾病による療養のための休業期間およびその後30日間解雇不可
産前産後の女性の休業期間およびその後30日間解雇不可
療養が長引く場合の例外(打切補償)
業務上の傷病による療養が開始から3年を経過しても治らない場合、会社が平均賃金の1,200日分の「打切補償」を支払えば、労基法19条の解雇制限が解除されます(労働基準法81条)。労災保険の療養給付を受けている場合も同様に扱われるとされています(専修大学事件・最判平成27年6月8日)。

法律で禁止されている解雇の理由

上記の期間制限のほか、次のような理由による解雇は、法律により明確に禁止されています。

  • 国籍・信条・社会的身分を理由とする解雇(労働基準法3条)、公民権の行使を理由とする解雇(同7条)
  • 労働組合の組合員であることや正当な組合活動を理由とする解雇(労働組合法7条)
  • 性別、女性労働者の婚姻・妊娠・出産・産前産後休業などを理由とする解雇(男女雇用機会均等法)
  • 育児休業・介護休業・子の看護休暇などの申出・取得を理由とする解雇(育児・介護休業法)
  • 労働基準監督署などへの申告を理由とする解雇(労働基準法104条2項)
  • 公益通報を理由とする解雇(公益通報者保護法3条)
  • 障害者であることを理由とする不当な差別的解雇(障害者雇用促進法35条)
  • ハラスメントについて会社に相談したことなどを理由とする解雇(労働施策総合推進法30条の2)

解雇が無効になるケース(不当解雇)

要件や手続きを欠いた解雇は「不当解雇」として無効になります。無効と判断されると、会社は次のような負担を負うおそれがあります。

  • バックペイの支払い:解雇時点から復職までの賃金をさかのぼって支払う
  • 従業員の地位確認:雇用関係が続いていたものとして扱われる
  • 慰謝料・遅延損害金の発生
  • 紛争対応の時間的・金銭的コスト、社内士気への影響
解雇は「最後の手段」
解雇を検討する場面では、いきなり解雇するのではなく、指導・配置転換・退職勧奨といった選択肢を先に検討することが、結果的に会社を守ることにつながります。

有期契約の雇止め・試用期間の本採用拒否

有期契約の雇止め

契約社員やアルバイトの契約期間満了に伴う「雇止め」は、本来は解雇とは異なります。しかし、契約更新を繰り返し実質的に無期雇用に近い状態になっている場合などには、解雇と同様の厳しい制限(雇止め法理)が適用されることがあります。

試用期間満了による本採用拒否

試用期間中や試用期間満了時の本採用拒否は、通常の解雇よりも広い範囲で認められる余地がありますが、それでも「解約権の濫用」にあたらないよう、客観的・合理的な理由が必要です。

解雇の前に確認すべきチェックリスト

  • 就業規則に、該当する解雇事由・懲戒事由が明記されているか
  • 解雇理由となる事実を、客観的な証拠(記録・書面)で裏づけられるか
  • 指導・教育・配置転換など、解雇を回避する努力を尽くしたか
  • 改善の機会を与え、その経過を記録しているか
  • 解雇制限期間(業務災害の療養中・産前産後)に該当しないか
  • 30日前の解雇予告、または解雇予告手当の準備ができているか
  • 解雇理由証明書を交付できるよう、理由を具体的に整理しているか
  • 整理解雇の場合、4要件(必要性・回避努力・人選・手続)を満たしているか
  • 解雇前に、弁護士へ相談し法的リスクを確認したか

よくある質問

社員を解雇できる条件は何ですか?
すべての解雇に共通して、「客観的に合理的な理由」と「社会通念上の相当性」の2つが必要です(労働契約法16条)。加えて、就業規則に定めた解雇事由への該当、解雇の種類ごとの要件、解雇予告などの手続きを満たす必要があります。
能力不足を理由に解雇できますか?
直ちには難しいのが実情です。能力不足による普通解雇は、会社が改善のための指導・教育を十分に行い、それでも改善が見込めないことが求められます。一度の失敗や短期間の成績不良だけでは、正当な解雇理由と認められにくい傾向があります。
解雇予告手当はいくら必要ですか?
30日前に解雇予告をしない場合、平均賃金の30日分以上の解雇予告手当が必要です(労働基準法20条)。予告期間が30日に満たない場合は、その不足日数分の手当を支払うことで補えます。
解雇が無効になるとどうなりますか?
雇用関係が続いていたものとして扱われ、解雇時点から復職までの賃金(バックペイ)の支払いや、慰謝料・遅延損害金の負担が生じるおそれがあります。金銭的負担だけでなく、紛争対応の時間や社内への影響も小さくありません。

解雇の判断は事前に弁護士へ相談を

解雇は、要件・種類・手続きのいずれか一つでも欠けると「不当解雇」として無効になり、会社に大きな負担を招くおそれがあります。解雇を検討する段階で、事前に弁護士へ相談し、法的リスクと適切な進め方を確認しておくことが、トラブルの予防につながります。

迷ったら着手前に相談を
「この解雇は有効か」「どの手続きを踏むべきか」を事前に確認することで、後の紛争リスクを大きく減らせます。難波みなみ法律事務所は、企業側の立場で解雇の可否と進め方をアドバイスします。
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